「食品鮮度ルールについて考える」社会科授業

 2013年6月28日(金)・29日(土)、千葉大学教育学部附属小学校で公開授業研究会が開催されました。29日の部から、3年生社会科の単元「スーパーマーケット調査隊」の授業の1コマと研究協議の模様をお伝えします。社会科を学習し始めたばかりの小学3年生は、食品鮮度ルールをどう考えるでしょうか。(当日の会録、プリントより適宜引用させていただきます。)

1 授業

3年1組 40名(男子20名、女子20名)欠席1名
教科:社会科(9:00~9:50)  場所:教室  
授業者:三浦昌宏 教諭
単元:スーパーマーケット調査隊(店ではたらく人とわたしたちのくらし)
  全14コマのうち本時は12コマ目(通常は1コマ40分間)
本時:「小売業等で商慣習となっている食品鮮度ルールについて話し合わせる」
研究テーマ:食品に対する消費者の過剰な鮮度志向が及ぼす影響とその改善策について考えさせるにはどうすればよいか。

〈前時までの学習〉

 児童は、スーパーマーケットの見学やインタビュー調査を通して、商品の品質管理や売り場での並べ方、値段のつけ方、宣伝の仕方等を理解してきました。そして、これらの販売者の工夫が、消費者の信頼および売上向上に結びつくことや、消費者が商店を選ぶ際の視点にもなっていることを関連付けてきました。前回の授業では、生鮮食品について、家族が品物を選ぶ方法や、販売者の工夫、売れ残った商品の行方などを学習したばかりです。教室の壁には、スーパーマーケットの売り場の写真が「安売りは赤数字で」「もうすぐ消費期限 ね引きスタート」などのコメント共に、たくさん掲示されています。そして今日の授業のために、加工食品について家族が何に気をつけて買っているか、調べてくることになっていました。

〈授業開始前の時間に〉

 授業開始前、児童が全員着席しているのを見届けると、先生が子どもたちに加工食品の買い方について参観者へインタビューするように指示しました。参観者は、氏名とどこから来たか、「ビンや缶、ペットボトルに入ったものを買うとき、何に気をつけているか」を尋ねられました。

〈導入は、加工食品を買うときに気をつけること〉

先生:「みんなが調べた加工食品には、このようなものがありました。(レトルト食品、缶詰など、板書)今日は調査活動の第2弾で、前回は生鮮食品でしたが今日は加工食品です。加工食品を買うときにおうちの人や参観の先生方が気をつけていることを発表してください。」
女子1:「放射能があまり入っていないことと、賞味期限です。」
先生:「安全と賞味期限ですね。なぜ賞味期限に気をつけるか、聞きましたか?」
女子1:「聞きませんでした。」
先生:「誰か、聞いた人はいますか?」
男子1:「飲み終わらなかったときに、長持ちするように、でした。」
その他、気をつけていることとして次のようなものが挙げられました。(括弧つきは、先生がカテゴリー分けをした分類名。)「お菓子に保存料が入っていないこと。」(食品添加物)、「お菓子が折れたり切れたりしていないこと。」(見た目)、「生産地。」「国産。」「値段。」「量。ちょうどいいぐらい。」「銘柄と何が入っているか。」(種類、材料)、「虫歯になりにくいお菓子。」「カロリー」(健康)、「ペットボトルが開封されていないこと。」(品質)、「お弁当に入れやすいなどの便利さ。」「味。」

〈自分が買うときはどうするか?〉

先生:「加工食品を買うとき、いろいろ見るところがあることがわかりました。みんなは、これを買うときはどうしますか?」(サイダーの缶を6本取り出す。大騒ぎ。)
先生:「日直の2人は前へ来てください。これを1本ずつ買ってください。」(2人が買うまねをしました。)
先生:「では、違う選び方をする人はいませんか?」(挙手した児童の中から、2人が出て、よく缶を見て買うまねをしました。)
先生:「男子2君、2人が選んだ缶の賞味期限を見てあげてください。」
男子2:「2014年5月13日です。」
他の缶の賞味期限は、2013年7月11日と2013年6月24日でした。
先生:「自分だったらどれを選びますか?」
2014年5/13→挙手多数、2013年7/11→0、2013年6/24→0
口々に:「(6/24では)期限を過ぎちゃってる。」
先生:「賞味期限は、少し過ぎたって食べられるでしょう?品質と消費期限・賞味期限のグラフを思い出してください。」(黒板の横に掲示してあったグラフを示す。)
女子2:「でも(賞味期限が)過ぎてたら味があまりおいしくないし、飲みそこねた時のために、期限まで一番長いのを選びます。」
先生:「結局、お客さんの願いとして、少しでも長持ちするものを選びますね。すると、お店の人はお客さんのために工夫をすることになるね。」

