2015年度第二東京弁護士会ジュニアロースクール

 2015年8月5日(水)10:30~16:00、第二東京弁護士会による夏季ジュニアロースクール ―「B組のケン、逮捕されたってよ」―が弁護士会館にて開催されました。第二東京弁護士会のジュニアロースクールは、例年、事例を臨場感いっぱいの寸劇で見せてくれます。今回は、少年法がテーマとのことですが、タイトルが身近な印象だけに、かえって衝撃的な感じを受けます。参加した中学生は40数名。どのような内容になるのでしょうか、そのあらましをお伝えします。(当日の配布資料より適宜引用させていただきます。)

〈プログラム〉

10:30 午前の部
始業式
「ワイドショー しゅふのじかん」寸劇
コメンテーター紹介、少年による放火事件の報道、視聴者クイズ、コメンテーターによる解説、少年法の理念、放火事件の少年の処分についてコメント
11:30 ワーク:少年法についての理解を深めるため、班毎に議論
12:15 「ワイドショー しゅふのじかん」寸劇エンディング
12:30 昼食休憩(弁護士と一緒に弁当)
13:30 午後の部
少年による放火事件の振り返り
聞き取り調査:少年、父親、母親、学校の先生、親友、遊び友だち、店長
「少年をどのような処分にすべきか」班ごとに検討
15:40 班ごとに少年の処分内容発表
16:00 修了式

1 午前の部

〈ねらい〉
 午後の部の前提として、少年が逮捕された場合には成人と異なる手続となること、成人と異なるのはなぜなのかについて、理解してもらうことを目的としています。

〈始業式の様子〉
 中学生は6~8名ずつ、6つのテーブルに分かれて着席しています。
挨拶:第二東京弁護士会 法教育の普及推進に関する委員会 委員長
 「少年法という言葉は聞いたことがあるけれど、よく知らない、という人がほとんどだと思います。皆さんは少年。私は?(会場から「中年!」の声。一堂笑い。)成人といいます。午前の部では、少年法の理念や具体的な手続について、ワイドショー形式で楽しく勉強してもらいます。午後の部は、午前の部のワイドショーで報道されたとある少年事件について、皆さんが弁護士の助手として関係者にヒアリングしながら、この少年をどうすればいいのかを考える時間です。」

〈ワイドショーの4名のユニークなコメンテーター〉
あけみ:女性アーティスト。中学生の感覚に近いと自称していました。
可塑信次:元中学教員の教育評論家。保護司。少年の可塑性を信じ、熱く語りました。
アトワ:ジャーナリスト。アメリカで生まれ育った日本人女性で、少年法反対派。
青二才:若手弁護士。少年法に関する解説を担当しました。

〈少年による放火事件の報道のあらまし〉
 架空の市のスーパーで、閉店後の夜間に火災が発生しました。火災の原因は放火で、被疑者はスーパーのアルバイト店員でした。店員は高校2年生の少年Aで、既に逮捕されました。動機は、店長に叱られた腹いせだったらしいとのこと。店長は、消火活動の際に軽いケガをしました。同僚の話では、少年Aは普通の子で、あまり目立たないが、ぼーっと考え事をしているのを見たことがあるとのことでした。

〈視聴者クイズの様子〉

 ワイドショーの中で視聴者クイズをするという設定で、生徒が少年法に関する○×クイズに回答します。生徒全員に1枚ずつ、「○」「×」が表裏に書かれたフリップが配られ、キャスターの指示に従って頭上に掲げます。

【クイズ1:少年の逮捕、家庭裁判所とは何かに関して】
問1「少年は、悪いことをしても逮捕されない。」
問2「少年は大人よりも必ず軽く処分される。」
 正解は、2問とも×です。正解に続けて、番組コメンテーターの「青二才弁護士」により、解説がありました。
解説より要約「逮捕については、少年だからといって特別の規定はありません。なお、少年に男女の区別はなく、少女も少年に含まれます。処分については、万引きの例を取り上げました。同じくパンを1つ万引きしたという場合でも、大人はその日のうちに釈放されて何も罰を受けないこともあります。一方、少年は、場合によっては少年院に送られることもあります。」

