江戸川区子ども未来館アカデミー「法律ゼミ」その6(民法編第3回)

 2014年12月21日(日)14:00~16:00、江戸川区子ども未来館「法律ゼミ」の第9回が開催されました。今回は民法編の最終回になります。これまで、席や名前を通して財産や人格の大切さ、財産の自由な交換について考えてきました。しめくくりはどんなお話になるのでしょうか。講師は、引き続き大村敦志先生(東京大学)です。

〈テーマ〉

「約束で「しくみ」をつくる~約束を守らせるには?~」

〈イントロダクション〉

先生:「夏の法律教室は前回で終わりましたが、トーマスたちとケグリンのお話は続きます。ケグリンの国では、物を交換するときにルールが決まっていましたが、サル山共和国とはちょっと違うかもしれないという話でした。今日もルールを作る話が続きます。どんなお話か見てください。」

〈授業前半〉

【ぬいぐるみ劇前半のあらまし】
 「夏の法律教室」が終わってから1週間ぐらい後の夏休み中、サル山小学校にカエル王国から本が30冊送られてきました。ケグリ王子が、トーマスたちにカエル王国のことをもっと知ってもらいたいと思って、プレゼントしてくれたのだそうです。3人は校長先生から本をどうするか聞かれ、とりあえずトーマスの家に運んでから考えることにしました。考えの流れは次のようになりました。

〔1〕トーマス・ヤスヒコ・リサは、話し合って10冊ずつ本を分ける。
〔2〕自分が読み終わった本は読みたい人に貸す。借りた人は、読み終わったら本を返す。
〔3〕3人が本を読んだ後に学校の図書室に寄付すると、他の学校の子どもは読むことができない。
〔4〕そこで、本は自分たちの物ということにして、他の学校の子や大人にも貸してあげる。

 そこへジュリア弁護士が加わり、学校の図書室のように、貸し借りのルールを決めた方がいいということになりました。本を置く場所はジュリアさんの仕事部屋で、貸し借り等の手続きができるのは日曜日の午後2時から4時までになりそうです。ジュリアさんは、決めておいた方がいいルールが他にもないか、考えることを3人の宿題にしました。ジュリアさんは、「自分たちの図書室はいいことばかりではない。」といいました。

 

【劇後】
先生:「トーマスたちは、自分たちの図書室を作り、みんなに本を貸すことを話していました。でも図書室にはルールが必要みたいですね。みんなの学校の図書館はどんなルールですか?」
子ども3:「静かにする。」
子ども4:「借りた日から1週間以内に返す。」
先生:「1週間って長いですか?」
子ども4:「ちょうどいいです。」
子ども5:「貸出期間は延長もできます。何冊借りられるかも決まっています。大きな休み以外は1冊ずつ。」
子ども1:「新しい本は借りられない。」
先生:「どうして?」
子ども6:「新しい本はみんなが読みたいから、借りていかないで学校で読みます。」
先生:「貸出期間や冊数が決まっていないと困るということですね。開いている時間はどうですか?」
子ども7:「毎日、学校があるとき。」
先生:「自分たちで図書室を作る場合に他に必要なことは?」
子ども8:「貸出の紙。」
先生:「そうだね。貸出しカードがあるよね。そういう物を作らないと。トーマスたちも話していたけれど、場所も必要だよね。他には?」
(シール、本棚が出ました。)
先生:「棚に本を整理しておくことが必要ですね。誰が整理するの?」
子ども9:「人。」
先生:「人が必要ですね。本を整理したり貸したりする人。そういうことを決めないと。そうやってルールを決めれば、自分たちの図書室を作れるでしょう。でも、最後にジュリアさんは「いいことばかりではない」といいました。それはどういうことか、考えてみましょう。」

