憲法週間広報行事「来て、見て、話そう千葉家裁」

 2010年5月12日(水)13:30から、千葉家庭裁判所・千葉家事調停協会共催の憲法週間広報行事「来て、見て、話そう千葉家裁 ~家事調停制度を知っていただくために~」が千葉家庭裁判所で開かれました。千葉県内の民生委員、児童委員、DV相談員、学生や一般の方など60人ほどが参加しました。

家事調停とは

 家事審判法その他で定める家庭に関する事件を家事事件といい、家事審判事件と家事調停事件の2種類があります。家事調停事件の代表的な例は、婚姻中の夫婦間の事件で、他には子の監護に関する処分、遺産分割、親権者指定・変更その他などがあります。特に、離婚など人事訴訟の対象となるものは、原則として訴訟を提起する前に家事調停を経ることになっています(調停前置主義)。
 家事審判官または家事調停官(弁護士で5年以上その職にあり、最高裁判所から任命された人をいいます。)と国民の中から選ばれた家事調停委員2人以上によって構成される調停委員会が、当事者や関係人から、それぞれの言い分を十分に聴きながら、話し合いを行います。その上で、中立の立場から、双方の利益を公平に考慮し、適切で妥当な解決が得られるようにあっせんをします。
 親権や子の監護権をめぐる紛争のある事件などにおいては、家庭裁判所調査官に子の監護状況等について事実の調査が命じられることがあります。

 家庭内の紛争を通常の訴訟の手続きにより審理すると、公開の法廷で夫婦、親子などの親族が争うことになりますし、法律的判断が中心になり、相互の感情的な対立が十分に解決されないままで終わるおそれがあります。したがって、家庭内の紛争については、まず最初に、訴訟の手続きではなく、それにふさわしい調停や審判といった非公開の手続きで、情理を踏まえた解決を図る必要があります。

 「家庭裁判所のあらまし」(2009年最高裁判所作成)より

 

当日のプログラム

13:30 挨拶
13:40 模擬調停
14:10 家事調停について
14:30 休憩
14:40 意見交換会(3グループに分かれて)
15:45 庁舎見学

挨拶

西島幸夫 千葉家庭裁判所長
 今日は、ぜひ家事調停の実際について知っていただきたく、家事調停協会との共催で行うことになりました。家事調停は家庭裁判所発足と共に60年に及ぶ歴史を持っています。県内では昨年1年間に約6640件の申し立てがありました。この10年で3割以上増えています。全国では昨年は約13万8,000件、そのうち離婚・夫婦関係の調整が半数を占め、子どものことなどを加えると全体の3/4になります。それでも、年間25万組の離婚のうち、調停手続きを経たものは3万件程度です。いざというときは適切な紛争解決のお手伝いをしたいと思っています。

飯野光明 千葉家事調停協会会長
 千葉家事調停協会とは最高裁判所から任命された家事調停委員100名からなる団体です。家事調停のPR活動、会員の研修会などもしています。苦しく悲しい出来事で悩まれている人の相談を受けている立場の人は、「家庭裁判所に相談してみては?」と声を掛けてあげていただきたいと思います。調停は世界的にもユニークな、注目されている制度であり、ぜひ制度を理解していただきたいと思います。

模擬調停

パート1 調停の申し立て
 申立人(花子さん)・受付係員の役と解説を裁判所の職員が行ないました。設定は夫・千葉一郎さん37歳、妻・花子さん35歳、小学校1年生の長女、保育園に通う長男の4人家族のことです。8年前に結婚した夫婦は、夫が3年前に妻に断りなく会社を辞めてから夫婦仲が悪くなりました。夫は職探しをした後、再就職しましたが、口論が絶えなくなり別居。花子さんの方から離婚を口にし、今は長女の小学校の校区内にアパートを借りて住んでいますが、生活費を貰っていないので生活が大変です。

花子:調停の申し立てをしたいのですが、相手が調停に来ない場合はどうなりますか?
→回答:ずっと来ないと不成立になる場合もありますが、裁判所の方で出頭を促すこともあります。

花子:喧嘩をして家を出てきているような状態なので、相手と連絡を取りにくいのですが。
→回答:申立書には予想される相手の対応や暴力の危険性を書く欄もありますので、事情を書いてください。

花子:相手が出てきたら、調停にはどのくらい期間がかかりますか?
→回答:調停は合意を作り上げる場なので、内容により期間は変わります。合意の見通しがないのに話し合いを繰り返すことは適当でないので、進行の仕方を相談することになります。

花子:養育費の請求は、具体的な金額を考えていないのですが、どう書けばいいですか?
→回答:「相当額」で結構です。では申立書記載コーナーで用紙に記入してください。

事務受付担当書記官より解説
 夫婦関係調整の申し立てに必要なのは、申立書、手数料1200円、期日連絡用の切手800円分(余ればお返しします)、戸籍謄本だけです。
 申立書には、申立ての理由とどのようなことを話し合いたいかを書きます。調停をする曜日の希望、気をつけてもらいたいこと(顔を合わせたくない、住所を知られたくない等)を書く欄も、千葉家庭裁判所の用紙にはあります。

パート2 調停の様子
 申立人(花子さん)、相手方(一郎さん)、調停委員(男女一人ずつ)が、パート1の続きという形で演じました。調停委員役は実際の調停委員が行いました。審判官はいつも立ち会うわけではなく、必要に応じて出席します。

