法と教育学会 設立準備総会・シンポジウム①(設立準備総会・基調講演編)

 12月6日(日)、法と教育学会の設立準備総会・シンポジウムが「新時代の法教育を創造する」をテーマに、明治大学リバティータワー1011教室を会場に開催されました。法学・教育学、法曹三者、法務省・文科省、学校関係各位から150名を超える参加を得、盛会となりました。その概略をお伝えします。

プログラム

gakkai01第1部 設立準備総会 10:00~10:20
第2部 法教育のめざすもの(基調講演) 10:20~11:30
第3部 各界からのメッセージ 11:30~12:00
第4部 法教育の新たな理論と実践に向けて
 ①法教育のこれまでの取り組みについて 13:30~13:45
 ②教育現場から法と教育学会に期待するもの 13:45~14:45
 ③パネルディスカッション 15:00~17:00
  ―法と教育学会がめざすもの―

総合司会:磯山恭子(静岡大学准教授)

第1部 設立準備総会

発起人代表挨拶

   大村敦志(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

 わが国の法に関する教育は、これまで大学における法学教育中心であったため、自由と責任、権利と義務、正義・公正、立憲民主主義といった法の基本理念が必ずしも国民の間で広く共有されるには至っておりません。法の支配を真の意味で国民に根付かせるためには、法教育の総合的なあり方の研究と、現場での実践の両方が必要です。さらに「法にとって教育のもつ意味は何か」という大きな問いもあります。このような趣旨から、私ども発起人一同は「法と教育学会」の設立を提案するに至りました。本日の催しが、今後目指していくべきものは何かを追及し、法教育の更なる発展の場となり、また少しでも法教育に関心を持っていただく機会になればと念じています。

〈法と教育学会の設立準備についての報告〉

設立準備委員会設置の報告と、来年(2010年)9月5日に東京で第1回学術大会を開催するとの告知がなされました。

 

第2部 法教育のめざすもの(基調講演)

「司法制度改革と法教育」

   佐藤幸治(京都大学名誉教授)

 1999年に司法制度改革審議会が設立されましたが、法教育は改革課題の中で最もベーシックなものでした。審議会意見書では、国民は統治客体から統治主体へと意識を転換することが必要であるとされています。この意見書は、国民の責務だけでなくもっと豊かな内容を意味すると受け止めていただきたいものです。それは「国民の司法を確立しよう」というものです。
 明治憲法体制は圧倒的に行政中心体制でした。弁護士が不足し、一般国民を司法から遠ざけました。戦後になっても、国の法律扶助政策はほとんど皆無で、「日本の司法は二割司法」といわれる二元的構造でした。これを①国民にとって身近でわかりやすいものに。②国民にとって頼もしく公正なものに。③国民にとって利用しやすく速いものに。これが「国民の司法」の目指すところです。そのためにはトクヴィルのいう「フォーラム」が必要であり、司法のフォーラムをつくりたいと考えます。
今、教科書は「法が共に生きるためのもの」であることを教えているでしょうか。「法と対話の専門家」としての法曹像は遠い存在となっていないでしょうか。教育環境は大人の姿勢の反映です。分野横断的な法と教育のフォーラムへ期待をしたいと思います。日本社会の内向きの傾向と絶えず闘いながら、専門家と非専門家とのコミュニケーションが豊かな多文化共生社会へと歩んでいってほしいものです。
 

 

「市民性教育から見た法教育」

   小玉重夫(東京大学大学院教育学研究科教授)

 まず、法と教育の接点ということで、法と教育学会と日本教育法学会との違いを確認したいと思います。教育基本法第16条に、権力による「不当な支配」を防ぐために教育行政の一般行政からの独立が規定されています。教育法学はこの法理を確立・深化させることを目的とする法学の一分野であり、おのずと限界があります。憲法制定権力の担い手である国民をいかにして形成するかという課題には政治教育が必要であり、法教育との協力関係が生じます。
 法教育が浮上してきた背景には3つの要素があります。
1つはシティズンシップ教育です。シティズンシップとは、「ある一つの政治体制を構成する構成員、あるいは構成員であること」を示す概念で、公民性・市民性などと訳されています。「国民」というよりも新しい社会の構成員を指す概念として、世界各国の教育政策の中でも言われるようになってきています。
2つ目は司法制度改革。裁判員制度は「シビック・エデュケーションの一つの『てこ』として」位置づけられます。
3つ目は学習指導要領の改訂です。各教科の内容に機能的リテラシー論を大幅に取り入れたのが「活用力」であり、新しい学習指導要領には「活用力」の育成が盛り込まれたのが重要です。機能的リテラシーとは、「大人としての生活に必要な知識とスキル」を表すPISAの概念で、法教育に求められるリテラシーも、その延長線上にあるのです。
 シティズンシップを構成する3つの要素は、「社会的・道徳的責任」、「共同体への参加」、「政治的リテラシー」です。政治的リテラシーのカリキュラムを考えるに当っては、2つのことが重要です。1つは討論の質を深めることですが、異質性を排除しないために寛容であることと、論争・批判の両立を図らねばならないというジレンマを抱えています。もう1つは、知識を到達すべき目標ではなく市民的な批評の対象として位置づけること(知識の批評化)です。ルールやきまりも覚えるのではなく、論争の文脈に位置づけるのです。これらは政治的リテラシーを育む法教育として、発展させていくことができるのではないかと考えます。
 近年の法教育が提案しているモデルでは、法曹・アカデミズム(専門家集団)と市民(素人)との間のコーディネーター役として学校教師が重要な役割を果たします。その際に教材が批評の対象となって、専門性の批評空間が形成されていくということが、現段階での法教育の新しいパラダイムかと思っています。

第3部 各界からのメッセージ

エッセイスト 安藤和津様、
日本労働組合総連合会会長 古賀伸明様、 
法務大臣 千葉景子様、
共同通信社論説委員 土屋美明様、
日本経団連経済法規委員会企画部会長 八丁地隆様、
検事総長 樋渡利秋様、
日本弁護士連合会会長 宮崎誠様、
最高裁判所事務総長 山崎敏充様

以上の方々から、本学会設立に向けてメッセージを頂いております。

 

〈会場提供校挨拶〉

   青山善充(明治大学法科大学院長)

 市民の側・法の側双方から、一般市民と法の距離を近づける努力が必要です。裁判員制度の導入と成年年齢引き下げはそのきっかけになりますが、法教育は日本社会における法と市民を近づけるという努力の一環として受け止めています。法と教育学会が立派に設立され、さらに発展することをお祈りします。 

法と教育学会 設立準備総会・シンポジウム②(報告編)へ続く

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