〈3分の1ルールの説明〉

先生は、1月から12月まで月が書いてある1本の帯グラフを黒板に貼りました。
先生:「賞味期限が1年のものを1月に工場で作ったとします。」(先ほどの缶を帯グラフの1月のところに貼りました。)「どこに運びますか?」
口々に:「お店。」
先生:「お店に運びますが、あるきまりがあります。賞味期限の3分の1、つまり4か月以内にお店に品物が来ないと、お店に並べませんというきまりです。ちょっとでも過ぎたら、これはどうなりますか?」(缶を5月のところへ動かす。)
口々に:「それどうするの?」
先生:「捨てたり,工場へ返したりします。」
口々に:「ええーっ!」
先生:「お店に並んでいる缶で、8か月をちょっとでも過ぎたら、(缶を9月のところへ動かして)やはり捨てたり返したりします。賞味期限まで3分の1を過ぎたものは売らないというきまりです。こういうルールを3分の1ルールといいます。」
口々に:「3分の1ルール!」
 先生は、1月から8月までの上に「売ります」と書かれた青色の帯をのせ、9月から12月までの上には「売りません」と書かれた赤い帯をのせました。
先生:「缶が工場へ返されるとき、みんなはどう思いましたか?」
口々に:「もったいない!」
先生:「なぜですか?」
口々に:「せっかく作ったのに、買ってもらえないからです。」
先生:「このジュースは腐っているのですか?」
口々に:「腐っていない」「工場の人がかわいそう。」「工場が損をする。」
先生:「生鮮食品のときは、捨てられた後、どうするんでしたか?」
口々に:「リサイクル。」
先生:「缶ジュースも食品リサイクルになります。でも、何が違うでしょうか?」
男子3:「その中にまだ飲み物が残っています。」
先生:「中身がまだ飲めることが違いますね。」(中略)「味は大丈夫ですよ。こうして捨てられる量は、1年間に800万トン。1人当たり缶250本分を捨てているのと同じです。お金にすると、1556億円です。」
口々に:「ええーっ!」
先生:「工場が損をするとさっき言った人がいましたね。工場がつぶれる?でも、このメーカー、つぶれていませんよ。なぜかな?始めから、缶の値段を高くしているのです。たとえば100円で売ってもいいんだけれど、捨てる分のお金がかかるから、120円にするとか…。誰が損をしていますか?」
女子3:「お客さんです。」
先生:「そう、損をするのはお客さんです。」

〈3分の1ルールをどのように変えればいいのだろう?〉

先生:「お客さんは少しでも長持ちすることを気にしますね。その要望に応えると、より安心できるけれど、値段が高くなることになります。しかも、まだ飲めるものが捨てられる。これはいいルールでしょうか?いいルールと思う人?」→挙手0。「悪いルールですか?」→挙手多数。「では、このルールをどうすればいいのか、考えたいと思います。」
少しでも長持ちするものを買いたいお客さんの願いから生まれた3分の1ルールを、どのように変えればよいか。(板書)
先生:「自分はこういうふうに変えるというのを考えましょう。考えがないと、このままのルールが続きます。私はこうしたらいいと思うことをノートに書きましょう。(約2分間)今、自分が考えたことを、隣の子と話合いましょう。(約2分間)」
先生:「では、こうしたらいいと思うことを発表しましょう。」
男子4:「8月を過ぎたら、少し安くすればいいと思います。」
男子5:「売りませんゾーンの2か月ぐらいを、売りますにすればいいと思います。」
女子4:「4月を過ぎてから届いても飲めるから、(納品期限のきまりを)なくす。」
男子6:「店に品物が足りなくなったら、また仕入れる。」
先生:「少しずつ仕入れるのは、牛乳でもやっていましたね。」
男子7:「お客がもっと買う。」
先生:「それは無理かもしれません。値段を安くすること(A)、売る期間を長くすること(B)、という案が出ました。」
口々に:「ただでお客さんに渡す(C)。」
先生:「A、B、Cの3つですね。Aはお客さんが喜びますが、工場の人は?お店は?安くして売り上げは?安くしてたくさん売れば、もうかるのですか?」
男子8:「たくさんの人が買えば、もうかります。」
先生:「実際には買う人が増えないと、店の売り上げは下がります。ただし、店は返品することができます。同じ店の同じ商品の中に、高いものと、古くて安いものがあることを、お店の人が喜ぶかどうかわかりませんよ。Bは誰が喜びますか?」
口々に:「お店の人。」
先生:「みんなは喜びますか?(ルールがなかったとき)もともとは12月まで売っていたのですが、(今となって)12月に買う人はいるでしょうか?牛乳の選び方で調べたでしょう。新しいものと古いものが混ざっていたら、結局古いものは売れ残ります。Cはどうですか?」
女子5:「お店がつぶれます。」

