裁判員経験者の声を聴くパネルトーク その2

〈引き続き、審理の段階について〉

小野氏:「証拠調べ、起訴状朗読、証人尋問等についてはいかがでしたか?」

渋谷氏:「検察側は3人が交替で話し、聴く方は飽きずに聴けて、工夫されていると思いました。被告人の祖母が情状証人として出廷しましたが、高齢で耳が遠く、大変な状況でした。弁護人がいらいらしている感じが伝わり、証人が気の毒な感がありました。証人に近づいてあげるとか、証人を支えてあげる姿勢があるといいと思いました。」

鈴木氏:「証拠の凶器を評議室まで持ち帰って、実際に手に持ったりしました。被告人質問は双方ともわかりやすく、量刑だけが問題となりました。」

小林氏:「証人尋問は検察側は組織として徹底しており、「次は」といった言葉を使うなどして、注意を喚起する話し方です。弁護人が尋問した際には検察官から異議の申立てがあり、裁判長に認められるケースが目立ちました。
 「もう少し証拠を見たかった。」という意見も結構あります。「証人の話をもっと聞きたい」、「被告人の背景事情をもっと知りたかった」という声もあります。

坂根氏:「被告人の話だけでは全体像をつかみづらいと思いますので、いろいろな人に証人になっていただきたいと思います。証拠は検察側が優位なのは認めます。「わかりやすい証拠作り」が弁護人の課題だと思います。
 裁判官はあまり被告人を見ませんが、裁判員は被告人を見る人が多いですね。どう感じるのですか?」

渋谷氏:「どのような表情をしているか、表情から窺えるものが判断基準になるのではないかと思って、見ていました。」

鈴木氏:「私も被告人をずっと見ていました。わりと無表情な人でした。」

高須氏:「話しているときの目の配り方などで人となりを感じることがあります。被告人を見ていましたが、動作とか目の配り方をずっと見ていました。」

小野氏:「論告と弁論についてはいかがでしたか?」

渋谷氏:「情状証拠は、被告人が幼い頃の悲しみで心を閉ざしてしまう状況を話してくれましたが、わかりづらかったです。」

鈴木氏:「論告で、女性検事が被害者の母親の手紙を読みましたが、読み方がうまかった。弁論は印象が薄かったという感想です。」

高須氏:「示談が成立しているので、量刑が問われました。市民感覚で、自分の身内がそうされたら、というだけで判断してはいけないと思っていました。」

後藤氏:「弁護人は最後に刑を軽くするようにという方向に行きますが、納得しましたか?」

渋谷氏:「弁論で不幸な生い立ちを聞いて、こみ上げてくるものがありましたが、ひどい犯罪だし、被害者の心情をビデオリンクで聞いて、犯した罪の大きさに気づいてほしいと思って評議に入りました。」

鈴木氏:「弁護人の言うことはよくわかりました。」

高須氏:「個人的には、そうはいかないでしょうと思いました。再犯のおそれも考えられました。私達が普通に起きる感情を前向きに押し出していいと思いました。もっと違う角度から見るとかは、後から思いました。」

*ビデオリンク方式とは、裁判所内の法廷とは別の部屋に証人を在席させ、その部屋と法廷とをテレビ回路でつないで映像と音声を相互に中継し、テレビモニターを通じて尋問を行うもの。法廷において供述すれば圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれのある証人を保護するために認められた証人尋問形式である。(参考:法律学小辞典(有斐閣,第4版補訂版,2008年))

〈③評議の段階について〉

渋谷氏:「裁判長が、裁判官と裁判員合わせて9人、ちょうど野球チームと同じで、一つのチームとしてやっていく。一緒に考え、何が最善の判断か考えていきましょうと言ってくれて、話しやすい雰囲気になりました。自分から話さない人には、裁判長の方からどうですかと聞いてくれました。」

鈴木氏:「量刑に入るまで1日弱で、単純な事件にしても、「早いな。」と思いました。もう1日ぐらいいろいろあってもいいのかと思いました。評議自体は、裁判所がいろいろ気を遣ってくれて、リラックスするようにしてくれて、順調に進んだと思います。」

高須氏:「休廷は30~40分おきで、絶妙のタイミングです。「今のことをどう思うか?」というので、忘れないうちに話すことができました。裁判官は不快感のない流れを作ってくれました。こちらが恐縮するぐらい低姿勢で、全員同じ立場でやろうとしてくれました。裁判官の意見は最後に話して、やりやすかったという感想です。」

