さいたま市立蓮沼小学校 研究発表会①(授業編)

2009年10月16日(金)13:00から、さいたま市立蓮沼小学校で特別活動の研究発表会が開催されました。当日のプログラムは公開授業・分科会・全体会シンポジウムの3部から構成されています。東北から沖縄まで全国各地の学校から参観者がみえ、体育館が一杯になる盛会でした。
当日配布されました資料から適宜引用させていただきながら、6年生の法教育を中心にお伝えします。

研究主題について

 研究主題:豊かな心をもってよりよい人間関係を築く子の育成
     ~特別活動によるコミュニケーション力の育成を通して~

 蓮沼小学校は平成20・21年度文部科学省「道徳教育実践研究事業推進校」の委嘱を受け、研究に取り組んできました。児童は学校生活場面で、特に人間関係において問題の解決法を見出すことができずに、よりよい集団活動を阻害する場合もあります。そこで「なすことによって学ぶ」ことを指導原理とする特別活動を中心に、道徳教育の推進を研究することとしました。
 特別活動の中心は学級活動であり、「活動題材」という考え方で学級会の蓮沼スタンダードを作り、取り組んでいます。「活動題材」とは、子どもたちが課題を見つけたところから始まり、話し合い、実践し、そしてふり返りをするまでの一連の活動全てをひとつの流れと考えたものです。
 6年生の望ましい児童像は「役割を担う子 信頼し合う仲間たち」と設定されています。5年生からの持ち上がりのクラスで、人間関係がある程度固まり、友達も自分と同じことで悩んでいることを知らない・相談できないままの状態を、「仲間」や弁護士とともに考え、話し合って解決を目指します。弁護士に、子どもたちが考えた意見やルールが社会生活を形成する上で法律につながっていることや、話し合うことが人権の尊重につながることを示唆してもらうことにより、子ども自身も社会を構成する一員であると感じられ、望ましい児童像に結びつくのではないかというねらいです。

埼玉弁護士会の法教育の考え方

埼玉弁護士会では、法教育は「共に生きる知恵を学ぶ」ものと考えています。これまでのルールづくり中心の法教育よりも、人権を配慮したものにすべきであるとの方針のもとに、「考える法教育」を目指してきました。この「考える法教育」として、近時、紛争解決の手法として提唱されている「対話型調停」という方法がふさわしいと考えました。この対話型調停とは当事者の話によく耳を傾け(傾聴)、争いの根底にあるものを深く掘り下げ、広い社会的文脈でこれを捉え直し、人間関係のより高次の調和につなげていくというものです。
 小学生の法教育は、ルールづくりよりも、上記のような「対話型調停」を応用して弁護士の助言により、子どもたちの身近な問題をみんなで対話を通じて解決を模索することがふさわしいものではないか、と提案しました。これに対し、蓮沼小学校の今村校長先生が特別活動として行っていることと同一であることを示唆され、ここに埼玉弁護士会と蓮沼小学校との法教育の協働作業が始まりました。

当日の授業

6年3組 (13:45~14:30) 33名(男子17名、女子16名)
学級活動
題材:「学級・学校における諸問題や疑問の解決法」 場所:ふれあいルーム
 教室の前の黒板には、この題材の一連の流れを子ども達が紙に書いたものが張り出されていました。

1 2

3 4

5 6

今日の授業は、上のうちの4番の部分にあたります。

児童は、自分たちの教室から各自、自分の椅子を持ってきて、6班に分かれて輪になっています。弁護士は各班2名ずつ児童の間に入るように座っています。
先生:「では皆さん、立ってください。挨拶ジャンケンをしましょう。グループの誰でもいいから挨拶し、ジャンケンして勝った方から自己紹介してください。」

先生:「弁護士さんは困ったことを一緒に考えたり、助言してくれたりする専門家です。話し合えば何か光が見えてくるかもしれない、それが今日の授業です。その後でどんなことができるかまた話し合って、取り組みます。今日は自分と違う意見を聞くことも大切です。司会さん、手を挙げて。周りの人はサポートしてあげてください。意見は手を挙げて言うようにしてください。」
 事前の活動は、先週10月6日の6年1組・2組で行なわれた研究授業の流れと同じです。すぐに各班司会者のリードのもと、まず一人ずつ自分の意見を述べていきます。

テーマ別話し合い

071班:テーマ「クラスの人が無視されたり、嫌なことをされている時は」
   話し合いの柱Ⅰ~クラスの人の悪口を言う人を無くすには~
   話し合いの柱Ⅱ~気に入らないことに文句を言う人への対応~
(子どもたちが意見を述べた後)
弁護士:「例えばここの5人で『そういうのはやめようね』と話し合って、そういう人を少しずつ増やしていけばいいのでは。クラスで話すときは、先生とも話し合い方を相談したらどうでしょう。一人の人を責めるのではなくて。」
男子1:「グループを混ぜてしまうように、みんなで遊ぶのもいいと思う。」
男子2:「いじめている人をいじめてみれば?そうしたら、いじめられる人の気持ちがわかってもらえるかもしれない。」
弁護士:「そんなことできる?いじめられる人の気持ちを考えてというのはいいことですね。」

