日本教育社会学会 第61回大会①

 9月12日(土)と13日(日)、早稲田大学を会場に日本教育社会学会第61回大会が開かれました。日本教育社会学会は1950年、教育社会学の発展普及を期し、会員相互の研究上の連絡を取ることを目的に設立された学術団体です。研究活動の活性化と研究活動を通じた社会貢献を目指し、会員は研究者、学校教員の方々など約1,400名になっています。年次大会は「理論」「子ども」「青少年」「学校」「教師」「家族と教育」「地域社会と教育」などといった部会に分かれて、一般研究発表が行われています。(日本教育社会学会ホームページより)

1日目のテーマ部会「臨床的学校社会学のいま」を見せていただき、高校生のケータイ使用をめぐるルール作りに関する発表がありました。法教育と銘打たれてはいませんが、まさに法教育の目指すものが高校生の主体的活動として行なわれており、興味深いものでした。今後、法分野と教育分野の双方の連携のためにも、関係者の方々がお互いを知り合うことが有意義ではないかと思います。

臨床的学校社会学とは

 学校臨床社会学は学校社会学、学校臨床学、臨床社会学という3つの学問の潮流が合流したものと位置づけられています。「臨床」とはもともとの意味は「病床に臨む」というもので、学校教育の分野でいえば「問題状況に臨む」ということになります。学校社会学は個別テーマについて、社会学の理論や枠組みに沿った仮説を設定し、それを「データ」に即して検討するという「実証主義」的な研究と、「ある集団に属する人々が持つ文化の体系的な記述」を目指すエスノグラフィックな研究を代表とする様々な質的研究が共存しています(注)。学校臨床社会学は、この学校社会学を臨床的に応用するものと考えてよいでしょう。

テーマ部会「臨床的学校社会学のいま」より

「学校臨床社会学における「介入」法」
            発表者 金城学院大学大学院非常勤講師 今津孝次郎先生

【三つの「臨床」レベルと「介入」】

今津先生は学校臨床社会学における臨床レベルを
A:社会問題の一般的解明
B:当事者に即した個別社会問題の解明
C:当事者に即した個別社会問題の解明と処方
の3つに分けます。レベルCの主要な方法は「協働関係に基づく「介入」による問題解決」であり、今津先生は事例となった高校にCレベルによる介入をし、学校の何らかの改善を学校と研究者の共通の目標にして協働します。

【ケータイをめぐる高校生のエンパワーメント】

「事例はケータイ問題に苦慮するある高校が対象で、校則による「規制主義」の限界を克服するために、「生徒の自己規律主義」を導入し、ケータイのリスクに対する高校生のエンパワーメントを図る一つの実践の試み」です。

今津先生は「青少年への問題が生じると咄嗟の対症療法として何かと規制して解決しようとする方法が採られる」ことを「規制主義」と呼び、それをもって「子どもとケータイ」問題が果たして解決できるのか疑問を投げかけます。さらに「人間世界のコミュニケーションという広い視点からのケータイの位置づけ」と、「当事者である子どもの視点の反映」を考慮し、以下の三つの課題意識を持ちます。

一つは「外的な「規制主義」に対置しうる内的な「自己規律主義」を生徒自身が追及すべきではないか。それは子どもの内に自らのルールを確立することであり、保護者と教員はその確立の手助けをする任務がある」ということ。二つめは、「エンパワーする」とは「高校生が新しいメディアに操られることなく、自分達が主人公として器械をコントロールできるように」力をつけることですが、「全ての責任が生徒に求められるのではなく、大人たちのガイダンスとサポートは必要とされる」ということです。三つめは「高校生自身が改めてケータイを対象化して自分達のグループで様々な角度から調べ、その結果を簡単なハンドブックとしてまとめたらどうか」ということです。

(注)
志水宏吉「学校臨床社会学とは何か」苅谷剛彦・志水宏吉編著『学校臨床社会学』放送大学教育振興会(2003年)p.12~20

「日本教育社会学会 第61回大会②」ではいよいよ、「介入」のプロセスに入ります。

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