調停委員:最初に調停の説明をします。まず申立人から30分程度話を聞き、その間一郎さんは待合室で待っていただきます。次に相手方の話を30分聞く間、花子さんに待っていただく、というように交互に話を聞きます。話の内容が外部に知られることはないので、何でも話してください。話し合いの結果、合意ができて調停調書が作成されると、確定判決と同じ法的効力を持ちます。調停は裁判ではないので、調停委員会が一方的に結論を出すことはありません。二人の話し合いの共同作業に協力するだけです。

 調停委員は紛争の経過を尋ね、円満解決の可能性を探りますが、当面の問題(例えば生活費のことは婚姻費用分担の問題です。)の解決も図ります。婚姻費用分担の額は、算定表を使って、夫婦双方の年間所得等からすぐに費用が出せることを説明します。夫と妻、どちらが未成年の子どもを育てるかは、子どもの福祉の立場から子どもにとって一番良いと思われる方法を考えます。

家事調停について

家事審判官から解説
 調停は必ず離婚の方向で進むとは限りません。一方がやり直したいと思っている場合や、途中で申立人の気持ちが変わることもあります。通常は3つの方向があります。離婚、円満修復、別居しその間の婚姻費用分担金を支払うという方向です。
 婚姻費用分担とは、夫婦は別居中もそれぞれの収入・事情に応じて生活費を分担する義務があるというもので、離婚調停の他、婚姻費用分担調停で話し合うことができます。婚姻費用分担調停で話し合いがつかないときは、家庭裁判所が審判で分担額を決定します。
 離婚について合意したら、未成年の子がいる場合、親権者、養育費、面会交流について話し合います。養育費については、成年に達していても経済力のない大学生の子も含むこともあります。面会交流とは、子どもが離れて暮らしている親と会うことであり、子どもの意向を尊重し、子どものために行うことが望ましく、一切の事情を考慮して具体的に定めます。
 離婚時には、財産分与、離婚時の年金分割、慰謝料について話し合うこともあります。結婚後に二人で築いた財産は夫婦共有財産で、離婚の際に分けます。不動産の財産分与については、住宅ローンとの関係で問題になることが多いです。年金分割は平成19年4月1日以降に離婚した夫婦に適用されます。
 当事者間に合意ができると、家事審判官が調停条項を読み上げ、夫と妻が間違いないことを確認すると、調停が成立します。当事者間に合意ができないときは、調停は不成立として終了します。親権者の指定・変更、遺産分割、養育費の請求等の子の監護に関する処分、婚姻費用の分担などの乙類事件と呼ばれる調停であれば、調停が不成立になると自動的に審判手続きに移ります。

意見交換会

 受付のときに渡された資料ファイルに、A、B、Cどれかのシールが貼ってあり、参加者が3つのグループに分かれて書記官、調査官、調停委員の方々と意見交換をしました。20数名のあるグループでは以下のように活発に質問が出ました。

質問:申立てから決定まで、平均どのくらいかかりますか?
→回答:平均審理期間は約4ヶ月です。1回目は申し立てから1ヶ月~1ヵ月半で、4~5回で何らかの結論を出すことが多いです。

質問:調停の段階で弁護士を入れている人もいるそうですが、相手に付いていたらこちらも付けるべきですか?
→回答:付いていなくても公平に進めます。付いていない方の後見的役割をすることもあります。慰謝料相当額などは事前に法律相談で把握しておくといいでしょう。親権問題になるときは、調査官が調査をすることがあります。

質問:調停中の生活費が大変なときは?
→回答:婚姻費用分担調停といって、別居中の生活費について話し合うこともあります。

質問:夫婦間暴力(DV)の場合、代理人による申立てはありますか?
→回答:あります。

質問:親権者は具体的にどう選びますか?
→回答:難しいです。経済的なことや、祖父母等の有無、環境などいろいろな面から考え、観察、調査もします。

質問:調停を行う裁判所は相手方の住所地の裁判所ですか?
→回答:基本的にはそうですが、小さい子がいたりすると裁判所が考慮することもあります。

質問:調停委員は男女ペアですか?
→回答:夫婦間のことはそうです。遺産などの場合は、不動産の専門家が入ることがあるので、男性2人となることもあります。

見学会

 グループがさらに2つに分かれ、庁舎内の家族調査室と調停室を案内してもらいました。家族調査室は子どもが遊べるようにしてある小部屋で、遊ぶ子どもと保護者の様子を観察できるようになっていました。

取材を終えて

 離婚調停は法教育とは関係ない、と思われるでしょうか?確かに小中学校の授業で取り上げるには不向きかもしれません。けれども、子どもの行動が学校で問題になっているような場合、その背景に家庭内の問題があることもままあります。学級活動でクラスの問題を考えることは、法教育の授業にもなるテーマで、同級生の問題行動が取り上げられる例もありました。病気の例にたとえるのであれば、学校で問題として取り上げられるのは、いわば症状の部分であり、それにどう対応するかが話し合われるでしょう。しかしそれだけでは病気の原因部分への対応にはならないかもしれません。学校の先生方が、異口同音に「家庭の問題にどこまで学校が踏み込んでいいのか。」と悩む場面を垣間見ることもあります。
 そのようなとき、学校の先生に家事調停の制度を思い出していただければ、また違った対応が考えられる可能性はあるでしょう。家事調停は手数料がほんのわずかですむ、話し合いのための仕組みです。学校だけで問題を抱え込まないで、いろいろな方法があることを知っていただけたらと思います。
 調停委員の方にお話を伺ったところ、元は学校の先生で「ぜひこの仕事がしたいと志願しました」という方がおられました。学校と家庭をつないでいる子ども達。その子ども達のためを思う教員経験者ならではの思いがおありなのではないかとうかがわれました。

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