東京都中学校社会科教育研究会‘09法教育フォーラムin東京①

 平成21年9月26日(土)13:30から、東京都中学校社会科教育研究会による「‘09法教育フォーラム(公開授業・講演会等)in東京」が港区立朝日中学校体育館を会場に開催されました。
東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会の共催のもと、当日は関東各地からの教員を始め、一般市民など合わせて約100名が参加し、予定時間を越える盛会となりました。

 内容は

第1部 公開授業「模擬裁判の評決は?」都内6校の中学校の生徒による裁判員裁判の評議の様子を含めた授業
第2部 講演会「法教育の充実に向けて」
講演者 大杉昭英先生(岐阜大学教授、前文部科学省視学官)
第3部 ワークショップ「明日から法教育の授業を実践するために」
      参加者全員が小グループに分かれ、弁護士の方などと意見交換

では、第1部の公開授業の模様からお伝えしましょう。

第1部 公開授業(13:30~14:50)

〈会場の様子〉

 体育館の後方半分に模擬法廷が作られています。ただし裁判官及び裁判員席に相当するのは机と椅子が6グループに分かれた、生徒達の席です。各班は6~8人で構成され、その中に都立高校生も1人ずつ、2、4、6班にはさらに弁護士も加わっています。中学生は朝日中学校のほか足立区、渋谷区、町田市、目黒区の公立中学校からの参加です。
 生徒には法務省のホームページにある模擬裁判教材から強盗傷害事件のシナリオ、ワークシートなどが配られています。参観者が周りをぐるっと取り囲んで立っています。

〈授業開始〉

先生:「裁判員裁判を知らない人いますか?」→誰も手を挙げません。
先生:「いませんね。では簡単に説明できる人?」
男子1:「6人の裁判員と3人の裁判官で裁判をする。」
先生:「はい、そうです。今日は朝日中学校の6人に模擬裁判をしてもらいます。皆さんは有罪か無罪か、考えながら見てください。シナリオの有罪の証拠になると思う部分に赤線、有罪とは言い切れないと思う部分に青線を引いてください。」

〈模擬裁判〉

廷吏、裁判官、被告、検察官、弁護人、検察側証人役の6人、全員が男子です。シナリオにあわせて各役柄の人がそれぞれ模擬法廷の席に立ち、台詞を読み上げます。シナリオはおよそ次のようなものです。

平成18年6月30日午後8時頃、東京都小川区辻1丁目付近を歩いていた杉浦よねさんが突然後ろから何者かに突き飛ばされ、現金5万5千円が入った巾着袋を盗まれました。突然だったので犯人の顔は見えませんでしたが、後ろ姿を見て、白っぽい長袖Tシャツを着た若い男だと分かりました。現金は、息子が、落とさないように封筒に入れ、封筒の口をホッチキスで留めていました。また、突き飛ばされた際に路上に転倒し、加療2週間の怪我を負わされました。

〈「無罪の推定」についての説明とワークシート記入〉

 模擬裁判が終わると、個人での1回目の判断を、その理由とともにワークシートに記入します。このとき先生は「有罪とは言い切れない場合、『疑わしきは罰せず』ということで、有罪でなければ無罪になりますから、無罪の証拠ではなく、有罪の証拠を判断の根拠にしてください。」と注意しました。

〈班毎に評議〉

 5分ほどでワークシート記入が終わると、各班で評議を行います。リーダーが裁判長役、副リーダーがメモを取り、他の人は裁判員になったつもりで、全員が意見を出し合います。
10分ほどで、出てきた根拠を発表します。

【有罪の根拠となり得る証拠】
・1万円札にホッチキスの針の穴が開いていたこと
・被告が尋ねていったという友人の名前を言わないこと

【無罪(有罪とは言い切れない)の根拠となり得る証拠】
・巾着袋や封筒に被告の指紋がないこと
・動機がはっきりしないこと
・一万円札の穴は偶然かもしれないこと
・長袖をいつまでも着ているのはおかしい
・20分で2km行くのはきつい

結果は有罪:3班、無罪:1、2、5、6班、決まらず:4班 でした。
 

〈弁護士からのアドバイス〉

 被害者のことをもっと考えてあげてください。一つ一つの事実をバラバラに考えるのではなく、全体の関連の中で考えて下さい。証言が嘘ということもあります。全体の関連性を考えるとそれが判断できることもあります。

〈2回目の評議〉

 6班の話し合いの様子を見てみましょう。
弁護士:「客観的証拠が大事です。お札の穴があることは?」
男子2:「福沢諭吉の左肩なら(封筒の上からホッチキスで留めたとして、穴までの)幅がありすぎるのではないか。」
先生:これ。(1万円札を出して見せてくれる。)
2回目の評議の結果は有罪:4班、無罪:1、2、3、6班、決まらず:5班 でした。

〈生徒の感想〉

・いろいろな人の意見を取り入れるということは難しい。
・裁判員に実際なったら、難しいと思う。
・人を裁くのは難しいが、意見を戦わせるのは楽しかった。
・大勢の人の中で自分の意見を言うことは、普段はなかなかできないので、学べてよかった。

 1回目と2回目で、有罪から無罪に変わったのが3班、決まらずから有罪に変わったのが4班、無罪から決まらずになったのが5班でした。少し厳しい見方に変わった人が優勢だったということでしょうか。

土曜日にもかかわらず授業に参加してくれた生徒に皆さんには、盛大な拍手が送られました。

「東京都中学校社会科教育研究会‘09法教育フォーラムin東京②」に続く

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