NHK「同時進行 裁判員裁判」から

少し前の話になってしまいましたが、第1回目の「法教育レポート」は最初の裁判員裁判の日の報道番組についてのレポートです。

メディアが法律に関する問題を取り上げることは、程度の差はあれ、一般市民に対する法教育という意味を持つでしょう。
今回は初の裁判員裁判ということで、テレビも丁寧にその制度の説明をするだろうと期待できますので、どのようなものか8/3(月)裁判初日の番組の模様を見てみました。

午前9:20の番組

1 制度について

(1)裁判員を選ぶ手続き

裁判員は20歳以上の国民は誰でも選ばれる可能性があり、有権者から毎年抽選で候補者名簿に載せられます。初回である今年の候補者は、去年11月に29万5千人が名簿に載ったことを通知され、調査票を送付されました。提出された調査票をもとに、70歳以上の人・重病や代わる人がいない仕事のある人は辞退が認められます。この中から50~100人に呼び出し状が出されるとのことです。

今回の裁判では、候補者の中から73人に対し、6月に呼び出し状が発送されました。そのうち18人は仕事・介護などの事情により辞退が認められ、6人には何らかの事情で呼び出し状が届きませんでした。残る49人のうち、この日47人が出席し、「事件と特別の関係はあるか」などを質問票に記入しています。この後、裁判官による面接を受けてふさわしくない人などがはずされ、その中から抽選で6人の裁判員と3人の補充裁判員が選ばれるということです。

 

(2)これまでの裁判との違い

短い期間に集中して審議が行われることです。今回は
1日目 午前:裁判員を選ぶ手続き 午後:審理開始
2日目 審理(証拠、証人尋問、被告人質問等)
3日目 午前:審理 午後:評議(裁判官と裁判員による。非公開)
4日目 午前:評議 午後:判決
という日程です。

(3)制度のねらい

 ①一般の人に意見を取り入れ、裁判への信頼を増すこと。
 ②わかりやすい裁判。
そのため法廷を作り変え、裁判官などの席は10センチ低くし、威圧感を与えないようにしました。壁や手元にはモニターを設置し、「見て、聞いてわかる」ように工夫しました。

2 今回の事件

今年5月、足立区の66歳の女性が、近所に住む72歳の男にサバイバルナイフで胸などを刺され死亡しました。男は自宅の猫よけのペットボトルが倒れていたので、女性に苦情を言ったら口論になり、自宅からナイフを持ち出して刺したというものです。

3 裁判員の役割

被告人が犯行を認めているので、今回のメインの議論は刑の重さを考えることになります。裁判員にもこの点の判断が求められます。
殺人罪の刑罰は懲役5年から死刑まであります。判断のポイントは、
 ①殺害の状況(残虐さなど)
 ②トラブルの経緯
 ③遺族の心情
 ④反省の程度
の4点ということです。

正午のニュース

・6人の裁判員が決まったこと。
・裁判員選定手続きは非公開であること。候補者が関係者から働きかけを受けたりしないように、個人が特定されないよう配慮されていること。
・裁判員は休憩時間は基本的に自由であること。
・裁判の流れの説明。裁判員が直接証人に質問することもあるとのこと。
・午後1:30から審理開始。
などが報道されました。

午後1:25の番組

(1)法廷の様子

裁判官に続いて裁判員と3人の補充裁判員も入廷しました。裁判長は裁判員のプライバシーを守るために、名前でではなく「1番の方」などと呼ぶことになっているということです。

法廷の様子をNHKは模型と人形を使って説明していました。アナウンサーが人形を一つずつ動かし、これが実際の人の動きを想像させました。

(2)裁判員の役割

裁判員の役割は、
1. 今行われている法廷での審理、
2. 3日目からの非公開の評議(裁判官と裁判員の話し合い)、
3. 判決に立ち会うことの3つだそうです。

(3)現在の審理の様子

このあとは時々刻々と移ってゆく審理の様子が2:00から1時間おきに報道されました。

その後の番組から

被害者の傷がどのようなものかということは重要な証拠であるという解説がありました。
そのように重要なものであるにも関わらず、これまでは鑑定書のみでわかりにくいものであったのですが、今回はCGがモニターに映し出され、わかりやすかったそうです。
番組ではCGの代わりに絵が使われました。
この日は裁判員から証人への質問はありませんでした。模擬裁判では裁判員からの質問が出るタイミングに、今回は裁判長が「打ち合わせをします」と言って、いったん裁判官と裁判員が全員外へ出て、何分後かに戻ってくるということでした。
再開された後も、質問は出なかったということです。

審理は午後4:39に終わりました。この後、裁判員は不特定多数の人に裁判員として知った事件関係者のプライバシーや、他の裁判員の名前を伝えてはいけないそうです。

おわりに

この日一日の「同時進行 裁判員裁判」を見て、裁判員制度が実際にどのようなものであるかわかりやすく解説されていたと感じました。補充裁判員という仕組みは初めて知りましたし、補充裁判員も法廷に出席するというのは意外な感じでしたが、急な事態にも対応できるようにという説明に納得しました。
法廷を人形を使って表す工夫がとてもわかりやすく、自分も裁判を見ているような感じを味わえ、大変勉強になりました。

制度の説明は初日の放送に集約されていましたが、3日目に、補充裁判員はもう3人も必要なかろうということで1人減らされました。そういう臨機応変の対応があることもわかって安心できました。

初の裁判員裁判の日の報道として、意義あるものだったと感じました。

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