【クイズ2:家庭裁判所の調査とは】
問1「家庭裁判所では、少年が事件を起こしたかどうかだけを調査する。」
問2「家庭裁判所では、少年の両親や学校の先生などから、少年についての聞き取りをすることがある。」
 正解は、問1が×、問2は○です。
解説より要約「家庭裁判所では、起こった犯罪についてだけではなく、どうして少年がそういうことをしてしまったのかも調査します。根本的な問題は何かを突き止め、どうすることがその少年にとって本当によいのか、判断するためです。調査官が、少年の家庭環境や生活環境、友人関係について関係者に聞き取りをしたり、少年鑑別所で心理テストをしたりします。それらの結果をふまえ、少年の周りの環境を整える必要があるか、という視点から判断します。「生活環境などを整える必要があること」を、少年法では「保護が必要」といい、普通に使う「保護」という意味とは少し違います。」

【クイズ3:家庭裁判所の処分に関して】
問1「家庭裁判所の処分では、どんな少年であっても一度は少年院に行かせる。」
問2「少年は悪いことをしても、少年法に基づいた処分をされるだけで、刑法に基く『懲役刑』や『罰金刑』を負うことはない。」
 正解は、2問とも×です。
解説より要約「主な処分は、『処分しない』『保護観察』『少年院送致』『検察官送致』の4つです。何もしていないときや少年の家庭環境が整っている場合などは、処分しません。『保護観察』になると、保護司に指導や監督を受け、決められた生活のルールを守ることが必要です。『少年院』は、少年が立ち直るための教育をする施設で、それまでの環境からいったん離して教育を受けさせるところです。殺人など、犯した犯罪が重大なため成人と同じ手続をする必要がある場合は、『検察官送致』になります。」

〈少年法の理念について:ワイドショー寸劇より〉
 少年法により、少年に対しては特別な扱いがなされる理由は、発生した事件の大きさのほかに、少年が処分によって立ち直る可能性があるかという点を重視するからです。少年は成人と違い、『可塑性』があります。『可塑性』とは、形が変わりやすいということです。適切な指導をすれば二度と犯罪を起こさない人間になる、それは社会で暮らすみんなの利益になると考えます。

〈放火事件の少年の処分についてコメンテーターの意見〉

あけみ:「放火は凶悪犯罪だ。少年が保護されるなら、可塑性のある自分は、大人でも保護されていいはずだ。」
アトワ:「凶悪犯の少年は、大人と同じ手続で裁くべきだ。少年法の処分では、匿名で顔も報道されないから、いつ少年院を出て自分の家の隣に引っ越してきても顔もわからず、怖い。」
可塑:「顔を出してしまったら、立ち直る可能性を潰してしまう。」

〈ワーク:3つの問について班ごとに議論〉
【問1:20歳未満の少年が、万引きをした場合、または、場合によっては死刑もありうるような殺人をしてしまった場合、あなたが『成人と同じ手続で裁かれないのはおかしい!』と感じたり、成人と同じように実名報道されるべきだと思ってしまうことはありますか?】

ある班の最初の意見
・万引きについて:少年法で裁かれるべき…3名、場合によっては成人と同じ…4名
・問いの殺人について:成人と同じ手続で裁かれるべき…全員

【問2:問1のように感じたり思ってしまうとしたら、それはどのような場合でしょうか?】
・万引きについて:万引きしたものや目的による

【問3:その理由は何でしょうか?】
・問いの殺人について:凶悪な犯罪だから。反省しても、殺された人は生き返らないから。万引きはお金を払えば済むことがあるが、人の命はお金には換えられないから。
各班に配属されたティーチング・アシスタント弁護士のアドバイス
 少年法が適用されないとは、保護されないということ、立ち直りの機会が与えられないことを意味します。万引きの場合も、罰金を払って終わりではなく、少年が万引きしないための環境を大人が考えることが大事です。子どもが変わる可能性を考えた上で、「保護」か「成人と同じ手続で裁く」か、2つの考え方について判断してください。
アドバイス後の生徒の意見
・実名報道はしないほうがいい。
・成人と同じ手続では裁かないほうがいいけれど、実名報道はされてもいい。被害者は報道されるのに、加害者の少年は報道されないのはおかしい。

