千葉大学教育学部附属小学校第43回公開研究会②全体会・分科会編

 2010年2月4日に行なわれた全体会と、道徳の分科会の模様をお伝えします。

全体会(13:10~13:40)

研究主題 「学びを深める授業(2年次)―言語活動と体験的な活動を重視して―」
      (以下は研究紀要 第43号から適宜引用させていただいています。)

〈学びを深める授業とは〉

 昨年度、「学びを深める授業」とは、「他者とかかわり、認め合いながら、児童自らものやことの本質や価値に迫り、自分のものとする営み」を意味するとしました。
本年度は「学びを深める授業において児童が友達や教師の考え・思い・感じ方・技術・作品にかかわりながら、教科・領域等の目標を実現する言語活動や体験的な活動はどのようなものかを明らかにすることを目的としています。具体的には、各教科・領域等の目標を達成するための「言語活動や体験的な活動」を効果的に仕組む方策について、教科・領域ごとに探ります。

〈児童側からみた「学びを深める」とは〉

・今後の生活や実践に生きる力を身につけること
・自ら学びのスパイラルを作り上げていくこと
・すべての学習場面において、児童が学びを深めていく前提となるのが学習意欲であるので、学習意欲を喚起する単元構成や授業構成、目標の設定を工夫します。

〈本校における言語活動のとらえ〉

・認識するための活動(新たな言語を獲得する、必要な用語を覚えるなど)
・思考するための活動(根拠を明らかにして論理的に考える、新たな問題や課題を解決するなど)
・伝達するための活動(自分の意見を発表する、友達と話し合うなど)

〈本校における体験的な活動のとらえ〉

・知的好奇心が持てるような、学習への動機付けとなる活動
・問題に気づいたり、疑問を持ったりできる活動
・自分の考えを試すことのできる活動
・自分の問題を解決するための活動
・今後の生活の中で、また将来生きて働くような活動
・学習したことを確かなものにするための活動

〈研究目的の検証の視点〉

 言語活動及び体験的な活動により児童の学びが深まったかどうかを、次の7つの視点から検証していきます。1項目でも達成されれば学びが深まったと考えます。
①基礎的基本的な知識・技能を実感的に理解しているか
 ただ答えが出せるということではなく、「なぜ、どうしてなのか」という問いに対して、自分の答えを見つけること。
②学習内容を自分の生活に結び付けようとしているか
③今後の学習へつながるように、知識・技能が獲得されているか
 学習した内容が他教科の学習と結びついたり、学習を発展させる上での土台となったりすること。
④意欲的に基礎的基本的な知識・技能を得ようとしているか
⑤基礎的基本的な知識・技能を活用しているか
 話し合いや調べの活動の中で、獲得して知識・技能を用いて解決を図ろうとしていること。
⑥疑問や課題にかかわろうとする態度をもち、自ら学習を進めようとしているか
⑦自ら学習を振り返っているか
 学習して得た知識・技能を振り返るだけでなく、自ら学習の仕方を省みること。

〈学びの深まりがみられた姿 ―言語活動と体験的な活動のシナジー(相乗効果)―

例えば、まず体験的な活動によって実際に社会事象に触れることにより、個々の問題や疑問を見つけたり、事象に対する興味関心を高めたりし、解決の意欲を持ちます。次に、問題解決のために調べや聞き取りの活動・討論等、言語活動を行ないます。そして学習したことと自分の生活との結びつきを確かにするための見学、疑似体験などの体験活動を行ないます。
単元によっていろいろなパターンが考えられますが、体験的な活動と言語活動がスパイラルに仕組まれることで、より現実的で臨場感のある学習活動が展開でき、次の学習を発展させる上での土台になることができます。

分科会 道徳(13:50~15:30)

研究主題 「自己の生き方を見つめる道徳指導―かく・伝える・高め合う―」

〈研究状況〉

 昨年度は自己の生き方を見つめるための具体的な手立てとして「かく・伝える・高め合う」の3ステップを使用しましたが、「高め合う」活動が自己の生き方を見つめるための手立てとして有効に働いたかを明らかにすることができませんでした。本年度の研究では、ロールプレイングやそれに向けての話し合いが、低学年における高め合う活動として有効であることが明らかになってきました。しかし、児童に自己の考えを表出、自覚させて、生き方を見つめさせるには、自分の考えを振り返る場の設定を工夫することが今後の課題です。

〈「自己の生き方を見つめる」とは〉

 本部会では、道徳における「自己の生き方」とは、①自分の日々の生活の仕方、②自分の考え方や言動の仕方であると考えます。
 さらに、「自己の生き方を見つめる姿」とは、①および②を振り返ったり、考えたりすることを通して自分のよいところや足りないところを知り、今後自分の課題を解決していこうとする姿と考えます。
「自己の生き方を主体的に見つめる姿」を「道徳的実践意欲をもっている姿」として捉え、これを具現化していくような授業をめざしています。

