千葉県弁護士会夏休みジュニアロースクール(その1)

千葉県弁護士会夏休みジュニアロースクール
  ―民事模擬裁判「ウソつきはどっちだ?」―

 2010年8月1日(日)10:00~16:00、千葉県弁護士会の夏休みジュニアロースクールが千葉市のキボールで開催されました。今回は民事事件の模擬裁判という初の試みです。24名の中学生が参加し、保護者の見守る中で、「どっちがウソつきか?」一生懸命考えました。

〈グループ分け〉

 模擬裁判開始前、会場内には証言台と原告・被告・その代理人の席が用意され、裁判官役として中学生が5グループ(裁判体)に分かれて着席しました。グループは前もって決められており、各グループに裁判長役の弁護士が1名ずつアドバイスのため配置されています。

〈進行〉

10:00 挨拶
民事裁判の説明
10:20 第1回口頭弁論期日 開廷
原告代理人訴状陳述・説明
被告代理人答弁書陳述・説明
原告代理人第一準備書面陳述・説明
10:40 閉廷、第1回話し合い(適宜、休憩)
11:05 第2回口頭弁論期日 開廷
原告代理人による甲第1、2号証、調査嘱託に対する回答書説明
被告代理人による乙第1~5号証説明
11:25 閉廷、第2回話し合い
11:55 昼休み
12:55 第3回口頭弁論期日 開廷
原告が証言(原告代理人主尋問、被告代理人反対尋問)
補充尋問を5分ほど検討後、各裁判体から質問
13:40 被告が証言(被告代理人主尋問、原告代理人反対尋問)
補充尋問を5分ほど検討後、各裁判体から質問
14:40 閉廷、判決にむけ最終の話し合い
15:30 第4回口頭弁論期日 開廷
判決(各裁判体が主文と理由を朗読)
15:35 閉廷 講評
15:55 終了挨拶

 

〈挨拶〉

市川清文 千葉県弁護士会会長
 今日は法律が私達の身近にあることを考えていただきたいと思います。例えばこの会場は、持ち主の千葉市から今日のために賃貸借契約を結んでお借りしたものです。ここの電気も、所有者が電力会社と契約しているものをお借りしています。このような契約を支えているのが法律です。法律によって、私達が安全に安心して生活できるよう仕組みが作られています。
 もう一つ、私達が持っている基本的人権は憲法により定められています。憲法がこのような集会の自由を保障しています。坂本竜馬の時代はそうではありませんでしたね。
 今日一日、法律に親しんでしっかりと楽しく過ごしてください。

〈民事裁判の説明〉

司会:「皆さん、民事裁判てわかりますか?世の中で行なわれている裁判は、民事裁判が中心です。今日の「貸したお金を返して」とか、交通事故の補償や隣家の敷地の境界はどこかなど、人と人、会社のこともありますが、その争いを解決するのが民事裁判です。刑事裁判と違い、被告は悪いことをしたと疑われているわけではありません。呼び方も被告人ではなく、被告と言います。訴える側は検察官ではなく、原告で、「私のこういうことを認めてください。」という主張を訴状として出します。被告はそれに対する答弁書を出し、お互い証拠を出し合います。準備書面という、証拠を補うものも出していき、尋問がされます。証人が出ることもあります。
 午前中は原告・被告の主張です。よく考えて、午後は尋問と足りない質問を考え、話し合いをして判決を出します。」

〈事件のあらまし〉

 司法研修所編の民事事実認定教材の「貸し金請求事件」(平成15年)をもとに、中学生向けにしてあります。原告と被告は中学校の同級生ですが、顔見知り程度で卒業後約15年の間に付き合いはありませんでした。原告は郵便配達の仕事をしています。被告は化粧品の販売代理店を営み、平成15年5月30日、原告に化粧品を販売しました。

―原告の主張― レジュメはこちら
 5月30日に化粧品4点を購入し、代金20,500円のうち17,500円を支払いました。翌31日に残代金3,000円を支払いました。6月2日に被告が勤務中の原告を訪ねてきて、「アンケートをとりたい」というので回答した後、「150万円貸して。1週間後に返す。」と言われました。原告は預金を引き出して貸し、借用書を書いてもらいましたが、返済期日の6月10日、「お金がないから明日返す。これはもういらないから。」といって借用書を破り捨てられてしまいました。代わりに「借金の返済を約束するメモ」を書いてもらいましたが、11日には体調が悪いからといって会ってもらえず、お金も返してもらえないまま、その後連絡も取ってくれなくなりました。150万円、利息をつけて返してほしい。

