千葉県弁護士会「夏休みジュニアロースクール」

2009年8月2日(日)午前10時から午後4時過ぎまで、千葉市生涯学習センターで千葉県弁護士会によるジュニアロースクールが開かれました。
中学生21人と保護者の方が参加し、模擬調停の学習が行われました。その様子を一日の流れに沿ってご紹介しましょう。
当日配布された教材から適宜引用させていただいております。教材は法教育委員会の鈴木大祐先生が作成されました。教材倉庫からごダウンロードできます。)

調停とは

調停という言葉はあまり聞きなれないかもしれませんね。
裁判所の仕事には刑事裁判、民事裁判、調停の3つがあります。
調停とは一般の人同士のトラブルを話し合いによって解決するために、裁判所(調停委員会)が間に入ってお互いの合意ができるように努力し、合意によるトラブルの解決を目指す手続きです。
どちらの言い分が正しいかを決めるものではなく、お互いのためになる解決策を出せるよう、当事者の言い分や気持ちを十分に聞いて進めます。
調停委員は、裁判官ではない一般の方が務めます。

契約書づくり

 まず一般の人同士のよくある契約について学びます。契約とは、法律的な効果が発生する約束をすることについて、約束をする人同士の間で、その意思を表示して合致させることです。しかし話しただけでは約束したことを証明できません。また細かい内容をもらさず取り決めることも難しいです。そのため大事な契約や複雑な契約をする場合には、契約書をつくります。
 具体的にアパートの貸し借りについて、賃貸借契約をすることにします。
①2人ずつテーブルにつき、各々貸し主と借り主役になります。各テーブルには弁護士が1人ずつ相談役につきます。
②物件の説明、貸し主・借り主の要望、家賃決定用の参考物件資料が配られ、それを元に両者の納得のいく契約書を書きます。
 貸し主の要望は6つ。ペットを飼うなら契約時に取り決めをしたい、騒音は困る、壁に傷をつけられるのは困る、外廊下に物を置かない、駐車場の賃料は別、部屋は空いているのでいつでも入居可、というものです。
 借り主の要望も6つ。ペットはある程度了解してもらえるといい、ギターを少々弾きたい(夜中や大きな音は控える)、壁にフックを取り付けたい、回収前の古紙や折りたたみ式自転車くらいなら廊下においてもいいでしょう、駐車場も借りたい、引越しの手配が済めばいつでも入居する、です。
③生徒達は皆さん初対面同士。まず自己紹介から始めました。始めはおとなしい感じでしたが、家賃のことになるとだんだん役柄になりきってきます。振込みの手続きなどということは弁護士さんにリードしてもらわないと難しいですね。「~はOK」ということはどう書けばいいか、表現の仕方もアドバイスしてもらい、契約書を書いていきます。

**********昼休憩(12時~1時15分)**********

講評

 どの班もきちんとできていて、感心されました。家賃は9万3580円という金額を出した班に、理由をインタビューするなど、ユーモアのあるシーンもありました。ちなみにその答えは、面積で割合を出したからでした。

調停

 いよいよ調停に入ります。
①「調停って何?」という資料が配られます。調停委員・当事者の役割、調停シナリオ、貸し主・借り主の考え方、それぞれのワークシートがセットになっています。
②班分けは主催者が決めます。午前中の貸し主・借り主役がそのままの生徒は左右のテーブルに、調停委員役になった生徒は真ん中のテーブルにつき、弁護士も調停官役になって3つの調停室をつくりました。貸し主班、借り主班は交互に調停室に入り、シナリオに沿って考えた自分の主張を調停委員に聞いてもらいます。
③調停委員は双方の言い分を聞き、評議をし、解決のための提案を考えます。これらをワークシートにまとめ、当事者を呼んで伝えます。双方をいっぺんに呼ぶか、片方ずつ呼ぶか、どのように説明するかはいろいろ工夫するということです。

調停シナリオ

 午前の契約書作りの事例の、借主が入居した半年後という設定です。
借り主は最初の4か月は約束どおり家賃を払いましたが、続く2か月分の家賃を払いませんでした。12月いっぱいで勤め先をリストラされ、収入がなく払えなかったのです。
貸し主はアパートを貸した後、歳を取った両親が体調を崩し、アパートを取り壊して2世帯のバリアフリー住宅を建て、両親と同居しようかと考え始めました。そこで、アパートの住人のうち、まずは、家賃を滞納しているこの借り主から出て行ってもらおうと思い、取り壊しのことと家賃のことを理由に退去を求めました。
しかし、借り主の方にも貸し主に言いたいことがありました。9月に台風がきて大雨が降ったとき、かなりの雨漏りでテレビと羽毛布団がダメになってしまいました。そこで貸し主に雨漏りの修理と、テレビと羽毛布団の弁償を頼みましたが、どちらもまだやってもらえていません。雨漏りは小雨程度なら大丈夫なので、借り主はビニールを当てるなどしてとりあえずしのいでいます。
借り主は家賃を払えなかったことは悪いと思っていましたが、雨漏りで困らされていたこともあり、「部屋を出て行きたくない、新しい仕事も決まったのでこれからは毎月きちんと家賃を払うし、滞納した家賃も何とかするから引き続き住まわせてほしい」と言います。
貸し主は借り主を相手に、アパートから出て行くことと、滞納した家賃を払うことを求めて、調停を申し立てました。

講評

 話し合いによって合意に至り調停条項を書けた班が1つ、合意できず調停委員会の決定に従うことなった班が2つでした。特に生徒同士の話し合いが白熱した班は、最後まで粘って決定し、皆さん疲れた様子でしたが、その熱心さに参観の保護者の方々も弁護士さん達も感心していました。実際の調停でも、譲り合うということは難しいとのことでした。
 夏休みの一日、保護者の方々は自分のお子さん以外の班の話し合いも熱心に聞いて回られた様子で、「リストラ」と「倒産」の違いをお父さんが説明しているシーンも見られました。親子共通の体験ができる、このような法教育の取り組みは素晴らしいことではないでしょうか。

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