法と教育学会 設立準備総会・シンポジウム②(報告編)

法と教育学会 設立準備総会・シンポジウム①(設立準備総会・シンポジウム編)からの続き

第4部 法教育の新たな理論と実践に向けて

(1)法教育のこれまでの取り組みについて

  

鈴木啓文(弁護士)

 2000年頃から日弁連広報室で社会科見学に来られる学校に説明をしていました。その縁で法政二高に授業をしに行ったのが、法教育授業の始まりです。江口勇治先生の「法のベーシックな考え方を伝える」という論に感銘を受け、ネットワークを作って参加していただくという形で動き始めました。日弁連としても委員会を作ったり、法務省も法教育研究会を作りました。
実際の教材作りの悩ましさということでは、法の根本にある考え方をまず学校の先生に理解していただくのが非常に大変であることと、法曹三者がそれぞれの立場にこだわらないようにしなければならないのが難しい点です。法と教育学会が立場的発想を変える起爆剤になってほしいと思います。
 学校現場の先生方には、法廷傍聴を入り口にすることをご提案します。司法の仕組みの理解につながるだけでなく、人間教育的意味でも活用できることと思います。学校の先生と一緒に作り上げていく授業が今後は必要だと思います。

(2)教育現場から法と教育学会に期待するもの

〈小学校教育現場から法と教育学会に期待するもの〉    

窪直樹(東京都練馬区立大泉第六小学校教諭)

 自分が弱い子の思いを感じつつ成長したので、力が弱くても正しいことを実現できるものである法律に興味を持ち、法教育に関わるきっかけとなりました。これまでの実践としては、4年生社会(安全なくらし 警察の仕事)で「交通事故と法律」、6年生社会(わたしたちのくらしと日本国憲法)の「アイドルグループVS○×出版社事件」裁判形式の討論があります。6年生では子ども達に訴訟当事者どちらかの弁護士になってもらい、裁判官役も決めて討論しました。参加していただいた法曹の先生には、法律の専門家から見ても公平性についてちゃんと考えていたとか、評価を頂いたことが子ども達の励みになりました。
小学校の法教育としては、社会科の教科書にどう載るのかが教員にとって一番関心の深いところだと思いますし、教科書に出た形で実現していくのが現実的なところかと思います。従来の道徳や特別活動の分野では、教科書等の形では学校現場に提示されにくいと思いますので、先生達の工夫の中で実現していくには困難さがあると感じます。従来の「きまり」などの学習とどう違うかも重要だと思います。
 法と教育学会には、①幅広い教科等・校種にまたがった授業実践の交流と教材の開発・紹介・蓄積の場、②法教育とは何か、法教育によってめざすものは何かという理論研究の充実の場、③法教育に興味を持つ人々の交流の場、となることを期待します。

〈中学校教育現場から法と教育学会に期待するもの〉   

仲村秀樹(東京都港区立朝日中学校主幹教諭)

 本校では毎年秋に、第一東京弁護士会のご協力で3年生の模擬裁判授業を実施しています。さらに、都の教育委員会に任せていても法教育は広まらないので自分達が動かなければと思い、東京都中学校社会科研究会で法教育のイベントを開催しています。今年は9月に第2回を「法教育フォーラム in 東京」として本校を会場に行ない、約100名の参加を得ました。多くの先生方に集まっていただけるよう土曜日にしましたが、模擬裁判員裁判の授業をするのに生徒は休日なので、中学生は都内6校と都立高校の生徒にも参加してもらいました。多くの積極的な感想をいただいています。 
 学会には法教育の普及のために、まず教員への研修をお願いしたいと思います。次に、法教育の体系的な構造図を作成することを期待しています。どの発達段階でどういう内容を教えたり、資質能力を身につけさせるべきかをまとめることです。また、裁判員制度を学ぶことが法教育でいいのか、規範意識の育成の視点だけでいいのかといった問題も検討していただきたいと思います。

〈高等学校教育現場から法と教育学会に期待するもの①〉  

河村新吾(広島市立基町高等学校教諭)

 高校生の現状はバイク、アルバイト、ケータイなど、事前規制で問題を予防しようとしています。しかし社会の現実は事後救済です。そこへ子ども達を出したらどうなるでしょう。国民投票の選挙権、またアルバイトや結婚など契約の主体としての高校生を考えたとき、事後救済で対応できるでしょうか。高校生の労働観アンケートをしたとき、不安であるという声が大きいです。「境遇の平等性こそ民主主義の基である」というトクヴィルの言葉がありますが、その思いで高校生に法教育が必要だと感じています。
 学校現場には法教育抵抗勢力と徳育教育アレルギーがあります。前者は「ルールよりもモラル」派であり、後者は価値注入の危険を指摘するものです。しかし、現実社会はモラルよりルールへとなっているのではないでしょうか。法教育で大事なのは、議論を巧みに操るソフィストではなくて、有益な問いを発するソクラテスを作ることだと思います。
 広島では6年前、弁護士さんと協力して万引きを教材に授業をしました。そのときの「紛争解決プログラム」では、他者の利益を考えるということが重要でした。相手が受け入れやすいように、相手の利益を考えた主張をするというプログラムです。このようなリーガルリテラシーを持った市民を育てたいと考えます。
今は法教育という形でそれぞれが動いているものが、将来的には学校現場から臨床的なものを報告し、教育学的なところから比較教育的なもの、法律学で実務的なものと、それぞれが歩み寄っていくことがこの学会の将来像だと私は思いました。法律の知識・技能・信念を兼ね備えることで、理想的な市民ができるのではないかと思います。法と教育学会には、学校教育の外にあった無意図的教育を学校の中へ入れて、私達と共に実践できるということを期待します。

〈高等学校教育現場から法と教育学会に期待するもの②〉   

藤井 剛(千葉県立千葉高等学校教諭)

 私は高等学校段階の政治経済の教育というのは、きちんとした市民を育て上げることであると思い、いろいろなことにチャレンジしてきました。これまでの取り組みは2年生での「ディベート授業」、「模擬裁判」、「新聞を作る」です。ディベート授業では生まれて初めて一次資料に当たるようになりそれを分析することで、きちんとした討論の姿勢が身につき、他の教科にまで影響を与えます。「模擬裁判」には特徴があり、千葉地方検察庁の「特設模擬法廷」を利用し、傍聴人も裁判員同様、被告人質問などを可とします。評議には全生徒がグループに分かれて参加し、検察官や法科大学院生が各班にアドバイザーとして加わります。シナリオも尋問や弁論などは変更を可としています。
 法教育のハードルは、教員が法学部出身とは限らず、学部学科がバラバラなことですとか、「教科書を教える授業」ではなく「生き生きした授業」をしようとすると、受験が壁になることです。教える側の課題としては、教員が年々多忙になり授業準備に時間が取れないこと、アイデアの不足が挙げられます。
学会には①先進例ではなく、誰にでもできるような教材の提供、②教員向けの研究会、情報交換の場の提供、③法実務家や大学の先生には授業を見に来てご提案を頂きたい、という3つをお願いします。

法と教育学会 設立準備総会・シンポジウム③(パネルディスカッション編)へ続く

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