第二東京弁護士会 2013年度法教育内部研修会 その2

 2014年3月7日(金)18:00~20:00、第二東京弁護士会「法教育の普及推進に関する委員会」による弁護士会内部の法教育研修が弁護士会館において開かれました。
研修会前半の教材例の紹介と現場の先生からのご意見を紹介したその1に続き、後半の討論をご紹介します。

4 討論

 窪  直樹  練馬区立大泉第六小学校教諭
 関根 憲一  豊島区立池袋中学校教諭
 藤井  剛  千葉県立千葉工業高等学校教諭

関根先生:「弁護士は学校に来て何を一番伝えたいとお考えですか?」
 →回答1:「法教育というのは、やればやるほど、何をすべきなのか悩みが深まると感じています。まだ手探りの部分があり、現場の教員が何を考え、求めているか、弁護士はどうなのか、お互いに理解し合えたら、何を伝えればいいかわかる気がします。子どもが求めているもの、教員が求めているもの、弁護士の考えという3つを明確にしたいと思います。」
 →回答2:「自分なりに考えると、子ども達は将来の潜在的依頼者という側面があり、リテラシーやバランス感覚を身に付けてほしいと思います。「なぜ」を5回繰り返してものを考えるような大人になってほしい。そして、弁護士の存在意義もわかってくれるといいと思います。」
 →司会:会場の先生方が回答に苦労していたのは、非常にリアルな声だと思います。「子どもに伝えたいことを突き詰めると何か、というのは我々もよく悩みます。「回避できる紛争をいかに回避するか」「生じた紛争をいかに乗り越えるか」というものの考え方の基本が、社会に出たときに役に立つことを理解してもらえるといいと思っています。」

司会:「現場の教員は法教育で子どもに何を伝えたいとお考えですか?」
 →窪先生:「小学校の法教育とは、「法的なものの考え方の原風景をもつこと」と最近聞きました が、大事なことと思います。実は今日も、子ども達の日常的なトラブルがあり、私がそれぞれの事情を聴き、なぜそうなったか確認し、その上でどちらも謝って納得できる解決に至りました。法教育の理論を知っていると、教員にも役に立ちます。そういう日常的な原風景の体験も大事だと考えます。」
 →関根先生:「中学校は教科担任制なので社会科の教員が中心になるかと思いますが、全教科的に法教育を行うことが意義あることになると感じます。いじめ問題は大きな問題ですが、法教育がいじめの早期解決につながると思いました。」
 →司会:「第二東京弁護士会ではいじめ予防授業キャンペーンを実施しています。現在は、小学校での実践が中心です。中学校で実施する場合、お説教くさいと反発されないようにするなど、中学校特有の工夫を必要とするかと思いますので、今後協議させていただければと思います。」
 →藤井先生:「高校公民科では、生徒に資料分析力と議論しまとめる力をつければいいと考えています。法教育はその一手段、メソッドの一つだと思います。その感覚をわかれば、生徒は法教育を受け入れます。教員は刺激し合って、自分の専門の上に法教育を取り入れていけばいいと思います。弁護士が授業に入る場合は、専門家としての話が必要とされます。」

弁護士より質問:「学校は生徒の管理という面があると思いますが、自由な発想を教えることは大丈夫ですか?」
 →窪先生:「小学校では、いろいろな自由があることときまりがあることを伝えることが大事です。どんどん教えてもらっていいと思います。」
 →関根先生:「中学校は管理が比較的強いと思います。Freedomとしての自由には注意が必要な場合があるかもしれません。社会科で「権利」は大丈夫です。」
 →藤井先生:「自己決定権はあるけれど、自分で決められることときめられないことの線があることをきちんと教えれば、大丈夫です。」

