「こどもの日」記念企画 いじめ問題出張授業(その1)

 東京の3弁護士会(東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会)では「子どもの人権と少年法に関する特別委員会」が、2008年から日本弁護士連合会の「こどもの日」記念企画の一環として子どもの権利に関わる出張授業を行なっています。
 「いじめ」をテーマにした出張授業は好評をよび、去年1年間に延べ30クラスで授業を行ない、約900名の児童生徒の参加があったそうです。
 その活動の様子を3回にわたりお伝えします。

企画の経緯

 4月22日(木)、東京パブリック法律事務所に三坂彰彦先生、山下敏雅先生をお尋ねし、お話を伺いました。
 「いじめ」をテーマにした出張授業は、第二東京弁護士会の平尾潔先生が中心となり、何年も前から行なわれていました。中野富士見中学校いじめ自殺事件 などが契機となっていたようです。平尾先生は『いじめでだれかが死ぬ前に』 という著書を書いていらっしゃいます。一度授業を行なった学校が翌年もまた出前授業を頼んでくれたり、評判を聞いた他の学校から出前授業を頼まれるというようにして、多くの実績を積んできました。
 一昨年からは、日本弁護士連合会の提言を受け、こどもの日の記念企画として、第二東京弁護士会だけでなく東京弁護士会・第一東京弁護士会との合同で、子どもの権利に関わる出張授業をするという企画になりました。
 授業の案内も、去年は教育委員会へ案内を送り、各学校へ呼びかけてもらう方法をとり、新たな希望校を増やしています。

*1986年に起きた中野区の男子中学生の自殺事件。「葬式ごっこ事件」とも言われる。
2年生男子生徒がクラスメートのグループからいじめに遭い、日常的に暴行を受けるようになった。グループは学校でその生徒の「葬式ごっこ」をし、そこに添えられた「寄せ書き」に担任ら教師4人も参加していた。それがきっかけで生徒は学校を休みがちになり、自殺するに至った。

学校側の考え

 以前、実際に出張授業を依頼したことのある中学校の先生にお話を伺いました。(授業テーマの性質上、ここでは学校名等は伏せます。)
 「中学校では携帯電話の持ち込みは禁止していますし、高校生は携帯電話の所持率が9割を超えるようですが、中学生では全員が持っているわけではないので、携帯電話に絡んだいじめはそれほどひどくないようです。
 それよりも、何がいじめかわかっていない、どうすることがいじめなのかわかっていないのが問題です。生徒は「死ね」とか「うざい」とかいう言葉を、日常的に使います。そういう何気ないところ、体でぶつかってみたり、カバンを隠したり、言葉の暴力などがいじめになるということを、まずわかってほしいです。やる方は罪の意識がない。ゲーム感覚で、からかっているらしいのです。「こういうことをするのは、いじめです。」というように、よくあるいじめのパターンを挙げてもらうと、助かります。
 生徒たちを見ていると、言葉で説明すれば問題は起こらないのに、会話能力がないため一言で終わってしまい、すぐに手が出てしまうパターンが多いです。会話をする能力をつけないといけません。
 その原因は、テレビやゲームの影響があると思います。小さい頃からずっとゲームばかりして生活していると、会話能力が低下する。行動が反射的になってしまう。ゲームはそうですよね。小さい頃からの生活習慣がたまって、そうなるのではないでしょうか。中学生ではもう遅いかもしれませんが、その年齢、その年代毎に学習させていくしかないでしょう。
 家での親との会話も必要です。教員以外にも大人みんなが、子どもに話してもらいたいと思います。そうやって少しずつでも、子どもの中に残っていくのを期待したい。弁護士さんも含め、いろいろな人が、いろいろなことを言ってくれると、子ども達もわかってくるのではないかと思います。学年が違うと感じ方も違うので、中学1年生と3年生では話し方を変えることも必要でしょう。
 いじめ出張授業では、クラスにいじめられている側の子どももいますが、授業をするのは事情を知らない弁護士さんなので、知らん顔してさらっとやって貰うのがいいです。それができるのが出前授業の良さです。普段一緒に生活している担任教師では、かえって事態が複雑になりかねず難しい面があります。弁護士会では学校に頼まれたからいじめ授業をするのではなく、毎年いろいろな学校で授業を行なっていると説明してもらい、助かっています。
 今は、小中連携の時代なので、中学校に入る前に、小学校5~6年生でもこの授業をしてくれているといいと思います。今の小学生は昔より体格がいいですからね。いじめ出張授業が広く知られて、小学校や他の学校でも勉強してくれるといいと思います。」

ここまでの取材を終えて

 弁護士会では、「子どもの権利に関する委員会」の弁護士がいじめや子どもの人権の事例を扱うことがわかりました。その経験を活かした授業を通して、なんとかいじめをなくしたいという弁護士会の熱意が伝わってきます。一方、学校側からは、テレビやゲームの影響、家庭の多様化など、社会全体のあり方から子どものコミュニケーション能力が低下しいているのではないか、という問題が提起されています。それが簡単にいじめにつながる状況であり、いつどの学校でいじめが起きても不思議はないと思われます。それではどうしたらいいかというと、学校の教師だけでなく弁護士をはじめとしたいろいろな大人が、いろいろな場面で、子ども達にコミュニケーションの大切さ、人権などの話をしてくれることが重要だということです。
 特にいじめに関しては、学校の先生は当事者に近いためかえってやりにくい面があるということで、弁護士が授業をする利点は大きいようです。
 この活動を追った取材の続編として、担当弁護士のチーム会議や、実際の出張授業の模様をお伝えする予定です。

ページトップへ