〈3ステップの活用の方法〉

「かく」記入しやすいワークシートの工夫
(比較が容易なものや、絵や図で表すものなど)
「伝える」主体的に伝えていくことのできる場の設定
    (ペアや小グループの編成、話し合いにおける決まりや方法など)
「高め合う」自他の意見を融合しやすい活動の工夫
     (ロールプレイング、グルーピングの工夫、話し合いの内容選定など)
      価値を高めていくような発問の工夫
     (児童の発言を取り入れながら、ねらいに応じた発問を準備していくなど)

〈2年1組の授業について授業者より説明〉

 これまで守るだけだったきまりを、友情と比較させることで改めてその意義を感じさせ、主体的にきまりを考えようとする態度を育てていくことをねらいにしています。ワークシートは書くところをなるべく小なくするため、小さいカードにしています。課題はなかなか話し合いに入れない子がいることです。今日の話し合いでは、男子8君がきまりを守らない方にこだわり続けましたが、普段はクラスのリーダータイプで、クラスのために勝ちたい気持ちが強いためにああなったのでしょう。

〈会場からの質問・応答〉

・浜松の小学校ですが、教科の枠を超えて道徳の試みをしており、「書く、伝える、高め合う」もしています。今日の算数でもしていましたが、この考え方は全教科で根底にありますか?
→部会毎に違うので一概には言えませんが、社会科もそうですし、私見ですが、結果的にそうなっていると思います。

・ロールプレイングがスムーズにできるようになるには時間がかかると思いますが、どのぐらいかかりましたか?高め合いのために、他の手段は何がありますか?
→始めは恥ずかしがったり、あの心理劇室に入るだけで興奮してしまって収拾がつかなくなりましたが、だんだん慣れてきました。伝え合い、発表の中で質問が積み重なって、高まっていくこともあります。
→低学年はロールプレイングが向いていますが、高学年はなかなかできませんでした。グループ作りの中でも高め合いができます。

・「きまり」の意義について考えさせる点で、「法教育」として優れた取り組みになっていると思います。千葉大学は以前から社会科で「法教育」に取り組まれていますが、道徳でも「法教育」を意識して指導されているのですか?(筆者質問)
→きまりを納得させた上で、意識させたいと思っただけでした。

・最終的に男子8君の意見が変わるといいですね。
→規則の上に団結心もあり、規則にのっとるからこそ本当の勝利もあることに気づいてほしいです。グループで他の3人が説得してくれるかと思いましたが、頼り過ぎでした。次の時間で気づかせたいと考えています。

・自分達の身の回りのことに対する問いにまで進んでほしいです。心理劇室は以前からあるのですか?
→校舎建て替え以前からあります。

〈共同研究者:土田雄一 千葉大学准教授より〉

2年1組の授業も本音を引き出していて、面白かったです。「もし男子8君の言うとおりにして勝ったら、みんなどう思う?」と突っ込んでみたかったです。本当にその行為ですっきりするかに気づいてほしい。大事なことを共有することが大切です。資料の中に自分を投影して考えるというのも1つの方法であり、必ずしも実生活にしなくてもいいと思います。

〈講師:吉野康彦 いすみ市立国吉小学校教頭より〉

 3ステップはよく使われますが、書いたものが蓄積されるので振り返りができていいでしょう。あまり3ステップに固執して、指導過程が画一的にならないようにしてほしいと思います。スパイラルもするので、大丈夫だと思いますが。
 ロールプレイングはカウンセリングからきている手法で、自分自身を見つめるにはいい方法だと思います。話し合いだけではわかりにくいことがロールプレイングで明らかになります。「なりきって演じる」のは「やってみればわかる」と言う子がいるほど効果がありますが、具体的に話し合いとどうつながるかが課題です。
ロールプレイングは子ども自身が授業を創っていくことになります。こうしようとか、この場面をしようとか、子どもの主体性が伸びます。それが道徳ではないでしょうか。「役割遊び」と訳すとよいと思います。ただ、いきなりはできません。場面を話し合うなど、段階の工夫は必要です。2年1組はグループのメンバーがなんと言うか、もっと聞きたかったです。

ここまでの取材から

 法教育では自分の意見をのびのびと言えることが大切ですが、2年1組の道徳授業では、子ども達が挙手せず座ったまま次々に発言していました。それが許されるので、自由な発言がどんどん出てくるのかもしれないと感じました。低学年の授業では一歩間違うと収拾がつかなくなるところを、見事にリードしている担任の先生の技量が素晴らしいと思います。
 教材も自作ということですが、身近な学校のきまりの価値とドッジボール大会の勝利という価値のどちらを選ぶか、現実的な葛藤状況を作り出しており、子ども達がきまりの理由をいくつも考え出すことに成功しています。リーダーの気持ちになりきってしまって、どうしても自分の考えを変えない児童の存在が、きまりを守るほうがいいと考える児童の理由をしっかりとしたものにさせていたように思います。先生が質問のとき、「なぜ?」と畳み掛ける方法も効果をあげていると思います。
先生は法教育を意識していたわけではないとおっしゃっていましたが、決まりの意義を考えさせ、自分の意見に理由をつける点で、自然に法教育の実践になっていたと感じました。

次週は、研究発表会2日目に行われた社会科の授業と、分科会の様子をお伝えいたします。

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