〈研修会を振り返って〉

窪 直樹 練馬区立大泉第六小学校教諭
 法教育の考え方や教材が広く学校現場に普及し、実践が積み重ねられていくことがいま必要だと日々感じています。そのためには、法教育を取り入れることのメリットとどのように実践すればよいのかということが、教員に明確に伝わっていくことが不可欠です。教員向けの研修や公開授業の開催に加え、興味のある教員が手軽に実践できる環境があるとよいと思います。実際に自分でやってみることが、メリットの理解に一番役立つと思うからです。
 今回の研修に参加させていただき、教員と弁護士さんたちとが一緒に1つの授業を作り上げていくことの大切さを改めて実感し、その作業はとても楽しいものになると感じました。また、関根先生、藤井先生の御発表を伺い、児童生徒の実態を知る私たち小中高の教員が、連携して法教育で教えることを系統的に整理していくこともとても重要だと感じました。弁護士さんたちと様々な校種の教員が共に参加し、教材や実践を作っていく法教育の研究グループがたくさんできるとよいなと思います。

藤井 剛 千葉県立千葉工業高等学校教諭
 大変勉強になる研修会に参加させていただいて感謝しています。まず、小・中・高の法教育に携わる教員が集まることは、珍しいと思います。さらに、弁護士の先生方が加わったのですから、全国的にも貴重な研修会でした。その意味で、校種の枠を超えて、小学校や中学校の法教育の実践や考え方を学んだことは、今後の私の実践にもいかしていかなければならないと思いました。また、第二東京弁護士会が作成された教材、「ひまわり国」には敬意を表したいと思います。各地の弁護士会でいろいろな教材が開発されていますが、模擬裁判やルール作りなどが中心で、憲法教材を開発されることは少ないと思います。今後、さらにブラッシュアップして、小中高それぞれに対応した教材にしていかれることを希望しています。その際、どうぞ教員も仲間に入れていただきたいと思います。
 各地の弁護士会が、法教育委員会を立ち上げ、法教育の実践を始めています。しかし、その動きに対応する教員側の研究組織立ち上げが遅れているようです。先進事例としては、大坂、福岡、福井、群馬などがあります。遅ればせながら千葉県も、昨年立ち上げました。これからの研究活動は、法曹専門家も含む研究会が望まれていると思います。その先進事例として、今回の研修会は大変意義のあるものだと思いました。

関根憲一  豊島区立池袋中学校主幹教諭
 大変貴重な時間を頂戴したと感じております。弁護士の先生方のお考えや他校種の先生の実践などを知り得たことは今後の法教育へ取り組む参考になりました。持論になりますが、現在の法教育に最も必要なことは、学発達段階に応じた指導計画および教材開発だと思います。今回の研修会に参加させて頂き、その思いを新たにした次第です。生徒たちが社会に出た後、市民社会の健全な市民の一員として生活していくためには法教育は絶対に必要です。生徒たちの将来を作るために指導していることを忘れずに、今後も法教育を推進したいと考えています。
また、可能ならば、こうした法曹界と教育界が意見を交換できる場がつくられることを心から期待しています。今回は本当にありがとうございました。

塩川泰子 第二東京弁護士会 法教育の普及推進に関する委員会副委員長
 講師として参加された先生方も、研修を受講した弁護士陣も、法教育が社会に役立つだろうという強い思いの下に参加していただいたと感じました。
 一方で、法教育自体が多種多様な内容を含むため、目的意識を共有するのは重要な課題だと再認識しました。このことは、質疑応答で「そもそも何を一番伝えたいと考えているのか」という話題が盛り上がったことにも表れていると思います。そして、その場で回答していただいた先生方が回答に苦心していたのも印象的です。何を伝えたいと考えているのかは、法教育をする上で本質的な問いですが、実務上の直感に依拠する部分が多く、なかなか言語化するのが困難だという実情の表れのように思います。
「法教育とは何なのか」という議論は、報告書等が一通り出て以降、とりあえずが収束したようにみえますが、そもそも何なのか、何を目指しているのか、弁護士側も教師側も現場では手探り状態が続いているのだと感じています。弁護士も教師も、法教育が社会に役立つという信念の下、具体的にどう考えているのかというところを言語化していくのは今後も非常に重要なのだと改めて思いました。そのための第一歩として、当会の企画に、ご参加いただいた諸先生に心から感謝いたします。

〈取材を終えて〉

 この研修会は弁護士会内部で、法教育に携わろうとする弁護士のために企画されたものでしたが、各校種の学校現場の実情や教員の考えと、弁護士の実情や考えをお互いに知り合う有疑義なものになったと思います。

ページトップへ