班ごとの議論の後、6班全ての意見が発表されましたが、ほぼ似たような結果になりました。

〈ワイドショーのエンディング〉
 この放火事件のような事件が起きた場合、弁護士が具体的にどのような活動をするのか、青二才弁護士が説明しました。弁護士は少年の気持ちや行動を聞くだけでなく、反省を促したり、親には少年の将来について一緒に考えてもらったり、様々な働きかけをすることがわかりました。

2 午後の部:ワーク

 午前の部で報道された放火事件の少年をどのように処分したらいいか、参加者が担当弁護士のアシスタント役になって調査し、班ごとに処分について検討します。
(1)放火事件の概要
 ケン君は平成27年7月29日午後11時頃、他のすべての従業員が帰宅した後の無人のスーパーの裏手に集積されていた空きダンボールに、拾ったライターで火をつけ、スーパーの店舗に燃え移らせて全焼させました。この事件で、消火活動にあたった店長は、右手の甲に火傷を負いました。

(2)調査前の意見
「処分しない」…0、「保護観察」…3~4名、「少年院送致」…多数、「検察官送致」…6~7名

(3)ケン君と弁護士の2回目の面会寸劇より
 ケン君は、スーパーのアルバイトとしてレジ打ち・品出し・値札付けなどをしていました。普段から店長に、出社が遅いなど注意されていました。他の人は注意されないのに、自分だけなぜと思っていました。その日も居残りを命じられ、ムカついていましたが、なぜ火まで着けたのかわかりません。
 ケン君の家庭環境は、4人家族です。両親は共働きで多忙であり、母親とも必要なことを話す程度で父親とはほとんど話をしません。4歳年長の兄は国内有数の大学に行っていて、話をしません。
 学校では、親友が転校してしまい、今は夜中にゲーセンに行く友だちがいます。暴走族に興味はありません。美術部に所属し、中学時代は都知事賞などを貰っています。担任の先生は美術部顧問で、絵の道に進むことを応援してくれますが、父親には反対されています。だからアルバイトをしてお金を貯め、自分で美術大学に行くための予備校に行きたいと思っています。非行歴を聞かれると、沈黙。
(終了後、参加者には「第1・2回面会メモ」として、(1)と(3)に加え、客観的な周辺事情が記載された事件概要が配られました。)

(4)面談の目的・考えるべきことを確認
 少年を4つの処分のうちどれにすればいいかについて判断するため、調査面談をします。考えるべきことは、以下3つであることが説明されました。
〔1〕なぜ、ケンが事件を起こしてしまったのか
〔2〕同じことを繰り返さないためにどんな環境を与えたらよいか
〔3〕ケンが自分のやったことや結果の重大性を認識して反省しているか

(5)ワークの様子
・最初の10分間:班ごとにケン君から聞きたいことを確認しました。「火をつけた理由」「非行歴」「兄との関係をどう思っているか」「ライターが落ちていなかったら?」「計画性があるか」など、次々と意見が出ていました。弁護士からは、「処分を決めるには、更生のことも考えて」などとアドバイスが出ていました。「相手の話を聞くだけでなく、相手に対して働きかけを行うことも必要」という注意書きも、資料にありました。
・次の10分間:ケン君からのヒアリング
・10分間作戦タイム:ケン君からのヒアリングを踏まえて関係者との面談の役割分担・聞きたいことを班ごとに考える
・15分間面談(1回目):ケン、ケンの父、ケンの母、店長、担任の先生、親友、遊び友だちに対し、役割分担した班員がそれぞれ話を聞いたり、働きかけたりする
・15分間作戦タイム:1回目の面談の結果を持ち寄り、2回目の面談の準備をする
・10分間面談(2回目)
ケンは、小学生と中学生の時、1回ずつ万引きで補導されたことがあるそうです。母親は面談で、夫が自分やケンに暴力をふるうことがあったといっていました。父親は、「ケンが絵の道で食べていくという意見表明をするなら、応援する。その決意をちゃんと聞いてきて、自分に伝えてほしい。」などと要望していました。

