「こどもの日」記念企画 いじめ問題出張授業(その3)

 2010年6月30日(水)、東京の三弁護士会の子どもの権利に関する委員会によるいじめ出張授業が八王子市立椚田中学校で行なわれました。17人の弁護士が参加し、1年生から3年生まで17学級が、5時限目の道徳の時間に出前授業を受けました。その一こまをお伝えします。

八王子市立椚田中学校プロフィール

 昭和53年、横山中学校を母体校にして開校。新興住宅地の開発とともに年々生徒数が増え、校舎は増築を重ねてきました。西に関東山地を望み、万葉歌に「多摩の横山」と歌われた丘陵に囲まれる、自然豊かな環境です。学区域は、南の丘陵及び田園地帯と北の市街地域に分かれます。最寄の京王線めじろ台駅からは徒歩約20分。地域住民・保護者は学校教育に対する関心が高く、PTA活動その他も熱心です。

(平成21年度 学校要覧より)

 

学級数・生徒数 (平成22年度 )

学年 1年 2年 3年 特別支援
学級数 6 6 5 1 18
104 114 91 3 312
106 115 82 1 304
210 229 173 4 616

 

授業

教科:道徳  13:25~14:15  授業者:山本明日香 弁護士
1年7組 (男子17名、女子18名)

導入―弁護士の仕事

弁護士:「こんにちは。私は弁護士の山本です。名刺を廻しますので見てください。弁護士と聞いて、どんなイメージがありますか?」
男子1:「裁判。」
女子1:「事件を解決する。」
弁護士:「そうですね、トラブルを解決するイメージですが、それだけではなくて仕事の一つにこういうものもあります。」(「法教育」と板書しました。)「法教育とは、主に学生の皆さんに法的知識や法的なものの考え方を伝える授業です。今日はいじめについて考えましょう。」

どんなことがいじめ?

弁護士:「どんなことならいじめだと思いますか?」
女子2:「言い合い。」→弁護士:「そう。悪口などもそうですね。」(「悪口」と板書。)
男子2:「一人の人を大勢で、なんというか・・」
弁護士:「よってたかって無視したり、仲間はずれにしたりもいじめになりますね。」
女子3:「悪口。」→弁護士:「悪口よりひどいのに誹謗中傷というのがあります。馬鹿、死ねとかではなく、もっと具体的に人の嫌がることを言うことです。」
女子4:「暴力。」→弁護士:「そう。殴ったり、蹴ったりすることもですね。」
男子3:「陰口。」→弁護士:「そう。嫌がるあだ名をつけて呼ぶこともです。他に、物を壊す、隠すもいじめになります。」

大人がしたら、どうなりますか?

弁護士:「このようなことを大人がしたら、どうなると思いますか?」
女子5:「逮捕されます。」
弁護士:「はい、逮捕ですね。大人がすると、法的責任が生じます。一つは刑事責任です。ひどい場合、逮捕されます。嫌がるあだ名や誹謗中傷は名誉毀損。ひどくない場合は侮辱罪というのもあります。暴力は暴行罪。それで怪我をさせたら傷害罪。脅すと脅迫罪。物を取ったら窃盗。壊したら器物損壊。傷害罪で一番重い場合、どのぐらい刑務所に入れられると思いますか?」
女子6:「10年位?」
弁護士:「近いです。15年です。では窃盗罪は?」
男子4:「10年。」
弁護士:「正解!名誉毀損はどうでしょう?」
男子5:「10年?」
弁護士:「3年なんです。それでも、長いでしょう?刑事責任の他に、民事責任を負います。損害賠償と言いますが、法律に違反したことをして他人を傷つけたから、お金を払ってください、ということです。」

いじめは人の権利を侵害する行為

弁護士:「なぜ刑事責任、民事責任を負うことになると思いますか?」
女子7:「悪いことをしたから。」
弁護士:「そうですね。法律的に言うと、「人の権利を侵害したから」と言います。個人の尊重が憲法第13条に規定されており、「人は個人として尊重される」権利があります。いじめは人の権利を侵害する行為です。」

いじめられる人も悪いところがある?

弁護士:「いじめられる人も悪いという人がいます。○いじめられる人は悪くない。△場合によってはいじめられる人も悪い。×いじめられる人も悪い。どれだと思いますか?」
男子6:「△かな。」
女子8:「△です。」
男子7:「△。」
弁護士:「いじめられる理由とは何でしょう?どう思いますか?」
女子9:(返答に窮しました。)
弁護士:「いじめがひどくなると、どうなると思いますか?」→返答なし。
弁護士:「不登校やうつ、転校、ひどい場合、自殺したというケースもあります。」

