2011年度千葉県弁護士会夏休みジュニアロースクール

2011年7月30日(土)10:00~16:00、千葉県弁護士会の夏休みジュニアロースクール ―街のカラオケボックスをめぐる紛争を解決するルールづくり― が千葉市文化センター5階会議室で行われました。題材は、住宅街にできた巨大カラオケボックスをめぐる紛争の解決です。「なんだ、ルールづくりか」と思われないように工夫された点は、弁護士が利害関係人役を演じ、生徒がその代理人役になることです。この工夫を、大人も子どももとても楽しんでいたようなので、お伝えするとともにそのメリットについて考えてみます。(教材は千葉県弁護士会作成。配付資料はこちら。)

〈参加者〉

19名(男子11名、女子8名)
生徒が、6人の利害関係人のうちどの人の代理人になるかは、あらかじめ決められています。利害関係人に対応するそれぞれの代理人が集まって、6名以上で1つのグループを構成するように、グループ分けされました。生徒6~7名のグループが3つできました。

〈当日の進行〉

10:00 千葉県弁護士会副会長挨拶
10:10 「カラオケボックスをめぐる紛争を解決するルールづくり」説明
10:30 (1)利害関係人(弁護士)が全員の前で順番に発言
10:45 (2)3グループに分かれ、生徒は代理人の立場で利害関係人の意見を整理するため、まず依頼者のところへ行って、言い分を聞く
11:10 (3)グループ内で話し合って、ルールを考える(自由に利害関係人と相談)
12:00 昼休憩
13:00 (4)グループ毎に利害関係人と相談し、ルールをまとめる
15:15 グループ毎にルール発表
15:30 弁護士・保護者から感想

 

〈カラオケボックスをめぐる紛争とは〉

あおば市の住宅街に、ある日、巨大なカラオケボックス(24時間営業)がオープンしました。周りに娯楽施設が少ないことや、破格の低料金もあって、昼夜問わず、大勢の客が利用しています。
さびれていた商店街もにわかに活気づいています。
ところが、「音がうるさい」などの苦情が周辺の団地の住民などから出るようになりました。
そこで、関係者が集まって、話し合いをすることになりました。

(1)利害関係人の発言

①カラオケボックスの経営者
  50歳。昔からあおば市に住む。このほど、最新のサウンド・24時間営業・格安でお酒飲み放題というサービスのカラオケボックスを開店した。サービスは努力で実現したもので、削るつもりはない。音というものは、ある程度我慢してもらわないと社会が成り立たないと考える。苦情は、ごく少数の人が言っているだけだろう。代理人には、「営業を続けること」「最新のサウンドで利益が出ること」「お酒飲み放題と24時間営業」「低料金」が維持できることだけは、譲らないでほしい。
②あおば市営団地の住民
  ごく少数の人ではなく、相当多数の住民が、日夜地響きのするような騒音に悩まされている。店長に申し入れても聞いてもらえないので、即時撤退を要求する。住民には乳幼児・老人・病人もいる。住民の健康な生活が守れるように、代理人にお願いしたい。問題なのは、「重低音」「(歌声というよりは)叫び声や怒鳴り声」
③あおば商店街の商店店主
  40歳。商店街の青年会長。個人的にはカラオケに行くし、どうとは思っていない。カラオケさんが来てから商店街に若い人が増え、活気が出てありがたい。ただ、飲んだ若い人が商店街で暴れて警察沙汰になったり、車で来店する人が増えて危険など、迷惑なこともある。お客さんの苦情を耳にすることもある。カラオケさんは商店街祭りの協賛金も出してくれているので、丸く収まってほしい。代理人は、「カラオケさんは他にやりようがないのか」を聞いてもらいたい。
④カラオケボックスを利用している会社員
  妻と3歳の息子がいる、商店街近くのあおば商事の会社員。仕事のストレスが多いので、大好きなカラオケで発散している。代理人への要望は3つある。「給料が上がらず、妻には小遣いを削られるので、低料金を維持してほしい」「残業があるので、夜遅くまで営業してほしい」「アルコール類も充実してほしい。飲んで歌って、騒げる店でないと、発散できない」
⑤カラオケボックスを利用している高校生
  カラオケ店はうるさいものだ。商店街が活気づいてよかったでしょう。18歳はもう大人だし、夜飲んで騒いでもいいでしょう。ゲーセンでバイトして、自分のお金で行っているんだし。夜じゃないと、ガールフレンドと一緒に行くにも時間がない。カラオケがないと他に遊ぶところがなく、商店街でたむろすることになる。
⑥あおば中学校のPTA会長
  あおば中学2年生の娘がいる。中学から塾へ行く途中にカラオケ店があるので、カラオケ店に出入りする先輩から誘われたりすると、断りきれずに生活が乱れたりするのを心配している。カラオケ店の駐車場が狭いので、路上駐車が増え、自転車通学の中学生や、近くの空き地で遊ぶ子どもの交通事故が増えた。子どもの利益・安全を最優先してほしい。カラオケ店はやめてほしい。
 各代理人には、さらに詳しい依頼者の主張を書いた紙が渡されています。(似顔絵入り)

