第一東京弁護士会 ジュニアロースクール2010②

 2010年3月31日に行なわれた第一東京弁護士会によるジュニアロースクールの続編、マンションのルール作りです。

班に戻ってルール作り

吉田先生:「では皆さん元の班に戻ってください。マンションのペット問題を解決するように、班でルールを作ってください。作れたら模造紙に書いて、発表してください。発表者を決めてね。1時間ぐらいでお願いします。」

 各班とも、それぞれの人物役の中でどういう意見が出たか、順番に発言しています。吉田先生が、「作戦会議で出た意見の中で、自分の意見に合うものだけ取り入れて言えばいいですよ。」とアドバイスしています。
 ある班では、「ルールで縛るべきではない。みんなで努力したらいい。」という意見が出ていました。それに対し管理人が、「努力だと、ここを超えたらどうなるかという線引きが必要でしょう?それがルールですよ。」とアドバイスしていました。「ある程度のところを超えたら罰をするということでいいのでしょうか?もう一つの選択は、防音壁を作るなど何らかの対策をすることでしょう。」という具合に進んでいました。ルールの理由も考えるようアドバイスがあります。

ルール発表

1班
① まず自分でしつける。(1~2ヵ月)
② ①がうまくいかなければトレーナーにしつけを依頼する。(1~2ヵ月)
  費用は関係者で折半。
③ 犬の場合、①・②でも現状が解決されなければ、飼い主側に防音壁を設置する。費用は関係者で折半。
④ 猫の場合も①・②で解決されなければ、まず消臭剤を散布する。それでもダメなら清掃業者を依頼する。いずれも費用は折半。
吉田先生:「関係者とは誰ですか?」
発表者:「飼い主と苦情を言う人です。」
吉田先生:「このようなルールにした理由は?」
発表者:「①はお金がかからない方法で、それがダメなら②、③のようにお金のかかる方法を考えました。」

2班 
① ペットは飼ってよい。
② 近所迷惑にならないよう、飼い主の責任でしつける。フンの始末をしっかりする。
③ 鳴き声がおさまらない場合、防音壁を設置するなどの措置をとる。
④ 守らなかった場合、管理人から注意する。それでも守らなかった場合、住人で話し合いをする。③・④について、措置の順番までは議論していない。
⑤ 罰金・立ち退き要求もありうる。

3班
① 原則ペットは飼ってよい。
② ペットの糞尿は飼い主が始末する。
③ ペットがいる部屋は自己負担で防音壁を設置し、効果が出たら会費から出す。(住人全員で費用を分担する。)
④ ②、③が守れず、管理人から警告を受けても改善しない場合、段階的に罰金を払わせる。
⑤ それでも改善されない場合、立ち退いてもらう。
吉田先生:「段階的にとは?」
発表者:「何回目の警告でいくらとか、金額を上げていきます。」

4班
① 飼い主はペットのしつけや世話(フンの始末等)をする。守れない場合には、罰金として管理費を多く支払う。ルールを守れているかどうかは、住居者全員で話し合って判断する。
② いちょうさんとこならさんの間に防音壁を作る。費用はこならさんが負担する。かえでさんともみじさんの間には、当面は防音壁を作らない。かえでさんが①のルールに違反した場合、かえでさんが支払った管理費で防音壁を作る。
③ 飼ってよいペットの種類などのルールを作る。今飼われているペットは禁止される種類には含めない。
④ ①のルール違反の程度がひどい場合には、ペットを飼うことを禁止する。(今までのペットも禁止する。ペットをペットホテルなどに預けるか立ち退くか、対処する。)判断は住居者で話し合う。

5班
① ペットは飼ってよい。
② ペットが原因でトラブルが起こったら、2つの家の間に防音壁を作る。(費用は1/2ずつ)
③ ペットのフンの処理は飼い主が必ずする。匂いのクレームがあれば消臭剤を置く。費用は全額飼い主負担。
吉田先生:「騒音と悪臭で対応を分けたのはなぜですか?」
発表者:「音はペットも生き物だからやむをえないけれど、フンの処理は飼い主の意識の問題だから責任が大きいと考えました。」

