静岡大学教育学部附属島田中学校研究発表会②(教科協議会編)

静岡大学教育学部附属島田中学校研究発表会①(授業編)からの続き

 13:00~14:00は各教科ごとに協議会が開かれました。
社会科は主に公民についてお伝えします。

社会科の研究主題について

 岡田智行先生より(静岡大学教育学部附属島田中学校教諭)
 「社会生活において必要となる力の育成」という研究主題は3年目を迎えます。
社会科では平成12年度からの「参加型学習」活動の研究が方法論に傾いたという批判を受け、「中学生段階でどのような力をどのような方法で生徒に付けるべきか」という理論的な検討を重ねた結果、将来社会人として必要なのは「市民的資質」であると考えました。
この「市民的資質」を3つの過程・5つの力で定義します。
すなわち、「社会的課題(事象)について認識・思考・意思決定する過程において、関心を持つ・資料を活用する・考察する・他者理解をする・表現するという5つの態度・技能を持つこと」としました。
 これまでの研究の成果として、平成21年10月に2・3年生を対象にアンケート調査した結果、授業に対する面白いという意識は高くなっています。(5点満点で4点近い。)
小集団学習に対する評価が高く、「他の人の立場や見方を知る」、「自分の考えが深まる」などの効果を実感している生徒が多いです。

本日の公民の授業について

 岩本知之先生より(静岡大学教育学部附属島田中学校教諭)
 民主政治と政治参加の単元の中で、裁判員制度をどうあつかうかがポイントになると思います。
 裁判員制度については,当初否定的な見方がありました。しかし,裁判員を経験した者の声にプラスの面があることから,実際に生徒に模擬裁判員裁判を体験させることが,多面的な見方ができたり,裁判員制度の意義を感じるために重要だと考えました。
 今後,模擬裁判員裁判を行う時間をとっています。その際に,司法に対する知識・理解+法的見方・考え方を身につけて臨むために,本時があります。
 今回「ランキング」という手法を使ったことについては,どうだったかと思っています。

質疑応答

 参加者には授業時にアンケート用紙が配られており、休憩中にそれを回収して疑問に答える方法が採られました。

①「無罪推定の原則」を教えるタイミングは?
→東京都中学校社会科教育研究会の公開授業では、最初に伝えていたので多くの生徒が無罪に流れていました。その点を質問したところ、審理の段階で「必ず伝えねばならない」ということでした。(岩本先生)
→「無罪推定」については法務省のホームページにも載っていますので、ご参考になってください。そのままでは少し難しいかもしれません。(静岡大学准教授 磯山恭子先生)

②ランキングの効果はどうですか?
→「裁判において重要だと考える順」というランキングでしたが,それぞれが重要なので明確な差がつけにくく,子どもたちを混乱させてしまったかもしれません。ある生徒は「傍聴席が上位に入る」とこだわっていました。理由は「自分が被害者の親族だったら,裁判を見たい」という考えからでした。ランキングにこだわったからこそ,出てきた意見だと思います。(岩本先生)
→繰り返し用語を使うので、用語の定着に役立ちます。事象のつながりを意識できる、コミュニケーション力を高めるという効果もあります。(岡田先生)
→ランキングはどの子にも使える方法だと思います。自分も使います。(御前崎市立浜岡中学校教諭 早馬忠広先生)

③参加型学習で関心はできても、態度変容まで視野に入れておられるでしょうか?「市民的資質」というと、態度形成まで含めて考えているかということです。
→「市民的資質」の3つの段階・5つの力ですが、5つ目の力「表現」を「行動」にしようか悩みました。「行動」までは厳しいので、「表現手法をいろいろ知っている」ということでいいとしました。(岡田先生)

研究助言者のお話

 静岡県総合教育センター指導主事 多々良博之先生
 子どもの感想に、「社会科で無駄になることはない」とあるのが附属島田中学校の研究成果です。そして地域の学校と連携し、惜しみなく指導案や教材を公開してくださる地域貢献が素晴らしいです。参加型学習の手法も広まっています。「活動あって学びなし」になってはいないということが示されたのではないでしょうか。
 新学習指導要領を広めるのは実際の授業です。今日の授業は具体的で参考になりました。法教育もしてくれました。
 センターでは「子ども理解と教材研究が大事である」と言っています。

感想

 「市民的資質」をどう捉え、どう育てるかという研究主題は、公民だけでなく地理と歴史でも追及されています。そうした中で社会的事象の多面性を多角的に考察したり、他者理解をしたりする態度・技能が養われるということは、物事や人の心を多面的に捉えようとする法教育の考え方を社会科全体で実践していることになるのではないでしょうか。

静岡大学教育学部附属島田中学校 研究発表会③(講演会等編)へ続く

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