平成21年度「法」に関する教育シンポジウム(授業編②)

 つづいて、6年生の社会科の授業の様子をお伝えします。

公開授業 ②

6年1組 (13:40~14:25) 39名(男子19名、女子20名)場所:体育館内特設教室
社会科                
単元名「わたしたちのくらしと政治の働き」

<ここまでの学習>

この単元では、まず「練馬区でわたしたちの税金がどのように使われているのか」について、自分たちの生活にとって身近なことを取り上げ、具体的に学習しました。次に、区の学習において習得した見方・考え方を活用して、「国民の願いを実現するため、国にはどのような仕組みがあるのか」、国会・内閣・裁判所の働きやそれらの関係等について学習しました。その中で、国民と裁判所のかかわりの一つである裁判員制度がどのような制度なのかを調べました。調べた事実をもとに、裁判員制度が導入された理由を自分なりに考え、各自がワークシートに記入して、今日の授業に臨んでいます。

<今までの学習をまとめたパネル>

(特設教室の周りに展示されていました)

税金のゆくえ 予想と調べる計画 税金1 税金2 税金3 税金の使いみち
願いを実現する仕組み 三権の関係 裁判員制度1 裁判員制度2 裁判員制度3

*上記のパネルと本文中の板書の写真はクリックで拡大します。

<授業開始>

授業風景1先生:「これまで裁判員制度について詳しく調べてきたなかで、視点として3つのポイントがありましたね。なんでしたか?」
児童1:「だれがどのように選ばれるか?です。」
児童2:「どんな事件を扱うのか?」
児童3:「どんな仕事をするのか?です。」

 

 

<裁判員制度が始まった理由をどう考えるか>

先生:「大きな疑問として、そもそもどうして裁判員制度が始まったのか、ということがありました。みんな、これに対する自分の考えを書いてきてくれたと思います。発表してくれる人。」→半分くらいの児童が手を挙げました。

板書1児童4:「国民の意見を聞きたいからだと思います。」(半分くらいの児童が同意見)
児童5:「裁判官だけだと、数が少ないので、判決を決める時間が長くかかってしまったからだと思います。」(3分の1くらいの児童が同意見)
児童6:「これまでの裁判では不満だった人がいると思うから、裁判員制度が始まったと思います。」(3分の1くらいの児童が同意見)

先生:「不満ってどういうことがあるかな?もう少し具体的に言うと?」
児童6:「今までの判決と国民の考えとの間にズレがある。」
児童7:「もっと詳しく調べてほしい。」
児童8:「判決が軽すぎることがある。」

先生:「じゃあ、裁判に国民の意見を取り入れるメリットとしてはどんなことが考えられますか?」
児童9:「裁判に慣れている人だけでなく、素人の意見も必要だと思います。裁判官だけだと、難しく考えすぎてしまうと思う。」
児童10:「いろいろな立場や職業の人がいれば、いろいろな考えが出ると思います。」
児童11:「国民に裁判を身近に感じさせることができる。」

先生:「みんなが裁判員制度について調べたとき、どんなことを疑問に思いましたか?」
児童12:「最終的にクジで決めることで困る人もいるかもしれない」(同意見半数)
児童13:「やりたい人だけ集めてその中から抽選すればよいと思います。」
児童14:「重い事件にあたってしまった場合、心配です。」
児童15:「証拠写真とか、見たくないようなものも見なくてはいけないのが不安です。」
児童16:「被告人に恨まれてしまうかもしれないというのも不安です。」
児童17:「裁判官の邪魔になるのではないか心配です。ベテランの裁判官の判断に素人が首をつっこんで、裁判官のやりたいことを裁判員が邪魔してしまうのではないかと思います。」

<資料を読んで考える>

先生:「なぜ裁判員制度が導入されたのか、について書かれた資料を見つけました。法務省、最高裁判所、日本弁護士連合会が共同で出したパンフレットです。この中の1ページを今からみんなに配るので、一緒に声に出して読んでみましょう。」

「なぜ裁判員制度が導入されたのですか?」

 この制度は、裁判官と国民のみなさんの中から選ばれた裁判員が、それぞれの知識・経験を生かし、一緒に判断する制度です。
 その結果、裁判が身近になり、国民のみなさんの司法に対する理解と信頼が深まることが期待されています。そして、国民のみなさんが、自分を取り巻く社会について考えることにつながり、より良い社会への第一歩となることが期待されています。

 最高裁判所 法務省 日本弁護士連合会 パンフレット
「私の視点、私の感覚、私の言葉で参加します。裁判員制度」より 作成

 

先生:「では、この資料を読んでみて、分かったこと、疑問に感じたこと、考えたことをワークシートに記入しましょう。いつものように、分かったことには「◎」、疑問には「●」、意見には「□」を付けて下さい。」
(考えをまとめ、記入する時間がたっぷりと取られました)

板書2先生:「みんな、どんなことを書きましたか。まずは、資料を読んで分かったことについて。」
児童18:「裁判員制度で、国民の司法に対す
る理解、信頼が深まる。」
児童19:「裁判が身近になります。」
児童20:「裁判員制度は、国民の中から選ばれた裁判員と裁判官が一緒に知識・経験を生かす制度だということが分かりました。」