2班:テーマ「友だちとの関係~みんなと仲よくするために~」
   話し合いの柱Ⅰ~グループ化から話しやすい環境にするには~
   話し合いの柱Ⅱ~人により態度を変えず、みな平等に接するには~
司会:「金曜のラッキーランチデーに、同じアンケート項目を選んだ人と一緒に食べて話すのがいいと思います。」
女子1:「週1回、クラスで話すとか、レク係りを中心に遊びを考えるのがいいと思います。」
男子3:「自分から行動することが大切だと思います。挨拶をすると友達が増えるでしょう。」
女子2:「挨拶を心がける、イベント係中心になって遊ぶ、みんなが外で遊ぶようにするなどがいいと思います。」
男子4:「みんなと話すようにするとか、自分から声をかけたりする。係が中心になって友達と遊ぶなどがいいと思います。」
女子3:「みんなと遊ぶようにするのが大切。」
女子4:「挨拶をして、話をするようにするのが大切だと思います。」
弁護士:「クラスの中にグループができているのね?男子と女子で違いは?」
司会:「男子はそうでもないけれど、女子はグループで固まるのが激しいです。」
弁護士:「一人ぼっちの子もいるの?」
女子:「はい。」

3班:テーマ「なぜ学校に遊ぶものやお金を持ってくるのはいけないのか」
   話し合いの柱Ⅰ~休み時間だけに限ればいいのになぜダメなのか~
   話し合いの柱Ⅱ~遊び道具など持ってきて起こる問題点があるか~

4班:テーマ「中学について」
   話し合いの柱Ⅰ~先輩と接するにはどうしたらいいのか~
   話し合いの柱Ⅱ~勉強について(難しさ、英語、数学など)~
(話し合いが進んで、他の小学校から来た人たちと仲良くするにはどうしたらいいか、という展開になっていました。)
弁護士:「小学校でもクラス替えがあるでしょう?それと同じようには考えられない?」
女子5:「クラス替えは2年に一度だから、自然に仲良くなれるけど、中学校ではそれまで全然知らない人たちと同じクラスになるから…」
弁護士:「小学校のクラス替えと同じようにはいかないと思うわけね?」
男子5:「できることからするのがいいと思います。挨拶をするとか。」
弁護士:「挨拶はいいですね。」
(この他にお楽しみ会をする。例えばハロウィンパーティーなど。挨拶をして話しかけ、少しずつ慣れていくなどの意見が出ました。)
弁護士:「少しずつ慣れていくというのはいいですね。友達の輪を移るのではなく、広げていけばいいですね。」

5班:テーマ「通学班が存在するのは?問題が起こったときの対処は」
   話し合いの柱Ⅰ~通学班があるのはなぜか~
   話し合いの柱Ⅱ~時間を守らない・話してばかりの人への対応~

6班:テーマ「学力が違うのに、同じ授業内容をすること」
   話し合いの柱Ⅰ~なぜできる人に学習の制限を設けるのか~
   話し合いの柱Ⅱ~学力の違いがある場合どうすればいいか~

ワークシート記入〉(終了8分前)

先生:「ではそこまでにして、話し合ったこと、特に印象に残ったことをワークシートに一つだけ記入してください。弁護士さんも書いてください。」

各班の司会者より話し合いの成果発表

1班 グループのリーダー的存在の人の仲間に注意したらいいのではないか。
2班 子どもと大人の視点は違うと思った。こういう機会を持てたことはとてもよかった。
3班 ゲームを学校に持ってきて、もし人のものを壊してしまったらどう責任を取るか、わかってよかった。
4班 いろいろな意見を聞いて、自分の考えが広がった。
5班 いろいろ意見が出たが、もとの通学班が一番いいと思った。
6班 勇気を出して手を挙げるのが恥ずかしい人もいるが、自分なら手を挙げるほうがすっきりする。話せてよかった。

先生:「解決策が出たところは?」→1、4班
先生:「話し合えてよかったという意見がありました。実際取り組めること、できることをやって振り返り、弁護士さんに報告できるようになるといいです。最後に弁護士さんから一言、班毎にまとめて終わりにしてください。」

2班のまとめ

弁護士:「挨拶をする、係りの活動、休み時間の遊びなどいろいろな意見が出てよかったと思います。せっかくだから、係りの人、提案のように遊びをしたらどうですか?まず一歩踏み出してみてください。遊びのとき、一人ぼっちの人に声をかけるとか、違うグループの人にも声をかけるルールを作るとか。」
先生:「応援するよ。」

 他の班でも様々なまとめが行なわれたようです。この授業では、6日に行なわれた6年1組・2組の研究授業の成果を活かし、その場で意見を言いづらい児童は、前もって作っておいたメモを見ながら話すように工夫していました。授業の始めにジャンケンで自己紹介をし合ったのも、緊張感をほぐす工夫でよかったようです。
 この後は分科会が行なわれます。

さいたま市立蓮沼小学校研究発表会 その2(分科会編)へ続く

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