第2回「B級法教育フェスタ~法律オイシくオモシロく!~」

 2016年2月11日(木)11:00~17:30、龍谷大学の研究グループ注1による第2回「B級法教育フェスタ」が品川インターシティにおいて開催されました。B級という表現には、とかく堅苦しいイメージの法というものを、様々な手法によって一般の人に気軽に楽しんでもらいたいという願いが込められているそうです。
 当日は、京都教育大学附属高等学校の生徒による模擬裁判をはじめ、マンガや昔話など様々な手法を駆使した法教育の紹介がされました。その一部の模様をお伝えします。(当日の配布資料より適宜引用させていただきます。)

〈プログラム〉

11:00~13:30 刑事模擬裁判員裁判「対決・高校生模擬裁判!?」(途中昼休憩有)
12:50~13:15 「マンガで入門『法教育』水知せりの世界」(ランチョンタイム)
13:45~17:30 「はじめての国際私法―国際結婚のなぞなぞ」
「国語科教員による法教育」
「昔話で裁判員を体験!」
「良い人の悪いことは良いこと?悪い人の良いことは悪いこと?
 ――デジタル紙芝居で『カイシャク』!」
「犯罪を取り巻く話の『ウソ』と『ホント』」
「自分の身を守るために~無料で使える護身術(=法情報)を伝授します」
「桃太郎の光(ひかり)と陰(かげ)」
を2部屋で並行進行

(以上7テーマより冒頭の2テーマについて報告します。)
         

1 刑事模擬裁判員裁判「対決・高校生模擬裁判!?」

 京都教育大学附属高等学校では、国語科の課外授業の一環(担当:札埜和男教諭)として有志が集まり、日本弁護士連合会主催の高校生模擬裁判選手権大会に9年間連続出場しています。2007年の第1回大会以来、関西大会で7回優勝、2回準優勝という輝かしい実績を誇ります。大会では、1つの事件をもとに検察側・弁護側チームを作り、争点を見つけて整理し、被告人の有罪・無罪の立証内容を競い合います。一連の活動を通し、法についてだけでなく、物事をさまざまな角度から見られるようになる、社会的想像力や判断力が養われる、議論やプレゼンの方法が身につくなど、多くのことを学ぶことができます。
 本フェスタでは、平成27年度の有志(以下、京教大附属高校チームとする)が検察側として刑事模擬裁判に参加しました。対する弁護側は、國學院大學法科大学院教授で法教育事業に特化した団体一般社団法人リーガルパーク代表の今井秀智弁護士率いる司法修習生や弁護士からなる法律家チームです。一般参加者も裁判員または傍聴人として裁判を参観します。一般の裁判員の中には、高校生模擬裁判選手権関東大会の優勝常連校である強豪、湘南白百合学園の有志生徒もいました。裁判員は昼休憩時に評議を行い、判決を決めます。東のライバル高校が見守る中、果たして、京教大附属高校チームは法律家チームに勝利することができたのでしょうか?

【裁判進行のあらまし】
*事案:被告人は事件当時20歳の未婚の母親。実家から遠く離れて飲食店店員をしながら、一人で7か月の女児の育児をしていました。被告人は仕事から帰宅した深夜、女児が泣き止まないので、同児の顔面にハンドタオルを押し当てて窒息死させた疑いで起訴されました。彼女は事件の2か月くらい前から無職の男性を自室に同居させ、将来はその男性と結婚したいと考えていました。男性は女児を迷惑がっており、事件直前も女児のことなどで女性と口論になっていました。(第9回高校生模擬裁判選手権大会の題材。起訴状と審理より。)
*冒頭手続:人定質問、起訴状朗読、権利告知、罪状認否
 被告人は女児を寝かしつけようと、ある方法を試しただけで、殺意はなかったと主張しました。
*証拠調べ手続:検察官・弁護人冒頭陳述、検察官側立証―証人尋問(被告人と同居している男性)、弁護人側立証―被告人質問
 検察官役は、京教大附属高校チームがかわるがわる務めました。被告人の自宅アパートの様子を図にして示し、検察側証人である同居男性から具体的な状況を詳しく訊き出していました。男性によると、被告人は男性と口論した後、女児の上に馬乗りになるような態勢をして右手でハンドタオルを女児の口元に押し当てていたそうです。一方、弁護人は、泣いている赤ちゃんの寝かしつけ方として、赤ちゃんの体を布団ごと抑える方法を被告人が試したことを訊き出しました。女児が静かになった後、ハンドタオルで女児の顔を拭いたとのことでした。
*論告・弁論
*判決:(裁判員役の高校生の1人が言い渡しました。)無罪
 理由は、2つ。1つは、殺意が明確でないから。もう1つは、検察側証人が酒に酔っていたうえ、被告人への愛情が薄いと考えられ、証言が信用できないから。
 ちなみに、参加者による判決投票は全部で9通あり、5:4で有罪が優勢でした。