―被告の主張― レジュメはこちら
 5月30日に被告は原告へ粗品を提供する提案をし、「ポーチがほしい」と言われました。そのとき持っていなかったので6月2日に渡すことにし、当日持っていくと、「化粧品を返品したい。」と言われました。一部使用済みだったので断りましたが、結局承諾して6月10日に代金200,500円を返金することにしました。しかしお金を用意できなかったので、原告から言われるままに6月11日に返すという約束のメモを書いて渡しました。11日、原告から150万円返すように言われ驚きました。借りていないお金を返す必要はないのに、その後もしつこく手紙をポストに入れられたりして怖いので、警察を通して連絡してもらうことにしました。
 

〈第1回口頭弁論期日では事件の大まかな内容説明〉

 本当の裁判では書面が提出されているだけですが、中学生にわかりやすいよう原告・被告の代理人の弁護士が、それぞれの主張をパワーポイントを使って説明してくれました。原告代理人の主張は、「ウソつきはどっちだ?」と一言で目を引くように示され、裁判官はこれを見破ってほしいとするものでした。被告代理人の主張はほぼ上記「あらまし」のとおりです。原告の「第1準備書面」の説明では、さらに4つ争点が提示されました。①ポーチをもらう話はないし、もらっていません。②5月30日に粗品のバッグをもらっていました。③アンケートは突然で、会う予定はなかったし、返品もしていません。④6月2日は、「30日にあなたのメイクに時間がかかって、他のお客さんの集金に廻れなかったから、本社に納めるお金を貸してほしい。」と言われました。

〈第1回話し合い〉

第1裁判体
弁護士:「どんなメモが出てくるかは、この後のお楽しみ。お互いの言い分はわかりましたか?」→みんな、うなずく。
どんな証拠があればいいと思うか、ききたいこと、変だと思うことを話し合いました。

第2裁判体
弁護士:「思いついたことを質問できるから、考えてください。どっちの言っていることが本当かな?」→みんな、沈黙。

第3裁判体
弁護士:「原告・被告代理人の作ってくれた主張メモを見比べて、争いのないことに○、争いのあることに×をつけ、争点を確認しましょう。それを頭に入れて、次に出てくる証拠をよく見ましょう。」

第4裁判体
弁護士:「破り捨てられた借用書はどうなったか、バッグは本当にあるかなど、いろいろ足りない証拠を指摘できましたね。」

第5裁判体
「メモに150万円と書いてあるのか?」と、疑問点が出されていました。

〈第2回口頭弁論期日で出された証拠は?〉

原告側
【甲第1号証】
6月10日に被告が原告に渡したメモ(注:すべて手書きである)
「私,○○は,△△に,平成15年6月2日にお借りしました。ご返済平成15,6月11日にお返しします。年月日、氏名、捺印」

【甲第2号証】
原告の銀行口座通帳
平成15年6月2日に普通預金から10万円、定期預金140万円を据え置き期間前に解約して引き出しています。

【調査嘱託に対する回答書】
第1 被告の銀行口座の取引明細(照会期間平成15年5月~6月)
第2 平成15年6月2日の取引
  1 ①カードで振込み80,000円 受取人 まるなかやすゆき
    ②カードで振込み55,000円 受取人 あさひしんぱん・か
  2 現金振込み 15,580円 受取人 か・ふじよしふくしまてん
  3 窓口振込み 210,000円 受取人 山本弘之

被告側
【乙第1~4号証】
お買い上げ書面(原告他3名分5月23日~31日)
販売代理店の書式のものに、氏名や数字は手書きで記入されています。
4名分で合計約13万円の現金売り上げがあったことになります。

【乙第5号証の1】
領収証控え(平成14年12月26日)
山本富美子から30万円受け取っています。氏名、数字は手書き。

【乙第5号証の2】
領収証控え(平成15年5月26日)
山本富美子から20万円受け取っています。氏名、数字は手書き。
被告代理人は、乙第1~4号証により、5月下旬にこれだけの収入があったのだから、6月2日に借金をする必要はないと主張しました。   

〈証拠を見た後、質問〉

女子:「原告がもらったというバッグはありますか?」
原告代理人:「家にあるそうです。」
女子:「借用書を破り捨てたという証拠はありますか?」
原告代理人:「書面による証拠はありません。次回の尋問をよく聞いてください。」

〈第2回話し合い〉

 弁護士からは、証拠の信用度についてアドバイスがありました。銀行の通帳に記載されていることは信用できること、一方、手書きのものは信用度が低いことです。化粧品の返品はどうなったのか示唆されたグループもありました。
 中学生からは、原告側証拠の6月2日の取引に「山本弘之」という人がおり、乙第5号証の「山本富美子」と名字が同じなので、山本さんと被告の関係に疑問が出されました。また、被告に収入があったというなら、20,500円の持ち合わせがないというのはおかしいという指摘もありました。

〈昼休憩〉

 この後は昼休憩を挟んで、いよいよ原告・被告が登場し、証言します。どちらが嘘をついているか、見極めることはできるでしょうか?

千葉県弁護士会夏休みジュニアロースクール(その2)へ続きます。

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