日本教育社会学会 第61回大会②
テーマ部会「臨床的学校社会学のいま」より
「学校臨床社会学における「介入」法」
発表者 金城学院大学大学院非常勤講師 今津孝次郎先生
(日本教育社会学会 第61回大会①)からの続き
【介入」のプロセス】
〔0〕クライエントとの出会い
名古屋市などで開かれた現職教員研修会で今津先生が講師を依頼され、ケータイ・ネットいじめの問題やケータイのリスクを話したことがきっかけで、興味を持った高校がさらに詳しい内容を聞きたいと依頼してきました。2008年2月の研修会で「高校生がつくるケータイ・ハンドブック」構想を提案し、この高校の実践にボランティア的に関わる「介入」的研究者として協働関係がスタートしました。
〔1〕問題状況のアセスメント
この高校は「ケータイは原則校内持ち込み禁止」ですが、「完全に守られてはおらず、プロフヘの問題ある書き込みも時たま発見されることがあって、学校はケータイ問題に苦慮して」いました。
〔2〕介入プログラム・デザイン
今津先生が研修会で提示した内容は、
①コミュニケーションから見たケータイ論、
②「生徒中心」の考え方に基づく「自己規律主義」による生徒のエンパワーメント構想、
③「高校生によるケータイ・ハンドブック」作成
という作業課題でした。
「ヒューマン・コミュニケーションを大事にしようという意見を持つ校長の後押し」と1年担任団の課題意識により、早期に作業に着手できたそうです。
〔3〕介入プログラムの実行
4月、1年生有志を募って②、③を推進。
6月、「ハンドブック」作成説明会。希望学習項目に沿いながら、生徒が興味関心に応じて選んだテーマごとに自主的に班を編成。夏休みとその前後に各班が自主的調査活動を行いました。教員、研究者は助言役を果たしただけということです。
9月、指導教員団の助言により、内部の第1回中間発表会。各班模造紙1~2枚に内容をまとめ、追加資料として何が必要か検討しました。文化祭で発表した班もあったそうです。
10月、調査・資料収集再開と、指導教員団の検討・助言により原稿化を開始。
11月、パワーポイントによる第2回中間発表会。
12月、集まった原稿をもとに第1回編集会議。指導教員団、編集協力者として今津研究室の大学院生も同席。
3月、「ハンドブック」完成発表会が1年生全員400名、保護者、教員が参加して開かれました。
〔4〕介入プログラムの効果測定
「効果測定には一定の時間経過を必要とする」ので、今大会の報告では3月の完成発表会終了後のアンケート結果(有効回答数398)から、「ハンドブック」に対する評価の一部が報告されました。「ハンドブック」全体の印象を有益性の点から尋ねた結果は、「大変+少しためになる」が全体の80.9%、「あまりためにならない」は10.8%でした。
「エンパワーメントの観点からすれば、こうした「ためにならない」と回答をする生徒のケースをさらに追及していく必要がある。-中略-生徒同士の間でピア・コーチングよってさらに詳細に教え合わないとエンパワーメントが実現しないかもしれない。」と今津先生の考察が続きます。
【「シェルパ」役としての現職教員大学院生】
「フィールドとしての学校の壁が厚い状況のなかで、いくら学校側にニーズがあったとしても、研究者が『介入』することは容易ではない。-中略-そこで、最近増えている現職教員の大学院生をシェルパ役として活用できるのではないかと考える。」「学校『介入』のシェルパは、その学校のメンバーであるとともに、学術研究への関心も強く、またその訓練をある程度受けているという点で、実践家と研究者の両面を兼ね備えており、『介入』する研究者の助手役ないし共同研究者となりうる存在である」と先生は言っています。この高校でも指導教員団の中に今津研究室の大学院生がいて、取りまとめ役を担われたそうです。
出来上がったハンドブックから
部会で配布された「高校生が作るケータイハンドブック」の実物を見ると、「Ⅰ ケータイの所持・使用の実態」の章では、「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」が調べてあります。
「Ⅱ コミュニケーションとメディアから見たケータイの長所と短所」では、ケータイはノンバーバル・コミュニケーションを表現できず、限られたものであることが指摘されています。さらにインターネットは匿名性ゆえに「いじめ」が起きやすく、誰でも簡単にアクセスできるので集団での暴言につながり、それが「人権侵害」、「名誉毀損」になるという記述もあります。
そして「Ⅴ ケータイ・ネットいじめ」「Ⅵ ケータイ・ネットのリスク」「Ⅶ ケータイ・ネットのネチケット」の各章でルール、マナー、モラルについて提案しています。愛知件警察のサイバー犯罪対策室を訪問して調べたり、「プロバイダ責任制限法」を勉強していることもわかります。
おわりに
このように出来上がったハンドブックを見ると、高校生たちが現代の情報通信について、その考え方から実際の社会の法律や自分達に身近なルールまで、おのずと法学習をしていることがわかります。大人による法教育ではなくて、大人は高校生をエンパワーし、生徒自らが法学習をしたことが素晴らしいと感じました。
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