高校生模擬裁判選手権への道 その2(紅白戦)

 2010年8月2日(月)14:00~18:00、千葉県立東葛飾高等学校の高校生模擬裁判選手権参加グループの紅白戦が、同校同窓会室で行なわれました。支援弁護士と検察官をアドバイザーに迎え、5日後に迫った本番に向けて真剣な準備が進められました。

この日までの準備

 参加校には、5月下旬に日本弁護士連合会から教材が渡されています。生徒達は、捜査報告書、実況見分調書、合意書面、供述調書という4つの証拠をもとに、冒頭陳述、証人尋問と被告人質問、論告・弁論の台本を考える作業をしなければなりません。その際は高校生らしい視点が重視されるので、高校生の視点で証拠を読み込み、事件を解釈することが求められます。支援弁護士・検察官は手続き的なことだけをアドバイスするという立場で、内容に立ち入った指導をしないように配慮しています。

 6月8日に13人の生徒の初顔合わせをして以来、6月中は各自で検討し、1回集まってチーム分けをしました。7月は昼休みや放課後に15回ほど集まっています。夏休みに入った7月21日からは、毎朝9:00~10:00に空き教室などに集まり、検察官チーム・弁護人チーム毎に検討してきました。7月31日(土)には、一日使って練習をし、この日も午前中に練習をしていました。

紅白戦の参加者

弁護人チーム 女子2名、男子5名(1名欠席)
検察官チーム 女子1名、男子3名(1名欠席)
支援弁護士4名、検察官1名、検察事務官2名
東葛リベラルアーツ講座担当教諭

試合前の注意

リーダー:「当日は上着着用。ネクタイはなしにしましょう。式に出るのと同じ服装で。」

弁護士:「本番では飲み物も飲めないから、そのつもりでいてください。本番は判決が出るのではなく、第1試合と第2試合の総合評価で決まります。供述内容や態度、声の大きさや話すスピードも評価の対象です。冒頭陳述は5分ずつ、尋問は15分ずつです。時間は知らせてくれないので、自分たちで計ってやらないといけません。時間オーバーは減点なので気をつけてください。被告人質問の後の検討時間は10分間です。では、とりあえずやってみましょう。」

時系列でみた事件の流れ

13:20~17:00 「ひまわり亭」で被告人と被害者が飲食
18:00~ 「あさがお亭」入店
19:45 被害者退店
20:00 被告人退店
20:30 遅くともこの時間に被告人運転開始
20:40 「コンビニエース」で飲料水購入
22:20から30~00:00 被告人何度も和田さんに電話
00:00頃 和田さん「コンビニエース」の駐車場に到着
00:30 被害者を緑川総合病院に搬送
01:40 被害者死亡

 

 紅白戦は1時間半ほどかけて本番どおりに行なわれました。台本はこの日にできたばかりで、みんな台本を読みながら進みます。
 証人尋問と被告人質問は、事件の時系列に沿って質問していくという形でした。証拠を一つずつ確認しているような感じですが、全く予備知識のない筆者には膨大な証拠が次々と述べられるので、ついていけません。その中からいくつか印象に残った部分を挙げてみましょう。
 
 検察側証人の和田さんは被告人に就職でお世話になった恩があり、今も仲が良いことを証言しています。被告人質問では、被告人と被害者も大変仲がいいことを強調したいようです。被告人が被害者を起こそうとして、顔を叩いた場面を実演したことも印象的です。蹴ったり踏みつけたりはしていないと言いたいようです。
 反対質問では、検察官役が「あさがお亭から自宅やコンビニまで徒歩で行かれるか」聞いていました。

紅白戦後、弁護士・検察官からアドバイス

①冒頭陳述について
検察官:「漢字の読み方を間違えないようにしてください。これで終わりというときは「以上です。」と言う習慣をつけましょう。紙を読むとき、ずっと下を見ながらというのはよくありません。最小限にとどめて、裁判官や相手を見ながらのほうが印象がいいです。「この点」というようにポイントを前出ししていくのはいいですね。時系列だけだとダラダラします。」

弁護士:「どちらのチームも、全体として何が言いたいのかわかりにくいです。大きい声で、アイコンタクトを取りながら話すことを心がけてください。冒頭陳述は、最初から論告みたいに言わないで。項目を後から証明しようとすることと合致させるようにしましょう。ストーリーを全部言う必要はないので、吟味してください。補助資料はあったほうがいいかもしれません。」

検察官:「弁護人冒頭陳述は、検察とは違う、実はこうなんだというanother story を提示していて、よかったと思います。ちょっと芝居がかっていた気もしますが。」

