第3回 高校生模擬裁判選手権 関東大会②
それでは、いよいよ試合の様子を見ていきましょう。
第1試合
検察側:桐朋高等学校 対 弁護側:公文国際学園高等部
・小山証人に対し弁護側は鋭い質問を繰り出します。
「お酒を飲んでいたのに車を運転して帰るつもりだったのですか?」→「はい。」
「借りたお金は被告人に返しましたか?」→「返したと思います。」
「暴力団アライ組の話をしましたか?」→「覚えていません。」
「被告人と力比べをしたのですか?」→「していません。」
「口論を被告人の家族に止められたのですか?」→「覚えていません。」
小山証人は弁護側の質問に「覚えていません」と答えることが多いようでした。
・被告人質問では、まず弁護側が質問しますが、検察側から次々と「異議あり」、「誘導ではないか」の声が出ます。検察官が質問する段になると、今度は弁護側から「異議あり」の声が出て、両校とも迫力のある応酬でした。
・論告では検察官は模造紙に8つのポイントを書き出したパネルを掲げ、被害者の証言は信用でき、一方で被告人の供述は信用性が低く、殺意があったと主張しました。
・弁護側の弁論では4つのポイントを挙げ、最後に「疑わしきは被告人の利益にして下さい」と主張していました。
第2試合
検察側:公文国際学園高等部 対 弁護側:日本学園高等学校
・検察官請求証人尋問で、検察官は小山証人の最初の調書と2回目の調書の内容が違う理由を尋ねました。ここで証人は「思い出したから」という理由を言っています。(検察側に有利。)
さて弁護側の質問が始まります。
「被告人と力比べはしていないのですか?」→(誤導であると注意されてしまいました。)
「鉄砲を持ってこいと言いましたか?」→(重複質問であるとの異議が出ましたが、重複していないとして異議は却下されました。)「いいえ。」
・被告人質問では、弁護側が用意した発泡スチロール製の散弾銃の実物大模型を使って質問が進められました。散弾銃の重さや撃ったときの衝撃から考えると、被害者を本気で撃つつもりであれば、しっかりと銃を構えるのが自然であると考えられるところ、被告人は銃を肩につけて構えなかったことを実演を交えて主張し、脅すために銃口を向けただけで殺意がなかったことを証明しようとしました。
次に検察官の質問が始まると、被告人はとても落ち着いていて、「その質問には先ほど答えました。」などと、弁護人が必要ないと思われるほどの受け答えでした。試合後の講評でも、審査員の方が「ハブとマングースの闘いのようだった。」と感心されていました。
検察官「小山さんがお金を借りに来たのはなぜですか?」→「わかりません。」
「仕返しを恐れて小山さんの喧嘩の誘いを断ったのですか?」→「はい。」
「怖いけれどお金を貸さなかったのはなぜですか?」→「・・・大丈夫だと思ったからです。」
「銃の安全装置をかけなかったのはなぜですか?」→「わかりません。」
「弾が入っていたら銃は重くなるのではないですか?」→「持った感じの重さは大して変わりません。」
途中、重複質問と「被告人の意見ではなく事実を訊くように」と注意を受けてしまいました。
・論告ではポイントが書かれたパネルを掲げて説明していました。「威嚇するのであれば空に向けて撃つこともできる。また、こちらを見ていない人に対して銃口を向けたところで脅しにはならないはずであり、脅しただけだという被告人の供述は信用できない」という論理に説得力を感じました。情状の余地がないことにも言及していたのが、第1試合と違って新鮮でした。
・弁論は、小山さんが調書で「撃てるなら撃ってみろ。」と言ったことになっているのに、法廷での証人尋問の際には否定しているので、小山さんの言うことは信用できないことを主張しました。
講評
20人の審査員の方々が、異口同音に高校生とは思えないほど立派な出来だったと褒めていらっしゃいました。異議の入れ方がうまい、反対尋問は臨機応変な判断が要求されるので難しいものであるが良くできていた、演技力が素晴らしい、などのコメントも多く聞かれました。
早口や声が小さいのは損になること。威圧的な尋問は裁判員裁判では反感を買う可能性があること。事実は奥が深いので、もっと見せてほしかったこと。身振りだけで調書に残らないので言葉で言い直すことが大切であること等がアドバイスされました。特に被告人役は難しいので、各校のエースを配役することが勝利の秘訣になりそうだとのアドバイスもありました。
今回の事件は被害者が被告人を挑発した事実があるとすれば殺人の動機の存在を立証する有力なポイントとなる一方で、情状面では被告人に有利になること、また、その挑発の事実が公訴事実の内容となっているにもかかわらず公判廷では検察側証人がこれを否定していること等が難しいところだったそうです。
シナリオをいったん自分の中に取り入れた上で、自分で思いめぐらせた質問・主張が光るそうです。“経験の裏打ち”と“思いをめぐらせる”の2つが重要ですとのことでした。
参加した皆さんが法曹になるかどうかにかかわらず、事実をきちんと見つめることは将来必ず役に立つので、今回の経験を通し、日本の将来のために頑張って欲しい、との激励もありました。
成績発表
優勝 湘南白百合学園高等学校(3連覇)
準優勝 公文国際学園高等部
各校の準備などインタビュー
公文国際学園高等部
公文国際学園の先生にお尋ねしました。参加者は社会科の授業でチラシを見せて募った有志の1・2年生だそうです。中間試験の終わった6月半ばから動き始め、実質的には夏休みに入ってからの2週間ぐらいで準備したそうです。
東京都立西高等学校
関東大会参加校で唯一の公立高校である都立西高校の生徒さんにお尋ねしました。
参加者は、1年生7名と去年もこの大会に参加した2年生1名で、社会科の先生の呼びかけに応じて集まった有志だそうです。
準備期間は、資料を受け取ったのは3ヶ月前くらいだが、実質的な準備期間としては2週間ほどしかとれなかったとのことです。
インターネットの掲示板などを利用して、皆で意見を出し合い準備を進めたそうです。
見せ方や与える印象に注意しながら準備をした、みんなが協力したからこそここまでできた、という感想を語ってくれました。
来年も一層のご盛会になることを期待しています。
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