第72回お茶の水女子大学附属小学校 教育実際指導研究会①
2010年2月18日(木)、19日(金)の2日間、お茶の水女子大学附属小学校で教育実際指導研究会が公開されました。お茶大附属小学校は社会科ではなく、学習分野「市民」が存在しています。4年生と6年生の「市民」の授業と協議会を見せていただきましたので、まず4年生の授業からお伝えします。
お茶の水女子大学附属小学校のプロフィール
1878年、東京女子師範学校附属練習小学校として開校。(所在地は湯島)
1934年、現在地に移転。
1949年、お茶の水女子大学・東京女子高等師範学校附属小学校となりました。
1952年、お茶の水女子大学文教育学部附属小学校となり、新1年生より第1組・第2組とも男女学級としました。
1964年、1年生より3学級編成を実施。
1980年、お茶の水女子大学附属小学校となりました。
1987年、第1校舎新築落成。
定員児童数 一般学級 1~6年 各学年男女各60名 計120名(3クラス)
帰国児童教育学級 4~6年 男女計15名
(2009年度小学校案内より)
研究主題について
主題 小学校における「公共性」を育む「シティズンシップ教育」
―友だちと自分の違いを排除せずに、理解し考える力を発揮する―
(以下、『発表要項』から適宜引用させていただきます。)
本校は文部科学省研究開発指定校として、平成20~22年度は小学校教育で育成できる「公共性」について、全教科(学習分野)で内容・方法を深めたいと考えました。その理由は昨今の子どもの実態や社会の現状があります。例えば、主張はするが他者の声を受け止められない、身勝手な言動を諫めると心を閉ざす、どうせだめだと異議申し立てを諦めるなどです。こういった実態から、関わり合いの質、絆のあり方を学びの場において丁寧に問い直し、なおかつ現代社会の複雑で多様な問題から目をそらさず、よく考え判断する子を育てることが求められます。
そこで研究課題として「公共性=友だちと自分の違いを排除せずに理解し考える」を取り上げ、目標としました。目標に至る手段を「シティズンシップ教育」とし、シティズンシップ教育で育む資質・能力を「公共性リテラシー」とします。「公共性リテラシー」とは、民主主義を創り出す学習文化を、どの授業にも共通する教室の基盤としてかたちづくることを目指し、機能的リテラシーの政治性に注目した資質能力です。
今年度は「公共性リテラシー」を、全ての学習分野で共通の4つの要素「共感・賞賛・批判・提案」を手がかりに探求します。
「市民」について
学習分野「市民」ができて8年が経ちました。価値観の多様化した現代社会を生きていかねばならない子ども達を、「根拠となる情報をもとに、自分の考えを主張でき、他者の考えにも耳を傾け、考えを深めながら、社会の認識を深める人」に育てたいと考え、「社会的価値判断力と意思決定力を育む『市民』の学習」をテーマとしています。
現在、「市民」部会では「公共性リテラシー」を要請する場面設定と内容を以下のように考えています。
タイプ①「時事的な社会事象について、他者との差異や葛藤を感じる問題」を扱う内容 タイプ②「他者との差異や葛藤を感じる問題」を扱う内容 タイプ③「他者との差異を認め広げる」ことが可能な内容 |
タイプ①を、「市民」でより積極的にとりあげたいと考えています。
これからの社会を創造する子どもに培いたい中心的な「公共的リテラシー」は社会的価値判断力、意思決定力、「社会を見る3つの目」の3点です。「社会を見る3つの目」というのは、民主主義社会の認識の仕方として根幹となるリテラシーです。即ち、
・社会には、一個人の工夫や努力で、できることとできないことがあること。 ・自分の利益と、他者やみんなの利益は、必ずしも一致しないこと。 ・だから、世の中には広い視野から社会を調整するしくみが必要であるとともに、それらのしくみに対して関心をもち、自ら働きかけようとする意識をもつことが必要であること。 |
「市民」の授業は3年生から始まります。
4年2組授業
2月18日(木)9:55~10:35 場所 3A教室
授業者 佐藤孔美 教諭
テーマ「くらしとごみの問題 ~ゴミ袋の有料化の問題について考えよう~」
本時(11時間扱いの10時間目)までの準備
場面設定はタイプ①の「時事的な社会事象について、他者との差異や葛藤を感じる問題」を扱う内容です。まず学校や家庭など身近なところでのごみの量や種類調べから始め、東京都全体のごみの量や行方・ごみ処理の仕方を調べました。東京都のごみ問題の現状と埋め立て処分場があと40年で満杯になることをあわせて、ごみの減量の必要性に気づかせ、具体的なごみ減量の取り組みについて調べ考えてきました。ゴミ袋の有料化の問題については、いろいろな人にインタビューしたりして調べ、根拠を明らかにした自分の考えにしています。
授業の導入―自分の意見の表明
黒板には「東京23区はゴミ袋を有料にするべきだろうか」と書いた紙が貼ってあります。
その下はこのように書かれ、ゴミ袋の実物が貼ってありました。
少しずつやる人を 増やす東京23区 |
