県立千葉高等学校の取り組み①
県立千葉高等学校の取り組み ― ディベート編
県立千葉高校は「法教育」と銘打っているわけではありませんが、政治・経済の授業に素晴らしい取り組みをされていますので、ご紹介しましょう。
〈県立千葉高等学校プロフィール〉
創立は明治11年、千葉県師範学校構内に千葉中学校と称して開校されました。明治32年には千葉県千葉中学校と改称、現在地に新築移転。昭和23年、学校教育法による高等学校となり、定員1040名。翌年、男女共学になります。昭和36年千葉県立千葉高等学校と改称。平成13年、通学区域が拡大され、隣接する市町村全部になります。平成17年より第1学年定員320名(8学級)となります。平成20年には併設型中高一貫教育整備事業により県立千葉中学校が開校しました。
千葉県庁、千葉地方裁判所、千葉地方検察庁、県立中央図書館、県立郷土資料館などが徒歩圏にあり、非常に恵まれた立地です。
在籍生徒 平成21年5月1日現在 (千葉高校ホームページより)
学級 | 男 | 女 | 計 | |
1年 | 8 | 212 | 114 | 326 |
2年 | 8 | 197 | 121 | 318 |
3年 | 8 | 213 | 107 | 320 |
計 | 24 | 622 | 342 | 964 |
政治・経済は2年生の必修科目で、担当の藤井剛教諭が独自の工夫で授業に「ディベート」と「模擬裁判」を組み込んでいらっしゃいます。今回は1学期に行われる「ディベート」について紹介します。
〈経緯〉
藤井先生は平成12年度に千葉高校に着任。13年頃から自分でマニュアルを作るなどして、授業にディベートを取り入れ始めました。以下、先生の作られたマニュアルからディベート授業とはどのようなものか見てみましょう。
〈ディベートとは〉
ある論題に対し、肯定否定に分かれた2チームの話し手が、聞き手に対し自分たちの議論の優位性を理解してもらうことを目指して、一定のルールと客観的な証拠資料に基づいて議論をする討論ゲームです。
1)目的
政治・経済の「まとめ」には現代社会の諸課題に対する主体的な追求学習(学習指導要領では「追求」なので)が求められています。ディベートでは自ら論題を選択し、一次資料を多面的・多角的に調べ、論理的に考え、まとめて発信し、議論して望ましい問題解決のあり方を考えさせることができます。それにより民主的、平和的な国家・社会の有為な形成者として必要な公民としての資質を養うことを目的としています。
2)授業実践の概要
①論題説明と班編成
クラスに論題一覧を配布し、論題について簡単な説明を行います。その後、クラスで5つの論題を選択させます。
生徒は希望する論題ごとに集まり、1論題8名ずつで5班を結成します。班内をくじで肯定と否定4人ずつに分けます。
[論題例(抜粋)]
1. | 選挙権を18歳に引き下げるべきである。 |
2. | 外国人に国政・地方を問わず選挙権を認めるべきである。 |
3. | 住民投票制度を法制化すべきである。 |
4. | 天皇制を廃止すべきである。 |
5. | 自衛隊を解散すべきである。 |
6. | 国旗国歌法を廃止すべきである。 |
8. | 日米安保条約を破棄すべきである。 |
10. | 日本は自衛隊のPKO派遣を中止すべきである。 |
13. | 日本は最高裁判所を憲法裁判所に改組すべきである。 |
16. | 少年保護規定を廃止して少年(12歳以上)にも極刑を科すべきである。 |
21. | 日本は脳死患者からの臓器移植の年齢制限を廃止すべきである。 |
22. | 日本は夫婦別姓を認めるべきである。 |
27. | 日本は刑事裁判に陪審制を導入すべきである。 |
31. | 犯罪容疑者及び被害者のプライバシー情報の報道・流布を規制すべきである。 |
53. | ごみの有料化を法律で定めるべきである。 |
69. | 労働法を改正して、サービス残業を全廃すべきである。 |
このように政治分野、経済分野合わせて73ほどの論題の中には、内容的にも法教育が含まれています。
②ディベートの説明
藤井教諭作成のテキスト(松本茂『頭を鍛えるディベート入門』講談社ブルーバックス、ディベート甲子園など参照)やVTR等を使い、解説を行います。
・時間配分とその内容(千葉高校フォーマット)
肯定側立論 | 5分 | 立証責任を果たす |
否定側質疑 | 3分 | 相手の立論内容について、根拠や不明な点を問いただす |
否定側立論 | 5分 | 反証責任を果たす |
肯定側質疑 | 3分 | 否定側質疑に同じ |
否定側第1反駁 | 3分 | 質疑の結果を材料に審判を説得する |
肯定側第1反駁 | 3分 | 否定側への反駁も含め審判を説得する |
否定側第2反駁 | 3分 | 再反駁も含め議論をまとめて審判を説得する |
肯定側第2反駁 | 3分 | 否定側第2反駁に同じ |
各発言の間にはそれぞれ1分間の準備時間があり、その間に自分の発言内容を組み立てるので、相手の発言を集中して聞くこと、すばやい判断力が要求されます。
・司会
次回発表する班が行います。マニュアルも藤井先生が作成。司会1人、時計係1人、記録係1人。
・論の組み立て方
立論ではメリット(ディメリット)は2項目まで挙げ、それぞれのメリットなどに通し番号をつけ、その題名もつけておきます(ナンバリングとラベリング)。信憑性の高い「証拠資料」と、「論理的な理由付け」によって立論を組み立てます。
証拠資料は統計データ・新聞記事・専門家の見解など、誰もが納得できるものを挙げます。資料の趣旨を変えてはならず、出典と著者を明らかにし、インターネットはドメインで信憑性を判断します。
・審判
教諭、外部審判(卒業生)、聴衆
・判定
試合中、審判はフローシートを作成し採点に備えます。終了後、5分間の準備時間の後、教諭、外部審判、聴衆が各自持ち点10点で採点し、採点表に「アドバイス」も記入して提出します。判定はメリット、ディメリットを比較して決め、同等なら否定側の勝ちとします。教諭、外部審判が講評と試合の勝敗を説明します。なお、卒業生は法学部に在籍中の学生なので、学生にとっても審判役は勉強になることでしょう。
「県立千葉高等学校の取り組み②」へ続く
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