後藤氏:「評議の際、量刑の例はどういう印象でしたか?過去の例にとらわれない方がいいとか?」

渋谷氏:「20件以上の資料を出してくれましたが、裁判長が「これはあくまでも今までの例ということに過ぎないので、とらわれ過ぎないように」と言ってくれました。私達の住む町で起きた事件ということは、他人事ではなく、真剣にならざるをえないので、異例といえる量刑になりました。このような事件がこの町で起きてほしくないという、住む者の心の声が表れたと思います。資料の量刑は、「こんなもので済んでしまったのか。」という感覚でした。」

鈴木氏:「求刑は懲役10年でした。量刑データは、個人的には気になりましたが、幅がありました。弁護人は何も言いませんでした。」

高須氏:「過去の例は、「えー、軽すぎるよ。」と思いました。またやってもらっては困る。個人的には実刑という考えもありました。データからすると、実刑はとんでもなかったので、茨城県が全国に恥じないようにと(笑い)、実刑でない中で一番重い刑になりました。起訴されていない事件が2つあるというので、罰よりも再犯をしないようにと考えました。肉親の感情も考えました。」

原田氏:「被害感情について、刑が重くなるのではないかという議論がありましたが、どう位置づけましたか?」

渋谷氏:「被害者がビデオリンクで述べてくれたのが、重く受け止められました。天秤のような感覚を味わいました。」

鈴木氏:「被害感情については裁判長からはありませんでした。検察側の手紙朗読が、裁判員同士の話題になりました。」

高須氏:「年配者は、うちの娘にそういうことがあったら、というところから入りました。」

小野氏:「千葉地裁では、評議室の中に刑事裁判の原則を書いた紙が貼ってあったそうですが、印象に残りましたか?」

鈴木氏:「いたる所に貼ってありました。」(笑い)

小野氏:「証拠による裁判とか、無罪推定の原則とか、貼ってあったそうです。」

〈④最後に、お話ししたいこと〉

渋谷氏:「裁判所はよほどのことがないと行かない場所、社会的に大きな判断をする権威あるところです。その中で、自分達が判断することで、自分達のメッセージを伝えられる機会です。一人ひとりがシティズンシップを持って、この町をどうしたいか、ビジョンを示す機会です。裁判員制度をさらに良いものにつくり上げるように、考えていってほしいと思います。
 私は被告人と似たような境涯で、被告人と同一の感覚がありましたが、そんな事件は起しませんでした。被告人に科せられた15年の刑は、被告人が心を閉ざしてしまったら、私達の評議もむなしいものになると考え、「反省し、更正をするよう願う15年です」と伝えてくれるよう、裁判長に頼みました。裁判長はそのとおりに伝えてくれました。
 裁くことは厳しいことで、かっこいいことではない、寂しいことです。彼を覚えていたいと思います。」

鈴木氏:「まさにそのとおりだと思います。最後まで疑問に思ったのは、裁判所が呼び出した人の身分証明書も何も見ないことです。(隣のパネリストを見て)どうでした?確認ないですよね。つまり、裁判所は誰が来たかということより、6人揃えばいいだけという考えかと思いました。我々の市民感覚は個人に存在すると思うのに、数合わせだけなら、まだまだこの制度には問題があると思います。こんなこと言うと、これから急に免許証持って来なさいと言うかな?(笑い)
 裁判員になられたら、ぜひ積極的に参加されるといいと思います。いろいろなことを考えさせられた3日間でした。」

高須氏:「『私なんか』が参加するということでいいのだと思います。素人感覚が大切です。実際には淡々と進みすぎたぐらいだと感じます。「起訴されたことだけ話し合うように。」と言われたのが解せません。やったのが3回と1回ではまるで違う。再犯性がある被告人なのに、それはないでしょ、と思います。「その1回だけ」ではなくて「その人」を裁くと考えるのが市民感覚ではないでしょうか。裁判員はかき回すぐらいでいいと思います。やみくもに言うのではなく、バランスは考えますから。
 最後はすがすがしい感覚が湧きました。こんな奴と思っていた被告人にいとおしい感情すら湧きました。凄い体験をして、自分の人間性が変わっていく感じがあり、いいことをさせてもらったと思いました。」

3 閉会挨拶 

江藤洋一 日本弁護士連合会副会長
 本日は多くの方々のご参加をいただき、ありがとうございました。刑事裁判に親しみを覚えてもらえたでしょうか?意義深いパネルトークでした。日本の刑事裁判は変わるという思いを強くしました。弁護士も変わる、変わらねばならないと改めて確認しました。

〈取材を終えて〉

 2時間の間にいろいろなお話があり、様々なことを考える契機になるパネルトークでした。
 量刑のこと、最後の「人を裁くのか、その1回の罪を裁くのか」という問題など、じっくり考える題材になるのではないでしょうか。裁判員を経験された方々の言葉に、重みを感じる素晴らしい機会でした。

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