|
厳しくする町田市 | ||||
先生:「では始めます。(先生と)目が合っていますか?こんにちは。」→みんな:「こんにちは。」→先生:「では日直さん、この前はどんなことをしましたか?」
女子1:「この前はゴミ袋を有料にするべきかということです。」
先生:「23区のゴミ袋と町田市の袋を比べました。いくらでしたか?」
みんな:「23区は1枚15円で、町田市は1枚80円です。」(高過ぎるの声)
先生:「23区も有料化に迷っているそうです。自分の結論を黒板に貼ってもらいましょう。
1号車(教室の窓側の列)の人からどうぞ。」
児童が前へ出て、黒板の「有料にしない、する」の表に自分の名前のカードを貼っていきました。全員が貼った結果、「有料にしない」に賛成が16人、「有料にする」に賛成が22人でした。
自分の意見の根拠を述べる
先生:「ノートに考えの書けている人はいますか?」→児童の半分ぐらい挙手。
先生:「では男子1君。」
男子1:「有料がいいと思います。理由は無料だと捨てる人が増えるからです。有料ならごみを大切にする人が増えると思います。」
先生:「ごみを大切にするという言い方は少しおかしくないですか。言おうとしていることは伝わってきますが。誰か助けてあげてください。」
女子2:「ゴミ袋にお金がかかるとごみを出さなくなります。」
男子2:「有料にしない方がいいです。なぜかというと、ごみが減らないと意味がないし、お金の無駄遣いになるからです。」
有料にするという児童の理由は、ゴミ袋を買わないですむようごみを減らそうとするから。一方、有料にしない児童の理由は、有料にしてもごみが減らないならということを前提に、お金がもったいないからというものが主でした。根拠を述べた人の名札の横に、先生がその根拠を板書していきます。
女子3:「有料がいいと思います。少しでもごみが減るなら、ゴミ袋を80円にしないと。まずやってみないとわからないと思います。」
女子4:「有料がいいと思います。始めはわからないけれど、慣れるのではないですか。」
先生:「自分だったらどうしますか?」
口々に:「やってみなければわかりません。」
男子3:「有料にしない方です。ごみの量は変わらないで、環境に悪くなると思います。ゴミ袋を買わないで、公園などに捨てる人が増えると家族が言っていました。」
グラフの提示と考えの深まり
先生:「町田市は2005年からゴミ袋の有料化を始めていますが、その結果を見せないといけませんね。」
先生が4本の帯が並んだグラフを見せ、ごみの量が一目でわかるほど減っていることを説明すると、児童から歓声が上がりました。
男子4:「問題があっても一応減っているので、有料がいいと思います。」
男子5:「(有料にしないほう。)お母さんの友達の市では、緑のリサイクルボックスとかがあって、それに入れると無料になるというので、隣の市から入れに来る人がいるそうです。」
先生:「確かに隣の市が有料でなかったら、捨てに行く人がいるかもしれませんね。」
一人の男子が帯グラフの帯に境目の線が入っていることを指摘し、それは何の意味か尋ねます。一本の帯で1年間の資源ごみと燃やせるごみを合わせて表示してあるのでした。先生がよく気づいたことを褒め、燃やせるごみが急速に減っていて、替わりに資源ごみが増える傾向であることを説明しました。
男子6:「お金がもったいない方に少し賛成ですが、ゴミ袋を作ったお金が少し戻ってくるから有料にしたほうがいいと思います。」
先生:「意見が変わってきたのですか?」→男子6:「はい。人の意見を聞いて。」
男子7:「有料にするでしたが、考えているうちに有料にしないになってきました。有料にしても、スーパーの袋を使えないことにしないと効果がないからです。」
女子5:「有料にしないに変わりました。公園とか他の家の前に捨てるとか、迷惑が増えるからです。」
先生:「今、みんな揺れています。もう一度ごみの量のグラフを見てください。全体に減ってきていることはわかります。少しずつやる人を増やす23区も、厳しくする町田市も結果を出しています。どちらがいいのでしょう。」
この後、先生は市の中で無料のところを赤丸で囲みました。8市あります。
先生:「23区は今動き始めているようです。最後に、今の思いをノートに書いて終わりにします。」
最後に先生が挙手で子ども達の意見を聞いたところ、意見が変わらなかった人=30人、有料にしないに変わった人=4人、有料にするに変わった人=4人でした。
ここまでの取材から
この後の授業協議会は残念ながら都合により出席できませんでした。気づかされたのは、子ども達の話す言葉が丁寧語で、皆きれいなこと。授業内容について、家族の人と話し合っていることがうかがえることです。4年生なので、まだ自分の意見の理由を述べることは難しいながら、日常生活でよい学習態度が身についているのがわかります。意見を述べなかった子ども達はなんと書いたのか、この後の時間はどう締めくくられるのか、興味深いです。
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