法教育推進協議会傍聴録(第37回)

 2015年3月23日(月)14:00~16:00、第37回法教育推進協議会が法務省において開かれました。今回は、平成26年度に実施された高等学校等(普通科)における法教育実践状況調査の結果報告と、中学生向け法教育教材のリニューアルなど、5つの議事について話し合われました。そのあらましをお伝えします。(当日の配布資料より適宜引用させていただきます。)

1 高等学校等(普通科)における法教育の実践状況に関する調査研究の取りまとめ報告

報告者:株式会社エデュケーショナルネットワーク ソリューション事業本部担当者

 

【調査の目的、概要】
法教育の更なる充実・発展に役立てるために、全国の高等学校等(全日制普通科)を対象に、平成25年度を中心とした法教育の実践状況等を把握すること。対象は2,345校。調査時期は、平成26年9月25日~10月31日。回答数705校(回収率30.1%)。
うち、国立3、公立471、私立229。

【調査結果のまとめのあらまし】
〔1〕法律家や関係各機関と連携した教育活動について
 連携先を複数回答で選んでもらった中で、最も多い回答は「いずれの先とも連携していない」61.0%でした。それらの学校では、約半数が今後も連携は未定と回答しました。理由は、「時間的余裕がないから」「どのような連携が可能かわからないから」でした。
 連携には、「どのような連携が可能か」「他校の実践例」等の情報を、学校が年間指導計画を立てる時期までに提供することが必要と考えられます。
〔2〕教職員向け研修会等の状況
 学校内で研修会等を開催した学校の割合は4.8%、学校外で開催された研修会等へ教職員を派遣した学校の割合は7.2%でした。上述の学校に、現在課題と感じていることを問うと、学校内の研修会等については、「開催の回数・頻度が少ない」。学校外の研修会等については、「日時の面で参加可能な研修会が少ない」でした。一方、学校内で研修会等を実施しなかった学校・学校外の研修会に教職員を派遣しなかった学校にその理由を尋ねたところ、いずれも「時間的余裕がないから」が7割近くに上りました。学校外の研修については、「どのような研修会等があるのかよくわからないから」も約4割でした。
 教職員向け研修会等に関する要望には、「教育委員会が主催する研修に組み入れる」などの回答が目立ちました。教職員が研修を受けやすい環境整備が優先的に求められていると推察されます。
〔3〕法教育の取組みとその位置付け(学校全体)について
 公民科の学習指導をはじめ、各学校の実態に合った形で教育活動の様々な場面に分散され、実践されている傾向が確認できました。法教育への取り組み状況に対する認識を確認したところ、「やや充実させている」「あまり充実させていない」がそれぞれ4割近くを占めました。校種別(学校設置主体、共学・別学、高等学校・中高一貫の学校別)による差異はないといえました。自由記述による回答からは、いずれの学校ともに、学校生活の様々な場面で法教育に取り組んでいる様子が確認できました。
〔4〕法教育に関する学習指導の状況(教科等別)
 公民科・保健体育科(体育)・家庭科・情報科・特別活動について状況を確認したところ、主に教科の学習指導の中で実践されている傾向でした。特別活動では、他教科と比較すると関係各機関との連携は進んでいました。
〔5〕その他の取組み、要望について
教科以外で法教育に取り組む場合、総合的な学習の時間で実施することが多く、長期休暇中の課題や生徒指導の一環で日常的に取り組んでいる様子もうかがえました。
今後の法教育の充実に向けては、教科等の指導内容の範囲で充実させてほしいとの要望が多く寄せられました。文部科学省と連携して、学習指導要領における法教育の位置付けを一層明確にしてほしい、他校の取組みの紹介や教職員研修を充実させてほしいとの意見も見られました。他に、本調査を通して法教育への意識が高まったとの回答もありました。

