千葉県立千葉高等学校 開発教育授業②
2009年11月30日(月)、13:20から「ODAを計画しよう!」の7時限目、専門家によるプレゼンの講評及び当該国の集中講義を見せていただきました。今回はベトナムについてです。
授業
テーマ「ODAを計画しよう!」―7時限目:講評と集中講義―
2年F組 13:20~14:10 39名(男子24名、女子15名)
「ベトナムへの提案」
講評者
社団法人 青年海外協力協会 猪又隆洋先生
平成18年度青年海外協力隊1次隊でベトナムへ2年間派遣。美術教育を担当。
前時に行ったプレゼンの講評
先週プレゼンを見ましたが、どの班も詳しく調べてあり、中には実際にすぐ出来そうな計画もありました。しかし、日本は今ODAに対して厳しい見方がされており、行政刷新会議の事業仕分けにもありますように、優先順位を付けねばなりません。援助の評価は、相手政府・業者・市民など立場によって全く変わります。青年海外協力隊は現地の庶民の目線を重視します。プレゼンも、何も知らない一般市民へのわかりやすさという視点から評価しました。これは私個人の評価であって人によって違うので、正しいわけではありませんから、低くてもがっかりしないで下さい。では1班から講評します。
1班「トイレ設置による支援」
貧困度データがいつのもの、どこについてか不明。「その他のトイレ」とは何かなど、データの使い方が少し雑でした。話すスピードが早過ぎてもったいないです。また資料は必要なことだけ抽出して、効果的に使いましょう。さらに、ベトナム人は結構きれい好きで、トイレが原因で病気になることはそんなにないかもしれません。
2班「発電施設」
既存の施設を変更して使用する点がいいと思います。この提案が、ベトナム人一般にとってどういうメリットがあるのかわかりにくく、地域経済への相乗効果をもっと言うといいでしょう。また、施設整備よりも、ベトナム内での人材育成の方が大事かと思います。
3班「農業支援」
農村部人口は30.7%で、多くが山岳地帯で、少数民族も多くいます。そこでは近代化を望んでいない人々もおり、そのコミュニティの中では貧富の差は大きくないということもあります。「ベトナムの貧困」の定義について再考してみてください。実際に生活に必要なお金は、農村部ではそんなに多くかからないのです。この提案の、地産地消はいい考えです。エコツーリズムなどもいいかもしれません。
4班「医療」
ベトナムでは、未熟児への配慮があまり強くないので、日本より平均寿命が短くなっています。未熟児は障害者になる場合もあり、そうなるとベトナムでは生きるのが難しいというバックグラウンドを考慮すべきです。知人には、「ベトナム人は他者を気遣う心が少なく、先進国頼みな点が気になる。」という人もいて、全て日本が援助するのは行き過ぎでしょう。
5班「教育」
ベトナムのインターネット普及率は高いですが、チャットやゲームなどが主で、情報教育は遅れています。しかし、初・中等教育に情報教育が必要かは疑問です。基本的な教育方法の改善の方が先ではないかと思います。先進国基準で考えてしまっているのが残念な点です。
6班「インフラ」
(猪又先生がアジアハイウェイ1号線から地図で解説。)ハノイにつながる13号線は整備が遅れていますが、山間部なので需要も少なく、経済効果は少なそうです。既存の15号線で充分だと思います。波及効果なども考えましょう。
7班「洪水対策」
ハノイの治水対策でしたが、プレゼンがわかりやすくてよかったです。身近な視線で計画されており、ぜひ実現させてほしいです。
8班「ごみ処理」
アジアの街はたいてい物乞いが多いですが、ベトナムは社会主義国なので少ないようです。3Kと言われますが、ゴミ拾いで生計を立てている人もいるのです。ごみは30%路上放置されますが、私が注意したら、「ごみ拾い屋の仕事がなくなる」と言い返されたこともあります。住民の意識改革や教育の方が大事かもしれません。そうしたら予算を他へ回せます。
9班「メコンデルタ開発」
道造りは大事です。2000年に陸路でカンボジアへ行ったとき、赤土の道で穴だらけで、車で走れませんでした。穴だらけの道路は困ります。道路を整備すれば移動時間が短くてすみ、しかもプランでは高架式なので洪水の被害を受けません。また、ホーチミン市より先は今まで鉄道がなかったですが、いよいよ通ることになったようです。なお、この班はパワポがうまく作動しませんでしたが、そういう時も笑って済ますのではなく、うまくごまかす技術を身に付けてください。
10班「医療」
JICAの紹介になってしまったのが少し残念でした。ドクターヘリは費用対効果で疑問があります。日本では1機に年間2億円の維持費がかかります。ベトナムでは山間部などにヘリポートを造ったり、そこまでの道なども整備する必要があり、もっと大変でしょう。
最後に成績の発表です。1位は7班、2位と3位は同点で3班と9班です。
