静岡大学教育学部附属島田中学校第63回教育研究発表会 その1

 2017年11月9日(木)11:10~12:00、静岡大学教育学部附属島田中学校「第63回教育研究発表会」より社会科の研究授業「開国と近代日本の歩み -新しい国づくりはこれでよかったのか」の模様をお伝えします。(当日の配布資料より適宜引用させていただきます。)

<今回の研究授業の狙い>

 静岡大学教育学部附属島田中学校では、生徒達に社会を生き抜き、よりよい未来を形成していく力を身に付けさせたいと「主体的に社会を創造する生徒を育てる単元開発」を社会科の教科テーマとし、「社会の形成に参加する力を育てる授業」をサブテーマに設定しています。今回の研究授業では、教科テーマの実践として、生徒を明治維新後の新生明治政府の大蔵大臣と設定することで、近代の特色を大観し多角的な見解から適正な予算案を作るという課題に主体的に向き合わせ、社会参加に必要な力を身に付けさせるということが狙いです。
 この単元は3つの段階(全10時間)で構成され、今回の授業は単元のまとめ(10時間目)でした。
【第一段階】富国強兵、殖産興業、文明開化等々、近代国家確立の過程を通して人々の生活の変化を理解する
【第二段階】世界の中での日本の立場を理解し、日本帝国憲法制定までの動きを理解する
【第三段階】「新しい国づくりはこれでよかったのか」自分の考えをまとめ表現する

【本授業(10時間目)の目標】
(1)近代国家の歩みを振り返りながら、軍事、教育、外交、産業について政策と関連づけながら、予算案を多角的に考え説明する
(2)近代日本の国づくりに関わった先人への関心を高め、現代社会とのつながりや、より良い未来を構想する態度(主体性)を身に付ける

<授業の進行>

(1)課題の確認
はじめに、先生が本授業の課題について再確認しました。
先生:「近代日本の国づくりはこれでよかったのか? を検証します。あなたは明治政府の大蔵大臣として、軍事、教育、外交、産業などを多角的に考え、各省が納得する近代日本にふさわしい予算案をつくりましょう。」

(2)各自の予算案を小集団で発表し、一つの意見にまとめる
(a)今回の授業までに、それぞれが決めた予算配分の根拠について、自分なりの考えをまとめた「新聞」を作成し、その内容をグループ内で発表しました。
Aさん:「武器だけ買っても強い国にならないから、人を育てる教育が重要だと思う。」
Bくん:「軍隊が強くなれば外交なんていらない。軍事予算を増やすべき。」
Cくん:「戦争をしないように、外交に力を入れて世界の国と友達になれば、植民地にされたりしないんじゃないか?」

(b)これまで学習してきた様々な政策や国内外の状況等と関連づけて各予算配分を説明できるよう、話し合いの途中、先生は小集団の様子を見ながら近代日本の状況を板書しました。
 先生:「中国のアヘン戦争の例もあるし、日本も植民地にされるかもしれない。ロシアの南下政策も気になるよね。」
 先生:「近代化のために、全国に学校を建てるのにはお金が必要だね。」
 先生:「資源の無い日本は、早急に産業を育てないと外国と並ぶ豊かな強い国にはなれないし、そのためには外国から技術者を連れてこないといけない」等々
(c)グループで合意した予算配分案と、予算の割合を高くした項目とその理由をホワイトボードに記載させました。

(3)発表
 ホワイトボードを使って、グループ毎に作成した予算配分案の発表を行いました。
(全グループではなく、特徴的なグループを先生から指名し発表)
Aグループ:「軍事重視」
明治新政府はドイツのモデルを採用していたことから、ドイツ同様に軍事で物事を解決する政治を選択しました。教育に予算をかけても効果が出るまでに時間がかかるが軍事はすぐに効果が出る。
Bグループ:「教育重視」(他グループに比べ教育に多くの予算を配分)
産業の予算配分が一番高いが、産業の発展には教育も重要だと考えました。外交はすべて英語だし、産業を発展させるためには外国から技術を学ぶ必要がありますが、それも英語だから。
Cグループ:「外交重視」(他グループに比べ外交に多くの予算を配分)
当時世界一強かったイギリスが世界一になれたのは産業革命に成功したから。国が強くなるための基本は産業だと思いました。日本にしかない産業があれば外交力も強くなれるけど、そのためには外国の力が必要で、当時の日本に技術者を呼ぶのはお金がかかるだろうから。
Dグループ:「産業重視」
官営工場で武器を製造して強くなる。産業と武力は両輪でなければ発展しないから。

 生徒たちは、自分たちとまったく考えの違うグループの発表を聞くことにより多角的なものの見方・考え方を知ったようです。
また、グループ案としても採用されなかった極端な少数意見を、先生が指名し発表させることで、更に違う視点を学ばせる工夫がされていました。
Xさん:「軍事だけを重視」
教育は無駄も多い、外交はちょっと技術をもらうだけ、やっぱり武力で国を守ることが大事。勝てば植民地を増やし国が豊かになる。
Yさん:「教育重視」
 外交も産業もすべては人だから。教育の効果は時間がかかるからこそ、急ぎ教育を発展させる必要があると思う。

(4)実際の予算とのギャップを考察する
(a)実際の明治政府の予算配分を生徒に開示し、自分の予算案と比較させながら、実際に国づくりに携わった先人の考えに思いを馳せるよう促しました。
先生:「なぜ明治政府はこのような予算をたてたのかな? これって戦争をする前提で予算を立てたみたいだよね。人口も少なく産業も無い日本だけど、戦争をしない前提で予算を考えたらどうなっただろうか?」
(b)実際の予算とのギャップについて、自分なりの考えを「新聞」の編集後記として記載させました。

(4)まとめ
先生:「産業や外交に大きな予算を割り当てていたら、戦争は起きていなかったかもしれない。予算をみると、その国がこれからどうしていこうとしているのかが見えてくるんだ。じゃあみんなは、今の政府が何に多くの予算を使っているのか知ってる? そういう視点で考えると、政治に興味が湧いてきたんじゃないかな。」
 政策と国家予算の関係を理解したところで、現代に考えを切り替えさせ、政治に関心をもつことの面白さ重要性を伝え、今回の授業をまとめました。

<取材を終えて>

 今回の研究授業は、直接的に法について学ぶものではありませんが、法教育の前提である「より良い未来を創るため、主体的に社会に関わろうとする意識」を醸成できるものでした。10時間をかけたからなのでしょうか、生徒の皆さんは、明治の社会情勢を踏まえた自分の考えを『予算』としてまとめ、その根拠を他者にしっかりと主張していました。
 今後、地理や公民の分野においても、社会的課題や未来を構想する内容を取り入れていかれるとのこと、生徒の意識の変化(主体性の発揮)を見ていきたいと思いました。

ページトップへ