千葉県立千葉高等学校 開発教育授業①
2009年11月24日(火)13:20から2年生の政治・経済の授業を見学させていただきました。
これは同高校では初めて取り組まれた「ODAを計画しよう!」という授業で、開発教育のひとつです。
先週レポートしました11月6日の静岡大学教育学部附属島田中学校の研究発表会で、社会科の講演・ワークショップが「開発教育」およびその「参加型学習」手法についてでした。合わせて御覧いただけるとわかりやすいかと思います。
授業
教科:政治・経済
テーマ「ODAを計画しよう!」―6時限目:援助計画プレゼンテーション―
2年B組 13:20~14:10 35名(男子22名、女子13名)
「バングラデシュへの提案」
事前準備
①「ODAとは何か」について30分ほど講義。
②各クラスに援助国割り当て。バングラデシュ:A・B組、モンゴル:C・D組、ベトナム:E・F組、インドネシア:G・H組
③各クラス、4人1班で10班編成し、班毎に社会・経済・政治等様々な角度から被援助国の現状を分析し、被援助国にとって最適な援助計画を立案します。
援助対象は「医療」「教育」「インフラ」のうちから1項目に絞ります。(インドネシアは「医療」「教育」のみ)資金の上限はなし。援助形態は「二国間援助」とし、日本が直接相手国に「有償資金協力」、「無償資金協力」、「技術派遣」等を行なうものとします。
④援助計画をまとめ、プレゼンテーションを行ないます。プレゼンの時間は準備・片づけを含め各班5分。媒体はPCまたは模造紙とします。
*調査・プレゼン準備として授業時間5~6時間を当てます。全てPC室を使います。
プレゼンテーションのフォーマット
①その国を調べます。
②その国に何が足りないかを調べます。
③国民・住民のニーズを調べます。
④他国と援助が衝突しないかを調べます。
⑤その援助が、実現可能か調べます。
⑥その援助で、足りない点を調べ、解決できるならば方策を考えます。
⑦可能ならば、「人間の安全保障」注の観点を考えます。
*資料を使い、説得力を持たせます。写真や表・グラフなどで視覚に訴えるように。問題の背景・理由を考察し、そこを解消するための援助を考察します。
(注) 2003年、国連「人間の安全保障委員会」最終報告書は、 グローバル化が進んだ今日の世界においては、国家が人々の安全を十分に担保できていないケースがあるとの現実を踏まえ、紛争と開発の両面にかかわる現象に対し、包括的な取り組みを提唱しています。具体的には、個人やコミュニティに焦点をあて、人間一人一人の保護とエンパワーメント(能力強化)の必要性を強調しています。 (外務省ホームページより) |
当日の授業の構成
生徒と教諭・JICA関係の専門家1名に採点用紙とコメント用紙が配られ、各班のプレゼンを採点します。授業後に提出し、次の時間の講評に使われます。
1班から順に発表しましたが、ここでは援助対象のジャンル毎にまとめて簡単にご紹介します。
1 インフラ
(1)飲み水対策
1班
テーマ: | 「ヒ素による水質汚染問題について」 |
実 態: | 多くの井戸からヒ素が検出され、安全な水の供給が国家的課題です。 |
原 因: | ヒマラヤ山脈の堆積物・細菌類・地下水や河川の相互作用といわれています。 |
プラン: | 家庭用雨水タンク(7㎥)を各戸に設置します。(ろ過は廃棄物の処理が難しいこと、国民性などを考慮。) |
課 題: | 節水の必要性を指導します。 |
2班
テーマ: | 「安全な水を届けるために」 |
実 態: | 国土の70%がヒ素に汚染されています。 |
原 因: | よくわからないとします。 |
プラン: | 浄水場を2つ利用します。1つは既存のもの、1つは新設し、ため池式にします。上水道整備の配水管を無償提供、他を有償で協力します。 |
4班
テーマ: | 「ヒ素除去プロジェクト」 |
実 態: | ヒ素中毒患者が多数。 |
原 因: | 自然発生的で、根本的土壌改善は不可能です。 |
プラン: | ヒ素除去装置を各戸の井戸に設置します。これは金属と鉄バクテリアによる装置で、一個130円と低価格であり、生成汚泥による二次汚染も少ないものです。日本人スタッフを5年間派遣し、その間に現地技術者を育成します。 |
(2)飲み水・下水道対策
6班
テーマ: | 「バングラデシュの水対策―飲料水・下水道」 |
実 態: | ハリケーンによる洪水被害、井戸のヒ素汚染、干ばつ被害、感染症蔓延 |
原 因: | トイレの構造不良も飲み水汚染の原因のひとつです。 |
プラン: | ①上水道整備には巨額の費用がかかるので、雨水タンクを設置します。 ②農村部にはエコサントイレの普及を図ります。有機肥料も生成できます。 ③都市部では下水道整備をし、雨水排水能力を高めます。 |
課 題: | 従来の上下水道の料金設定が低過ぎること、住民意識の低さがあり、専門家の派遣や支払い能力などの課題解決が必要です。 |
(3)ごみ対策
3班
テーマ: | 「ゴミ回収システム改善プロジェクト」 |
