第73回お茶の水女子大学附属小学校 教育実際指導研究会①

 2011年2月17日(木)、18日(金)、お茶の水女子大学附属小学校の第73回教育実際指導研究会が行われました。研究主題「小学校における「公共性」を育む「シティズンシップ教育」の第3年次の発表になります。今年も全国から多くの参加者が集まりました。まず、テーマ別研究から、1年生の「なかま」についてお伝えします。子どもたちの生き生きした姿に、興味深い発見がありました。(『発表要項』及び当日配布のプリントより適宜引用しています。)

「なかま」とは

 本校では1976年より、1年生から6年生まで、児童の主体性・創造性・協調性等の学習の根底となる力を育てようと、「創造活動」の時間を設けました。様々な活動を通して、人間関係を深め、各教科・道徳・特別活動の3領域の関係を円滑にする機能を果たしてきました。さらに2001年度から行われた幼・小連携研究の成果により、従来の「創造活動」よりももっと丁寧に個々の子ども同士の関わりをみていく必要性を感じるようになり、学習分野「なかま」を立ち上げました。幼稚園からの「なだらかな接続」と「適度な段差」を意識しています。
目標は次の2点です。
①一人ひとりが安心して自分らしさを活かし、やりたいことが実現できる。
②まわりの人の存在を意識し、皆で取り組む心地よさや充実感を味わう。

 「公共性を育む」という研究主題については、「なかま」の活動自体が人と関わることであり、「公共性」があるものと考えます。子ども同士がコミュニケーションをとりながら、活動を進めていく間に、自分の思いと他者の思いとの違いを感じ取り、さまざまな葛藤の場面が生まれてきます。このとき、お互いに認めあえるように、教師も介入し、子どもたちが葛藤を乗り越えられるように働きかける必要があります。このような活動体験を重ねていくことによって、個々の「公共性」が育まれていくと考えます。
 今年度の1年生においては、自分だけでなく、自分のまわりにいる友だち、家族、上級生・下級生へと目を向けさせ、まわりの人への感謝の気持ちも芽生えてくるように導き、3学期にはもっと広くまわりの人を意識させていくことを試みています。

(『発表要項』p.89~90より)

授業

2月17日(木) 10:00~10:40  場所:教室(オープンルーム)
1年1組 定員40名
学習分野:なかま 単元:「がっこうへのいきかえり」(全10時間のうち第9時間目)
授業者:神戸佳子 教諭

〈前時までの経緯〉

 これまで家族や友だちを中心にしていた関わりの範囲を、自分を取り巻く社会へと広げます。登下校の中でお世話になる人、交通機関という視点で、学校への行きかえりに出会う人や物を、めいめい書き出しました。さらに、自分でもっと詳しく知りたいものや好きなものを選んで、調べました。お店の人に聞いたり、本やパンフレットで調べたり、家の人に聞き、わかったことを表現する方法も自分で考えました。進めるうちに、同じテーマを選んだ子ども同士がグループになったりし、全体で9グループができました。本時と次時で、発表をします。

〈まず、発表準備〉

先生:「では、準備を始めてください。」
 みんな、一斉に看板代わりのスタンドを取りに行ったり、机の配置を変えて、作ったものを並べたりし始めました。約8分後、レストランチームは、ご馳走を毛糸で作っている途中のようです。

〈発表〉

先生:「まだのところは、続けてください。この前、前半・後半で発表する人と、発表を見てまわる人に分かれることを決めましたね。聞いておきたいことはありますか?それでは、それぞれのお店に戻って、店番の人と見る人、どうぞ。参観の先生方もどうぞ見てください。」
 お店は次の9つです。
ペットショップ(女子2名):画用紙製の2階建ての中に、紙粘土の動物。パンフレットも。
アイスクリームやさん(女子2名):紙粘土に色模様を付け、紙コップに入れてある。それぞれ名前がついている。
でん車すごろく(男子9名、女子2名):学校1周・小田急・山手線・丸の内線・バスなどの路線を描いた画用紙多数。
でん車・バスずかん(男子4名、でん車すごろくから合流した男子1名):画用紙に絵を描いて貼り合わせ、1冊の本にしてある。路線ごとに一人ずつ、内容を読み聞かせてくれる。
学校へのいきかえりすごろく(男子1名、女子3名):色鮮やかなすごろくが画用紙に描かれている。レベル0~2の3枚がある。
のりものグループ(男子4名、女子1名):画用紙製の乗り物博物館に割り箸の線路、紙粘土の乗り物。
バスすごろく(女子3名):カラーのすごろく1枚。
本やさん(女子3名):箱を使ったドールハウス風の棚に、フェルトや紙を使った小さな本がたくさん並んでいる。手作りの大きな本も読んでくれる。
レストラン(女子5名):紙皿・空き容器に毛糸や折り紙で作った料理がのっている。もっとたくさん作りたい様子。

〈値段を考えること〉

レポーター:(ペットショップで)「この中にいるのは何ですか?」
女子1:「犬です。(パンフレットを見せながら)こういう犬がいます。」
レポーター:「マルチーズとかいるんですね。おいくらですか?」
女子1:(にこにこしながら)「うーんと…」
レポーター:「考えていなかった?」
女子1:(うなずいてから)「3500円です。」(仲間の女子に、「値段を決めてなかったから考えよう。」と誘いかけていました。)

レポーター:(アイスクリーム屋さんで)「このアイスクリームはヨーロッパという名前なんですね。自分で考えたんですか?」
女子2:「お店のを見ました。」
レポーター:「おいくらですか?」
女子2:(困った様子)「…。」
レポーター:「考えていませんでしたか?」
女子2:「はい。」

