東京都行政書士会法教育推進特別委員会主催「法教育シンポジウム~つなぐ、つなげる法教育~“あらゆる人に法情報提供を”」

 2015年3月26日(木)13:15~17:00、東京都行政書士会法教育推進特別委員会主催による「法教育シンポジウム~つなぐ、つなげる法教育~“あらゆる人に法情報提供を”」が東京都行政書士会館で開催されました。東京都行政書士会による法教育実践は年々広まりを見せ、シンポジウムでは東京都行政書士会の都内各支部から法教育に携わる会員及び法教育に関心のある会員が集い、一般参加者を含め80名を超える盛会でした。プログラムのうち、法教育活動報告と基調講演についてお伝えします。(当日の資料より適宜引用させていただきます。)

〈プログラム〉

第1部「行政書士会の法教育を考える。~法教育をつなぐ~」
 (1)法教育推進特別委員会からの報告
 (2)法教育実践支部からの報告
第2部「法教育のその先~法教育からつなげる~」
 基調講演
  「困ったときには図書館へ~図書館海援隊の挑戦~」
 パネルディスカッション
  「公共図書館における法情報・ビジネス支援情報提供活動について考え、法教育・法情報提供について考える。」

第1部「行政書士会の法教育を考える。~法教育をつなぐ~」

(1)法教育推進特別委員会からの報告
山賀良彦 法教育推進特別委員会委員長

【東京都行政書士会のめざした法教育】
 法教育推進特別委員会では、“支部主体の多様性のある法教育”を目指しました。教育委員会・学校・教員との打ち合わせと地域性を重視する法教育です。地域性とは、学校や地域の課題に即した指導案を作るということです。当委員会は、都内各支部を主体とした法教育活動を支援するべく、情報提供・助成金交付事業を行っています。東京都行政書士会33支部中、法教育に関する活動をしたのは32支部、法教育を実施したのは17支部でした。

【委員会による法教育活動―東京都教育庁と連携した法教育】
 都内公立小・中学校3校において、社会科(消費者の保護)および道徳(貸し借りと契約、図書館・公共のマナー)における法教育授業実施。
 教員との連携授業では、メインは教員で、行政書士はゲストティーチャーの位置づけです。事前に2~3回の打ち合わせを行い、授業内容の共有を行います。授業でゲストティーチャーには何を求められているのかを把握し、教員と価値観を共有することが重要です。教員との打ち合わせで重視したことは、法に関する最新情報の提供と「法」とは何かという問いです。その中では、立法趣旨、契約の歴史的な経緯等にも触れるようにしました。実際の授業での担当する時間は10分ぐらいです。限られた時間の中では、法とは何か考える部分を多くしました。児童・生徒が考える主体であることから、授業では子どもたちとの対話を意識しました。法教育を継続してつなぐいでいくことが大切だと考えます。

【大人向けには法情報提供】
 “あらゆる人に法情報提供を”という目標は法教育と法情報提供のつながりを意識しています。子どもに向けると法教育になり、大人に向けると法情報提供になると考えています。法をわかりやすく伝えるという意義においては、法教育と法情報提供はつながりがあるものと考えます。そこで、2014年度の会員向け研修会では、中央大学法科大学院教授や区立小学校校長、東京都教育庁指導部の方を講師に迎えて、「リーガル・リサーチ」、「学校教育」、「教育行政」に関する講座を実施しました。
 また、地域性を重視した法教育との関連から、地域の情報が集まり、生涯学習施設として意義を有する図書館との連携も意識し、横浜市中央図書館、東京都立中央図書館への訪問、図書館に関連したイベントへの参加等の活動を行いました。
 そのような活動から、大人向けですが、調布市立中央図書館と調布支部とで連携して行われた「相続・遺言に関する講座」実施への協力などへも派生しています。その他、法と教育学会での発表などの活動を行いました。