実 態: | 現在の集積所は小さくて蓋がなく、数も少ないので、不法投棄が広く行なわれ、ハエ・蚊・悪臭発生の原因になっています。収集車の能力・回数も少なく、最終処分場はオープンダンピング式で許容量に限界があり、住民の意識も低いです。 |
プラン: | ①大きなごみステーションの設置。 ②収集車を日本から無償で送り、収集回数も増やします。 ③新たな最終処分場の建設。多くの途上国で採用されている好気性埋め立て構造は簡易でローコスト、メタンガスも発生しません。 ④住民の意識改革のため、役所の職員への講習会を日本が担当します。 |
(4)洪水対策
7班
テーマ: | 「洪水」 |
実 態: | 洪水被害による死者・経済的損失が大きいこと。 |
プラン: | 首都のダッカ市と東部農村1つをモデル地区として、堤防を造ります。形態は無償資金協力で、現地管理者を雇用します。乾期の土壌水分不足や肥沃な土壌不足を補うために、水門の開閉が必要です。 |
(5)農村対策
8班
テーマ: | 「明るい未来のために」 |
実 態: | 人口の41%が低所得で、失業率も高く、繊維産業中心なのに原料を輸入に依存しています。人口の8割が農村部に居住し、インフラ整備が遅れているため、農村の作物が流通しません。 |
プラン: | 畑を作る、多角的農業、技術支援、道路整備などのインフラ整備を行ないます。北西部の支援優先度が高いです。 |
2 教育
5班
テーマ: | 「ストチルを救え」 |
実 態: | 工業化が停滞気味で失業率が40%を超え、ストリートチルドレンが増加しています。首都ダッカでは33万人以上といわれ、低賃金・長時間労働、医療・教育の不足、犯罪の加害者にも被害者にもなるという問題があります。 |
プラン: | 学校兼寮を設立し、教科書・文具の支給、食事と寝場所を提供します。施設職員の雇用も創出します。 |
9班
テーマ: | 「高等教育援助」 |
実 態: | 工業化が遅れており、国家としての力量、即ち国のリーダーの未熟と政治人材も不足しています。 |
原 因: | 教育環境の悪さが挙げられます。教員への待遇も悪いです。 |
プラン: | ①15年間無償の奨学金援助をします。 ②国立大学への工学部有償資金援助と4年間の教員派遣をします。 |
3 医療
10班
テーマ: | 「医療」 |
実 態: | 医療レベルが低く、乳幼児死亡率が高い。医師・看護師の数が少なく、病院設備も不十分で、公的健康保険制度がありません。 |
プラン: | ①最貧地区に医科大学と附属病院を設立します。学生は300人で、男女比を1:1にします。イスラム教なので男女別の診療が必要だからです。 ②奨学金と無償医療を提供します。 ③大学教員・医師は最初は日本から派遣します。 方法は無償資金協力80億円です。 |
課 題: | 中退が多く出ること、入学者不足も懸念されます。対応策は奨学金ですが、貧困問題への支援はまた別枠が必要です。 |
授業後の教諭・専門家のコメント
全ての班の発表が終わるのに授業時間を10分オーバーし、生徒達は急いで次の授業に向かいました。授業後、担当の藤井剛先生と、採点に当られた社団法人青年海外協力会の渡具知愛里先生のお話を伺いました。
藤 井先生: | 「プレゼンテーションとは何かということをもっと伝えておけばよかったと思います。1年生の生物の授業でしているというので、少し甘く見ていました。5分間という持ち時間では、どうしても早口になったり、言い足りなかったりしますが。」 |
渡具知先生: | 「とてもよく調べられ、プレゼンにも慣れて落ち着いているのに驚きました。」 |
藤 井先生: | 「1年生の倫理では、倫理劇をしていますし。」 |
渡具知先生: | 「内容については、既存の援助との重複を示してくれるとよかったですが。」 |
藤 井先生: | 「重複していても効果があるならいいとしていました。」 |
渡具知先生: | 「評価する立場で悩むのは、オリジナリティの問題です。ダッカの既存のごみ対策をチッタゴンで行なうだけのプランはどう評価すればいいか。評価にどこまで含めるかも悩みどころです。自分の知らないことはオリジナルかどうかわからないので、難しいです。」 |
藤 井先生: | 「1位を決めるのは渡具知先生です。いろいろな人の評価があるというふうに提示します。」 |
渡具知先生: | 「分野毎に評価しようかと思います。」 |
法との関連
さらに渡具知先生のお話では、援助が現地の法や環境に触れないか、既存の法の修正や新しい法の整備が必要ではないかなど、JICAとコンサルタント会社などが調査チームを作って調査し、数年かけてプロジェクトを作るそうです。現地政府とトップが交渉して、新しい部局を作るなども必要だそうです。
この後の展開
プレゼン後の1時間は、専門家の講評と当該国の集中講義があります。その後、レポート「ODAの将来」を提出します。各クラス1位のプレゼンター(合計8班)は、3月に学年集会でプレゼンテーションを行なう予定です。
次回は講評・集中講義の時間をお伝えします。
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