法教育推進協議会傍聴録(第25回)

 2011年7月29日(金)13:30~15:30、第25回法務省法教育推進協議会が法務省会議室で開かれました。今回は第4期の初回に当たり、座長には京都大学大学院法学研究科教授の笠井正俊先生が選任されました。内容は、平成23年度の法教育懸賞論文応募要領、韓国・アメリカ合衆国の法教育の現状報告、および文部科学省から新学習指導要領実施に向けた取り組みの報告です。(当日の資料から適宜引用させていただきます。)

1 平成23年度法教育懸賞論文

テーマ:「学校現場において法教育を普及させるための方策について―法教育の授業例を踏まえて―」
提出期限:平成23年10月31日(月)郵送必着
詳細については法務省ホームページのほか、チラシが教育機関・弁護士会などへ送付されます。

2 韓国の法教育の現状

「韓国法務部の“Law Related Education of Korea”をもとに」
報告者:筑波大学 江口勇治先生、静岡大学 磯山恭子先生
 韓国法務部法教育班作成の小冊子『韓国の法教育 知識があればあるほど、幸福が訪れる』(翻訳)に基づき、報告されました。

〈韓国の「法教育とは」〉

 法教育とは、市民に対して、法全般、法形成過程、法制度と、法制度が基づいている原理と価値に関する知識と技能を教育することである。

〈法教育の目的〉

 法全般と法形成過程に関する知識をもっている民主的な市民を育てるため。あらかじめ実践的な教育を提供することで、不必要な法的な紛争を避けるため。法と原理が尊重される社会を創造するため。さらに、国家競争力を高めるため。

〈法教育班とは〉

 2005年3月、法務部犯罪防止政策局のもとで、国民の法学教育の全責任を担うため設立された。様々な教育プログラムを推進し、重大な政策を審議するために、政府機関・学術・教育界の構成員からなる法教育委員会を開始。2008年には、法教育支援法が成立した。
法教育班は、法教育プログラムをより効果的に達成するために、法教育委員会・民間研究団体・報道・主要な法科大学院・各部庁・ソロモンローパーク(法教育班のもとにある法教育施設)・韓国法曹協会のような法律専門家団体などとのネットワークを形成している。

〈法教育班は何をしているか〉

 教材・教科書の刊行。スマートフォンで使用できる、ネットワークにつながっている教育プログラムや応用プログラムの開発。国民の法学教育に関する研究論文の刊行物の支援と、外国の公教育制度を比較・分析。
 ソロモンローパークとは、2009年に設立されたアジアで最も広いローパークで、体験を重視した博物館と、子ども・青少年・大人・教育者のための研修施設から成りたっている。子どもや青少年のためには、模擬議会・青少年法律協会・子ども法キャンプといった様々な体験を重視したプログラム。教育者やボランティアのためには、現職教育プログラムが提供されている。

〈今後の計画〉

他の主要都市におけるソロモンローパークの設立。日常にある法を使用する能力を測定する検定試験の導入。学校カリキュラムへ質の高い法教育を拡充する。
就学前の子どものためのプログラム、高齢者のためのプログラムなど、様々な年齢集団に法学教育の機会を提供し、生涯にわたる教育システムを設立する計画である。また、ネットワークにつながっている教育システムを導入しようとしている。

〈報告者による問題点の指摘、質疑応答〉

 実際の入試が英語・数学中心であることとのギャップ、法? 専門家の不足、より生活法を中心としたカリキュラムが望まれること、教員の研修などが問題点であると指摘されました。
Q:「高校の教材が難しいとは、どのようにですか?」
A:「専門的で理論的過ぎることだと思います。生活と関連付けられるほうがよいでしょう。」
Q:「ソロモンローパークでは何を学べるのですか?」
A:「法や政治システムが体験できる場です。実際の裁判所などでなぜ学ばないのか、という疑問はあります。」
Q:「実際の教育活動は学校でどう行われているのですか?法律実務家は関わっていますか?」
A:「「法と社会」は高校の選択必修で、高校生の4~5%が学びます。中学校は、学校制度は日本と似ています。最高裁判所が作っている国定教科書です。8年前に調査した時は暗記中心でしたが、今回は学校の休暇中だったので見ていません。教える人がいれば教えるという現状で、日本と似ています。弁護士との連携は日本ほどうまくいっていない印象で、課題を感じました。政府主導を実感しました。」
Q:「ロースクールとの連携はありますか?」
A:「ロースクール生もソロモンローパークに来て研修しています。」