(2)法教育実践支部からの報告
 東京都行政書士会で法教育活動を行っているいくつかの支部から報告がなされました。
・世田谷支部
2014年度から法教育実施。区議会議員、小学校PTA会長経験者の会員とのつながり、校長会での法教育の説明等の活動から小学校でキャリア教育の一環として授業を実践。中学3年生向けには自転車についての授業を実施。
・立川支部
 2014年12月に「法の成り立ち」「法律には目的がある」「“職業選択の自由”に資格や許可が必要なことを理解してもらう」などの授業を実施。
・町田支部
 会員の子どもを通し学校と連携。「自転車のルール」「ペットボトルのラベルの秘密」などの教材で、きまりについて考える授業を実施。どうやって伝えるかを重視し、少しずつ謎解きをするといったように、授業では驚きを与えるよう工夫しています。
・北支部
 グループで話し合い活動をする際に、行政書士がグループリーダーとして入ることについて、法律専門家として子どもと直に話ができることに意義があります。子どもにとっては、「本物に触れる」機会であり、行政書士を身近に感じる機会となります。
・荒川支部
 荒川区は図書館に力を入れており、小学校で図書館法を用いて法解釈をする授業を実施。他に、「行政書士の仕事」というパンフレットを独自に作成し、配布。今後、法律とITをからめた授業の要望があり、検討中。
また、学校教育現場以外の例として、以下の報告がありました。
・江戸川支部
 江戸川区子ども未来館による法律ゼミで連携。毎月1回、1年間のゼミに会員が協力。
・武鷹支部
 武蔵野市の開放型図書館武蔵野プレイスで、小学校低学年向けの自転車交通ルールに関する講義と寸劇・○×形式のクイズを実施。
 その他では、地域性を活かし、複数の支部で合同して連携して実施した例の報告もありました(渋谷支部)。
また、継続的に実施している支部からは、学校やPTAとのつながりから授業実践をしやすい環境にあるという報告があった一方で、担当者の異動での継続性の問題、授業数が拡大した場合における教える側の体制(新しい人材の養成、新しい指導案の作成)の問題などについての報告もなされました(品川支部、新宿支部、中野支部)。
・港支部
 2015年度に法教育委員会を立ち上げ。町内会の活動に参加した折、小学校の校長に法教育授業の話をしたことがきっかけ。「買い物と契約」をテーマに生活と法律を考える授業を実施。
・杉並支部
 学校との連携にあたっては、教育委員会だけでなく校長会で「支部における法教育」のプレゼンを実施。支部のホームページをお願いしている会社の紹介により、小学校で「図書館のきまりで考えよう!どうして「きまり」があるんだろう?」授業を実践。講師はメインとサブの2人体制。講師の負担軽減と養成を同時に進めています。寸劇仕立ての行政書士のキャリア紹介は、2人体制だからこそできたこと。2人の打ち合わせなど、ペアならではの準備も重要です。学校の先生に「法教育とは?」と問われ、「1に、法の目的意識を理解する。2に、子どもに行動基準を与える。3に、規範意識を高める。」と説明し、理解をいただきました。
 授業後の子どもの感想としては、「きまりは堅苦しい、面倒なものと思っていた。授業を受けて、きまりは一人ひとりの自由を支えるものとわかった。」「きまりは生活を守ってくれるもの。きまりがないと、自由を奪われてしまう。」「行政書士は誠に苦労されていることがわかった。」など。

【調布市立中央図書館での大人向け法情報提供実践】
 法教育推進特別委員会と調布支部が連携をして、図書館で、「エンディング・ノート(終活)」をテーマとした講座を実施。いかに楽しく導入するかを考え、映像を使い、本の紹介もするといった工夫をしました。図書館に来ない人にいかに語りかけるかも課題ですが、来た人から周知されていくといいと考えています。

第2部「法教育のその先~法教育からつなげる~」

基調講演「困ったときには図書館へ~図書館海援隊の挑戦~」
神代 浩 文化庁文化財部伝統文化課長(元文部科学省社会教育課長)

【はじめに】
 2011年に「産学官民!! 情報ナビゲーター交流会」で山賀特別委員長に出会いました。この度は、図書館は社会の課題にどうアプローチしてきたかをお話しし、図書館のポテンシャルをもっと知っていただきたいと思います。

