千葉家庭裁判所「裁判官と一緒に考える少年審判」その①

 2009年10月28日(水)13:30から、千葉家庭裁判所で今年も「法の日」にちなんだ広報行事が開催されました。千葉家庭裁判所のベテラン裁判官による講義形式のお話に、大学生から年配の方々まで参加者は熱心に耳を傾け、予定時間を30分も超過するほど質問が出ました。

挨拶

千葉家庭裁判所長 寺尾洋判事
 10月1日が「法の日」で、裁判所を国民の皆さんに身近に感じていただけるように広報行事をしています。
 少年審判は少子化の影響か、毎年数が減っています。ただ、内容は低年齢化や、普段は問題ないような子が重大事件を引き起こすなど変化しています。このところ少年法が何度も改正されているのも、その状況に対応するためということがあります。去年からは被害者のための審判傍聴制度が始まりました。
 きょうは、途中、皆さんに問題を出します。皆さんからもどうぞ質問してください。

 「裁判官と一緒に考える少年審判」

 千葉家庭裁判所少年部部総括裁判官 原啓判事

はじめに

〈罪を犯した少年にその社会がどう対処するか〉
 8月1日の朝日新聞の朝刊に、インドネシアで12~16歳の少年達が賭博容疑で逮捕されたという記事がありました。スカルノ空港近辺に住む少年達は靴磨きをして生活の足しにしていましたが、待ち時間に小銭の賭けゲームをしたのです。彼らは30日間勾留されたあと、保護観察下に置かれることになりましたが、処分が厳し過ぎると世論の批判を浴びたというものです。
 犯罪や非行を犯した少年への対処の仕方には、少年特有の手続きを設けたうえ、刑事裁判にするか選択する方法と、刑事裁判手続きに特則を設けて少年に対処する方法があります。インドネシアは後者の方、日本は前者です。

1 日本の裁判所の組織と家庭裁判所

〈家庭裁判所とは〉
家庭の平和の維持と子どもの健全育成を図るため、少年法と共に1949年に設けられました。今年はちょうど60周年になります。全国に50の本庁があります。

2 少年事件一般に関する説明

問題1(参加者の皆さんへ):
アイスクリーム1個を万引きしたら、家裁送致ですか、それとも警察が注意をして終わらすことがありますか?
   →結論としては、全て家庭裁判所に送るきまりです。

〈全件送致主義〉
成人の事件における起訴裁量主義(検察官が判断できる)と異なり、捜査機関は少年が犯した事件について嫌疑があると判断する限り、全て家庭裁判所に送致しなければなりません。これは、全ての事件を家裁に集中させ、保護教育の見地から専門的な判断をさせることが有効であると考えるからです。(家裁中心主義)

〈少年審判の目的は〉
 少年は人格が未熟である反面、可塑性に富み、豊かな教育的可能性をもっています。刑罰を科すよりもその非行性を除き、少年を更生させ健全に育成することが効果的であり、再非行を防止することが社会公共の安全にもつながると考えられます。そこで、保護・教育による少年の健全育成を目的とします。

〈職権主義的な審理構造〉
このような福祉的・教育的機能の実現のため、刑事訴訟における当事者対立構造ではなく、家庭裁判所自らが手続きを主宰する職権主義的な審理構造を採っています。審理の全過程において教育的な配慮をし、少年・保護者に対する働きかけだけでなく、学校・職場などにも保護的配慮を要請するなど、家庭裁判所が中心になって行います。

〈司法的機能〉
 不告不理の原則(捜査機関等から受理した事件に限り審理)、非行事実の認定を厳格に行なう、手続き的権利保障(非行事実の告知と聴聞、黙秘権や付添人選任権の告知)、処遇選択における一般予防的観点(検察官送致か否か)があります。付添人は刑事裁判での弁護人の役割のほかに審判協力者の役割もあり、多くの場合弁護士が就任します。

〈職業裁判官による審判〉
 職業裁判官による単独審理が基本ですが、大きな事件の場合、裁判官3人の合議体による審理になります。陪審制などは行なわれていません。

問題2
少年事件の審判は非公開で行なわれますが、殺人事件や交通事故で人が亡くなった場合、被害者の遺族は審判を傍聴できますか?
   →できる場合があります。

〈非公開の原則〉
 少年のプライバシー保護と健全育成のため、審判及び審判記録等は公開しない原則ですが、平成20年12月から一定の重大事件に限り、被害者等が傍聴できるようになりました。なお、被害者・国民の知る権利に配慮し、社会の注目を集めた事件については、家裁が審判の決定要旨を発表することがあります。

〈個別審理の原則〉
 大人の裁判と違い、共犯事件についても少年ごとに個別審理をします。少年のプライバシー保護と、健全育成のためです。

〈少年審判の対象〉
 犯罪少年(罪を犯した14歳以上20未満の少年)、触法少年(実質的には罪を犯しているが、その行為の時14歳未満の少年)、ぐ犯少年(20未満で、保護者の正当な監督に従わないなどの不良行為があり、将来罪を犯すおそれのある少年)

〈少年事件手続〉
proceeding

問題3
少年鑑別所は少年の資質鑑別を行なう施設ですが、入所期間は最大でどれだけでしょう?
   →約2ヶ月。

〈千葉家裁の主な教育的働きかけ〉
 審判不開始や不処分決定がされても、家裁が何もしていないわけではありません。再非行防止のため様々な働きかけ・指導がされます。千葉家裁では千葉駅前街頭清掃活動、里山整備活動(県の森など)、親子野外活動、フラワーオペレーション(民間農場と連携し労働奉仕)、保護者会、被害を考える教室(万引き講習)などの取り組みをしています。

千葉家庭裁判所「裁判官と一緒に考える少年審判」その②に続く

ページトップへ