2 「マンガで入門『法教育』~水知せりの世界~」

東 妙(漫画家)
 昼休憩時間、用意された軽食をいただきながら、漫画家・東先生のトークを楽しみました。東先生は立命館大学法学研究科修士課程を修了され、『羊図書館』という自らのホームページ(http://hitsujitoshokan.web.fc2.com/)で漫画やイラストを発表しています。「水知せり」はペンネームです。 
 東先生は、問題解決の手段として法律は大人にも子どもにも必要と考えています。しかし、みんなが法情報にアクセスしやすいかというとそうはいえません。そこで、マンガの登場です。子どもにも大人にも親しみやすいマンガで法情報と人をつなごうと、法を擬人化した『法学ロジスティクス』(法情報の流通)というマンガを発表しています。本フェスタでは、そのマンガを編集した『法律擬人化入門(総集編)』という本が参加者に配布されました。

【法の擬人化とは】
 法を擬人化するとは、どういうことでしょうか? 東先生のマンガでは、たとえば日本国憲法は金髪碧眼の少年(上記の本p.69に解説)として表されています。キャラクターデザインによって、法律の特色や歴史的経緯を表すそうです。「え? どうして外国人のような外見の少年?」などと意外に感じてもらえたら、一層関心を持ってもらえるという効果も計算されているとのことです。人物の年齢・性別・容姿・服装・言葉遣いに注目したいところです。さらに、登場人物同士の関係性によって、法同士の関係も表現されるそうです。民法や刑法はどんな人物として表現されているか、見てみたくなりませんか? 読み手の興味に応じた楽しみ方をしてもらえたら、とのことでした。

3 「はじめての国際私法―国際結婚のなぞなぞ」

金 美和(青森中央学院大学)
 「国際結婚」をテーマにラブストーリーを展開し、気になる法的な問題について、5つのなぞなぞをもとに考えます。外国人観光客が増加し、4年後には東京オリンピックも控えているこの頃、身近に感じられる話題です。

【5つの問い】
〔1〕 15歳の高校生花子が、19歳の大学生ゆうじと出会い恋をしました。2人は結婚したいと思っていますが結婚できますか?
 →法律が国内私法における「実質規定」によると解説されました。婚姻年齢について規定する民法第731条をこのケースに当てはめて考え、女性の年齢が要件を満たさないので、結婚できないという効果を生むということでした。
〔2〕 傷心のゆうじはフランスへ旅行し、17歳のマリアンヌと出会って意気投合。マリアンヌを連れて日本に帰国しました。2人は結婚できますか?
 →今度は、法律が国際私法における「抵触規定」によるそうです。日本人男性とフランス人女性の国際結婚の場合、日本法とフランス法のどちらに従うのでしょうか?これは、「法の適用に関する通則法」の第25条第1項:「各当事者につき、その本国法による」と決められているそうです。つまり、夫は夫の本国(国籍)法により、妻は妻の本国法によるということです。いずれかの当事者の本国法を優先することはできず、両当事者を平等に配慮する、という趣旨とのことです。
 ゆうじは19歳なので結婚できる年齢ですが、フランス法では男女ともに18歳以上でないと結婚できないので、女性の年齢が要件を満たさず、結婚できません。
〔3〕 1か月もするとマリアンヌの熱は冷めて、帰国してしまいました。ゆうじは20歳でイランの大学へ留学し、13歳のイラン人少女ヤスミンと出会いました。イランでは何歳で結婚できるでしょうか?
 →イスラム法の成年年齢は、男性15歳、女性9歳。イランイスラム共和国民法の第41条では、結婚は男性15歳、女性13歳からできるそうです。
〔4〕 ゆうじとヤスミンは結婚できるでしょうか?
 →「公序」の問題が生じるそうです。「法の適用に関する通則法」第42条により、外国法によるべき場合に、その規定の適用が公序良俗に反する場合、適用しないということになるそうです。事案は国内に関連性があることか? さらに、適用結果の異常性があるかどうか? と検討した場合、外国法の適用結果が、日本の法秩序や善良の風俗に反すると考えると、結婚できないことになるそうです。考え方次第では、結婚できることにもなり、どちらともいえないことになりました。
〔5〕 16歳になった花子は、日本に観光に来ていた25歳のインドネシア人男性ブディと出会い、結婚したくなりました。ブディはイスラム教徒で、すでに妻を持っていますが、イスラム教徒は複数の妻を持つことができます。花子はブディと結婚できますか?
 →「重婚」の場合、双方の当事者の本国の法を適用するそうです。日本では重婚は認められていませんので、結婚できません。双方の国の法が重婚を認める場合のみ、結婚することができるそうです。