各班のルールについて意見交換

吉田先生:「他の班のルールについて、これは守れなそうとか問題だなどの意見はありませんか?ルールをけなされる、というのではなく、より良いルールを作るための提案と考えてください。」
男子1:「3班の『②、③が守れない』ということは、管理人が判断するのですか?」
→回答:「隣人や管理人です。みんなで話し合ってはいませんけれど。」
吉田先生:「それについて提案はありませんか?」
男子2:「居住者全員で判断した方がいいと思います。それで反対意見が出なければ、『守れない』ということになります。」
男子3:「4班の『ルール違反の程度がひどい場合』について、『ひどい』かどうかは人によって感じ方が違うと思います。住居者の意見が食い違ったらどうするのですか?」
→回答:「多数決をとります。」

講評

伊達有希子 弁護士
 「ルールに効果はあるか、そのルールをみんなが守れるか」ということも大切です。「誰か一人が我慢することにならないか」も大事です。それぞれが負担するのはいいルールでしょう。もっとも、5班の③のルールは、飼い主だけが費用を負担することとなっていますが、これはきちんとした理由がありますので、これもいいルールです。
 「近所迷惑」とか「ひどい」とかは誰が決めるのでしょう?法律で「ひどい場合、死刑」ということだと問題ですね。法律では言葉がきちんと伝わることが大切です。
 役柄になりきるのは大変ですね。自分とはちょっと食い違う意見の役の場合も、やらないといけないですからね。感想はいかがでしたか?

1班:「楽しかったです。みんながどんな意見をもっているか聞けたのがよかったです。」
2班:「楽しかったです。他の人の意見を聞くのがためになりました。自分の意見を言うのは難しいと思いました。」
3班:「ルールを作るのは意外と大変だと感じました。」
伊達先生:「みんなもですか?」→挙手多数
伊達先生:「ルールは作り変えることもできます。これからは皆さんの周りにあるルールが良いルールなのか、悪いルールならどう変えたらよいか、考えてみてください。」
4班:「話し合ってみんなで一つのことをするのがよかったです。普段接点のない人と話すことができました。」
5班:「楽しかったです。ルールを作るときのみんなの姿勢がよかったと思います。自分の意見も言えました。」

管理人役からの感想

1班:「ものわかりのいい住人が多かったです。促すとよく応えてくれました。」
2班:「役になりきるのがうまくて、面白かったです。ルールを守らなかったらどうしようということを沢山考えました。」
3班:「最初は個別の人物について話していましたが、だんだん一般的なルールをどう作るかというふうに考えられました。話しているうちにレベルが上がりました。」
4班「自分はこう考えるけれど、相手の立場を考えて譲る、という考え方をしていました。大人ですね。ルールを守らない場合や、管理人は中立か等も考えました。ルールを作るだけでなく、当事者達の問題を個別に解決してあげようと対策も考えたことは、中学生とは思えないほどで感心しました。」
5班:「自分自身の責任を自覚している人が多かったです。単純だけれど明快でいいルールだと思います。主観によらず客観的に対処する策でしょう。」

弁護士の先生に聞きたいことは?

男子4:「刑事事件を題材にしたドラマで、やっていないのに罪を認めた方が罰金が安いとか、認めれば家に帰してやるとかありますが、そういうのっていいんですか?」
回答:「真実は何かが一番大事です。罪を犯していないときは、頑張らなければいけないと思います。無罪になれば、捕まったことによりこうむった損害は国から賠償してもらえることもありますから、その場しのぎをしてはいけません。私は検察官だったのですが、検察官も、何が真実かを追求しなければならないと思います。」

 その他、弁護士の収入に関する質問がありました。

修了証書授与

 第一東京弁護士会法教育委員会委員長の塩谷弁護士から一人ずつ修了証書が手渡されました。

「今日は法律よりも少し下のレベルの「ルール作り」をしてもらいました。皆さんが成長するにつれ、マンションのルールから地域のルール、国、世界となっていきます。今やったことと同じようなことを、大人も皆やっています。今日のことを将来したいかなど考えてもらえれば幸いです。」と締めくくられました。

取材を終えて

 教材は『はじめての法教育』に載っていますが、中学生達に役割を演じてもらう、役割ごとの作戦会議を設ける、と段階的に考えられるよう工夫がされていました。とてもわかりやすく、みんな実感を持ってルール作りを楽しめたようです。出来上がったルールを発表するだけでなく、それについて中学生同士が質疑応答する時間もあり、充実した内容だったと思います。各班の管理人役をされた弁護士の先生のコメントからは、中学生への賞賛の声が口々に聞かれ、みんな自信を持つことができたのではないでしょうか。

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