千葉県弁護士会 春休みジュニアロースクール①

 2010年3月20日(土)10:00~16:00、千葉市文化センターにおいて千葉県弁護士会の春休みジュニアロースクールが開催されました。23人の中学生が保護者の方々の見守る中、模擬裁判員裁判の裁判員を体験しました。まず午前の部をお伝えします。

当日の流れ

1 裁判の説明 10:00~10:15
2 中学生同士がグループ内で挨拶
3 模擬裁判(弁護士が演じる)、検察官請求証人尋問まで 10:20~10:50
4 いったん休廷、裁判員は補充質問を考える
5 再開、質問と弁護人請求証人尋問まで 11:08~11:35
6 いったん休廷、補充質問を考える
7 再開、証人へ質問 11:49~12:10
8 昼休み
9 再開、被告人質問 13:10~13:25
10 いったん休廷、補充質問を考える
11 再開、質問と論告・弁論まで  13:40~14:05
12 評議 
13 判決言渡し 15:25~15:45

〈事件は老いた夫が認知症の妻を殺害した容疑〉

司会 弁護士・鈴木大祐先生
 事件のシナリオは提示されておらず、起訴状と証拠資料のみが配られています。司会者が、まず認知症の説明をします。「正常であった脳の働きが、生後のいろいろな条件により恒常的に低下してしまうことで、コミュニケーションが取れない・幻覚・徘徊・暴力などいろいろな症状が出る病気です。介護が大変ということです。」と説明されました。

〈裁判の原則2つ〉

 今日の模擬裁判は裁判員裁判をモデルにしており、中学生は裁判員役をするにあたって司会者より説明があります。特に大事な裁判の原則は「疑わしきは被告人の利益に」です。「有罪と言うためには、検察官が証拠によって証明しなければならないが、疑いが残る場合は犯人ではないと判断しなければならない。」ということです。
 ではどの程度証明されればいいかというと、「合理的な疑いをさしはさむ余地がない」程だそうです。「合理的な疑い」とは、「一般的な社会常識からみて犯人と考えられる、または考えられない」ということで、司会者は「灰色はどんなに濃い灰色でも、黒でなければ有罪といえない。」と話をされていました。この無罪推定の原則と、「合理的な疑いをさしはさむ余地がないほど証明されているか考えること」は裁判官にとっても同じであり、真剣に参加してくださいと激励されます。

〈中学生はグループ毎に裁判員役〉

 中学生23人は4~5人ずつ5つのグループに分けられていて、それぞれ弁護士が裁判官役として1名ずつ加わり、裁判体1~5と名前が付けられています。グループ毎に挨拶・自己紹介が行なわれました。

〈模擬裁判開始―被告人は罪を否認〉

 起訴状朗読によって初めてどんな事件かわかります。被告人は被害者の夫(81歳)です。(配布の起訴状より適宜引用させていただきます。)

被告人は、かねてより認知症であった内海トヨ(当時77歳)の介護を行ってきたものであるが、同女の介護に疲れたことと、同女が死亡すれば保険金が入手できることから同女を殺害しようと企て、平成21年7月21日午後4時48分ころ、千葉市若花区犬口町1丁目6番地所在の「犬口公園」と市道を結ぶ石段の最上段付近において、殺意をもって、同女の背中を強く突いて同女を押して同所から5メートル下の石段踊り場に転落させ、よって、同日午後5時5分ころ、同所において同女を頭蓋底骨折、脳挫傷により死亡させて殺害したものである。
罪名及び罰条
 殺人   刑法第199条

 

 検察官が、「争点は被告人が殺意を持って妻を石段から突き落としたのか、被害者が誤って落ちたのかということです。」と説明しました。殺意があったと主張する理由は「被告人は介護に疲れていたこと」、「被害者に生命保険がかけられ、受取人は被告人だったこと」です。検察側証人は目撃者の徳吉さんです。
 弁護人は、「被害者は5年ほど前から認知症の症状があり、寝たきりにならないよう散歩させるのを被告人は日課にしていました。散歩中、妻がのどが渇いたと言うので、いつも用意しているジュースを飲ませようとしましたが、それは嫌だと言われ、カッとなって叱りました。すると妻は怯えたように後ずさりして、石段の上から後ろ向きに落ちてしまいました。被告人は妻の背中を押しておらず、無罪です。」と主張しました。
 証拠品は3点示されました。甲第1号証と赤インクで判を押してある書類は「写真撮影報告書」。犬口公園の写真8枚と見取り図4枚です。甲第2号証は生命保険に関する証拠書類の内容についての「合意書面」。甲第3号証は被告人が持っていたジュースの缶です。

