法教育インタビューシリーズ(3)法務省法教育研究会関係者

 2010年12月10日(金)、法務省で法教育を担当されている丸山嘉代司法法制部付と、かつて同部で法教育を担当していた西山卓爾刑事局参事官にお話を伺いました。お二人は法教育研究会立ち上げのときの担当者で、そのときの経緯をお尋ねします。(以下、敬称略)

〈始まりは司法制度改革審議会意見書から〉

西山:「法務省の法教育研究会は平成15年7月に設置されましたが、それまでには司法制度改革の大きな流れがあります。平成13年6月に出された司法制度改革審議会意見書の大きな柱は次の3つです。1つは、国民の期待に応える司法制度のあり方。2つめは、司法制度を支える法曹のあり方。3つめが国民的基盤の確立です。この「国民的基盤の確立」を具体化するものとして、裁判員制度や司法教育の充実が提言されました。
 平成14年3月19日に司法制度改革推進計画が閣議決定されたのを受け、司法制度改革推進本部が設置され、平成16年11月30日という期限までに、法務省と文部科学省は司法教育の充実に向け所要の措置を講じることとされました。」

〈まず司法教育とは何か勉強〉

西山:「私は当時、司法法制部内で司法制度企画室長という立場にあり、職務の一環として司法教育の充実に向けた検討を担当することになりました。しかし、司法教育の充実といっても、では司法教育とは何か、というところから始めねばならず、自分で本を読んだり、本の著者に取材したりして、勉強しました。その中で、関東弁護士会連合会が「法教育」をテーマにシンポジウムをしたり、鈴木啓文弁護士らが中心になって日本弁護士連合会において「市民のための法教育委員会」を立ち上げるなど、弁護士の方々が法教育に取り組んでいることを知りました。また、教育学の分野でも筑波大学の江口勇治教授らが法教育の研究をされていることを知り、同教授の『法教育の可能性』という著書も読み、江口先生と鈴木弁護士のグループが一緒に研究を進めておられることがわかりました。日本司法書士会連合会も消費者教育を中心として法に関連する教育に取り組んできたことなどもわかりました。司法制度改革審議会意見書等では「司法教育」という言葉が使われていましたが、今後進めるべき教育は、単に司法制度の知識を学ぶ教育ではなく、江口教授・鈴木弁護士が取り組んでおられた法的なものの考え方を育てる法教育ではないかと考えるに至り、それまでの「司法教育」という言葉を使うのをやめ、「法教育」を研究する会を設けるという趣旨で法教育研究会を立ち上げることにし、同研究会において研究すべき内容、人選の検討を始めました。」

〈法教育研究会の人選〉

西山:「法教育というのは、司法制度の知識を教えるのではなく、法(ルール)の考え方を教えるもので、それまで法教育を研究されていた江口先生と鈴木弁護士に委員をお願いしたいと考えました。
 ところで、研究会などを役所がつくると、提言を出して終わりということも多いのですが、教育の充実を目標とするからには成果を継続していくことに意味があり、苦慮しました。まず、法教育が抽象的で一過性のもので終わらないように、法教育の内容を具体化した教材を作成することにしました。これは後に法教育研究会報告書(『はじめての法教育 我が国における法教育の普及・発展を目指して』)に掲載された4つの教材として結実します。また、法教育の普及には、文部科学省の協力が必要になります。普及方策の一環として、学習指導要領に法教育の要素を取り入れてもらうことも考えていましたが、まずは法教育研究会に協力していただきたいと考え、文部科学省初等中等教育局視学官(当時)だった大杉昭英岐阜大学教授にも委員をお願いすることになりました。座長には、司法制度改革審議会に深く関与された佐藤幸治京都大学教授(当時)から、土井真一京都大学教授をご推薦いただきました。
 また、学者や法曹関係者ばかりでなく、広く国民の目線から研究しようということで、エッセイストの安藤和津氏、ジャーナリストの荻原弘子氏、企業内教育の視点から新日鐵化学株式会社の唐津恵一氏、消費者の視点から主婦連合会の山根香織氏などの方々にお願いしました。
 教材作成部会の構成員は、江口教授や大杉視学官からご紹介を受けるなどしました。」

〈法教育研究会立ち上げと同時にバトンタッチ〉

西山:「法教育研究会が平成15年7月に設置されると、自分は日本司法支援センター(法テラス)立ち上げに移り、法教育研究会は丸山部付にバトンタッチしました。」
丸山:「私は平成15年7月の法教育研究会設置直前から担当になりました。法教育研究会は、1年4か月の間に16回の会議を重ね、平成16年11月4日に、報告書『我が国における法教育の普及・発展を目指して』(「はじめての法教育」)を当時の南野法務大臣に提出し、研究会はひとまず役目を終えました。そして法教育の普及をどうするか引き続き検討するために、法教育推進協議会に引き継がれることになりました。」

〈これからの法教育推進〉

丸山:「学習指導要領に法教育の要素が盛り込まれたことで、これから普及が進むことが期待されます。学習指導要領に法教育の要素が盛り込まれるに当たっては、法教育研究会の座長および法教育推進協議会の初代座長を務められた土井真一京都大学教授のご尽力によるものが大きかったと思います。
  今後は各教育現場で法教育を実践していただくことになりますが、その支援のため各都道府県レベルで法教育の推進を図っているところもあります。例えば東京都教育委員会は法教育研究会を作り、模擬授業・シンポジウムの開催などを企画しています。東京都教育庁の担当者の方は、法教育推進協議会の委員に就任されています。法教育は、関わった方々がファンになってくれることが多く、魅力をもっていると思います。私も法教育が好きですので、これからも法教育の普及に力を尽くしていきたいと思います。」

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