4 「国語科教員による法教育」

京都教育大学附属高等学校模擬裁判チーム生徒有志、札埜和男
 オープニング・イベントにも登場した京教大附属高校チームの生徒が、自ら司会を務めて模擬裁判授業を行い、参観者全員が裁判員の立場となり、グループに分かれて評議に臨みました。札埜先生は見守るのみ。

【浦島太郎模擬裁判】
*裁判劇の設定:弁護人、被告人、検察官役が各1名ずつ並んで腰かけています。3名の後ろに、裁判官役が1名立っています。
*事案:昔話の浦島太郎が被害者。被告人は乙姫です。乙姫は客人浦島太郎に対し、故意をもって危険性を説明せずに、老化させる玉手箱を渡したとされます。そのため浦島太郎を300歳急に老化させた傷害罪に問われています。
*罪状認否:被告人は、老化させようとしたのではないと無罪を主張しました。
*検察官側の説明(証人は登場せず、簡略に):乙姫は3年間もてなして浦島太郎と仲を深め、彼を好きになりました。それなのに突然帰りたいといわれ、立腹。浦島太郎を恨む動機がありました。ふたを開けると老化することを知りながら、危険性を説明せずにお土産と称して玉手箱を渡しました。玉手箱を開かないようにする工夫もなく、取扱説明書も注意書きも付けませんでした。竜宮時間は地上の100倍速いことも言いませんでした。
*弁護人側の説明:乙姫は竜宮城では時の流れが地上より100倍速いことを忘れていました。玉手箱は、開けないように注意しました。好きな人に対して腹を立てていないので、地上へ返してあげました。傷害を負わせる動機がありません。
*乙姫の話:地上に帰った時に玉手箱を持っていないと、一気に300年歳をとってしまうのです。持っていれば竜宮城の時間だけで済むことを説明したかったけれど、浦島太郎が突然急いで帰りたがったのであわててしまい、説明できず、開けないようにとだけ言いました。
*評議:約15分で裁判劇が終わり、参観者がグループに分かれて評議をすることになりました。司会者が無罪推定の原則を説明した後、参観者の中に入ってグループ分けを行いました。どんな話し合いが行われ、判決はどうなったでしょうか?
*結果:全グループが無罪という結論を出しました。京都で行った時は有罪と無罪の意見が入り混じっていたのですが、東京では全グループ一致の無罪となりました。

〈取材を終えて〉

 高校生自らが進行するコンパクトな模擬裁判やマンガによる法の擬人化、国際私法の考え方など、これまでのレポートにはなかった題材です。参加者の中には子ども連れの姿も見られ、祝日のフェスタにふさわしいバラエティ豊かな催しだったと思います。
 上記4「国語科教員による法教育」は都合により途中までで退出しましたが、浦島太郎という誰でも知っている昔話でこんな模擬裁判になるのかと、引き込まれる思いでした。昔話を題材にしたその他のプログラムは、残念ながら今回お伝えできませんでしたが、いつか見られることを楽しみにしたいと思います。ちなみに、B級法教育フェスタの第1回は、2015年11月3日に龍谷大学深草学舎で開催されました。

 

注1:
企画の中心は龍谷大学法情報研究会が担い、龍谷大学社会科学研究プロジェクト「熟慮型・表現型メソッドを活用した法教育に関する研究」および文部科学省科学研究・新学術領域「犯罪者・非行少年 処遇における人間科学的知見の活用に関する総合的研究」の主催、龍谷大学矯正・保護総合センターおよび法情報研究会の共催で実施された。
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