弁護人役:「演劇部なので。」(笑い)

弁護士:「ちょっとオーバーな気もします。(笑い)そこは検察官に言わせておけば、という部分もありますね。時系列の中から、大きなポイントを絞って伝えた方がいいです。全体的に皆さん、早口です。聞いている人は、追っていくのが大変ですよ。ビデオに撮るといいかもしれない。」

②検察側主尋問について
検察官:「供述調書があると、全部言わさないといけないという気がするでしょうが、出したいポイントのメリハリをつけて、証人役とイメージを共有してください。その方が、裁判員の印象に残ります。証人役が言葉につまったときは助け舟を出せるように、イメージトレーニングしておいてください。それからどうした式に続くのは、よくないです。」

弁護士:「どの場面について質問しているのかわかるように、聞き方を考えてください。くどくなり過ぎない程度に。土曜日より誘導がなくなりましたね。「間」を1秒でもとると、聞いている側に違います。検察チームとしての一体性が大事です。」

③反対尋問について
検察官:「図面を使いたいときは、証拠がないのに検察官がイメージだけで書いていたものを使うのは問題です。証人にその場で図面を書かせることは可能ですが、説明に時間がかかるのにリターンが確実でないと、リスクが大きいことも考えてください。」

弁護士:「時間が余っているのがもったいないです。」

弁護人役:「考えつかなくて。」

弁護士:「気づけることはないかな。頑張ってください。「え~」というのをなくすようにしましょう。証人役は書き言葉を喋っているみたいに聞こえます。シナリオが出来たてということですが、覚えて身につけてください。」

④被告人主質問について
検察官:「血液型とか、合意書面に出ていることは削って、ポイントをつめましょう。」

弁護士:「声を2倍ぐらい出しましょう。時間オーバーは深刻です。この前は半分以上誘導だったのが、よくぞここまで減りました。再現はよく考えましたが、裁判官から見えづらいかもしれないし、どこに注目されるかもわからないから、弁護人がポイントを聞いてあげてください。」

⑤反対質問について
検察官:「オープン質問を控え、クローズド質問で固めていてよかったです。前置きはよくありません。被告人相手に丁寧語ならいいですが、「おっしゃって」などの敬語が過剰です。普通なら被害者感情も考慮される場面なので、控えましょう。」

弁護士:「検察官役は堂々と言ってください。ちょっと軽い感じがします。(笑い)(「普段から」の声)「サンダルをはくような気温でしたか?」という質問には評価が入っているので、逃げられます。事実を聞かないと。調書との対比を聞かなかったのはなぜですか?」

検察官役:「供述調書は証拠ではないからです。」

弁護士:「「捜査段階でこう言いませんでしたか?」と聞くのはOKです。ルールブックにも、供述調書を示して証言を弾劾するという聞き方はOKとあります。」

⑥論告について
検察官:「当日、対戦校の出方をみてやらないといけないので、心の準備が必要です。早口にならないよう、ゆっくり過ぎるぐらいに。被告人質問では何を言ってこられるか分からないので、自分達がコントロールできる部分で首尾一貫した主張をしましょう。」

弁護士:「落ち着いて話せる程度にポイントを絞りましょう。「~だと思います。」はよくないので、言い切ってください。ここまでに出てこなかったことは出せません。構成が5つも必要かな?いくつ言いたいことがあって、何番目を話しているのか、それが争点とどう関わるか、チームで検討してください。」

⑦弁論について
検察官:「証人の証言に一切触れないことは吉と出るか凶と出るか、考えたほうがいいです。」

弁護士:「オーラがあります。検察の論告に沿って反論できるとなおいいですね。」

⑧全体について
検察官:「まだ話し合いが足りません。チームとしての統一性が重要です。同じチームの他の人が話しているとき、自分は関係ないような顔をしないで、聞き入っているようにしましょう。笑っていたりすると印象がよくありません。きちんと真摯に望んでいることを、態度で示してください。」

弁護士:「相手チームのほうが証拠の弱いところなどをよく把握している場合があるので、全員が一体となって、よく検討してください。みんなが同じ意識を持てるように、頑張ってください。」

取材を終えて

 初出場校はお手本がないので大変です。支援弁護士と検察官が、一つ一つ丁寧にアドバイスしてくれるので、大事な点がよくわかりました。これだけ沢山のアドバイスを実践していくのは大変です。生徒達はこの後もまだ、打ち合わせをしているようでした。本番にはどう変わっているか、楽しみです。

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