静岡大学教育学部附属島田中学校研究発表会①(授業編)

 2009年11月、静岡大学教育学部附属島田中学校で第55回研究発表会が行われ、その2日目、6日(金)の社会科の研究発表を見せていただきました。
 3年生の公民の授業は裁判員制度の単元で、その後に開かれた授業協議会と、「開発教育」の講演会・ワークショップをあわせてお伝えします。
(当日の資料より適宜引用させていただきます。)

静岡大学教育学部附属島田中学校のプロフィール

昭和19年、静岡青年師範学校附属青年学校として創立。
昭和22年、新学制により静岡青年師範学校附属中学校と改称。
昭和26年、静岡大学教育学部附属島田中学校と改称。
昭和31年、現在地に校舎移転。

附属小学校はなく、全員が入学試験を経て入学してきます。JR東海道本線島田駅から徒歩20分の距離にあり、市役所なども近いながら自然が豊かで、お茶の栽培が盛んな落ち着いた環境です。

生徒数 合計356名 (平成21年度学校要覧より)

学年 1年 2年 3年
学級 男子 女子 男子 女子 男子 女子
A 19 21 19 20 21 19
B 19 21 19 20 20 20
C 18 21 20 19 20 20
119 117 120

 

附属島田中学校の教育研究発表会

 地域に根ざした研究活動を重視しており、地域の教育研究の拠点校として、あるいは地域の教員研修の場として、静岡大学教育学部との連携体制の下で、“各教科の今日的な課題へのアプローチ”と題し、教科ごとに研究を進めてきました。
 社会科においては、将来社会人となる生徒にとって望ましい「市民的資質」を付けるものとなっているかという視点から、「社会生活において必要となる力の育成」を研究主題として3年目を迎えます。
 本年度は、生徒に必要な「市民的資質」を〔様々な立場から様々な社会的課題(事象)に関心をもって「認識」し、資料を活用したり、他者の考えも参考にしたりして「思考」し、様々な表現方法で「意思表示」するといった技能や態度〕とおさえ、そうした「市民的資質」を育てる授業とはどうあるべきかを提案したいと考えています。

授業

11:00~11:50
3年C組 31名(男子15名、女子16名)
単元名 公民的分野(3)私たちと政治 イ 民主政治と政治参加 ~裁判員制度~
教材名「法廷図の変化から読み取る裁判の変化と概念」

導入―前時の学習

先生:「(前回)困っている人がいましたね。マスオさんとアナゴさんがトラブっていました。前回は紛争の解決でした。どんな方法がありましたか?」
生徒:(口々に)「仲介です。間に公平な第三者が入って。」「当事者同士の話し合い。」「裁判。」
先生:「スーツが破れて民事裁判になりましたね。もしノリスケさんが通りかからなかったらどうなっていたかな?」
生徒:「殴り合いとか口論。」
先生:「ナイフを持ち出してということになると刑事裁判になります。民事裁判と刑事裁判の違いはこの次に。今日は裁判の様子をまずVTRで見ます。」

「遠山の金さん」のお白洲の場面をもとに

001 先生:「今とは全然違いましたね。
江戸時代、北町奉行所の法廷の様子でした。奉行が取り調べもして自分で裁く。
(図を黒板に貼りながら)役人1・2は取り調べ、役人3は記録、役人4・5は見張りです。
それが今はどうなっているか(現代の法廷図も貼る)、見比べて変化したものを探しましょう。
小集団になって、一人写真と図を取りに来てください。」
(右の図は、教材倉庫からダウンロードできます)

 4人1グループで8班になり、約10分間、班で意見を出し合います。

その結果、
002〔新たに加わったもの〕
 弁護人(A)、
 証言台(B)、
 傍聴席(C)、
 司法修習生、
 裁判官の人数(D)、
 裁判官の役割(E)

〔役割や呼び名が変わったもの〕
 役人が検察官(F)になった。
 罪人が被告人になった。
 書記官。

〔無くなったもの〕
 拷問所廃止(G)、
 砂利廃止

(A)~(G)を裁判において重要だと考える順にランキング

先生:「各班、後ろからホワイトボードを持ってきてください。法廷で変化したもののうち(A)~(G)の7つについて、それぞれの働きや変化した理由を考えながら、裁判において重要だと考える順にランキングしてみましょう。」
先生は用意してあったマグネット式のカードを7枚ずつ各班に配ります。カードには(A)~(G)が説明と共に書かれています。生徒達は自分の意見を言いながら、ランキングを考えてカードをホワイトボードの上部に貼ったり、場所を変えたり。活発に意見が出て、どんどんカードの場所が変わります。10分ほど考えた後、ワークシートに「ランキング」と「理由」を各自記入します。次に3つの班が結果を発表しました。
 

ランキング発表

1班目
男子1:「下から決めていきました。1番上は裁判官の役割で、基準が大事だから。2番は裁判官の人数で、独断よりも行き過ぎを防げるから。3番は拷問所廃止。公民の教科書に、疑われているだけの人に拷問するのはよくないとあったからです。次は弁護士と検察官をセットで考えました。」
先生:「大切なことに気付きましたか?」
男子1:「基準がないと裁きようがないので、一番大切なのは裁くときの基準です。」
先生:「基準って何かな?」
男子1:「法律。」(班の女子の小さな声あり。)
 
2班目
男子2:「裁判官の役割と弁護士が1位でした。江戸時代は平等がない。罪の疑いのある人にも平等でないといけない。2位は拷問所廃止。3位は証言台。証言を言わせないために拷問所があったので、証言台も大事。次は傍聴人と裁判官の人数。平等な裁判だからこそ傍聴人も大切。」
先生:「平等が何回も言われましたが、他に大切なことは?」
男子2:「無理やりでなく、正しい事実を言わせること。」
先生:「正しいというより、間違いのないでいい?」
男子2:「はい。」

3班目
男子3:「弁護士がいないと、罪人の悪い部分しか言われないから冤罪になったり、被告人の人権が侵されたりするから、一番大事。2位は検察官・拷問所廃止で、検察官は罪の立証に必要だから。拷問所廃止は人権を侵さないために必要。3位は裁判官の役割・証言台で、裁判官の役割は第三者を入れることで公平になるから。証言台は事件を見ていた人の意見を入れることで正しくなるから。」
 先生が「裁判において大切なこと」を黒板にカードを貼ってまとめます。カードは、「法の下」「平等な裁判」「間違いのない裁判」「冤罪を防ぐ」「人権が守られる」でした。
 

裁判員をランキングに入れるとするならば?

先生:「今の裁判では、これらは守られているでしょうか?現在の法廷にも変化がありますね。何?」
女子1:「一部の裁判に裁判員。」
先生:「裁判員をランキングに入れるとするならば、どこに入るでしょうか?最後にそれを書いて提出してください。」
 ワークシートとは別に「追求用紙」という、単元毎に1枚の別紙があり、それに書き込んで終了しました。

 この授業では「ランキング」という「参加型学習」の手法が使われています。ランキングを付けた理由を自分の意見の根拠として伝えることで、自分の意見をわかりやすく伝えたり、お互いの理解を深めたりしやすかったように見受けられました。意見をたくさん出すことにもつながるようです。このような参加型授業を見た教育実習生からは、一様に「中学や高校では先生が話したり黒板に書いたことをノートに書くだけで、このような授業は受けたことがない。」という感想が聞かれるそうです。筆者も裁判員をどこに入れるか考えてしまい、なるほど次回の裁判員制度学習への興味が深まりました。

静岡大学教育学部附属島田中学校 研究発表会②(教科協議会編)へ続く

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