アジアに行ったことのある人はいますか?(1人だけ台湾へ。)皆さんは国境線はなぜそこに引かれたのか、考えたことはあるでしょうか。中にはかつての植民地宗主国が勝手に引いた直線もありますが、多くは地理的要因からです。山脈・砂漠・河川など。平面的に上から地図を見るだけでは、何かするときに不十分です。また、日本が最新技術で援助すればすぐにできても、その後現地の人だけでできるかも重要です。いろいろな角度から見て、考えるという視点を大切にしてほしいです。
猪又先生のベトナム体験談
私は大学時代にアジアに興味を持ち、陸路でアジア横断旅行をしたりしました。中学校の美術教師になってからも、美術を通して現地の人と関わりたい、知らない世界を肌で感じて視野を広げたいとの思いから、青年海外協力隊に応募しベトナムへ2年間派遣されました。
ベトナムは人口約8,400万人、面積は北海道と本州を合わせたぐらいですから、日本と似たような人口密度でしょうか。私の行ったフーエン市はのんびりした田舎町で、時が緩やかに流れていました。フーエン大学美術科で教えましたが、情操教育強化を要請されました。
そこでは2つの課題がありました。1つは学生が「美術とは上手に絵を書くこと」と考えていたことです。そのため情報(選択肢)が必要だと考え、新しい情報の紹介と、過去の情報の蓄積(先輩学生の作品などが残っていないので、データベースの構築)をしました。2つ目は、ベトナムでは「規則を守る教育」が厳しいことです。例えば、バイクに乗るのにヘルメットが義務化されたら、前日までと打って変わって法律施行の当日から全員が着用するといったことがありました。ところが、約束の時間を守るとか掃除をするなど、規則で決まっていないことはできないのです。他人の立場や気持ちを思いやる公共性を身につけてほしいと思いました。そこで、「想像する教育」が必要と感じ、自分と違う価値観・美意識を知ることで選択肢を増やし、自分で考えて創造していくようにしました。「想像から創造へ」です。それはもしかしたら「反社会主義的」な考え方なのかなと思いもしました。
ベトナム生活を振り返って
大学で教える以外に、ボランティアとして町の人々(中学生~大人)に日本語を教えました。田舎なので、正しい日本語を教えるというより、日本人の価値観・文化を少しでも意識してもらえるようにと思っていました。ベトナムの識字率は約95%ですが、残りの5%は実数で400万人になります。水上生活者など貧困層に文字の読み書きができない子が多いのです。この人達を忘れないようにしたいと思います。
葛藤もあります。彼らにとって必要なのは情報だと思っていましたが、自分の持ち込む情報が、かえって街のスピードのバランスを壊していないかと心配でした。自分のしたことは正しかったのか。彼らにとっての本当の豊かさ・幸せは何か、ということを考えていました。
そこに暮らす人の数だけ、世界はあります。自分と違う価値観を理解したいし、違うから面白いと思います。皆さんも、心をニュートラルにしてたくさんのことを感じてほしいです。日本にいても、異文化を味わうことはできます。相手の視点に立つこと、他者を認め尊重しようという気持ちを大切にすれば、いつかは理解し合えます。身近なところから一歩を踏み出す勇気を持つのが、国際協力への第一歩です。
取材を終えて
前時のバングラデシュについての生徒達のプランからは、ヒ素対策でも異なった見方からプランが3通り出てくるといったように、一つの事象をいろいろな見地から見ることが実感できました。ベトナムについての専門家のお話からは、社会主義国であるためか人々のものの考え方が日本人の感覚と違うこと、モラルや教育の違いなどを考えないと、援助が実を結ばないことを考えさせられました。そして両国の専門家とも、現地の人を育てることの重要性を説いておられましたように、相手国の生活する人々の身になって考えることから、大切なことが見えてくることがわかりました。
静岡大学附属島田中学校の開発教育ワークショップでは、問題発見をし、解決のために考えを出し合い、利害を調整してまとめるという開発教育を、「身近な街」を想定して行ないました。今回は高校段階なので、相手を他国に想定してODAを考える本格的なものでした。
どちらも、その土地の生活者の視点に立って問題を考える点は共通です。
「相手の立場に立って考える」という言葉は、当法教育レポートの中で繰り返し使われてきました。千葉弁護士会の「模擬調停」から、品川区の「市民科」教育、埼玉県蓮沼小学校の「特別活動における法教育」、そして静岡大附属島田中学校の「市民的資質を育てる授業」まで、多面的に物事を見、相手の立場に立って考えることから諸問題の解決法を考える、ということが共通する点でした。これはまさに法的な考え方であることを繰り返しておきたいと思います。
猪又先生の締めくくりの言葉、「日本にいても異文化は味わえる。」ということは示唆に富む言葉です。子ども達は小学生のときからいろいろな考え方の違いにぶつかって悩みますが、先生の言葉のように、他者を認め尊重しようとする気持ちを持ち、相手の視点に立つことが重要でしょう。
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