法の日フェスタ~法を身近に感じてみよう~in赤れんが

 2010年10月2日(土)、第51回「法の日」週間記念行事として最高裁判所、法務省、最高検察庁、日本弁護士連合会の共催によるイベントが3ヵ所で開催されました。それらのうち、13:30~15:30、法務省赤れんが棟で行なわれた法務省・最高検察庁のイベント「法の日フェスタ in 赤れんが」の模様をお伝えします。

法教育授業(中学生対象)

13:30~14:30

参加者:中学生男女約30名、教員
講師:法務省民事局 上村 進 補佐官
テーマ:「約束」ってなんだろう?

 当日配布された“「約束」ってなんだろう???”(法務省法教育プロジェクトチーム作成)というプリントから適宜引用させていただきます。

〈挨拶〉

先生:「今日は法を身近に感じてみようというイベントの一環で、ご参加頂きありがとうございます。これから1時間、「約束」って何だろうというテーマで皆さんと一緒にいろいろ考えてみたいと思います。これから大人になる上で大事になっていくことです。「はじめてのおつかい」というテレビ番組を見たことはありますか?」

ほぼ全員:挙手

先生:「初めて子どもがお使いに行く番組ですね。小さな子がお店の人と売り買いしますが、これも「約束」ということになります。小さな頃から「約束」が身近にあるということです。」

〈「約束」するということ〉

先生:「みなさん、最近どういう約束をしましたか?」

女子1:「勉強をちゃんとする。」

先生:「勉強をしたらどこかへ連れて行ってくれるとかでしょうか。小さいときは家族の人と、中学生になるとお友達との約束がだんだん増えるかもしれません。大人になると職場の人や、会社の人との約束が増えるのではないかと思います。例えば、①帰宅時間をお母さんと「約束」する。②友達と駅前で待ち合わせの「約束」をする。③店員さんとゲームを買う「約束」をする。②や③の約束の中身は誰が決めますか?」

女子2:「約束する本人です。」

先生:「そう、私とあなたで決めますね。「約束」はルールともいえますが、約束をするときは相手がいります。誰からも押し付けられるのではなく、自分達で決める。これが大事なことです。」

〈「約束」は何のため?〉

先生:「③の「約束」は何のためにしますか?」

男子1:「ゲームソフトが必要だから。」

女子3:「ゲームソフトがほしいから。」

先生:「はい。ゲームソフトで遊びたい、もっておきたい、ほしいから「約束」をすることになりますね。自分がほしいと思うとき、口に出さないと相手にわかってもらえません。どんなお願いをしますか?」

女子4:「他の人に売らずに、私に売ってくださいと言います。」

先生:「売るということをお願いしますね。「約束」するということは、「相手に何かしてほしい」というときにするのです。では逆に、売る側になったと思ってください。売る方としてはどういうことを考えますか?」

男子2:「お金を下さい。」

先生:「そうですね。値段を考えます。他に?」

女子5:「買う途中でやめたと言わないでください。」

先生:「絶対「約束」を守ってくださいということですね。」

女子6:「もう少し高く買ってくれないかな。」

先生:「いろいろ考えることがありますね。友達同士で売り買いする場合は、昔からの友達関係についてなどにも考えをめぐらせます。約束を守らないと、信頼関係に影響したりします。考えた上で結論を出しますが、自分で一所懸命考えて決めます。だから守らないといけないことになります。逆に言うと、ルールは自分達で作れるということも大事です。約束を守らない人にはどうしますか?」

女子7:「物を渡さない。あげない。」

先生:「お金をくれない間は物を渡さないのも1つの「約束」です。渡したのになかなかお金をくれないとどうしますか?」

女子8:「訴える。」

先生:「それはいいですね。午前中、最高裁判所を見てきましたね。社会には、裁判官から判決をもらえば、お金を払わない相手からお金を取れるしくみがあります。約束したからには守らないといけません。国が法律で保護するという特別の「約束」を「契約」といいます。」

〈「契約」するということ〉

先生:「コンビニでおにぎりを買うとき、「約束」がどうされているのか意識して考えたいと思います。お客が100円のおにぎりを買うとします。お客さんを買主と言います。買主は物を買うとき何をしますか?」

女子9:「お金を払います。」

先生:「そうですね。おにぎりをもらう代わりにお金を払うことになります。では入れ替わって、売主になったとして、お客さんに何を約束しますか?」

男子3:「お金をもらう。」

先生:「おにぎりを渡す代わりにお金をもらう約束をします。おにぎりの所有権をお店からお客へ移すということになります。これが売買の約束です。民法第555条を見てみましょう。売買は、当事者の一方がある財産を相手方に移転することを約し、相手方がその代金を支払うことを約することによって、その効力を生じる。「約し」とは「約束し」ということです。」