【わが国の図書館をめぐる状況】
 図書館数と職員数、貸出冊数は、昭和30年代から右肩上がりに増加しています。一方、職員のうち専任の割合は低下、1館当たりの資料費も減少しています。それなりに図書館の必要性はあるけれど、元気がないのではないかと認識しています。

【「ビジネス支援」という発想】
 1990年代末からニューヨーク公共図書館などの「ビジネス支援」という取組みが紹介されるようになりました。2000年には、ビジネス支援図書館推進協議会が発足。この協議会は、図書館のもつ資料やデータベース等を活用し、大企業だけでなく、市民の起業とNPOやSOHOを含むマイクロビジネス等の創業を喚起し、中小企業の支援をすることにより、地域経済の発展に寄与することを目指すものです。2006年の有識者会議報告では、「すべての図書館がレファレンスサービスを行うことが求められて」いるとされています。

【図書館の(古くて)新しい可能性】
 2008年暮れ、日比谷公園にできた「年越し派遣村」の対応に違和感を感じ、社会教育の出番はないかと考えました。社会教育課長になってから「図書館で何かできることはないか?」と呼びかけたところ、鳥取県立図書館の若い司書が「労働者の直面する問題と図書館のできること~離職から再就職まで~」という見事な図を作成してくれました。2010年1月、失業者などの貧困・困窮者への支援サービスに重点を置く全国の7つの公共図書館によるネットワーク、「図書館海援隊」が発足しました。

【その後の状況】
 サービス対象を課題解決支援全般に拡大し、「法テラス」と連携強化を発表。図書館で弁護士が法律相談を行う際、司書が内容に応じた資料を用意してサポートするような連携が少しずつ広がっていきました。派生ユニットとしてサッカー部(Jリーグとのコラボ)、リボン部(NPO法人キャンサーリボンズと連携したがん患者への生活支援)なども誕生。2011年東日本大震災に際しては、「被災地や避難者に対する全国の図書館ができること」を作成・公表しました。第一東京弁護士会作成「復興のための暮らしの手引き」を被災地等の図書館へ配布しました。2012年には、参加館が50館に増加しました。

【課題】
 館のネットワークなのか人のネットワークなのかが曖昧なこと、人事異動、世の中の動きに対応したサービスの改善・新たなサービスの創造、諸機関との連携強化、情報発信の強化、人材育成などが課題といえます。

【図書館海援隊の行政書士会との連携】
 今後、図書館の課題解決支援サービスと、行政書士の相談業務とのより緊密な連携が考えられます。たとえば、図書館を会場とする相談会、図書館の専門司書育成(ローライブラリアン養成講座)における行政書士の協力などです。

【ご紹介】
・「図書館海援隊」ウェブサイト
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/kaientai/1288450.htm
・『困ったときには図書館へ~図書館海援隊の挑戦~』神代浩(悠光堂,2014年)

〈取材を終えて〉

 第1部の報告から、東京都行政書士会の出前授業が都内の小中学校で広く実施されていることがわかりました。どうやって学校につながりをつけるのかは、法律関係諸機関が一様に頭を悩ますところだと思いますが、行政書士会は教育委員会を通すだけでなく、普段の仕事や地域に密着した活動(夏祭りなどへの参加等)をしているメリットを生かし、連携の努力をしていることもわかりました。教育関係に一度法教育について訪問活動をしても反応が薄ければ、再度チャレンジするという姿勢が素晴らしいと感じました。授業内容は「きまりがあるのは何のためか考える」ことをテーマに、地域ごとに身近な題材を学校と打ち合わせて、授業づくりしているとのことでした。
 基調講演の図書館海援隊の活動は、学校段階における法教育の先をどうすればいいかに関し示唆を与えてくれるものとして、興味深く感じました。法教育は本来、子どもたちのためだけでなく、法律専門家以外のすべての人のためにあるものなので、大人に向けては法情報提供からさらに広がっていいと思います。法テラスが図書館で講座を開いているとの報告は、心強いものだと思います。また、江戸川区の子ども未来館における行政書士が連携した子ども法律ゼミのように、図書館で子どもたちに法教育講座をすることも可能なことを考えさせられました。学校とは違う場で広く法教育を普及するチャンスが、図書館にあると感じました。

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