〈代理人の役割〉

 代理人とは、依頼者本人に代わっていろいろな交渉をする人です。今回は、利害関係人の依頼を受け、カラオケボックスをめぐる紛争を解決するよう、ルールをつくる交渉をします。依頼者の意思・意向を踏まえながら頑張るのが大前提です。
 まず、依頼者の言い分を全員で聞く。進行表の(1)
→次に、依頼者の話を個別に聞く。進行表(2)
→さらに、関係者全員(代理人)の話を聞き、全員の立場を考えながら話し合って、折り合いがつくようにルールを考える。時には依頼者を説得することも必要となる。進行表(3)、(4)
 代理人のポイントは3つあります。1)頭を使うこと。相手の立場も考えながら。2)耳をよく使うこと。話をよく聞かないといけません。3)説得する相手は2方向ある。1つは相手方。もう1つは依頼者本人。依頼者に譲歩してもらう場合も考えられます。
弁護士は、普段このように代理人の仕事もしています。 (司会者の話より)

(2)依頼者のところへ行って、言い分を聞く

 進行上工夫されていた点は、依頼者の言い分が十分に聞けるように考えられていたことです。(1)利害関係人の発言のときも、生徒からの質問を受け付け、質問が出ないときは、司会者が後でもう少し詳しい話を聞くように生徒に促していました。
 グループに分かれてからは、自由に依頼者のところへ行って話を聞くことができます。紙に書いてあることだけではよくわからないことを、実際に依頼者に聞くことができるのが、とてもよかったようです。生徒はどんどん聞きに行っていました。依頼者の立場になることが、自然にできる効果を感じました。

(3)グループ内で話し合って、ルールを考える

 各グループにはアドバイス役の弁護士も入っています。話し合いの際に弁護士からアドバイスされたことは、「主張をするだけでなく、相手の言い分を飲めるか、飲めないかということも考えてください」ということです。「依頼者に、譲れるところがないか聞いてきてください」というアドバイスもありました。
 生徒が利害関係人本人の役をする場合は、適当に譲ってしまって、すんなりルールをつくることも可能です。しかし、このように代理人という立場の場合、自分の考えだけで譲るわけにはいきません。譲る場合は、依頼者の同意を取り付けなければならないので、大人を説得できるように根拠を示して譲歩案を考えることが必要です。代理人であることで、それが自然にできる効果がありました。

〈はつらつとした代理人たち〉

 団地住民役の弁護士が、代理人の様子をコメントしてくれました。
住民役:「住民は主張が弱いと言われました。騒音というのはどのくらいのものなのか、何デシベルなど測定した客観的証拠を出すように言われ、困りました。中学生の割に、しっかりしていますね。生徒が利害関係人本人役をすると、どこで折り合いをつけるかがポイントになります。生徒がOKしてしまうと終わりになってしまいます。先ほどはある条件で譲歩するように迫られ、『この条件を飲んでくれれば、あとは全部まとまるから』と言われて、どうしようと思いました。その条件は、結局立ち消えになったのでよかったですが、説得力もなかなかです。」
経営者役の弁護士の前には、いつも生徒が何人も群がって話をしていました。
経営者役:「代理人に『騒音のことはどうでもいいのか』と怒られたりしました。」
高校生役の弁護士も人気で、中学生から、「高校生はお酒を飲むのは絶対にダメ」などと言われていました。

(4)グループ毎に利害関係人と相談し、ルールをまとめる

 午前の依頼者への質問の様子から、3つのグループの代理人が入り混じって質問をしていると、どのグループのルールも同じようになってしまうことが予想されました。そこで、午後の開始からは、グループ毎に5分ずつ、順番で依頼者と作戦会議をする方法がとられました。その後、いよいよルールのまとめに入り、模造紙にできたルールを書きました。

〈ルール発表〉

Aグループ
 中学生は夜7時以降、立ち入り禁止。高校生は平日は午前0時以降、金曜・土曜は午前1時以降立ち入り禁止。午前3時から11時までは閉店。団地側10部屋は完全防音室で、料金は100円高いが、中高生は他の部屋並みの料金。他の部屋は簡易防音。夕方4時~6時は、商店街とPTAが共同で見廻り。夜8時~9時は商店街のみで見廻り。夜9時~10時はPTAのみが見廻り。駐車場を商店街から借りる。ネオンサインは、午前0時以降は「カラオケ」のみとする。

Bグループ
 店の負担で防音壁を設置するので、その分100円値上げ。学生証を提示したら、5時間以上利用の中高生に対し、商店街の割引券(1500円以上の買い物につき300円割引)をくれる。24時間営業を認める。商店街夏祭り賛助金100万円を免除する。カラオケ店は、新装祝いに商店街から1店につき1万円もらえる。飲酒はモラルに任せ、呼びかけのみ。