3 アメリカの法教育事情

報告者:ジャパンタイムズ編集局報道部 神谷説子氏
 2010年4月~5月に、シカゴ市、フィラデルフィア、ワシントンDCを取材しました。この時期は、学校の学年末に当たり特別授業を行いやすいうえ、法律家も5月1日の法の日を活用できるので、法教育プログラムが時に多く行われる時期です。法教育に取り組む主な団体は3種類あり、法曹協会、法教育NPO、ロースクール・その他(裁判所、元判事)です。

〈プログラム例〉

① Lawyers in the Classroom
 Constitutional Rights Foundation Chicago (CRFC) のプログラムで、年に3回、法律家がシカゴ市内の学校で授業に参加。(小学校~高校)約650名の法律家が約100の公立学校と活動中。CRFCは、法律家と学校をマッチングさせるNPOです。スタッフが授業を見に行き、教員と法律家双方にアドバイスしたりフィードバックをもらったりします。教員や法律家へのワークショップもあります。
 授業例「学校では生徒の表現の自由は制限されるのか」(9年生(日本の中3)向け)は、実際の裁判がもとになっています。

② Corporate Legal Diversity Pipeline Program
 Street Law Inc.(ワシントンDCにあるNPO)のプログラムで、企業内弁護士が公立高校の授業に参加したり、企業に生徒を招いてワークショップを行います。
 授業例「責任は誰にあるか?」は、損害保険会社と9・10年生のワークショップです。

③ Open Doors to Federal Courts
 連邦裁判所作成の模擬法廷プログラム。連邦裁判所判事が仕切り、検事と弁護士が協力します。
例は「掲示板サイト上の生徒の表現の自由」。

④ National High School Mock Trial Championship
 全米高校生模擬裁判大会。今年で28回目になり、41の州と準州、国が参加。州大会で優勝した代表校が集まります。地元州法曹協会が主催。

〈法教育に関わる法律家たちの意識や背景〉

・市民による法や裁判制度への理解は、民主主義社会に不可欠であること。
・若者は論理的な思考力や読解力、表現力、コミュニケーション能力など、社会生活上の基礎能力を養うことも大切。貧困地域の若者を支援することで、自尊心を育て、非行に走ることを防ぐ。
・教育政策への危機感。すなわち、算数や国語に重点を置くあまり、社会科の科目が削られている。公立校の教育レベルの低下もある。市民として身につけておくべき知識や力が不十分な若者が増えては、民主主義社会が危うい。
・法律家の倫理規定で、市民教育に関わることが使命とされる。法律家にとっても、わかりやすく伝えられるかを試す機会や、貧困問題への理解を深める契機となる。

〈法教育推進上の課題〉

 学校の先生と法律家の連携をどのように増やしていくか。授業にどのように組み込んでもらうか。継続性。参加する法律家の輪の広げ方など、日本の課題と共通するものがあります。

〈質疑応答〉

Q:「1回の授業の人数や時間は?」
A:「30人ぐらいかそれ以下で、どの子も当てます。1コマ50分ぐらいで、2コマという場合もあります。」
Q:「貧困地域の若者支援ということですが、模擬裁判も積極的にするのですか?」
A:「はい。どの証拠をどう見るかわかると、生徒は伸びて、自信をつけます。恵まれた学校だからできるのではなく、いろいろなやり方で貧困地域の子に力を入れています。」
感想:「課題は日本も同じ。どこかに拠点を置かないと難しい、という感想です。韓国では、教材と箱モノに意識的にコアをもっていっています。」
A:「アメリカでもそうなんですか、と感じました。この先、日本でもどう広げていくかが課題だと感じます。」
Q:「企業の取り組みが新鮮です。熱心な人がいる企業だけですか?経済界全体はどうですか?」
A:「大手企業ですが、詳しくは聞きませんでした。企業が物で協力したり、いろいろな協力の形がありました。」