【問】
「自分たちの図書館」の良いところ・悪いところを書いて下さい。良い点は青い付箋、悪い点は黄色の付箋に書いて下さい。

【付箋結果発表の前に―図書館のルールって何?】
先生:「付箋の結果を見る前に、ちょっと違うことを考えましょう。トーマスたちの図書室のルールって何なのか、考えます。ルールって何なのか考えるって、難しいけれど、トーマスたちの図書室のルールは誰がどうやって決めたのですか?」
子ども10:「トーマスたち。」
先生:「トーマスたちって誰?」
子ども10:「トーマスとヤスヒコとリサ。」
先生:「3人が集まって決めました。トーマスの本をリサが借りたら、1週間で返さないといけない。そういう約束を3人で決めました。トーマスたちの図書室は、この3人以外の人にも貸すけれど、他の人も1週間で返さないといけないですか?」
子ども11:「本を借りたら、ルールもついてくる。」
先生:「ついてくるって?」
子ども11:「本を借りたら、ルールに従わなければならない。」
先生:「本を借りるときは、そのルールに従うという約束をする。自分たちで図書室を作るとは、ルールを作ること。その図書室を利用する他の人もそのルールを守ると約束するということですね。」

【「自分たちの図書館」の良いところ】
先生:「良いところの方が少ないね。読みます。『みんなに本を貸すことができる。』『広くカエル王国のことを知ってもらうことができる。』」
子ども12:「自由に好きな人に貸せる。」
先生:「どんな人にも貸せるということですか、それとも好きな人に貸せるということですか? 嫌いな人には貸せないのかな?」
子ども12:「ダメなことをした人には貸さない。」
先生:「ああそうか。どんな人に貸すか、自分たちで決めることができるのですね。他に、『学校では平日だけだけれど、日曜にも借りられる。』というのがあります。」
子ども13:「自分たちで読みやすいように本を置くことができる。」
先生:「自分たちでより良い図書室にすることができるのですね。次のは面白い。」
子ども14:「街の人と知り合える。」
先生:「いろんな人が図書室に来てくれて、友だち・知り合いが増えるといういいことがある。他にも面白いのがあります。」
子ども15:「カエル王国のことをアピールできる。お金を取れる。」
先生:「電車好きの人いますか? 鉄道図書館があったら、行きたいよね? お金を取れるというのは、本を買うにはお金がかかるから、お金のことも大事ですね。」

【「自分たちの図書館」の悪いところ】
子ども16:「休日にみんなが旅行したら、本の整理ができなくなる。」
先生:「誰かがしないといけませんよね。本の整理が面倒というのもあります。」
子ども17:「本を借りた人が汚したり、壊したりするかもしれない。」
先生:「学校の図書も汚されたり壊されたりするかもしれないのは同じですね。でも自分たちの本だと、汚されたら悲しいということかな。他に、『人件費がかかる』とか『予算オーバーかもしれない』とか、『お金を取ると、来る人が減るかもしれない。』『開く場所が難しい。』」
子ども18:「みんなが知ることができなくて、来られない。」
先生:「学校の図書館や区の図書館があることは知られていますね。自分たちで作ると、知られないかもしれません。
 黄色の付箋(悪い点)が多かったけれど、これは自分たちで図書室を作るのは簡単じゃないということですね。手間とお金がかかる、大変、面倒だということと思います。だから学校や地域に図書館をもっています。でも反対に、自分たちの好きな本を集めて、どんな人に貸すか決められます。普通の図書館とは違うものを創り出すことができるという意見もありました。良いところもあるけれど、悪いところもある。トーマスたちは自分たちの図書室を作ろうとしています。良いところが多いと思っているからだと思います。でも、困ったことも起きます。次の劇を見てください。」

〈授業後半〉

【ぬいぐるみ劇後半のあらまし】
 3人はジュリア弁護士に手伝ってもらい、3人の「図書室」のルールを作って、お互いにこれを守るという約束をしました。そして、3人以外の誰でもこのルールを守る約束をした人には、本を貸すことにしました。3人は、この図書室を「けぐり文庫」と名付け、新学期からオープンさせました。
 ところが1か月ほど後、本を借りたゴリラのバルボーが、返却期限を1週間過ぎても本を返していないことがわかりました。貸出し係だったヤスヒコが学校の帰り道でバルボーを見かけたときに、本を返すように言ったところ、バルボーは「明日返す。」と言いました。ところが、返さないまま次の日曜に「けぐり文庫」にやってきて、違う本を借りようとしました。返すべき本を持ってくるのを忘れたそうです。ヤスヒコとリサは、前の本を返さなければ新たには貸せないこと、ルールを守れない人には本を貸せないことを伝えました。バルボーは怒って帰ってしまいましたが、このままでは貸した本を返してもらえません。どうすれば約束を守って返してもらえるのか、3人は困って、よく考えることにしました。

