法教育推進協議会傍聴録(第36回)

 2014年7月4日(金)14:30~16:30、第36回法教育推進協議会が法務省にて開かれました。議題は、東京大学法科大学院生による出張教室の実践報告、高等学校における法教育実践状況調査、中学生向け法教育教材作成、および法教育マスコットキャラクター募集についてなどでした。その概要をかいつまんでお伝えします。(当日の資料より適宜引用させていただきます。)

1 東京大学法科大学院生による法教育授業実践報告について

報告者:東京大学法科大学院「出張教室」より3名

 

〈団体の紹介と少年院での活動の目的〉
 東京大学法科大学院生有志による団体「出張教室」は2004年(法科大学院創設初年)に発足して以来、中学校高校での授業実践を行ってきました。2014年2月・3月には、新たな取組みとして、市原学園(少年院)での法教育を法務省の協力のもとに実践しました。出張教室では、授業実践の目的を学生自ら考え、学園や法務省と協議を重ねながら授業づくりを行いました。1コマ70~80分の授業を2つつくり、実践しました。
少年院での法教育の目的は2つあり、①「法律の存在理由及び意義を伝えること」、②「実際の社会における法律の役割を伝えること」としました。少年院で行う授業であることを考慮し、①では「なぜ法律が存在し、なぜ法律を守るのかを理解してもらう」、②では「法律が人々の生活に根差した身近なものであり、人を罰するためだけにあるのではなく、人を助ける機能も有していること、法律を知ることが生活する上で役に立つことを実感してもらう」ことを目指しました。

〈授業概要〉
 第1回の授業は、「ルールが存在しない状況において発生する諸問題とその解決策」をテーマに、体育館の使用方法を5つの部活動の間で決めるというものでした。参加人数は、少年9名、学生4名でした。まず、全く何のルールもない状態であったとする場合、どのような事態が起こりうるか、全体授業で尋ねたところ、多くの意見が出ました。結果として、「ルールがなければトラブルが生じる」ことを確認しました。
次に、使用方法を決めるについて6つの事項を示し、グループに分かれて、各事項をルールで決めてよいかどうか、その理由と共に考えてもらいました。その結果、「卓球部は部員が一番少ないので、体育館を使えないようにする」「けんかで一番強い部が使えるようにする」「女子は体育館を使用できないことにする」というルールは、決めてはならないとして一致しました。また、「じゃんけんで決める」「曜日や時間によって体育館を使える部を分ける」というルールは、決めてよいとの意見が多数ありました。さらに、「体育館を使用させるかわりに、他の部員の宿題をさせる」というルールは、取引であるため決めてよいとする意見が多数になりました。そこで、「宿題」ではなく「何でもさせる」などとしたらどうかと考えてもらい、「不公平・差別的なルールとして作ってはならない」ことを確認しました。
最後に、決めてはならないルールがあると考えた場合、そのようなルールを創り出さないためにはどのような方法がよいか、5つの選択肢を挙げて、よいと思う順番に並べるよう考えてもらいました。しかし、グループ内で意見が分かれたので、なぜそれがいいと思うか話してもらうことにしました。まとめは、「全員に意見を発表する機会が与えられていること」「公平な方法でルールを作ることが必要なこと」としました。
第2回目の授業は、「少年にとって身近な市民生活上のトラブルと法律による解決策」というテーマでした。自分の持つ高額品をだまされて安く売ってしまった場合の対応について、事例をもとにグループで考えてもらいました。参加人数は少年20名、学生6名でした。
だまされて売ってしまった場合、大多数の少年が、渡した品物を取り戻せるという意見でした。次の事例で、だまされて品物を渡しても、第三者が事情を知らずにその品物を買ってしまった場合は取り戻せないことについて、意見が分かれました。授業のまとめでは、民法の条文の紹介をし、「法律の条文が非常識なものではなく、皆さんが妥当だと納得するものであること」を確認しました。

〈授業後アンケートから〉
 授業後に少年たちに回答してもらったアンケートからは、第1回授業については「わかりやすかった」「法律をもっと学びたいと思った」「事例が簡単すぎて退屈だった」「少しわかりにくかった」、第2回授業には「法律に興味をもった」「さらに学んでみたいと思った」「法律は助けにならないと思う」「法律を学んでも役に立たない」など、様々な感想が寄せられました。
 少年院という環境は、普通の中学・高校と違い受講者に年齢差があることなどが、授業の受け止め方の違いに表れているのではないかと「出張教室」では考えています。また、少年同士の議論が少なく、学生が間に入って議論を促す場面が多かったといえます。
(以上、報告より)
〈質疑応答などから〉
 委員からは、授業のカリキュラム上の位置づけやグループ編成、講師の口調など形式面のことから、授業の目的・意義など内容に関することまで、幅広い質問がありました。また、授業づくりの前提として、少年院という環境下における少年についての認識が重要であるという意見がありました。