【今後の方策等に関する考察】
 「法教育」そのものの概念や目的についての情報、実践方法や事例等の情報提供を一層充実させることが必要と考えられます。法教育を学校の教育活動全体の中でどのように位置付け実践することが可能か、また、教育活動の各場面で法律家や関係各機関とどのような連携が可能か等の、標準的な例を示すことが求められていると考えられます。多くの実践例の提供も期待されているといえます。教育委員会と一層連携した教職員研修、2単位時間程度の中で教科書の内容に即した教材の開発・提供も期待されていると考えられます。

〈質疑応答より〉
【連携に関して】
・関係機関が学校と連携する際には、学校から「頼みやすい」と思ってもらえることが現実問題として重要です。たとえば警視庁は必ず学校と連携するという方針で、管内警察署は平成20年頃から学校管理職・商工会と青少年健全育成会議をするようになりました。(東京都教育庁の委員)
・学校からの「連携先がわからない」という回答について、弁護士会・司法書士会共に、各地の担当部署から学校への広報をしているとのことでした。・関係機関同士の横の連携については、コーディネーターとしての役割を、以前は法テラスに期待するアイデアがありました。しかし、法テラスはマンパワー不足という事情があり、弁護士会・司法書士会との連携はしていても、地域の核にまではなれないという現状です。(法テラスの委員より)

【調査データの今後について】
・本調査のデータの使い方について、生データを、学校名を伏せる形で、研究者が利用できるようにするといいのではないか。法教育とはどういうものかについての認識が、学校毎・地域毎にずれる可能性について、全国一律に集計をすると違いが見えなくなります。さらなる研究により、都道府県毎の特徴や片寄りが見える可能性が考えられます。(大学の委員)

【学校からの要望に関して】
・調査には無難な回答をしておいたということが考えられます。学校から求められているものは、いわば「軽いもの」。ちょっとアレンジして学習の充実につながるものです。教材は、学校が使いやすいパッケージを作る工夫が大事だと考えます。(東京都教育庁の委員)

〈来年度の調査について〉
 平成27年度は商業高校や工業高校など,いわゆる実業高校が調査される予定です。今回いただいた意見は、今度の取組み等について参考にしたいとのことです。

2 中学生向け法教育教材の作成報告について

 今回の中学生向け法教育教材の作成は、2005年に法教育研究会として報告された4つの教材「ルールづくり」「私法と消費者保護」「憲法の意義」「司法」を改定する形で行われました。『法やルールって,なぜ必要なんだろう?~私たちと法~』(法教育推進協議会 2015年3月初版発行)という冊子(DVD付き)になり、全国の中学校で利用していただけます。新学習指導要領に即しており、現場で使いやすいと考えられるとのことでした。

3 法科大学院生による法教育活動の取組み状況等について

 慶應義塾大学法科大学院・一橋大学法科大学院の法科大学院生による法教育サークルが、それぞれ2015年の1月と3月に正式なサークルとして認可されたそうです。早稲田大学法科大学院でも、現在、同様のサークルを立ち上げ中。全国にサークル立ち上げが広がることが期待されており、今後実践の報告会の機会を検討しているとのことでした。
 法科大学院生の有志による自主的な活動は、これまでも東京大学・中央大学等で実践されています。2014年2月・3月には、法務省の橋渡しにより、少年院における法教育授業も実現しています。法科大学院生による授業の企画・実施に関しては、法務省で問い合わせ を受け付けています。

〈委員より意見〉
・法科大学院生が法教育に関わる意義はいくつかあります。法科大学院生が出身校に出向くことで、法律家養成の底辺が拡大する意義が一つ。法科大学院生としては、学んだことを人の前で発表する大きな機会となります。法の背後にある価値観を、子ども達と一緒に学ぶことも、法曹養成として大きな意味があります。学校側にとっても、教育実習生と同様、受け入れやすいというメリットがあります。また、法務省の非行少年教育プログラムの中にも入って行けるのではないかと考えられます。
今月、渋谷区立鉢山中学校で実践された國學院大学法科大学院・慶應義塾大学法科大学院・一橋大学法科大学院の法教育授業は、どれも50分間で全学年について行われました。学校の先生と法科大学院生が、学習指導要領に基づいて話し合いながら授業をつくりました。学校の実情を理解し、ニーズに合うようにすることが大事です。法科大学院生側のメリットと学校のニーズが合うところが、法教育普及の力になると思います。(最高検察庁の委員)