葬式ごっこの色紙と遺書のコピー

弁護士:(コピーを配布して)「これは何の色紙だと思いますか?」
男子8:「悪口?」
弁護士:「これから、ある中学生が受けたいじめの話をします。鹿川君という東京の中学2年生が、首吊り自殺をしました。(『いじめで誰かが死ぬ前に』 から、葬式ごっこ事件の部分朗読。)この色紙は鹿川君が生きているときに、葬式ごっこをされたときのものです。この色紙を見たとき、鹿川君はどんな気持ちだったと思いますか?これを見ていた他の人達はどんな気持ちだったでしょう?これは応えにくいからあてないけれど、鹿川君は生きていたかったのに、自殺に追い込まれたのだと思います。誰の責任だと思いますか?」
女子10:「いじめた人。」
弁護士:「いじめた人は、死ねとか殺そうとか思ったでしょうか?葬式ごっこをした人の言葉を紹介すると、「みんなだよ。みんなでやってしまったんだ。」いじめはなぜいけないのでしょう?いじめられた人を死に追い詰める危険があるからです。けれどいじめている側は、そこまでひどいことをしている自覚がないのです。」

コップの絵

弁護士:(黒板にコップの絵を描いて)「これは何でしょう?」
男子9:「バケツ。」→弁護士:「ブブー」→男子9:「コップ。」
弁護士:「そうです。これをあふれさせるには何滴の水が必要でしょうか?」
男子10:「1万滴。」
弁護士:「これは、いじめを苦に自殺する人は、コップの水があふれるように自殺に追い込まれるというモデルです。もう一度同じ質問をします。どうですか?」
女子11:「5000滴。」
弁護士:「このコップにどのぐらい水がたまっているかはわかりません。心無いその一言が、人を死に追いやるかもしれない。その恐ろしさをわかってほしいと思います。いじめる側は、自分のいじめでクラスメートが死んだらと、想像できますか?できないですよね。自分が大人になって、パパやママになったとき、自分の子にどう思われると思いますか?」
男子11:「最低だと思われる。」
弁護士:「パパ、ママとして尊敬してもらえなくなりますよね。一生取り返しのつかない傷になります。そうならない方法が一つあります。何でしょう?」

いじめで誰かが死なないために、今できること

女子12:「見て見ぬふりをしないで、注意する。」
弁護士:「そうですね。いじめている人は、今、いじめないこと。優しさをみんなが出せば、いいクラスになります。いじめを見てしまったときは、どうしたらいいですか?」
男子12:注意する。(他の生徒も同意見。)
弁護士:「いじめっ子に対し、注意していじめを止めることが一つです。もう一つは、いじめられっ子に対して、優しい言葉をかけてあげる。コップの水を減らしてあげることです。だれも見ていないところで声をかけてあげるだけでもいい。「負けるなよ」と。他にはありますか?」
女子13:「先生に伝える。」
弁護士:「そうですね。大人に相談して、助けを求めることができます。」
女子14:「相談する。」
弁護士:「はい。1人ではできなくても、みんなで相談して何とかするということですね。では最後に、みんなに読んでほしいものを配ります。」(かねこみすずの詩「わたしと小鳥とすずと」を配布し、一人の生徒に朗読してもらいました。)
弁護士:「私が一番好きなのは「みんなちがってみんないい」のところです。もし誰かが人と違っていることでいじめられていても、恥ずかしいことではない。勇気を出して相談してほしいと思います。私達弁護士も相談にのれます。このパンフレットを見て、電話をしてください。」(「子どもの人権110番」「子ども悩み事相談」パンフレット配布)
担任:「弁護士バッジのお話をお願いします。」
弁護士:「弁護士に与えられるこのバッジには、天秤とひまわりの花をあしらってあります。ひまわりは暑い夏にも堂々と空を向いて、困った人を助ける弁護士の意気込みを表しています。警察署へ行って逮捕された人と面会するとき、必ずこれを見せなければならないことになっています。」

授業後の生徒の感想

・いじめは人を追い込んでいくことがわかりました。
・いじめはいけないことだとわかりました。
・いじめは人の弱みにつけこむことだと思いました。

取材を終えて

 授業を担当された弁護士の先生方からも、様々な感想が聞かれました。2年生のあるクラスでは、授業の始めに「いじめられる人も悪いか?」挙手させたところ、「悪くない」がゼロ、「場合によっては悪い」が多数で、「悪い」も9人だったそうです。授業の終わりにもう一度尋ねたら、全員「場合によっては悪い」になりましたが、「悪くない」と思ってくれる人が出なかったことにショックだったそうです。また、3年生のあるクラスでは、生徒からの応答がほとんどなく、学年による発達の違い、クラスの雰囲気の違いも大きく感じるということでした。
 このような感想を生かして、「いじめられる人も悪いか?」というテーマに絞って、生徒のグループ討論をするなど、さらに授業を発展させるきっかけにもなるのではないでしょうか。いろいろなことを考えさせられる取り組みでした。
 この日の前日には、八王子市内の中学校38校の副校長会があり、椚田中学校での出張授業を紹介したところ、反響があったそうです。このようにして、また新たな出張授業を受ける学校が増えていくことでしょう。

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