2 高等学校における法教育の実践状況に関する調査研究について

 法教育推進協議会は、昨年度の中学校についての調査に続き、今年度は高等学校普通科について、法教育の実践状況に関する調査を行います。9月初旬頃までの調査票回収を目標に、委託業者が現在、調査票案を作成中です。業者から調査票案の説明がされた後、委員から文言や調査項目等の修正提案が多数出されました。今後、さらに委員からの意見を募った後、再度改定案を協議してから発送するという段取りが示されました。

〈質疑応答などから〉
 委員から、「高校現場の先生方にとって法教育とはどのようなものか、学習指導要領などをよく読めばわかるのですか?」という質問があり、文部科学省関係者から、「文部科学省として法教育の定義をしているわけではありません。法に関する教育の充実という書き方をしています。法教育の定義は、当法教育推進協議会で示されています。」という回答がありました。委員からは、「今回の調査は、高校の教員がどういうものを法教育と考えているかを尋ねるチャンスである」という意見が出されました。
 また、「現場には○○教育への負担感がある。しかし、これだけはやらなければならないということは学習指導要領に挙げられているので、教員は法教育をしている意識がなくとも、既に実践している場合がある。それを意識させてあげることが、負担感のない法教育の実践方法と考えるが、この調査票案ではギャップがあるように感じる。」という意見もありました。

3 中学生向け法教育教材作成について

 法教育推進協議会では、昨年度に行った中学校における法教育実践状況調査の結果を受け、これまで作成してきた中学生向けの法教育教材を現在の中学校教育のニーズにあったものに改訂することになりました。改訂版は冊子の形に取りまとめ、資料等を入れたDVDも添付して全国の中学校や関係機関へ配布する予定です。改訂等に当たっては、当協議会委員及び同広報部会の構成員から推薦された中学校教員等にお願いする予定とのことでした。

4 法教育マスコットキャラクターの募集に関する企画(案)等について

 昨年度に行った中学校における法教育実践状況調査の結果からは、法教育という言葉や概念、目的が十分に浸透していない、法教育教材に関する情報が不足している、法務省関係機関等の周知が不足しているといった現状が認識されました。こうした状況への対応として、広報部会では法教育マスコットキャラクターを募集し、応募作品数点から投票によりキャラクターを選出するという企画が提案されました。選出されたキャラクターは、教材や広報活動に活用されることになります。
 この企画の目的は、ステップ1として、キャラクターの募集及び投票を通じて、法教育への関心を促す。ステップ2では、キャラクターを使用した教材により、生徒に法教育に親しみをもってもらい、積極的な学びを促進する。ステップ3として、法教育の学習教材・リーフレット・イベントその他法教育関連の広報においてキャラクターを使用することにより、法教育に関する法教育推進協議会等の取組について一体性を高め、より効果的に周知を図る、ということです。以下が企画案の概要です。
・募集方法
 募集案内を法務省ホームページ・twitter に掲載する。
 主要な駅や美術大学等に募集案内の配布・掲示を依頼する。
 近隣の小中学校に募集案内の配布を依頼する。
・応募されたキャラクターから数点を選出する方法
 広報部会、法教育推進協議会委員による選考を実施する。オブザーバーとして専門家(美術大学教授等)から意見を聞くことも検討。
中学生以下からの応募のうち、優秀作品も別途選出する。
・投票方法
 検討中。
 投票案内は法務省ホームページ・twitter に掲載する。法教育実施の際など、法務省関係機関にも投票案内の配布を依頼する。10月4日(土)開催の法の日フェスタ会場で来場者に投票してもらう。
・投票結果
 結果を集計し、12月頃、法教育推進協議会において了承を得、キャラクターを決定する。優れた作品には、賞品等の贈呈を予定。

〈質疑応答より〉
 募集案内については、全国の法務局、弁護士会、司法書士会も活用してほしいという意見がありました。企画を進めることに異論はなく、マスコットキャラクター募集の方向に決定されました。

〈取材を終えて〉

 今回は、東京大学法科大学院生による少年院における法教育授業実践が報告されていました。法科大学院の学生にとって法教育を実践することの意義は既に認識されています。一方で、少年院の少年たちにとって、自分たちとあまり違わない年代の若者による授業を受けることの意義は授業後のアンケートからうかがうことはできませんでしたが、教育の効果はすぐに目に見えるようなものばかりではありません。個々の少年にとって、長い目で見て意義あるものになってほしいと願わずにいられません。
 昨年度に実施された中学校の法教育実践状況調査の結果が、中学校向け法教育教材の改訂や法教育マスコットキャラクター募集企画に反映されているのをみると、調査の意義を実感することができます。高校の法教育実践状況調査も、順調に進むといいと思いました。

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