県立千葉高等学校の取り組み③

県立千葉高等学校の取り組み②」からの続き

〈ディベート実施の効果〉

試合後の生徒へのアンケートから主なものを見てみましょう。(5段階評価)

・ディベート授業への総合評価 4.45
生徒が授業を受け入れていることがわかります。
・ディベートを通じて自分が身についたと思う能力
「論題には多面的な価値基準があることを理解した」  4.51
「論題について肯定否定双方の知識がついた」     4.44
「準備の過程で論題を追及する意欲が高まった」    4.24
「準備の過程で論理的な思考力がついた」       4.03
「準備の過程で情報収集・選択能力が高まった」     4.00

・自由記述欄から

「今までは根拠もなく、偏った主観的な考えばかり持っていたが、ディベート授業でちゃんと両方の意見を調べて自分の意見を客観的に見つめれば、固定観念や持論から開放されて、意見が変わることを知った。」

「証拠を挙げ、論理的に考えて説明するように心がけるようになった。また分かりやすい文章を作ろうと努力したので、論文作成のコツがつかめた。さらにどう表現すれば聴衆に伝わりやすいかを考えるようになったし、人前で話すことに自信がついた。」

「集中力、傾聴能力がすごく向上したと思う。今までディベートというのは自分の意見を押し通すことが重要だと思っていたけれど、今回のディベートで、「言葉のキャッチボール(言葉を受け止め、その上に自分の意見を重ねて・・・の繰り返し)」が重要だとわかりました。」

他にも、「討論が怖くなくなった」「人と協力する力がついた」「採点表のアドバイスが嬉しいので取っておいてある」など、生徒達の成長を感じる感想が多く聞かれるそうです。外部審判として参加した卒業生は、「藤井先生の影響で法学部に進むことを決めた友達が多い」とおっしゃっていました。

〈藤井先生のまとめ〉

ディベートについては問題点も指摘されています。自分の意見と違う事例を調べれば調べるほど逆に意見に傾く、勝敗と論題の価値は違う、論争テクニックだけを磨いている、などです。しかし、まず自ら資料を調べる力が養われます。また、自分が肯定否定どちらになるかはくじで決まるため、自分の考えと逆の立場に立たなければならない場合、相手の考えることがわかりやすくなりという利点もあります。それが相手の質問を予想して想定問答集を作るのに役立ちます。試合では集中して相手の発言を聞くこと、的確な理解、人前で話す能力などを養うことができるので、他教科を含めた発表授業等に生かせるなど、多くの長所があります。生徒会活動や特別活動などにも応用して、ディベートだけで終わらないように工夫したいと思います。

〈取材を終えて〉

法教育について土井真一教授は「我々が直面している困難な課題を直視して、いま一度この社会のあり方を、法や正義あるいは公正という視点から、自分達の頭で考え直してみよう。そして、考えたことを言葉にして議論をし、みんなでよりよい在り方を探っていこうじゃないか、これが法教育の原点だと考えていただければと思います。」と『法教育のめざすもの』(2009年)の中で述べています。具体的にどのような能力が重要かということについては法的リテラシーとして、「第1に、公正に事実を認識し、問題を多面的に考察する能力、第2に、自分の意見を明確に述べ、また他人の主張を公平に理解しようとする姿勢・能力、第3に、多様な意見を調整し、合意を形成したり、また公平な第三者として判断を行ったりする能力」などが考えられるとのことです。

特に「聞くこと」は重要で、「人の話をしっかり聞く姿勢を身につけるということは、多様な人々が共生するための相互尊重のルールを体得する過程にほかなりません。」と述べています。また、「言葉によってお互いを理解し説得することによって社会を築く」ことが法の支配の拠り所であるともしています。

千葉高校のディベート授業はまさに、現実の日本の課題について調べ、自分の持論にとらわれずに多面的に問題を見、自分の意見を述べること、他人の意見を聞くこと、理解と判断をすることなどの能力を養う教育であるといえます。これは法教育の重要な基礎になると考えられます。1学期にこの授業を受けた上で、生徒たちは2学期の模擬裁判の授業にのぞみます。模擬裁判が楽しみですね。

藤井教諭は独自にこの授業の工夫をされて、千葉高校の「中高一貫教育校実施に向けた教材開発事業」の一環として、千葉県の「魅力ある高等学校作りチャレンジ支援」を受けていらっしゃいます。平成20年度には千葉高校として優秀賞を受賞するなど、その優れた取り組みが注目されています。

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