〈いつ売買の約束が成立するか〉

先生:「では、いつ売買の約束が成立するか考えて見ましょう。」

ある町に中古ゲーム屋さんがありました。店の入り口には、道行く人が誰でも見ることができるように、中古ゲームソフトを「高い値段で買います。」と張り紙がしてあります。Aさんは不要になったソフトをお店にもって行き、「これを2000円で買ってください。」と言いました。お店のおじさんはソフトを点検して、「1000円なら買いましょう。」と言いました。Aさんは張り紙を思い出し、少し不満になって「もう少し高い値段ではだめですか。1500円で買ってください。」と言いました。
(ここまでにAさんとお店のおじさんとの間で売買の約束が成立したと思う人はいませんでした。)
1)お店のおじさんは少し考えましたが、ニコッと笑って「その金額ならいいですよ。」と言いました。
2)Aさんはお店のおじさんにソフトを渡しました。
3)お店のおじさんはソフトを受け取って、Aさんに1500円を渡しました。

1)の時だと思う人→半分弱
2)の時だと思う人→5人ぐらい
3)の時だと思う人→1人

先生:「大人になるにつれわかってくるのではないかと思うので、あえて答えは言いません。大人になってからのお楽しみ。どれも正しいと言えるかもしれません。売る・買うというお互いの意思が一致することが、契約が成立するということです。売買は口約束だけでも成立するということですが、マンションや車は口約束だけで買いません。高額になるときは、きちんと支払った証拠を残すことが必要になります。書面に残し、サインや印鑑を押すのが必要になります。」

〈「契約」を解消するということ〉

先生:「契約は、いったん結ぶと絶対に守らないといけないのでしょうか?たとえば、本当は3000円のゲームソフトを、「幻の超人気ゲームソフトを、今なら1万円で売ってあげる。」と言われた人が、それを信じて1万円で買った場合、どう思いますか?」

男子4:「1万円に見合わないならおかしい。お金を返してもらいます。」

先生:「ちょっとだまされた気がしませんか。だまされたときは1万円払いたくないですね。契約は守らないといけないのですが、例外として、契約を解消する、なかったことにすることができる場合が、法律で定められています。古本屋さんなどに売りにいったことのある人はいますか?」

挙手なし。

先生:「では最後のページを見てください。携帯電話を買うとき必要な、親の同意書の様式です。大人は皆さんより社会経験がはるかに多いので、皆さんがだまされる可能性があります。同意書が必要ということは、未成年が大人と契約する場合、保護されるということです。法律は堅苦しいと思うかもしれませんが、弱い立場のものを守るとか、不公平にならないようにするという意味があります。法律があなたを守っているのです。」

写真撮影、法務資料展示室等見学

 14:30~15:30

 法務省の赤れんが棟と呼ばれる建物は、明治28年に司法省の庁舎として竣工しました。昭和20年の戦災で、れんが壁と床を残して消失しましたが、同25年までに改修され、法務省の本館として使用されてきました。平成3年に復元改修工事が始められ、平成6年に創建当時の姿に復元されています。外観は平成6年、国の重要文化財に指定されました。
 今回は、普段入れない中庭側から記念写真を撮影することが許可されました。明治時代にタイムスリップしたような写真が撮れたのではないでしょうか。
 赤れんが棟の中の法務資料展示室は、旧司法大臣官舎大食堂を当時の姿に復元したもので、明治の雰囲気を今に伝える豪華な一室です。室内では、明治前期の基本法典の編纂事業における司法省の活動と、ボアソナードらお雇い外国人の貢献に関する資料、法務行政の歴史資料などが紹介されています。隣室のメッセージギャラリーでは、建築の近代化に関する建築資料の展示もされています。平成7年から一般公開されています。

(法務省リーフレットより)

取材を終えて

 皇居桜田門にほど近い法務省の赤れんがの建物は、一度は入ってみたい城館のような建築物です。その中での中学生向け授業ということで、生徒さんはいつもの学校よりも厳粛な雰囲気を味わったのではないでしょうか。
 今回の授業は1時間という時間の制約がありました。この授業を素材に、Aさんとお店のおじさんとの契約がいつ成立するのか、それはなぜか、などを生徒が討論するといった工夫がいろいろ考えられるでしょう。

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