投資教育に関する国際セミナー

 2009年10月22日(木)東京証券会館で、投資家教育国際フォーラムと日本証券業協会主催の「投資教育に関する国際セミナー」が開催されました。
その中のセッション3「中学・高校における金融教育」(16:00~17:30)にお邪魔しました。
セッション3は全編英語で行なわれ、同時通訳されていました。

〈モデレーター〉

川村雄介 長崎大学大学院経済学研究科経済学部教授

〈パネリスト〉

ロバート・F・デュバル 経済教育協議会(米国)前会長兼CEO
ロベルタ・ウィルトン カナダ証券研究所国際教育センター社長兼CEO
アンナ・デイベル・ユング 英財務省金融サービス局金融能力・消費者問題対策室長
クリサダ・セクトラクル タイ証券取引所タイ証券研究所専門家・投資家教育本部長

〈デュバル先生のお話〉

(以下、当日配布の資料より適宜引用させていただきます。)

「投資家教育 学校における教育の必要性」

 投資家教育では「問題点を明確にすること」、「差別化すること」が必要です。私達は学校以外のところからも知識を得ていますが、優れた教師からは多くを学ぶことができます。教育における争点は「国際化、グローバル化」、「テクノロジーと変化」であり、教育にとっての問題点は「世界的金融危機」と「金融機関と金融商品の複雑性」です。
 この解決策に向けた取り組みは、政府・NGO団体・民間部門/企業/財団などが行なっています。政府が地域の機関にお金を出して経済教育を行ないます。共通点は「どのように私達が自分の時間を使い、お金を使うか」、即ち「どのように自分のお金を管理するか」ということです。
金融リテラシーに関する米大統領諮問委員会では、「学校における教育」、「職場での教育」、「社会的弱者への浸透」、「効果的方法についての研究・調査」を提唱しています。「学校にける投資家教育」に関する疑問と課題は、「何を教えるべきか」、「どこで教えるべきか」、「誰が教えるのか」、「試験を行なうのか」ということです。
取り組みの一例として、経済教育協議会(米国) の『学習、収益、投資』や『LEI:ザ・ゲーム』があります。双方的学習(インタラクティブ学習)と経済的思考を特色としています。
「人間は自らの選択によって自らを創りあげる」(キルケゴール)のです。

〈ウィルトン先生のお話〉

「カナダの若者を対象とした金融及び投資家リテラシー」

 カナダは子ども向け投資家教育のリーダーです。現在北米全域の学校で利用されている株式市場ゲームを1980年代に開発しました。1996年には投資家学習センターが、全国で使用される初の学校向け包括プログラムを開発しています。社会にはダークサイドというものがありますが、証券に関する罰金を特別プログラム作成に初めて充当した国のひとつでもあります。
 現在は各州の証券委員会がキープレーヤーになり、定評ある多面的プログラムを数多く作成しています。プログラムには教材、指導者向け研修、ウェブによるサポートなどが含まれています。ある委員会では、オンタリオ州の教育委員会と18の提携を結び、さらに教員養成のために3つの大学の教育学部と提携関係にあります。
 投資家教育の最高の手段は、投資の基礎知識の必修化です。カリキュラムの普及には多くの課題があります。一つは教育者の政治的な疑念。もう一つは詰め込み主義的なカリキュラム。また地域別・教育委員会別の分断化ということもあります。しかし、1996年に始めた試みが今、実を結びつつあります。ブリティッシュコロンビア州の成功モデルは、「第10学年の必須科目“プランニング10”」と「卒業に必要なファイナンシャルプラン」です。ブリティッシュコロンビア州証券委員会から提供されるものには、授業プラン・DVD・ポスター・教員の研修があります。 
 カナダ証券研究所は教育制度において以下のような取り組みをしています。
・21の大学、39のコミュニティ・カレッジとの連携
・海外の中等教育以上のレベルの教育機関数校との連携
・高校及び金融クラブにおいての強力な存在感
・2つのビジネススクールとの共同プログラム
連携の目的は、学校のカリキュラムに入門レベルの専門教育を組み込むことです。
 学校を基盤とする専門教育では、誰でもプログラムに参加することができます。初級ライセンスプログラムは若者にとって魅力的です。なぜなら、将来性のある仕事に就ける、競争上の優位性を得る、学校の差別化を図れるなどの利点があるからです。それにより、子どもが自分で勉強したがる、賢明な消費者を育てるという効果があります。その上、基礎知識のある社員が業界に入るので、雇用者はより高いレベルの研修に集中できるという利点もあります。
 カナダ証券研究所では専門家と学校の橋渡しをしています。「センスあるお金の使い方プログラム(第7学年)のためのジュニア・アチーブメント・パートナーシップ」などを行なっています。トレーニングは学問の世界ではなく、“現実の世界”です。ジュニア・アチーブメントプログラムの目的は、
・ファイナンシャルプランの作成に関する知識と意識
・金融リテラシー、計算力、自己管理能力の向上
・自信の醸成と賢い投資選択能力の向上
です。

