「裁判員の女神」-法教育素材の紹介シリーズ1

 法教育レポートでは、法教育を実際におこなう現場の先生方のお役に立つような情報をお届けすることを旨としています。テレビドラマや漫画や小説、ゲームにも裁判官や弁護士が登場する作品が多いこの頃です。
 今回は週間漫画サンデーに連載中の『裁判員の女神』からその一部をご紹介します。

 マンサンコミックス『裁判員の女神 第1巻~第4巻』
    画:かわすみひろし 作:毛利甚八   (実業之日本社)

構成

物語は26歳の裁判官勇樹美知子が東京から海辺の地方都市へ転勤してきたところから始まります。2009年5月21日の裁判員制度スタートに合わせ、主な裁判官や裁判所職員、裁判員に選ばれた人々などの紹介を織り交ぜながら、裁判員裁判の事例を描いていきます。その間に挿入されている「知ってビックリ!?裁判員制度」という小さなコラムが問答形式で、ここだけ読んでもすぐに役に立ちそうな情報がわかりやすく取り上げられています。

裁判員制度のコラム

 第1巻には10個のコラムがついています。「そもそも『裁判員制度』って何?」ということから始まって、裁判員制度ができた理由、裁判員になる確率、裁判員選定の流れなどが解説されています。
 「裁判員に選ばれない人」という欄には、国会議員や法学部の教授と准教授などが挙げられていて、「裁判員が平等に気楽に議論できるようにとの配慮だろう」という解説もあり、なるほどと思わせられます。裁判員制度の広報用パンフレットとは一味違って、面白く勉強できるのではないでしょうか。

憲法教育についての場面

 第3巻の冒頭は、美知子裁判官が地元の小学校へ法教育の出前授業をしに来たという設定になっています。漫画にも「法教育」という言葉が説明なしに使われているのは、少し「法教育」が認知されてきたということでしょうか。
 美知子裁判官は体育館で児童に向かい、法律を「多くの人達が納得するルール」と表現し、「ルールを守るための力を社会(国家)に預けた」と説明しています。付き添いの裁判所の事務官が、内心「いきなり社会契約説の話からですか…」とあっけにとられているのが笑えるところでしょう。日本国憲法の「3つの大きな約束」も言葉で説明するだけで、児童はぽか~んとしたままになっています。「お姉ちゃんの話、難しかったかな?」と問う美知子裁判官の後ろで、事務官のお姉さんも絶句しています。小学生にこういう授業をしてはいけませんという見本を描いてくれているようです。
 ただ、この場面でさすがなのは、憲法を守らなければならないのは「あなた達」ではなく、「国会議員や官僚や裁判官のような偉い人達」とはっきり説明していることです。「国の力を使う場所で働いている人達が、3つの約束を破って国民をひどい目に合わせたりしないように見張る」のが憲法の一番大切な役割であることを、法教育でどれだけ説明しているでしょうか。筆者は自分が小学生のとき授業をちゃんと聴いていなかったのでしょうが、この点の印象が残っていません。この部分の教え方を工夫しなければならないという教訓を得ることができます。

裁判官について

 「知ってびっくり!?裁判員制度」のコラムでは、物語が進むにつれ裁判員制度以外の関連事項もいろいろ取り上げられています。裁判官には現場から離れたエリートコースとたたき上げのコースがあることをご存知でしょうか。「エリートコースは最高裁事務総局で働くことで、現場で裁判をする機会が少ないのが特徴」だそうです。3人の裁判官で話し合う合議事件で、真ん中の席に座るのが裁判長、裁判長の右手側に座るのが中堅の右陪席、左手側が左陪席といって一番若手ということもわかります。

原作者の他の作品

 毛利甚八氏の代表作は、家裁判事を主人公とした『家栽の人』(小学館刊)です。日本弁護士連合会の裁判員漫画『裁判員になりました』も手掛けています。

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