裁判員経験者の声を聴くパネルトーク その1

 2010年6月24日(木)18:00~20:00、霞ヶ関の弁護士会館で日本弁護士連合会主催、「裁判員制度施行一周年記念企画 裁判員経験者の声を聴くパネルトーク」が開催されました。裁判員経験者3人をお迎えし、時には笑いも起こる和やかな雰囲気のうちにも、意義深いお話を伺いました。

1 開会挨拶 

宇都宮健児 日本弁護士連合会会長
 昨年5月21日に裁判員制度が施行されて1年が経ち、その間、全国で2,500人以上の市民が裁判員裁判に参加しました。参加された皆さんは真摯に取り組まれ、様々な議論をされた様子が見てとれます。先日は、裁判員裁判初の全面無罪判決が出ました。
 制度施行から3年を経過したときに制度を見直すことになっていますので、日本弁護士連合会でも情報収集・検証をしています。裁判員をされた方の率直なご感想・ご意見は重要であり、今回も率直な論を展開していただき、有意義なものとなることを期待しています。

2 パネルトーク

〈パネリスト〉

渋谷友光 氏(裁判員経験者・青森地裁)
 青森キリスト教会ジョイフル・チャペル主任牧師。2009年9月2日に開廷した青森県内初の裁判員裁判に参加。強盗強姦罪の被告人(22歳)の情状酌量を求める証人が出廷したのは、裁判員裁判としては全国初。

鈴木章夫 氏(裁判員経験者・千葉地裁)
 元共同通信社写真記者。現在フリーカメラマン。2009年12月15日に開廷した裁判員裁判に参加。裁判は、居酒屋の出店計画をめぐるトラブルから傷害致死の罪を問うたもの。

高須 巌 氏(裁判員経験者・水戸地裁)
 鍼灸師。茨城県稲敷市にて健友館日本整体院を経営。2009年11月25日に開廷した茨城県内初の裁判員裁判に参加。裁判は、強制わいせつ致傷の罪を問うもの。

後藤 昭 氏(一橋大学大学院法学研究科教授)
小林 直 氏(NHK報道局社会部記者)
原田國男 氏(元東京高等裁判所部総括判事・弁護士)
坂根真也 氏(日本弁護士連合会裁判員本部委員・弁護士)

〈コーディネーター〉

小野正典 氏(日本弁護士連合会裁判員本部本部長代行・弁護士)

小野氏:「本日は裁判の流れを次の4つに区分けして、お話して頂きたいと思います。①選任手続き、②審理、③評議、④その他もしくは全体的なことです。ご自由にご発言いただいて、リラックスした雰囲気で進めていきたいと思います。」

〈①選任手続きの段階について〉

渋谷氏:「9月1日午後に青森地裁に来るようにという通知が来ました。裁判所に着くなり、多くの報道陣がいて驚きました。なかなか中には入れなくて、裁判所の人が助けに来てくれました。
 まずアンケート用紙で、「事件のあった町に仕事で行ったりしますか?」とか「性犯罪事案ですが、落ち着いてできますか?」などと質問がありました。
 46名が呼び出されましたが、「自分が選ばれたらどうしよう」と思いました。皆さん、静かに待っていました。裁判長などとの面接を待つ時間は長いので、その間に裁判員制度の趣旨や、日本がどのように変わっていってほしいか説明があると、時間を有効に活用できると思いました。」

鈴木氏:「私のときはそれほど関心がないらしく、大騒ぎはありませんでした。昨年3月か4月に最高裁判所から最初の通知が来ました。9月下旬に、裁判員候補になったので12月15日に千葉地裁に来るよう通知がありました。100人ぐらいに送られているということですが、実際には50人強集まりました。本当に自分の番号が呼ばれたときは、「これは大変なことだ。」と驚きました。宣誓してから次第に緊張が高まりました。
 2度目の通知が来たら、裁判員に選ばれる確率は結構高いと思って、私のようにうろたえないようにしてください。」