先生:「裁判員と裁判官の知識経験というと?それぞれどのようなものが考えられます
か?」
児童20:「裁判官は、法律や裁判に関することの知識・経験があります。国民は、いろいろな人が加わるので立場によっていろいろな知識・経験をもっています。」

先生:「それでは次に、資料を読んでいて疑問に感じた点を発表してください。」
児童21:「裁判が身近になるといっても、裁判員になる確率が3500分の1では、すべての国民が裁判員を経験して、みんなにとって身近になるのはずっと先の話になるんじゃないかと思います。」
児童22:「裁判員制度導入の結果、国民は納得がいったのかな?と思います。」
児童23:「20歳くらいでは、もっている知識・経験はまだ浅いんじゃないかと思います。」

先生:「それでは、資料を読んでみんなが考えたことを発表してください。」
児童24:「裁判員がそれぞれの知識・経験を生かしても、裁判官とは経験の差があるから一緒に判断しなくていいと思う。」
児童25:「自分のためになるのなら参加したいと思いました。」

授業風景2先生:「ここまで友達の考えを聴いたり、資料を読んだりして、最初の自分の考えから、考えが変化したかもしれないね。今の自分の考えを書いてみてください。」(時間を取ってワークシートに記入させた後、発表)
児童26:「裁判員がいても、裁判官より経験はあまりないと思うから、裁判員はいらないと思う。」
児童27:「国民の意見を聞くことによって未来が良くなると思う。今の時点では国民が裁判官の邪魔だったとしても、国民が参加を続けていけば邪魔にならなくなっていくと思う。」
児童28:「今までは裁判官の意見だけだったけど、これからは国民の意見も入るようになるのが良いと思います。」
児童29:「国民の意見も聞けるというのもあるけど、その前に、法律や憲法をみんなが理解しなければいけなくて、そのための裁判員制度だと思う。この制度が深く国民に根付いていけば、きっと良い国になると思う。」

<新聞投書を読んで考える>

先生:「裁判員制度について、みんないろいろな考えをもっていますね。でも、賛成でも反対でも、20歳になれば実際に裁判員に選ばれるかもしれない。それでは、ここで人生の先輩の声を聞いてみましょう。新聞の投書欄に載っていたものです。
タイトルは、『20歳の若者に人が裁けるか』。これを書いた人自身が、なんと20代なんですね。」
(内容は、「人を裁くというのは人の人生を左右する大きなことである。自分を含め、知識
も人生経験も浅い20歳そこそこの者に務まるとは思えない。被告人にとっても納得がいくだろうか。今回、自分に裁判員候補通知が届かず、正直ほっとしている。」というもの)

先生:「もう一つは『模擬裁判では自信がもてた』という投書。これは、70代男性の投書です。」
(内容は、「裁判所で模擬裁判に参加した。裁判員はみなよく発言しつつ他の意見も尊重し
ていたし、裁判官は事件の内容を分かりやすく説明してくれ、裁判員全員の意見をよく聴いてくれた。実際の裁判もこのようなものであれば自分のような高齢者でも迷うことなく参加できるだろう。自信をもつことができた。」というもの)

先生:「実際に裁判員に選ばれるかもしれない立場の大人の意見でも、いろいろなものがありますね。
それでは、ここまでの授業を終えて、自分は裁判員制度とどのようにかかわっていきたいか、今の考えをワークシートに記入してください」

先生:「みんな書けたと思うので、発表してもらいましょう。」
児童30:「裁判員に選ばれたら、それはラッキーなことだと思うので、その裁判に出て、法律や憲法のことを勉強したいと思う。」
児童31:「私が裁判員に選ばれたら、裁判に行きたいと思います。人を裁くのは大変だけど、人生に一度くらいしか経験できないことだからです。」
児童32:「自分が20歳になって裁判員として選ばれたら、選ばれるのは嬉しいけれど、人の人生を裁くことになるから、あまりかかわりたくないです。人の人生を他人が決めることはよくないと思うからです。」
児童33:「裁判にはあまりかかわりたくありません。裁判員になると、犯人に恨まれて殺されたりするかもしれないのが不安だからです。でも、一回くらいなら経験になるので、裁判員になってもいいかなと思います。国民の目が裁判に向くようになるのであれば、この制度をはじめてよかったのではないかと思います。」
児童34:「裁判員になる確率は低くても、憲法や法律は知っておきたいと思いました。」
児童35:「私は裁判で人を裁けない。自分はその人に対して恨みをもっているわけではないから、無理です。」
児童36:「自分が裁判員に選ばれたら、不安はあるけど良い経験になると思うから参加したいです。この制度で国が良くなるならいいと思う。」

先生:「なるほど。みんなの中でも、両方の意見がありますね。賛成でも反対でもいいのです。ともかく今の時点での自分の意見をしっかりともち、今後も自分のかかわり方を考えていくことが大事です。
それでは、今日の授業はここまでにします。」

この後、第2部パネルディスカッション

 次は体育館で、全体のパネルディスカッションが行なわれました。この授業の背景や趣旨の説明、パネリストからのアドバイスも取り上げられていますので、パネルディスカッション編もどうぞ御覧下さい。

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