横浜弁護士会サマースクール2010(その2)

 午後はいよいよ模擬裁判ですが、その前に事実認定についての講義がありました。
この講義を踏まえて模擬裁判を行うと、評議が非常に活発になるのだそうです。

事実認定講義

 事実認定とは、過去のある時点にその事実があったかなかったかということを、証拠に基づいて今の時点で判断することをいいます。
手持ちの証拠を、これが真実であれば「事実あり」という判断に傾くものと「事実なし」に傾くものに整理して考えてみて、最終的に、全体をみて総合的に判断するという方法を教えてもらいました。
冷蔵庫のショートケーキがなくなった。A君が勝手に食べたのではないか?という事例を判断するときに、例えば①A君の口の周りにクリームのようなものがついていた。②ケーキがなくなったと思われる時間には、A君は学校にいた。③B君は「A君がケーキを食べるのを見た」と言っている、という材料があるとすると、①③はそれが真実だとすればA君がケーキを食べた犯人だという疑いが強くなりますが、②が真実だとすれば、逆にA君は犯人ではないという可能性が高くなります。ただし、事実の見方もいろいろで、A君の口の周りについていたクリームは生クリームではなくカスタードクリームかもしれないし、B君はA君とケンカをしているので、A君が困るような嘘を言うかもしれない。このような事情をすべて考えあわせて総合的に判断をする必要があります。

模擬裁判

〈裁判劇〉

模擬裁判いよいよ模擬裁判の開始です。手続も本物さながらに行います。
まず、被告人役の弁護士さんが手錠腰縄という姿で刑務官と共に入廷。手錠をはずしてもらったあと、裁判官入廷です。
 裁判官役、検察官役、弁護人役のそれぞれがシナリオにしたがってセリフを読み上げます。準備時間は少ししかなかったにもかかわらず、難しい言葉もよどみなくスラスラと読み上げ、みんな堂々たる演技でした。

〈評議〉

 ここで、組ごとに分かれて、被告人は有罪か無罪かについて話し合います。
まず最初に、自分の考えをまとめます。事実認定講義で教わった方法で、熱心に証拠を見返しながらワークシートを埋めていきます。
その後、今の時点での自分の考えとして有罪か無罪かを答えてもらい、その後、なぜそう考えたのかという理由を一人ずつ発表しました。資料をよく読み込んでいて、鋭い意見も飛び出していました。
自分と同じ意見も違う意見も聞いた後、それらを踏まえて改めて考えてみて、再度、現時点での自分の考えを発表し、多数決でクラスの結論を決定しました。

〈判決言渡〉

判決言渡 裁判官チームが出した結論は無罪でしたので、無罪のシナリオに沿って判決言渡がなされました。

 

 

 

〈各組の発表〉

 各組での議論について、代表者が結論とその理由を他のクラスの前で発表しました。
どの理由もよく考えられていて、なるほど、と思わせるものでした。
最後に先生から、一つ一つは弱い証拠でも、それが積み重なれば意味のある証拠になりうること、証言の一部分の信用性が低いからといって、すべてが信用できないとは限らないこと、事実を分析的にみることと総合的に見ることの両方が必要であること、などのアドバイスがありました。
自分で考え、相手に伝え、相手の考えを聞いて、自分の考えをまとめる、という思考の流れを体験することができました。

総評

〈検事総評〉

横浜地方検察庁検事 堀本久美子氏
講評 裁判では、裁判官は起訴状に書いてあることしかわからないので、検察官が、被告人は有罪であると考える理由について説得していくことになります。ですから、大きな声でわかりやすくはっきりと言うことが必要ですが、皆さん、それがきちんとできていたと思います。
皆さんの熱演を見て、とても頼もしく思いました。検察庁でも見学会をやっています。ホームページを見て、是非参加してください。

〈委員長総評〉

横浜弁護士会法教育委員会委員長 村松剛先生
 事件の真相というものは、本当のところは誰にもわからないものです。ニュースで判決を聞いたりすると、有罪なのか、と思うかもしれませんが、誰も本当のことはわからない中で、いろいろな事情を考えて判断していかなければならないのです。
今日、経験してもらったことは、もちろん、裁判の知識を得てもらうということもありますが、それだけでなく、これからいろいろな場面でいろいろな事情に出くわしたとき、隣の人とは見方や考え方が違うということを意識しながら、自分の頭で考える経験をしてもらいたいという企画でした。毎日の生活の中でも、自分の頭で考えてみる、そんなきっかけになれば嬉しいです。

卒業式

〈校長挨拶〉

飯田学史先生
 勉強には、覚える勉強と考える勉強があります。どちらも大切な勉強です。
考える勉強のポイントは、何かを見たとき「なぜこうなっているんだろう?」と自分の頭で考えてみることです。是非試してみてください。
 横浜弁護士会の法教育委員会は、春はスプリングスクール、夏はサマースクールを開校しています。来年のサマースクールも、また別の企画を考えているので、ご期待ください。

〈卒業証書授与〉

一人一人に卒業証書が授与されました。

取材を終えて

会場を見渡して、女の子の参加者が大多数だったのが印象的でした。
このイベントを知ったきっかけを何人かに聞いてみたところ、学校の教室の掲示板に貼ってあったチラシを見て、という人がほとんどでした。
 今日一日で一番印象に残ったことは?と尋ねると、「模擬裁判と、法廷見学と、検察庁の証拠品庫と…全部です!」と口々に答えてくれました。
 施設見学も模擬裁判も、生徒たちの心に強烈な印象を残したことでしょう。生徒たちの真剣な取り組み方もさることながら、先生役の弁護士さんたちが非常にイキイキと楽しんでいらっしゃるのがたいへん印象深かったです。

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