Cグループ
 空地を駐車場にする。商店街とPTAが見廻りをする。ボリュームを中以上にしない。午前1時~11時まで閉店。一般利用者の料金値上げ:昼間300円→400円。夜間800円→950円。学生は、学生証提示で昼間を250円に値下げ、夜間は800円に据え置きする。学生は入店規制をする。中学生:夜7時まで。高校生:夜10時30分まで。防音シート(800万円)を設置する。費用は経営者300万円、商店街が50万円×10年で500万円負担する。駐車場にはゲートバーを設置し、その費用30万円はあおば商事が負担。ひきかえに、商店街割引券を提供し、ゲートバーにあおば商事の広告を載せてよい。

〈弁護士の感想〉

経営者役:「カラオケのニーズをくみ取ってもらい、どのグループもいいアイデアを出してくれました。バランスの良い結果になったと思います。Aグループは、部屋により完全防音と簡易防音を分けて負担を減らしてくれて、助かりました。Bグループは、24時間営業を認めてくれたのがよかった。商店街割引券で、商店街もカラオケ店も儲かるようにしてくれました。Cグループは、カラオケ店の負担が少ないので、助かります。
住民役:「相当の騒音手当をしてもらえたし、時間も相当程度、要望を入れて貰えたと思います。防音壁の設置費用やパトロールに住民の負担を求める声が強かったのですが、被害者がなぜ費用を負担しなくてはならないのか、とうていできないとお願いしました。」
商店店主役:「商店街は基本的にお金は出せないというスタンスだったつもりですが、グループによって違いが出ました。安全管理を要求したので、できることが盛り込まれたと思います。お金を出すようかなり強硬に言われ、新装開店祝いという形で出すことにしたグループもあります。」
会社員役:「Aグループの、防音をして値上げする部屋は、夜は学生がいないので大丈夫ということで、メリットとディメリットが示されていてよかったと思います。Cグループのボリュームが中というのはどの程度でしょう?まあ、いいかと。(笑い)ゲートバーになぜあおば商事がお金を出すか、終わりごろに押し切られた形ですが、広告と割引券でいいかなということになりました。」
高校生役:「とりあえずごねるというスタンスで、条件を変えないように頑張りましたが、途中から、時間を譲るなら料金値下げを要求という方針にしました。Bグループの5時間以上利用の学生にクーポンというルール、ぼくは知らなかったです。Cグループのボリュームが中の件も、打診された気がしませんが。(笑い)」
PTA会長役:「このまま合意しなければ、このままの状況が続くので、ハンデのある立場でした。私は子どもの利益・安全を最も重視してくださいとお願いしました。交渉=バトルの場面は3つありました。「見廻り」・「料金を高く設定することで、客を減らすこと」・「開店時間」です。交渉とは、相手の話を聞き、こちらの話をし、共感してもらう。そこからどうしたらいいか、話し合うということです。例えば、今、節電の嵐ですが、「今、節電した方がいいんじゃないの?」→「うん。」と言ってもらえるところから始めるといいと思います。」

〈司会者より、関連法令の解説〉

 昭和43年に騒音規制法ができ、さらに地域ごとに条例で規制されるようになりました。千葉県は、平成7年から環境保全条例により、騒音も環境の一部として規制されています。騒音については「受忍限度論」という考え方もあります。
 子どもの夜間外出については、千葉県青少年健全育成条例があります。正当な理由がない場合、夜11時以降は18歳未満の外出はいけません。
 代理人という仕事ですが、弁護士法第72条で、弁護士の資格がない人が一定の報酬を目当てに代理人になってはいけないというきまりもあります。また、代理人が頑張っても交渉がまとまらないこともあります。

〈取材を終えて―代理人を演じるメリットについて―〉

 生徒が利害関係人の代理人を務めることで、メリットが3つほど考えられたように思います。1つは、利害関係人の立場になることが容易であること。子どもにはよくわからないカラオケ店店主や商店主・会社員などの考えを詳しく聞くことで、想像するだけより立場を理解しやすくなったでしょう。好きなだけ質問できるので、聞くこと自体を楽しめるようでもありました。
 2つめは、折り合いをつけるためのいい加減な譲歩ができないこと。生徒が利害関係人役をする場合、心優しく自分の主張を譲ってしまえば交渉は終わりですが、代理人役の場合はそうはいきませんでした。大人が演じる利害関係人に納得してもらうまで、深く考えることが必要です。
 3つめは、大人を納得させるためには、根拠のある提案が必要なこと。提案を考える際に、「メリットとディメリットのバランスが取れているか」「お互いに共感できる部分を探して、そこから出発する」といった方法があることを学べたと思います。
 生徒がどんなに楽しんでいたかは、利害関係人役への質問に行列ができるほどだったこと、たくさんのルールを考え出したことからおわかりいただけるでしょう。弁護士からは、普段と違って代理人に頑張ってもらう立場を演じ、代理人が一生懸命やってくれるのがわかって嬉しかった、という感想もありました。楽しめる工夫は、おおいに広まってほしいと思います。

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