品川区立小中一貫校 伊藤学園 研究授業②
3年生の市民科の研究授業後、研究協議会が14:45~16:30に開かれました。
1~9年生までの全校の先生方と、区立大井第一小学校の副校長や3年担任などの先生方が参加しています。講師には区立品川小学校校長・品川区教育委員会市民科カリキュラム委員、品川区教育委員会市民科部長である浅木麻人先生が招かれました。
2時間に及ぶ熱心な協議会の中で、筆者の印象に残ったことをご報告します。(当日配布された参考資料から適宜引用させていただいております。)
研究主題
「小中一貫校において、児童・生徒の資質・能力を効果的に伸ばす指導法の工夫」
―「市民科授業を通して」言語活動を柱に―
第3学年 市民科「言いたいことは、どんなこと」
研究授業担当をした3・4年生部会から説明
昨年度は「言語活動の充実に基づく1~9学年の全教科・全領域での系統的な指導」に重点を置き、低学年団(1~4年生)では「大事なことを落とさず聞き、筋道立てて話すことができる」をテーマに研究を進めてきました。その成果と課題を再度見直すために、今年度3・4年生部会では3・4年生児童223名の実態調査を行いました。その結果は、
・児童はわかりやすい話し方や正しい聞き方をできると感じているものが意外に多い。
(はい:33%。どちらともいえない:37%。いいえ:30%)
・相手に上手に伝える方法(技術)を知らない。
というものでした。
この調査から得られた課題を部会で話し合い、「効果的な伝え方」「正しい言葉の理解と活用」を研究の中心として考えることになりました。系統性は言語活動につながる単元を再度見直し、4年生の「何を伝えたいの?」につながる単元として3年生「言いたいことはどんなこと」を取り上げました。
参加した先生方からの意見・感想
各学年、特別支援教育学級、大井第一小学校の先生方からの意見・感想です。
・1・2年生の市民科では「相手の方を見て話す、聞く」「相手の目を見る・うなずく・質問する」という能力の育成をしています。それらは頭ではわかっていても、難しいものです。(1,2年生の先生)
・ゲームのやり方、順序、指示に使う言葉、ポイントなどを説明しておいたほうがよかったのでは。(同様の改善案多数)
↓
今回はまず何も指示しない素の状態を見ていただきたかったので。言うとできてしまう子どもたちなので、あえて言わない方がいいと考えました。
・英語のインフォメーションギャップというゲームと似ています。インフォメーションギャップは、ペアで相手が英語で言うものを絵に描くというものです。日本語でそのようなことをやってくれていると助かります。小学3年生で相手の右左を考えている子がいるのに驚きました。(8,9年生の先生)
・「気持ちを伝える」と「具体的なことを伝える」は違います。相手がどうわかっているかは、相手の表情、目の輝きから把握します。そういう情緒的な面を考えると、いい授業でした。相手のことを考えることが人間関係に大切です。ソーシャルスキル・トレーニングの参考になりました。(特別支援学級の先生)
・質問:「上手に話す」とはどういうことでしょうか。(9年生の先生)
↓
回答:「わかりやすく」「具体的な言葉を詳しく付け加える」ということです。「上手に」というと子どもが萎縮してしまうので、出さない方がよかったと思っています。
・ワークシートを書いてから発言させる方法もあります。(大井第一小の先生)
講師の指導
小中一貫校ならではの協議会では、小学校の先生だけでは聞けないような意見があってよかったです。伊藤学園の研究体制は非常にしっかりしています。言語活動の充実は大変重要で、去年の研究活動もあり、いい言語環境です。
①市民科のポイントは子どもが「面白い」と食いつく授業です。自分とつなげられるように、「切実感のある題材で言語活動をさせる」ということが重要です。
(授業担当の栗原先生は放課後の「すまいるスクール」の時間に、ブロックが子どもたちに大人気なのを見て教材にしようと思いつかれたそうです。)
②なぜうまく対話ができないか、という発想が素晴らしかったです。
③市民科は行動化が大切なので、「これだけできるようになった」と実感がもてるようにすることがポイントです。そのため活動状況をリサーチすることが大事です。
④リサーチするためには、児童を3~4人グループにして、話す人と聞く人の他に「リサーチする人」をつくるといいです。この学習のポイント(ターゲット)は、うなずき・聞き返しのやり取りの大切さを理解することなので、最初は聞き返しなし、次は聞き返しありでやらせてみてもいいでしょう。
⑤市民科はステップ4の日常実践・活用が最初です。ステップ4での活動をステップ1で示しておくと学習目的の見通しがもてていいでしょう。
⑥PISA型学力(OECDの学力調査)では、情報リテラシーや異質な集団と交流すること(争いの解決など)が重視されます。新しい時代のコミュニケーションを育む学習を考えることができるのはこの伊藤学園です。
取材を終えて
法教育では聞くことがまず第一と言われます。今回、小学校の低学年で話すこと・聞くことの授業を見せていただき、この協議会を傍聴して、コミュニケーションの基本を思い出させていただいた思いがしました。それは特別支援教育学級の先生の言葉にあるように、「相手の表情・目の輝きから相手がどうわかっているかを把握する」ということです。私たちは日頃、そのようにして相手の反応を確認しながら対話をしているのではないでしょうか。そして相手がよくわかっていなそうだったら、もっと詳しく説明したり、質問をしてみたりします。当たり前のことになっていて気付かないでいるかもしれません。しかしそれに気付いていれば、逆に自分の言いたいことがわかってもらえない場合、自分の方にそういう配慮が足りないのではないかと考えることができます。
高校生模擬裁判のとき、「法廷では言葉で言われたことしか記録に残らないから、言葉で言うことが重要です」という審査員の方の言葉がありました。法教育では、学年が上がるほど論理的に話すことに注意が向きがちです。けれど論理以前の、「聞く人の態度ひとつ」で対話が途切れてしまうこともあれば、逆にもっと豊かに展開する可能性もあるということは重要ではないでしょうか。小学3年生の子どもでも、「相手が話しづらそうなとき、優しそうな声で話してあげる」という配慮に気付いていることは素晴らしいことです。大人になっても、コミュニケーションは論理だけではないことを忘れないようにしたいものです。
小学校低・中学年の間にこのような情緒面も含めたコミュニケーションの基本がしっかり身についていれば、その先の積み重ね、人間関係形成が実りあるものになることでしょう。
このように市民科は法教育よりも広い概念ですが、それが将来の法教育の基礎になると考えられます。
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