千葉大学教育学部附属小学校第43回公開研究会③授業編

 2010年2月5日(金)に行なわれた6年生の社会の授業の様子をお伝えします。

6年2組 社会
8:50~9:50
場所: 教室    授業者: 三浦昌宏 教諭
単元: わたしたちのくらしと日本国憲法
研究テーマ: 「プライバシーの権利が及ぶ範囲のあり方について考えさせるにはどうすればよいか」

前回の授業の復習から

先生:「前回は10人ぐらい休んでいたので復習からします。日本国憲法の何について勉強しましたか?」
男子1:「基本的人権。」
先生:「女子1さん、基本的人権とは何ですか?」
女子1:「人が生まれながらにして持っている権利です。」
先生:「生まれながらにして持っている権利で、みんなが一番大事だと思うものを書いてもらいました。一番多かったのは何でしたか?」
口々に:「参政権。」(先生が「参政権」という紙を黒板に貼ります。)
先生:「男子2君、なぜですか?」
男子2:「国民の政治を勝手に決められたら困るから。」
女子2:「居住権。住む所や職業を選ぶ自由がないとまた身分差別が起きるから。」
先生:「身分差別はいつのことでしたか?」→女子2:「江戸時代。」
女子3:「男女平等。」→先生:「なぜ?」→女子3:「差別は嫌だから。」
先生:「今、どうですかね?」→口々に:「女子の方が強い。」
女子4:「生存権。」→先生:「どうして?」→女子4:「人にとって健康で生きることは一番大切だから。」
男子3:「思想や学問の自由。」→先生:「なぜ?」→男子3:「やりたいことができないと嫌だから。」
女子5:「個人の尊重。」→先生:「個人の尊重って何でしたか?」→女子5:「個人は集団の中でも考えが尊重されるべきということ。」
先生:「こんな勉強をしていました。大切なものを今あげてもらいました。」

プライバシーの権利の導入

先生:「ケータイ電話を持ってきている人いますか?」→数人挙手→先生:「貸してくれる?」
女子6:「はい。」(みんな、えー!と驚く。)「ロックがかかってますけど。」
先生:「解除してメールを読んでもいいですか?」→女子6:「いいですよ。」(えー!の声)
先生:「人によっては見てもいいけど嫌なものもあるよね。なぜ先生に見せてくれないの?」
口々に:「秘密のものが一杯あるから。」
先生:「ところで今、何の話をしていると思いますか?」
口々に:「プライバシー!」→先生:「プライバシーって何ですか?」
男子4:「個人の秘密や住所とか大切なものを隠す、他人から見られないこと。」
 先生は黒板に、「他人に知られたくないものを知られない権利」と書きました。

プライバシーの権利の種類

先生:「プライバシーの権利があったほうがいいと思う人?」→挙手多数→「こだわらないという人は?」→いない
先生:「今までにプライバシーが傷つけられた、侵害されたということはありますか?」
男子5:「実際の内容は言いたくないです。」→先生:「あー、やっぱりそうなんだ。じゃあ、おうちの人がメールとかを勝手に見たことは?」
口々に:「ある!」→先生:「そのとき嬉しかった?」→女子7:「ケータイを取り替えました。」
先生:「例えばテストの点数は?そんなの気にしないよっていう人もいる?」→挙手多数
先生:「ちらほら聞くけど、好きな人のことを言われてしまうのは?意外と経験ありますね。みんなの身近なものだけれど、身近なところだけかな?他でもありますか?」
男子6:「外でもありそう。」→先生:「外って何?」→口々に:「世間!社会!」
先生:「何か思いつくことはありますか?」
女子8:「パソコンとかでアイコンで跳ぶと、“プライバシーのメールを見られるので気をつけて”とでました。」→口々に:「ウィルスとかも。」
先生:「パソコンでの個人情報抜き取りですね。」

「ストリートビュー」について

 先生が「ストリートビュー」という紙を黒板に貼ると、口々に「車のナンバー」、「人の家の表札」、「人の顔」、「人の家の中の様子」という声が上がりました。
先生:「実際にこれを見たことのある人?」→1/3ぐらいの児童が挙手
先生:「知らない人のために紹介します。」
 先生がパソコンの画面を黒板に映し出しました。千葉大学前の通りの風景が映っています。「この写真はプライバシーを侵害していますか?」という質問と共に、西千葉駅前のお店、人が二人、人家の庭、マンションのベランダの洗濯物などが映されます。だんだんみんなが問題だと言い始めます。
先生:「ストリートビューはこのようにして撮影します。(撮影用の車の写真を映す。)このぐらいの高さから撮影します。(実際に手近な棒を取り出して見せる。)これらの写真は2m45cmぐらいの高さから撮られています。今は2m5cmとなっていますが。塀の中が見えます。そこでみんなに考えてもらいたいのは、ストリートビューはプライバシーの権利を「侵害している」か、「微妙」か、「保護している」かです。3つのどれかをワークシートに書いてください。その理由も。」
男子7:「微妙。」→先生:「理由は?」→男子7:「撮影している側は大丈夫だと思っても、映される側は違う考えだから。」
先生:「そう考える人は?」→多数挙手→「侵害の人は?」→6人挙手→「なぜ?」
男子8:「指名手配されてる人なら捕まっちゃうから。」(それはいいんじゃないの声)
先生:「保護してると思う人は?」→いない