4 映画「ソロモンの偽証」と法教育施策とのタイアップ企画に関する報告について

 映画「ソロモンの偽証」のポスターについて、2014年に配給会社から法務省へタイアップの申し込みがありました。ルールの意義について、自分たちで考えることの重要性をマスメディアとの協働で広報できると考えたとのことです。このポスターは、2015年春の映画公開に向け、全国約1万校の中学校と法務省関係機関に配布されました。

5 法教育のさらなる普及・充実に向けた今後の取組み等について

・法教育マスコット・キャラクター選考に関し、特別審査員藤子不二雄A先生が選考会に関するエピソードを月刊誌ジャンプスクエア「PARマンの情熱的な日々」(4月号)に掲載していることが報告されました。
・3月5日に行われた広報部会において、法教育のさらなる普及・充実のための方策①、②が検討され、次回協議会に報告されるとのことです。
〔1〕広く法教育を知ってもらう取組み
 インターネットを活用した取組み。ツイッターでホウリス君がつぶやく。各種マス・メディア(テレビ、ラジオ)とのタイアップ。
〔2〕教員・児童生徒に直接働きかける取組み
 法教育ムービー(10分程度)の制作・配布。ホウリス君を自由に利用することを検討中(利用許諾申請手続きなど)。イベントの配布物として、ホウリス君グッズを作ること。

〈質疑応答より〉
【ホウリス君の活用法について】
・ホウリス君を裁判所の出前授業等で使えるよう、裁判所に情報提供したい。(最高裁判所の委員)
・裁判所・検察庁・弁護士会など関係機関で折り合いのつくキャラクター設定が大事だと思います。たとえばホウリス君の口癖などを統一したらいいと思います。(大学の委員)
・Law則君はせっかく子どもが作ってくれたキャラクターなので、ホウリス君単独でなくみんなファミリーで使用してはどうか。(大学の委員)

【外部講師に関して】
・学習指導要領には既に法教育が入っているので、学習指導要領どおりにしていればいいということがあります。もう少し内容を膨らませたいと考える学校が、連携をするということであるかもしれません。その他に、学校の特色を出すために法教育を行うということもあるでしょう。外部講師を呼ぶ際の基準は、口コミが一番です。教員の異動により、情報が広がります。確実に成果があり、打ち合わせで苦労しない連携先が歓迎されます。(東京都教育庁の委員)
・連携方法の1つとして、教育委員会が外部講師を呼び、予算をつけて手を挙げる学校を募る方法が考えられます。研究者としては、伝えるべき法とは何かを議論することが課題だと考えます。教材には、実践する人の裁量・創意工夫の余地を残しておくプログラムが大事だと思います。あまり細かいことまで決めないということが大切だと考えます。(大学の委員)

【中学校教材普及に関して】
・今回制作された中学校教材について、全国の中学校に配布するなら研修会とセットにしてはどうかと提案します。問い合わせがあれば、講師を派遣するとか、教育委員会と連携しながら研修に組み込むなどの仕掛けをした方が、一層広がると思います。法教育の新しいファン獲得の機会を作ってはどうかという趣旨です。(弁護士会の委員)

〈取材を終えて〉
 法教育実践状況調査は、一昨年度に小学校、昨年度に中学校と実施されてきて、今回は高等学校(普通科)の結果が報告されました。「法教育をやや充実させている」「あまり充実させていない」という回答がどちらも約4割とのことでしたが、1割強ある無回答を差し引くと、法教育は一通り広まってきているように感じました。高等学校も学習指導要領に法教育が位置づけられたことにより、学年進行に伴って充実感が広がる可能性があると思います。今後、課題として挙げられた教育委員会との連携が深まるように期待したいと思いました。
 ホウリス君は、早速、新しくなった中学校教材にも登場しています。今後、マスメディアを通して法教育の普及策が展開されるそうですが、どんな内容か、楽しみにしたいと思います。

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