全国公民科・社会科教育研究会「平成22年度全国研究大会」

 この研究会は、全国の高等学校で公民科を担当する教員を主なメンバーとする教科教育の研究会であり、前身の社会科教育全国協議会(1947年設立)は戦後の社会科の歴史とともに歩んできた社会科教育研究会の全国組織である。
 この全国研究大会が8月5日から2日間、日本大学経済学部で「新学習指導要領の実施に向けた指導内容と指導方法の改善」を研究主題として開催された。分科会での実践報告のほか、大阪大学大竹文雄教授の講演「競争と公平感」、経済教育ネットワークによる「経済に関する大学入試問題についてのシンポジウム」そして、文部科学省教科調査官による新学習指導要領についての講演があった。全国から100名を超える参加者があった。そのなかで、法教育に関する実践報告と講演について紹介する。

1 実践報告

「現代社会における高校生の経済活動と消費者問題~実際にトラブルに巻き込まれたときには、どのように対処するのか~」
 大阪府立三国丘高等学校定時制課程の吉田英文先生の実践報告があった。消費者問題に対する生徒の興味・関心を高めるため、消費者センターや地方公共団体などが作成したさまざまな資料を生徒に配布し、生徒個人がファイリングして日常生活におけるさまざまトラブルにある程度対応できることを目標とした授業実践であった。
 配布した資料として、①「くらしの情報SAKAI」(堺市立消費生活センター)②「あま~い誘いにご用心」(近畿府県共同作成)③「おいしい話にゃワケがある」④「カードとあなたのいい関係?若者のクレジットカードトラブル」など、これらの資料を使用してさまざまな悪質商法、とくに若者がターゲットになりやすいもの、巻きこまれた場合の対処法、無料法律相談の窓口、また契約の意味、クレジット契約や消費者契約法などについても学習する授業実践であった。
 さらに、大阪弁護士会から派遣された弁護士による出張授業も実施された。生徒は、弁護士と初めて出会い積極的に授業に参加していた。外部講師に期待されるのは「リアリティ(現実性)」と「サプライズ(驚き)」であるとされ、生徒はいずれも充分それを感じ取っていたと述べられた。「出張授業」について、大阪弁護士会からの派遣、さらに司法書士会などからも外部講師の派遣があることも紹介された。また。吉田先生から提供された大阪弁護士会が高校生向きに発行する「法むるーむ(改訂版)」は、契約、交通事故、消費者問題、知的財産権、労働問題、少年事件、児童虐待、婚姻、裁判員制度など高校生にとって身近な問題を取り上げており法に関する学習の絶好なテキストとして評価できる。この副読本は、大阪弁護士会法教育委員会と大阪府高等学校社会(地歴・公民)科研究会との共同編集・執筆であり、今後の法教育テキストの編集に参考となろう。

2 講演「新学習指導要領公民科『現代社会』『政治・経済』について

 文部科学省初等中等教育局教科調査官(福井大学准教授)橋本康弘先生から、「新学習指導要領のねらいと新規単元の教材化~法に関する学習を中心に~」と題する講演があった。
 新学習指導要領の概要を改善の基本方針に沿って解説したあと、公民科「現代社会」についてその概要と新規に登場した「幸福、正義、公正」の扱い方について、教材レベルからの解説が行われた。「現代社会」の大項目(2)のウについて、「法や規範の意義及び役割」などについて理解を深めさせることにより、法に関する基本的な見方や考え方を身に付けさせることになっている。また、裁判員制度についても扱うこととなっている。これについての教材化の例として、新型インフルエンザ流行に関する情報開示に関し、患者の個人情報(プライバシー)保護と社会全体の幸福(公共の福祉)との比較考量する事例や、法の一般性、明確性について、学校における整列の順番ルール(身長による整列)を取り上げた教材が紹介された。
 今後、成人年齢の18歳への引下げの動きもあり、高等学校における小・中学校との接続を考慮した法に関するカリキュラム作成や教材化、法曹と教員が協力した法学習のためのテキスト作成なども期待される。

〔原稿執筆:太田正行(東京都立工芸高等学校)〕
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