(6)発表に向けた検討(15分間)
 ある班は、「保護観察」という意見が多数になりました。アドバイザー弁護士が、その理由や他の視点から考える質問をして、揺さぶりをかけます。
弁護士:「なぜ少年院送致にしないのですか?」
生徒1:「ライターは拾ったもので、計画性がないから。」
弁護士:「家は母親が留守がちだけれど、少年を指導できるのかな?家に戻して大丈夫ですか?」
生徒2:「家に戻した方が、家族で話し合えると思います。」
生徒3:「少年院に行くと、出た後が大変。」
弁護士:「午前中、殺人は大人と同じ手続にするべきという意見が多かったですよ。被害者の立場はどうですか?被害者は、許せないといっています。弁償の話は出ていましたか?」
生徒4:「父親は謝りに行っていないということです。」
弁護士:「ケンの反省は、自分で更生したいという気持ちが伝わりましたか?」など

(7)各班から処分とその理由発表
・全員一致で「保護観察」:3つの班。理由は、ケンが普段から家庭でストレスを抱え、学校でも孤独だったこと。本人は反省しており、将来の希望もあるので、もっと家族で話し合う必要があるから、など。
・「保護観察」が多数、「少年院送致」少数:2つの班。「保護観察」の理由は、ストレスがあった上、店長に叱られたことが原因だったと考える。本人が反省しており、家族や友人とのコミュニケーションをよくすることが必要だから。「少年院送致」の理由は、また同じことを繰り返すかもしれないから。父親との擦れ違いがあり、本人の気持ちを見つめ直す必要があるから、など。
・「少年院送致」が多数、「保護観察」少数:1つの班。事件の原因は将来への不安があったこと。背景には、父親の無理解と友だちの影響がある。過去に万引きを2回しているが、理由はわからないそうだ。今回の事件の理由もよくわからないという。よくわからないうちに、毎回事件を起こしているので、保護観察より少年院の方が適当と考える。

(8)講評、修了式
講評:「どの班もよく分析しています。正解はありませんが、判断に至るまでにいろいろなことを考えてくれました。関係者から話を聞き、両親に働きかけもしていました。今日みんながしたことは、「人を守る」ということです。「この子は変わらないだろう」と排除してしまうということがありますが、今日は排除しないで、相手と同じ目線に立って話し、「信じること」、「応援すること」をしてくれました。家族のことも信じて応援する。被害者の気持ちや権利も大事ですが、そこばかりに目が行くのでなく、孤立している人の理由・環境、反省しているかということを、ニュースなどを見たときにも考えてほしいと思います。」
 この後、チームワークがよかった班に弁護士役の弁護士から表彰状、ケンの気持ちを一番良く汲んで働きかけをしていた班にケン役の弁護士から感謝状が贈られ、修了証書が全員に渡されました。

〈取材を終えて〉

 午前中は、重大な罪を犯した少年には大人と同じ手続を求めるという意見が多かったので、午後の部はどうなるのかと思いました。参加した中学生は、手分けして関係者7人に時間いっぱいまで熱心に質問し、弁護士のアドバイスを聞きながら少年の将来について一生懸命考えていました。
 ところで、今回のジュニアロースクールには、中央大学法科大学院の法教育サークルが各班にアドバイザー役として協力しました。サークル創設時から指導を引き受けている第二東京弁護士会の額田みさ子先生を通し、13名の学生が法教育実践の体験に臨みました。秋には、自分たちが中央大学の附属中学校で法教育授業を実践するそうです。
 弁護士会のジュニアロースクールが、法科大学院生の「法教育教育」の場にもなっているのをお伝えするのは、今回が初めてだと思います。法教育のシーンが様々な展開をするようになってきたと感じました。

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