4 新学習指導要領の円滑な実施に向けた取り組みの状況

「法に関する学習の充実」にかかわって
報告者:文部科学省・国立教育政策研究所 樋口雅夫先生

〈新学習指導要領の円滑な実施に向けた周知活動及び先行実践例について〉

① 平成21年度高等学校新教育課程説明会(中央説明会)の開催
② 地方説明会の開催
③ 各教科等担当指導主事連絡協議会(指導主事会)の開催
実践事例の持ち寄り
④ 各都道府県・指定都市で情報共有

〈国立教育政策研究所における指定校事業等について〉

①教育課程研究指定校事業
新学習指導要領の趣旨を具体化し、深化充実するための教育課程編成・指導方法等の工夫改善に関する研究(平成23年度~)
②学習指導実践協力校
 各学校における学習指導について、指導上の課題や困難がみられる内容等に関する優れた実践、研究所が各種学力調査等を踏まえ提言してきた指導方法等を検証。(調査官が授業を見て、全国に伝えるということ。)

〈実情調査について〉

・文部科学省委嘱研究
平成18年3月「社会の変化等に対応した新たな教育課題等に関する調査研究報告書」(全国教育研究所連盟)に、弁護士の協力をいただきました。
・教育課程実施状況調査(国立教育政策研究所ホームページに詳細)
 平成15年度小・中学校社会等では、「国民主権」などを理解しているか問う問題で、平成17年度高等学校政治・経済等では基礎的概念を問う問題において、通過率が設定を下回っていました。
・特定の課題に関する調査
 平成18年度、社会について小6、中3を対象に実施。社会科における基礎・基本となる知識や概念が十分でないという結果でした。

〈質疑応答〉

Q:「学校の実情調査を参考にということですが、法教育における実情調査というとき、実態調査だけなのか、あるいは改善のための調査サイクルへの位置づけなのでしょうか?」
座長:「個人的な考え方では、先進的な事例を収集して協議会を使って発信して、優れた取り組みの仲立ちをすることが大きいと思います。法教育を普及させていこうという観点から調査に取り組んでいけたらと考えております。」
A:「各都道府県の資料を採用するかどうかは各県などに任せています。文部科学省は仲立ちということで、さらに周知を進めていきたいと思っています。」

5 その他

意見:「現在、小・中・高校の教員の1/3は50歳代が占めるので、今後10年で新しい先生が1/3出てくるということになり、教員養成が大事になります。大学の教員養成でも、もっと法教育をすると効果があると思います。あとの2/3の教員については、研修に重きを置くのが、この10年で大事なことだと思います。」
座長:「私も教員養成のプログラムは大事だと思います。大阪教育大学のプロジェクトも参考になるかと思います。」
報告:「7月21日に文京区教育委員会主催の法教育研修があり、法テラスから2名協力しました。幼稚園から高校までの教員を対象に、説明と事例授業を行いました。(文京区ホームページに詳細)」

取材を終えて

 韓国の法教育テーマパークは広大なようですが、採算が合うのかも聞きたいと思いました。アメリカの法教育では、法律家との連携を学校の授業にどう組み込んでもらうかが課題という点で、日本と同じと指摘されていました。全米高校生模擬裁判大会が20数年続いている国でも、まだ法律家と学校の連携が課題であるのなら、日本も根気よく取り組まねばならないのでしょう。
 第4期の法教育推進協議会の発足に当たり、協議会は法教育情報の収集・発信の仲立ちとなること、この先10年の課題の一つは教員養成に関すること、という点が確認されたと思います。

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