〈ユング先生のお話〉

「学校における金融教育―英国の場合―」

 学校における金融教育が重要な理由は以下のようなものです。
・金融能力の段階的な習得にとって重要である。
・世代効果がある。
英政府の長期目標は、全ての子どもが学校で計画的にかつ一貫したパーソナル・ファイナンスのプログラムを受けられるようにすることです。目的は子ども達に、大人になった時に金融問題に取り組むスキルを身につけてもらうことです。若い人たちは人生の早い時期から、より多くの金融に関する意思決定を求められ、それに対処する責任をもたされるからです。学生向けローンや、クレジットの利用などがその例です。
 2006年の調査では学校における金融教育は、つぎはぎだらけで一貫していないとされました。なぜなら、「重要な科目とみなされていなかった」、「教師達に自信や専門知識が不足していた」からです。そこで行動のための以下の3つの領域が考えられました。
・カリキュラムの中に教科を組み込む
・学校や地方の教育委員会での注目度を引き上げる
・教師に対するサポート
4歳から19歳までの就学期間中に、様々な工夫を通して効果を高める取り組みがされています。2008年度より、「金融能力」は中等教育のカリキュラムの中で、「個人、社会、健康、経済」(科目名)の教育において明確な小科目と位置づけられています。法律で定めた必修科目とするつもりです。GCSE(16歳時に行なわれる中等教育終了資格試験)における数学の一部として、評価されるようになります。また、「起業」、「公民」など他の科目の中でも学習します。
 政府の活動・支援としては2008-2011年に1150万ポンドの支援ファンドがあります。また、パーソナル・ファイナンス教育グループ(後述)によって提供される「マイ・マネー」プログラムもあります。4-19歳の全ての年齢層を対象にした最初のプログラム(地方当局、学校での相談、チャイルド・トラスト・ファンドを中心とする資源など)や、教師のための研修及び専門的能力の開発もしています。
 その他の活動・支援には英金融サービス機構による資金援助、学校への相談員派遣や教材提供。金融サービス企業による学校向けプログラムへの出資、自主的活動などがあります。共同提供者としてはPfeg(パーソナル・ファイナンス教育グループ)が主役で、幅広いプログラムを提供し、教材の認定制度を持ちます。金融サービス研究所はGCSE試験とA-レベル試験(18歳)における金融能力について、資格認定を与えます。
 このほか学校を卒業した若者のための支援もあります。

〈セクトラクル先生のお話〉

「中学・高校における金融教育」

タイ証券取引所タイ証券研究所では、証券知識に基づく資本市場を目指して資本市場教育を行なっています。生徒・大学生から証券業界の実務者・一般大衆までを対象に、適格投資家の拡大を図ることでタイ資本市場の持続的成長を目指し、2000年に設立されました。
青少年向け金融リテラシープログラムでは、浪費行動と貯蓄習慣の欠如(30%の子どもしか貯蓄習慣がない)という問題を背景に、優れた金銭管理スキルがよい暮らしとよい社会へとつながることの理解を目指します。2004-2006年の「青少年のためのパーソナルファイナンス:小学校・中学校・高等学校」は、内容は既に基礎教育カリキュラムに組み込み済みで、学校における教育と教師・トレーナーの教育を行なっています。2009年からはその支援活動を開始しました。
内容としては「金融に関する理解、適正、責任」などがあります。例えば中学校レベルでは、「どのようにお金を使うか」、高校レベルでは「どのように投資するか」となっています。「2004-2009“中学生・高校生のためのパーソナルファイナンス”」は、
・青少年向け批判的思考法
・マイマネー管理キャンプ
・モデル校(生徒と教師のための特別プログラム)
・ファイナンシャルゲーム設計競技会
・ファイナンシャルクイズの勝利者への特典
・E‐ラーニングとポータルサイト
・出版物
・インストラクター用マニュアル
など多様な取り組みを行なっています。
 2010-2014年は次のステップへの布石として、教育省およびナムチャトラ財団と協力し、内容の開発、若者向けウェブサイト、モデル校(42校)、児童・生徒の全国研究協議会「クラウンダイヤモンド」を計画しています。

〈モデレーターとパネリストの質疑応答〉

川村先生:「日本では野村證券は学校に大いに貢献しており、特に投資教育に特色があります。大和証券は中学校教育で、ビジネス・マネージメントにより重点を置いています。
  各国の成功例はいかがですか?」
US:「earning and investment を学ぶことが大切であり、active learning が重要です。そのためにはプログラムが誰にでもわかりやすいこと、試験の結果を検証することなどが必要です。成果をもっと検討すべきでしょう。生徒に少なくとも基本的知識があれば、よい判断ができるようになります。」
カナダ:「カナダは最も投資教育の進んだ国です。しかし忙しいという理由で投資教育に関心のない人が多いので、もっと工夫が必要でしょう。情報を得るためにはほんのわずかの時間があればいいのですから、本当に優れたプログラムというものが必要です。」
UK:「親や家族も使えるプログラムが重要です。人々のニーズに応えることが大切です。」
川村先生:「タイには都市と地方の差はありますか?」
タイ:「はい、教師の差が大きいです。モデルスクールも都会に多いです。」
川村先生:「各国の課題はいかがでしょうか?」
タイ:「パーソナルファイナンス・コースは45時間ですが、教師を訓練する時間は少ないです。」
US:「多くの決定は州レベルなので、2年ごとに調査をしています。もっと金融教育への支持が必要で、卒業に必須なものにならないといけないでしょう。数学の授業で教材にすることが、とても効果的です。」
川村先生:「日本では必修ではありませんが、もっと必修なものにすることが必要だと思います。」
UK:「必修でなくても、アクセスしやすいものであることは重要でしょう。英国でも必修化は課題です。」
US:「全く同感です。高校卒業に数学、歴史、基礎経済学とパーソナルファイナンス・スキルが必要なことが望ましいと思います。」

取材を終えて

 セッション3では金融・投資教育の先進地域での最新事情などを学びました。各国とも「お金との関わり方」の基本を教えることから、働くこと・投資することまで考えさせるプログラムのようです。自己管理、将来設計、経済の仕組みの基礎など、「生きる知恵」の基本として法教育につながるものはありますが、どちらかというと法教育の目指す人間関係形成力を養うことより、個人の経済的感覚・能力を磨く方に重点が置かれていると感じました。

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