 

【劇後】
先生:
「いつまでに返すという約束が決まっているのに、バルボーは本を返さない。そこでどうしようかということが話題になっていました。バルボーの家に行って、持って来てしまうのは?」
子ども21:「良くないと思います。人の家に勝手に入るのはよくない。」
先生:「そこで別のアイデアが出ました。リサは、バルボーのアルバイト先(近くのコンビニ)のみんなに言いふらすことを提案しました。言いふらすのに賛成の人と反対の人、みんなの中にもいると思います。」

【問】
約束を守らないとみんなに言いつけるのは、良い方法ですか、悪い方法ですか?良い方法と思う人は青い付箋、悪い方法と思う人は黄色の付箋にその理由を書いて下さい。

【付箋結果発表の前に―どんな約束も同じように守らないといけないか?】
先生:「さっき、借りた本を返さないのはルール違反といいました。3人はバルボーに、借りた本を返してと言っていますね。ルールを破るのはひどいと。では、借りたものを返さないのと、逆に、3人がバルボーに次の本を貸さないのと、同じですか? 違いますか?」
→「違う」に挙手多数。
先生:「どこが違いますか?借りたものを返さないのと、貸さないのと。」
子ども22:「借りたものを返さないのは悪い。貸してくれると言ったものを貸さないのは、しかたないような気がします。」
子ども23:
「同じと思う。」
先生:「ちょっと難しいかもしれません。どんな約束も同じかというと、ちょっと違うかもしれない。トーマスたちは自分たちの本を返してもらわないと困る。バルボーは他で借りればいいかもしれない。約束は守らないといけないけれど、その程度は違うかもしれないという考え方があるかもしれません。」

【みんなに言いつけるのは良い方法という意見】
子ども24:「バルボーは体が大きくてかなわないから、周りの人に手伝ってもらえばいい。」
先生:「周りの人の力を借りたら、返してくれるかもしれないと。」
子ども25:「借りたものを返さないのは、泥棒と一緒だと思う。」
先生:「そうですね。でも貸してくれという物を貸さないのは、泥棒とは違うよね。他に、『バルボーもみんなに知られるのは嫌なので、態度を改めるかもしれない』というのもあります。」
子ども26:「ルールを守っていない人を罰さないと、他の人も守らなくていいと思うかもしれない。」
先生:「みんなに言いつけることが、バルボーに約束を守らせることになる。それが他の人にも約束を守らせることになる、という意見でした。」

【言いつけるのは悪い方法という意見】
子ども27:「バルボーのアルバイト先の人はトーマスたちを全然知らないから、嘘をついているか、いたずらかわからず、信じていいかわからないから。」
先生:「みんなが信じてくれれば、バルボーをひどいと思ってくれるけれども、トーマスたちが信じられていなければ、意味や効果がないという意見ですね。他にも効果がないという意見があります。」
子ども28:「アルバイト先の人とけんかになりそう。」
先生:「アルバイト先の人たちは関係ないし、言いつけてもうまくいかないということですね。それに対し、こういうのもあります。」
子ども29:「言いふらすとバルボーの印象が悪くなり、バルボーが困るかもしれないから。」
子ども30:「みんなに言いふらすと、本のことだけでなく、別のことでもバルボーが悪いと思われて、罰が倍になる。」
先生:「トーマスたちが考えていた以上の効果が出ないだろうかということですね。バルボーの人生が変わってしまうかもしれない、という意見もあります。」

