NHK裁判員制度関連報道①

 2009年11月26日(木)夜7時30分のNHKテレビ「クローズアップ現代」で、裁判員制度開始半年にあたり裁判員制度を分析する番組が放送されました。

NHKクローズアップ現代

「市民が裁判を変える」~徹底分析 裁判員制度~

〈NHKによるアンケート〉

 裁判員裁判はこの半年間に75件行なわれ、600人超の人が裁判員(補充裁判員を含む)を経験しました。参加者へのアンケート結果では、「裁判後、意識や生活に変化があった。」と回答した人は74%に上ります。また、75件を詳細に分析したところ、「守秘義務に問題があると感じる」人が多いという結果が出ました。

〈9月の和歌山県の事例〉

 一人暮らしの68歳の女性が殺された強盗殺人事件で、犯人は55歳の隣に住む男でした。この裁判員裁判で裁判員を務めた人の声は次のようなものでした。
・39歳主婦
 「今までは裁判なんて無関係だったので、とまどいました。被告は罪を認めており、刑の重さが争点でした。遺体の写真を見ましたが、首に絞められた跡が生々しいもので、残酷でした。忘れられません。」
・39歳男性、学習塾講師
 「遺族は悲痛な訴えをしました。まさか死刑という言葉が出るとは思っていなかったです。姪御さんのすごい視線に、どうしたらいいんだと思いました。」

 裁判員達は被告の態度にも感じるものがあったようです。
・前述男性
 「人を殺そうと最初から思っていたわけではない。流れでやってしまったと感じました。」
・前述主婦
 「(今後の)被告の人生を思います。殺人を犯した人だけれど、心が痛むところがあります。」

 協議は予定を超え、6時間に及びました。判決は求刑どおり、無期懲役でした。被告は控訴せず、刑が確定しました。

 2ヵ月経った現在の感想は。
・男性
 「みんなで話した結果なので、間違いはないと思います。ただ、私達素人が関わった判決なので、被告が納得して服役しているのかな、と心配です。」

 駿河台大学法科大学院教授 青木孝之先生のコメント
 「職業法律家は自分の最初の裁判体験を思い起こすでしょう。裁判員の負担を考え、中一日おくなど、時間的・心理的余裕を考える必要があるのではないでしょうか。」

〈裁判員経験者へのアンケート結果より〉

 96%の人は、「裁判員をしてよかった。」と答えています。
 「自分達の市民感覚が反映された」55%と「どちらかといえば反映された」37%を合わせると、92%です。
 この結果に青木先生は、「意見を言いやすい事例が多いので、今のところ好調といえます。」とコメントしています。

〈判決に変化〉

 裁判員裁判では、一部の犯罪の量刑が重くなっていることがわかりました。それは婦女暴行事件です。青森県の事例では、水道検査と偽って2人の女性を暴行し強盗した23歳の男は、懲役15年の刑になりました。職業法律家の予想を上回る重い刑です。

弁護士 竹本先生のコメント
 「市民の感覚が反映されたと思います。」

裁判員を務めた46歳男性のコメント
 「被害者の証言を重く受け止めました。インタビューで痛々しさ・苦しみが非常に伝わってきて、こちらも辛くなりました。」裁判員には過去の同様の事件の判決のデータも示されました。「予想外に軽い刑で、懲役5~6年です。これが今までの裁判だったんだと驚きました。ズレがあるものだなと感じました。」
そして裁判員達は社会全体に対して次のようなメッセージを発信したことになります。「このような事件を許したくない。このような苦しみ、屈辱に苦しむ人が一人も増えてほしくない。」

〈もう一つの変化〉

 被告の立ち直りを支援する保護観察が増えていることです。5月の山口県の事例では、妻が寝ている間に64歳の夫が無理心中を図って刺し、10日間の怪我を負わせました。夫は13年間1人で自宅で妻の介護をしていました。

補充裁判員を務めた30歳男性会社員のコメント
 (自分も病気の母を20年間世話してきました。)「他人事と思えず、睡眠時間はどれぐらいだったか質問しました。答えは『寝られなかった。寝つけなかった。』大変さがよくわかりました。」

裁判員を務めた男性 会社社長のコメント
 「被告を立ち直らせるには、周囲の支えが必要です。」
 この事件の判決は執行猶予に保護観察がつくものでした。保護司が定期的に面接をすることになります。プロ以上に、被告の立ち直りという点を重視した配慮といえるかもしれません。

前述の補充裁判員男性
 「被告のその後のことまで心配しています。」

〈キャスターからの質問と青木先生の回答〉

・どちらかというと厳罰化の方向でしょうか?
 →「今のところ厳罰化と言えることはありません。量刑の流動化と言えるでしょう。プロは相場にとらわれがちでした。許される幅の中の流動化と解釈しています。」

・保護観察に関連して、裁判員が刑を考えるときに重視したのは1位が「犯行の悪質さ」で63%の人。2位は「被告の更生の可能性」で61%でした。
 →「裁判員は、より切実に『この人が地域社会に戻ってくるとき』のことを考えています。」

・裁判員制度がもたらす社会への波及効果はどうですか?
 →「司法に一般人の感覚が入るのは画期的なことです。裁判の社会化がはっきり見て取れます。」

・社会のことを考える姿勢は市民の中に生まれたでしょうか?
 →「生まれたと考えるべきでしょう。フィードバックのサイクルが始まろうとしています。加害の側、被害の側にもそのような(社会のことを考える)眼差しが及ぶことを期待します。」

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