〈ルールをこう変えてはどうか〉

先生:「混ぜて売るなら、どのくらいまでならいいですか?10月まで?11月は?(ええーという声)9月だけ?売る期間を延ばすことには賛成ですか?」
口々に:「はい。」9月まで→11名、10月まで→26名、11月まで→2名、最後まで→0
先生:「クラスの大まかでいうと、10月ぐらいまでがいいことになりました。バランスがいいということになるのかな?この3分の1ルール、大人も今、どうしたらいいか考えているところです。ニュースになったりするので、これからも見ていってください。」

2 分科会 社会科研究協議(11:05~12:15)

〈研究テーマについての経緯〉

司会者(佐藤一馬教諭)より
 「公共意識を高める社会科学習」をテーマとした研究が4年目を迎えました。過去3年間の研究から、他者の判断を問うことに重点を置くことで、自分の思考を振り返り、自分の考えを再構築することが確認されました。それにより、よりよい地域社会に向けて参画する意識の高まりがみられました。

〈3年生授業について〉

授業者(三浦昌宏教諭)より
 3年生のまち探検の単元で、児童が注目していたのは店でした。3分の1ルールについては、自分は去年の9月に新聞で知り、このような実社会の様子までスーパーマーケットの学習で見せたいと考えていました。社会科学習が始まったばかりの3年生にどこまでできるか悩みました。
まず3分の1ルールを理解する必要があります。手立てとしては、前半の意識調査でわかった、買う人の「少しでも長持ちするものを」という願いが、3分の1ルールにつながると考えました。今日やり残したことは、販売期限を10月まで延ばすことについて、人数しか聞けなかったことです。「なぜ10月までなのか?」を次に考え、消費者意識が変わらない限り、ルールは変わらないのではないか、ということにつなげたいと思います。

〈意見交換〉

意見:「消費者意識のみでなく、メーカーや小売り側にも原因があるのでは?議論するには、そういう意見も拾う必要があると思います。」
授業者:「3年生にどこまで考えさせるか、一番悩みました。児童にも、メーカーがたくさん作らなければいいと考える子がいました、そのとおりです。どれだけ在庫があるのかという情報が、メーカー・問屋・小売店で把握されていないことが問題です。大人としても何とかしなければという結論が出ていますが、授業はとにかく単純化しようと考えました。」

意見:「缶の賞味期限3種類についてもっと議論させると、後半の期限の線引きにいきつくのではないでしょうか。」
授業者:「時間的に厳しいので、考えるときに立ち戻ればいいと考えました。」

質問:「誰も幸せになれないのではという結果になりましたが、子どもの意識は販売期間を延ばすことに終始するのですか?」
授業者:「子どもは、どうすればいいか?という気持ちで帰宅したと思いますが、それが大切だと考えます。最後にまとめて終わる社会科授業が多いですが、世の中はそうではないので、ing型社会科学習をさせたいと思っています。授業が終わった後もずっと考え続けるような。販売期間を延ばした後はどうするのか、返品するのか、安くするのか考えさせたいと思います。家族とも話合わせ、大人の考えと比べさせたいと考えています。自分は子どもをもやもやさせるのが好きですが、授業方法は授業者の考えによって変わっていいと思います。」

〈講師より〉

大久保良孝 千葉市立鶴沢小学校校長
 3年生の授業は、面白い題材で、子どもが矛盾を感じ、集中して意見が多く出ました。先生と子どもの関係もよかったと思います。時間配分について、前半をもう少しカットして、後半を厚くするといいと感じました。この授業の後、子ども自身の思いなどを入れて、考えさせてほしいと思います。
 「心を耕す授業」とは、子どもの心に働きかけ、「おかしいな?」「考えよう!」とさせる授業です。そこから出発し、事実認識→予想→調べる→教師のとっておきの資料を出して、子どもにもう1回「あ、そうか!」と気づかせる思考過程を繰り返す。この流れが社会科であり、そういう実践をしていただければ、と思います。

〈取材を終えて〉

 食品鮮度ルールは、大人でも知らない人がかなりいると思われますが、この授業から、私たちの消費行動から生まれた大変身近なルールだとわかりました。公共性を高め、社会への参画を考えるというテーマにふさわしい題材だと感じました。授業中、子どもたちが「ええーっ」と驚く場面が何回もあり、子どもも面白いと感じていたと思います。
 この授業は「法教育」と銘打たれてはいませんが、研究テーマに沿いつつ、ルールの根本にあるお客さん・小売店・メーカーの意識に目を向けて、どの立場の人もなるべく損を小さくするように考えるものだったと思います。もっと授業時間があったり、高学年を対象にしたりする場合は、お客さんだけでなく他の立場の議論を広げるなどアレンジすることも考えられそうです。
 三浦先生が分科会で説明されていましたが、この授業は次の時間に「10月まで期間を延ばしていいと考えるのはなぜ?」について考える予定です。子どもたちがどのように考えるか、2013年度9月の「法と教育学会」大会で研究発表されることになっていますので、そちらのレポートもどうぞご覧ください。

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