【良い面と悪い面のおさらい】
先生:「評判を傷つけるとか、嘘と思われるという悪い面もありました。いい面を残して、悪い面を減らすことができるといいと思います。約束を守らせて、悪いことは減らす方法を考えることができたら、一番いいですね。」

〈今日のまとめ〉

先生:「きょうのまとめをします。お互いに約束をすることを通じて、ルールを作ることができます。物を交換するときだけでなく、仕組みをつくるために約束を使うこともできることを勉強しました。
 学校にサッカー部はありますか? 野球部は? サッカーはあるけれど野球部はないとき、自分たちでルールを作って、学校の外ですることもできるかもしれません。自分たちで仕組みを作って動かしていく。でも作るのは大変かもしれない。もう1つは、約束を守らない人が出たときにどうするか? という仕組みを作ることも必要です。言いふらすという方法は、みんなが評判を気にすることを利用して、約束を守らせるということです。それでも守らない人には、力を使う、権威を使うことを考えます。そのときも、このくらいの力を使えばいいかなと、程度を考えることが必要ではないかと思います。スポーツでは審判がいて、約束を守らせます。昔だと、村のおじいさんの言うことを皆がきくということがあったでしょう。
 実際の社会の中で、審判や村のおじいさんに相当するのは国の裁判所です。私たちは裁判所に頼んで約束を守らせることができます。一緒に約束をして、自分たちのルールを作ったのに守らない人に対し、守らせることを私たちの脇で裁判所が助けてくれています。
 私たちは自由に約束することができます。国がそれを許しています。裁判所が助けてくれることで、私たちの中にだけ通用する約束を、法律のような力を持つものとして作り出しているということです。今日の条文集を見てください。契約することで私たちはルールを作り出す。ルールを作ることで仕組みを作るということです。外国の法律にはそういうことが書いてあります。」

〈民法編全体のまとめ〉

先生:「全体の話をします。1回目には、自分の物と他人の物、自分の気持ちと他人の気持ちをお互いに大事にしようということから、ルールができました。物は財産、気持ちは人格といいます。自分の物と他人の物を交換することは契約といいます。交換でより良い生活をしようとすること、ルールや仕組みを作ること、これは法律がなくても、自分たちでできます。それを自治といいます。
 自分たちで約束して、自分たちのルールを作ることができる人のことを、市民といいます。私たちは市民として、自分たちのことを自分たちで決めます。これが民法の基本的な考え方です。この考え方を前提に社会ができています。それでも約束を守らない人には、何かの方法を使います。裁判所に頼むわけです。裁判所を使って約束を実現するには、私たちの社会のルールをはっきりさせたほうがいいということで、民法ができました。」

【図書館おすすめブックリスト】
1 約束について
『走れメロス』 太宰治/作、村上豊/絵(講談社)
『レンゲ畑のまんなかで』富安陽子/著、降矢奈々/絵(あかね書房)
『ハーメルンの笛吹き男』ロバート・ブラウニング/作(童話館出版)

2 図書館をテーマに
『ろばのとしょかん』ジャネット・ウィンター/文と絵(集英社)
『こないかな、ロバのとしょかん』モニカ・ブラウン/文 ジョン・バッラ/絵(新日本出版社)
『つづきの図書館』柏葉幸子/作 山本容子/絵(講談社)
『としょかんライオン』ミシェル・ヌードセン/作 ケビン・ホークス/絵(岩崎書店)

〈取材を終えて〉

 自分たちで文庫を作ることの悪いところは、「本を盗まれる」も多かったようにみえました。言いふらすのが悪い方法という理由にも、「警察に言えばいい」という意見がありました。これらは刑法の話になりそうです。先生は、話がそれないように、それらの意見を取り上げなかったものと推察しました。実際の授業づくりでは、そのような配慮も必要なことだと思います。
 最後に、「自分たちで約束して、自分たちのルールを作ることができる人のことを、市民といいます。私たちは市民として、自分たちのことを自分たちで決めます。これが民法の基本的な考え方です。」という大事なことを教えていただきました。これから子どもたちが、「市民」という言葉にたくさん触れていく機会があればいいと思いました。

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