高須氏:「春に通知が来た人は7~8千人と聞きました。9月に2度目の通知が来たときは、「どうしたら逃れられるか」ばかり考えましたが、当てはまる理由がありませんでした(笑い)。
 夕方には帰れると思って、夕方の患者さんの予約を入れていたら帰れなくなり、家人に「患者さんにはちゃんと理由を言ってあげて。」と頼みました。その頃には度胸が据わって、一生懸命やろうと切り替わりました。
 昼食は外に出ようと思っていたら、外は結構人が集まっていたので、裁判所の人に「外へ出ないほうがいいかもしれない。」と言われ、驚きました。」

坂根氏:「昨年度は制度が始まって間もないということで、呼び出す人数は多めということでした。裁判員をしたくない理由に、「人に恨まれたくない」と書いた人にも、個別面接で裁判長がお話して、「心配ないです。」と納得してもらうといいます。選ばれた人は手続の最初の段階とは表情が変わっているのが印象的でした。」

小林氏:「私たちは選任に漏れた人を取材するわけですが、裁判所の対応がとても丁寧なことに皆さん感心しています。選に漏れると結構がっかりするという声もあります。裁判所もこれからは少なめに呼び出す方向で、裁判員への負担を減らそうと考えています。」

後藤氏:「キャンセルされた患者さんから苦情はありませんでしたか?」
高須氏:「いいえ。逆に、頑張ってと励まされました。」

原田氏:「裁判官も皆、裁判員裁判第一号事件は緊張したそうですが、いい経験でとてもよかったと言っています。「この制度は素晴らしい。」という声が多いです。」

〈②審理の段階について〉

小野氏:「冒頭陳述の印象はいかがでしたか?」

渋谷氏:「緊張と責任感を感じました。自分の判断が被告人の人生に関わることがプレッシャーで、懸命に聞いていました。」

鈴木氏:「まず、法廷への入り方が、廊下で整列させられて、結婚式の新郎新婦の入場みたいで緊張しました(笑い)。陳述の中身はわかりやすかったです。」

高須氏:「まるでワールドカップの選手入場でした。自分の席は被告人に近くて、「顔を覚えられたらどうしよう。」とばかり思って、下を向いていました。
 内容はわかりやすい言葉で説明してくれるのがわかりましたが、それより流れが気になり、早く落ち着かねば、早く流れをつかまねば、という方に気持ちがいきました。」

小林氏:「検察側と弁護人を比較すると、検察側は組織なので、均一化していてわかりやすい。弁護人は事務所単位なので、プレゼンの仕方もまちまちで、立ち位置やわかりやすさもさまざまです。
 ある強盗傷害事件の例では、検察側はストーリーで説明し、弁護人はキャッチフレーズ「恩を仇で返す」という一言だけ覚えてほしいといっていました。注目すべき点を一点に絞っていて、わかりやすかったです。
 反対に、わかりにくいのは、細かい説明が一杯で、どこがポイントか言わないとか、資料が用意してあるのにそれには触れず、「推定無罪」の原則だけ強調するといった例です。裁判員経験者からは、「声が小さい、わかってもらおうという姿勢がない」という批判の声もあります。

坂根氏:「この段階では裁判員になりたてで緊張感があるので、多くの情報を理解できるわけはありません。弁護人は、検察官が30分以上話した後というハンデがあるので、1つか2つ覚えてもらえばいい、いかにわかりやすくするか、一言でわかるフレーズ・テーマ設定を考えます。」

後藤氏:「資料があるほうがわかりやすいですか?」

渋谷氏:「その場で目を通すのは難しいですが、パワーポイントの画面を印刷したものを配ってくれたので、陳述を聞く助けになりました。」

鈴木氏:「陳述はなかなか頭に入らないし、その場で理解するには至りませんでした。休憩中に資料を見たり、裁判長の助言も受けて、やっと頭に入りました。」

高須氏:「私の場合も手元に資料がありました。どういう顔をして座っていればいいかわからないので、あったほうがいいですね(笑い)。」「読んでいるうちにだんだん落ち着けましたし。」

原田氏:「最近の例では検察側もパワーポイントはあまり使わずに、紙に書いたものを配って説明することが多いです。板書する方が印象に残るということもあります。ポイントを絞るのはいい方法だと感じます。」

〈引き続き、審理の段階について〉

 裁判員経験者の声を聴くパネルトーク その2に続きます。

ページトップへ