〈検察側証人への補充質問〉

 検察側証人尋問が終わると休廷し、いよいよ子ども達が自分なりの質問を考える時間です。証人の徳吉さんは眼鏡をかけた男性で、買い物帰りに石段の下を通りかかり事件を目撃したということでした。5つの裁判体が、それぞれ弁護士の先生に促されてグループ内で意見を出し合いました。アドバイスは、次のようにされていました。
・「眼鏡をかけている証人なのによく見えるのかな?」という子どもの声には、「どういう質問をすればいいか考えましょう。距離は何メートルかわかりますか?」みんな、見取り図を広げます。
・「もともとの知り合いでない人の証言は信用できるけれど、知り合いだったらどうですか?信用できるかな?」
・証人は本当に被告人の手が妻の背中を押すのを見ることができたのかについて、「本当にその位置から見えましたか?」というように、子どもの質問を整えてくれます。

裁判体1
 突き落としたときの被告人の表情は?→証人:「見ていないのでわかりません。」
 目撃したときの距離は?→証人:「10メートルぐらいだと思います。」
 被告人の左手は何か持っていましたか?→証人:「何も持っていないと思いますが、自分は石段の下左寄りにいたので、左はよく見えませんでした。」
 視力はどのぐらいですか?→「計っていませんが、老眼なので遠くはよく見えます。」

裁判体2 
 被害者は本当に徳吉さんを見ていましたか?→証人:「はい。」
 突き落とす前の二人のやり取りを聞きましたか?→証人:「いいえ。」

裁判体3
 背中のどのあたりを押しましたか?→証人:「中心部あたりだと思います。」

裁判体4
 徳吉さんと被告人との仲は?→証人:「ゲートボール仲間です。トヨさんが元気な頃は家に行ったとき一緒に話したこともあります。」
 落とす前、被告人は徳吉さんに気づいていましたか?→証人:「目が合っていないからわかりません。」
 階段の幅があまりないのに見えたのですか?→証人:「はい。」

裁判体5
 被告人と親しいですか?→証人:「はい。トヨさんが病気になってからはあまり付き合いがなくなりましたが。」
 被告人の性格は?→証人:「優しい人です。介護を一所懸命していました。」
 被告人とトヨさんの関係はどうでしたか?→証人:「わかりません。」
 トヨさんはどういうふうに落ちましたか?→証人:「前転するように転げ落ちました。」

〈弁護人請求証人への補充質問〉

 弁護人請求証人山本さんへの補充質問も、休廷中に子ども達が考えました。山本さんは17歳の男性で、目撃前にビールと煙草を買い、公園のベンチで友人にメールをしながらビールを飲んでいたときに事件を目撃したという証言でした。

裁判体5
 救急車が来たことは知っていましたか?→証人:「いいえ。」
 徳吉さんがいたかどうか覚えていますか?→証人:「覚えていません。」
 落ちるときおばあさんはどっちを向いていましたか?→証人:「階段の方です。」
 被告人はどちらの手を出していましたか?→証人:「両手だったようです。」
 被告人は何か持っていましたか?→証人:「わかりません。」
 二人の言い争いに気づいたきっかけは何ですか?→証人:「声が大きかったので。」
あなたの位置からおばあさんが後ずさりするのが見えましたか?→証人:「記憶では、ありません。」
おばあさんは急に落ちたのですか?→証人:「そうです。」
被告人が手を伸ばしたのが見えたのですか?→証人:「斜めの位置にいたので見えました。」

裁判体4
 加害者が手を伸ばしたのはいつですか?→証人:「おばあさんが足を滑らせた瞬間です。」
加害者が両手を伸ばしていたと言いましたが押したのですか?→証人:「そうは見えませんでした。」
関わりたくなかったから帰ってしまったのですか?→証人:「はい。」
なぜ2週間経ってから名乗り出たのですか?→証人:「えらいことになったと思って。」

裁判体3
目撃したときの二人の距離は?→証人:「近かった。おじいさんはおばあさんの真後ろにいました。」
ビールを持っていて、未成年なのに飲酒していたことを咎められるかもしれないにもかかわらず、なぜ証人になったのですか?→証人:「おじいさんが大変なことになったし、弁護士さんからお金も出るように言われたから。」

裁判体2
 写真に自分と二人の位置を書き込んでください。視力はいくつですか?→証人:「去年0.7でした。」

裁判体1
 他に人はいましたか?→証人:「覚えていません。気づかなかった。」

 午後の被告人への質問からは、千葉県弁護士会春休みジュニアロースクール②でお伝えします。

ページトップへ