「首相の一日」はプライバシー侵害?

先生:「首相になるといろいろなことが書かれてしまいます。」(新聞のコピーを配る。)「これについて、侵害か微妙か保護か意見を考えてください。自分の考えだけでいいですから、理由も。どうしてそう思ったかも大切。」
女子9:「微妙。理由は細かいことまで書かれているけれど、本人が何も言っていないから。」
先生:「微妙と考える人は?」→挙手やや多い→「侵害は?」→少数→「なぜ?」
女子10:「首相が自由な行動ができなくなるから。」
男子9:「(番記者が付いていても)何も言わないのは慣れて当たり前だと思っているからだけど、侵害だと思う。」→先生:「もう一度侵害だと思う人?」→10数人に増える。
先生:「保護されていると思う人は?」→少数
男子10:「承諾を貰っているかもしれないから。」
男子11:「首相は公の地位だから、公の人は個人に働くプライバシーの権利が働かないと思う。」→先生:「他にもそういう地位は?」→男子11:「国会議員とか。」

「緊急連絡網」はどうか

 先生が「緊急連絡網」という紙を配りますが、それには氏名だけで電話番号が載っていません。
先生:「これが学級連絡網なら、何か困りますか?」
女子10:「電話番号がわからないから。」
先生:「これについても意見を3つから選んで、理由も書いてください。」
男子12:「微妙。番号が載っていないから、名前ぐらいはいいと思う。」
先生:「侵害の人?」→1人だけ→男子13:「理由は、クラスがもうばれているから。」
先生:「微妙の人?」→9人→女子11:「侵害する内容がないから、侵害も保護もない。」
先生:「保護されてるという人?」→多数挙手
女子12:「住所や電話番号がわかるわけではないから。」
男子13:「たとえ電話番号が載っていても、承諾しているということだから。」
先生:「何かおかしいと感じる人は?」
男子14:「番号がないと連絡できないので意味がない。名簿と同じ。」
口々に:「直接訊けばいい。」→先生:「いつ訊くの?」
口々に:「それができない。緊急に役に立たない。」
先生:「こういうのを配っているところもあります。こっそり訊いておくわけです。究極の連絡網は出席番号だけ。」

プライバシーの権利はどこまで認めればいいのか

先生:「プライバシーの権利はどこまで認めればいいでしょう?」
男子15:「公共の福祉に反しない限り。」→先生:「公共の福祉って何ですか?」
男子15:「多くの人。ストリートビューとか。」→先生:「相手の人権を傷つけない」ということです。
男子16:「便利になるなら必要でしょう。」
先生:「便利の反対は?」→口々に:「不便。」→先生:「便利になったおかげで、プライバシーの侵害もあります。一つのものでも人によって意見が違います。どうすればいいですか?知られたくないものって、人によって違いますか?」
男子17:「違います。自分で知らせるかどうか判断しないといけない。」
先生:「保護する側は保護していると思っても、映される側は嫌だと思っているときは、どうすればいいですか?」
男子18:「自分で削除できるような仕組みにする。」→口々に:「それじゃみんな消しちゃう。」
男子19:「悪用する人をみんなつかまえればいい。」
先生:「難しいですね。憲法第13条 の中の「相手の人権を傷つけない限り」がポイントです。」
男子20:「映されてる側が侵害だと思って削除したら、逆に、調べている側の人権を傷つけることにもなるのでは。」
先生:「相手の人権を傷つけないって、難しい話だね。これが公共の福祉ということです。基本的人権は難しいです。人によって考え方が違います。皆は一人ひとりの権利をどう考えますか。次回に続きます。」

注)
憲法第13条【個人の尊重と公共の福祉】
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
(この授業では、これを小学生にわかりやすいように書き換えて提示していました。
→「日本の国民は、一人一人が尊重されています。生きていくことや自由であること、幸せを求めることといった国民の権利は、相手の人権を傷つけない限り最大限に尊重します。」)


千葉大学教育学部附属小学校 第43回公開研究会④
へつづく

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