〈すごろくのルールを作っていました〉

レポーター:(「学校の行きかえりすごろく」のコーナーでは、女子が一人、「すごろくのルール」というものを画用紙に書いていました。)「すごろくのルールを作っているんですか?」
女子3:「はい。」(一心に書き続けています。)
レポーター:(レベル0~2という分け方を見て)「おうちでゲームをしていますか?」
女子3:「はい。ポケモンとか○○とか、しています。」
レポーター:「ゲームにはルールがありますものね。」
女子3:(うなずいて、さらにルールを書き続けていました。)

〈最後は感想の発表と片づけ〉

先生:「集合して下さい。発表会はあともう1回やります。困ったことや意見・感想を言ってください。」
男子1:「お客さんが一杯来てくれて嬉しかったです。」
男子2:「学校の行きかえりすごろくが面白かったです。」
 アイスクリーム屋さん、電車すごろく、本屋さんもほめられていました。
男子3:「すごろくのこまがなくて困りました。」
男子4:「調べるのが楽しかったです。」
男子5:「お客さんが喜んでくれて、よかったと思いました。」
先生:「まだまだ言いたいと思いますが、最後、片づけをしてください。気をつけてね。」

帰りの会

 日直が司会をします。みんなに言いたいことがある人が列を作って並び、一人ずつ発表していました。「消しゴムが1個見つからないので、捜してください。」「順番を守ってください。」というようなことでした。

授業後、学習指導の話し合い

(1)授業者の解説
 「なかま」の授業は1年生3クラス同時の位置づけなので、見学希望者には教員が1名付き添い、学校に残る児童の活動は他の2名が見ました。子ども同士の葛藤のエピソードもたくさんできました。小学生になって「頑張らなくては」という思いと、見ず知らずの仲間と一緒に過ごすストレスとを、子どもがどのように受け入れ小学生として自立するか、ということが接続期の課題であると考えています。

(2)フロアからの質問・応答
質問1:子ども同士、体験を共有する機会はありますか?
→回答:交流は自然に、ものづくりをしながらしています。話すのが苦手な子もいますが、教師が近づいて話しかけると、他の子どもも集まってきます。子ども同士の好奇心で、他のグループへ出向いて聞いています。

質問2:どのようにプレゼンの仕方を指導していますか?
→回答:日常的には、朝の会で短いスピーチをしています。テーマは「朝ごはん」「テレビ番組」など、何でもよい。「何をしたか」と「どう思ったか」を言うように指導しています。2学期は、文章を2つつなげようと指導しました。「なぜ~?」には、「~だから」と言えるようにしたいと思います。9月に「こころまつり」という発表会をして、附属幼稚園の子どもを招待し、自分たちより小さい子に遊び方の説明をしてあげなければならなかった経験が大きいと思います。

質問3:グループ活動のとき、リーダーは意識化されていますか?
→回答:明確なリーダーは意識していません。自然発生的に、活動の中でリーダーができることはあります。「こころまつり」のときお化け屋敷を作ったグループでは、話し合いがなかなかまとまりませんでしたが、そのうち提案に「いいね。」とか「どうやるの?」と言うなど、つなぎ役になる子ができました。その子は、最後までリーダーというわけではありませんでしたが、その子中心にまとまっていきました。

質問4:カリキュラム作りで大切にしていることは何ですか?
→回答:カリキュラムは非常にゆるくもっています。年間活動記録も、計画ではなく「履歴」です。ロングスパンの見通しはありますが、毎時間は子どもとの話し合いで決まります。

(3)講師より
藤井千春 先生 (早稲田大学)
 1年生が皆、いい顔をしています。なぜか?1つは、子どもの興味・関心のある対象を深めさすことをしているからです。友達からの刺激が深まりを生みます。いい力を持っている子どもを、教師がさりげなく褒めたり、促したりなど、声をかけて、まわりの子どもに注目させています。もう1つは、「当日案」が子どもの姿に基づいて書かれているからです。幼稚園ではそうしますが、小学校でも「子どものどこを見て、どう指導するか考える」という指導案の書き方を注目してもらえたらと思います。

ここまでの取材を終えて

 「なかま」という授業は初めて見ましたが、グループづくりから子どもに任せており、まさに子ども同士のコミュニケーションを進める学習になっていると感じました。
 レポーターも子ども達の中に入って発表を聞いて、法教育の視点から気づいたことが2つあります。本文にもありますように、1つは「ものの値段を考えていなかった」ことです。犬の種類や、アイスクリームの名前などは、お店に行ったときによく見ているのに、「いくらで売られているか」ということには、まだ関心が向いていないことがうかがえました。
レポーターの質問によって、値段に気がついた子がいたので、「物を売り買いするときには値段を考えることが必要」という概念がこれから育っていくのが、小学1年生頃なのでしょうか。まだ1桁の算数しかしていない段階です。大きな単位が出てくる3年生頃に向け、しだいに売買の感覚も育つのではないかと感じました。
 2つ目は、「学校の行きかえりすごろく」に「ルール」が必要だと感じる子どもがいたことです。最後の感想発表の場では、その「学校の行きかえりすごろく」を「面白かった」という発言が2つ出ていました。自分が日頃遊んでいるコンピューターゲームの面白さから、自分たちの遊びにもゲームと同じようなルールがあると面白いと考えるのでしょう。紛争の解決だけではない「ルールの機能」を教えられました。
 「みんなの前で話をする」ことが、日常的に行われている様子も、帰りの会からわかりました。自分の言いたいことを人の前で発表する学習が、学校生活のさまざまな機会を使って行われていました。

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