神奈川県 「法に関する教育推進研究会」 その2

 ひきつづき10月8日(金)、神奈川県「法に関する教育推進研究会」のシンポジウムの一場面についてお伝えします。

3 シンポジウム(15:45~16:45)

パネリスト 横浜弁護士会所属弁護士
横浜地方検察庁検察官
川崎市立小学校校長
横浜市立中学校主幹教諭
司会 静岡大学教育学部准教授

 

〈本シンポジウムの意義と柱〉

司会:「法教育とは、法律専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、これらの基礎になっている価値を理解し、法的なものの考え方や知識と技能を身につけるための教育です。これが今なぜ必要かについては、国際化・情報化という社会の変化が挙げられます。特に法教育が注目するのが、「法化社会」の進展です。紛争解決システムを構築し、よりよい法システムをつくり上げるのみでなく、市民一人ひとりが法的リテラシーを身につけることが大切になります。シティズンシップ教育が注目されつつあり、市民に求められる市民的資質も変容しています。政治的権利主体としての市民(公民)から、社会の自律的構成員としての市民へという流れです。市民一人ひとりが法を正しく認識し、参加することが求められます。法律関係機関との連携も重視されています。今日のシンポジウムの柱は、(1)法教育を実践から考えたいという趣旨から、小中学校の実践発表をもとに、どのような教育を進めていくのか、(2)どのような関係機関との協力があるのか、という2つです。」

(1)法教育の実践発表をもとに
 まず、小学校の実践授業発表の報告があり、それに続いて意見が出ました。
弁護士:「今現在あるルールをもって、社会を見直すことが大切です。小学校段階では、ルールが大切で必要なものであることをまず押さえることが大事でしょう。もう一歩進めた立場からは、「なぜ?」そのルールが必要かと考えることが大切です。ルールとモラルの違いなども考えられます。」
司会:「今の内容を踏まえ、実際の小学校の様子はいかがですか?」
校長:「小学校と中学校では違って、それぞれの発達段階を考慮する必要があります。入門は約束、きまり、それから法となると思います。大切だということは教えなければなりませんが、法の必要感、法がなかったらどうなるかという実感も大切でしょう。道徳は実践力や判断力をつけるのが目標なので、「見取り」をきちんとしなければなりません。小学4年生はいろいろな切り口が考えられます。」

(2)学校と関係機関の協力について
検察官:「横浜地方検察庁HPの法教育コーナーでご提案しています。出前授業はこちらから出向きます。移動教室は来ていただくものです。模擬裁判授業もあります。中身のご提案があれば個別に対応し、ご相談が可能です。模擬裁判の依頼が多いですが、朗読劇か、それに模擬評議をプラスするか、いろいろありますので一緒に相談しましょう。無料ですが、スタッフの人数が限られています。」
弁護士:「横浜弁護士会では配布のパンフレットのような取り組みをしていますので、御覧下さい。裁判傍聴は約3時間のプログラムで、まず学校の先生が裁判を理解してもらうのによいと思います。教育委員会で先生方の研修にいかがですか?出前授業はオーダーメイドです。全体の学習の中での位置づけと、弁護士に期待する役割の2つを明確にしてオーダーしていただけると、効果的でしょう。単発授業では生徒の個性などがわからないので、学校の先生と一緒に作るとよいと思います。模擬裁判授業もオーダーにより指導します。高校生中心ですが、小学生の例もあります。出前授業と模擬裁判は有料です。他に、「法教育」という冊子を年2回発行しています。授業研究を一緒にできればいいと思いますので、お呼びください。」
質問:「模擬裁判授業はネガティブになりがちです。社会に有為な市民を育てるために、「こうしたらみんなにとって便利だ」といったアウトプット型の授業を作りたいと思いますが、行政のことになりサポートが少ない現状です。「こういう提案は可能か」を考えるためのサポートがほしいですが、弁護士の先生にできることはありませんか?」
弁護士:「子どもが社会と自分達を近い関係に捉えることになりますね。学校での市民運動に弁護士が協力できるかという点は別ですが、法教育としてならサポートできると思います。」
意見:「模擬裁判授業では、体験することは重要ですが、体験だけで終わらせないでほしいと思っています。」
司会:「小・中・高の一貫性を考慮した法やきまりに関する考え方を成熟させていくのが重要であると考えます。学校と関連機関の連携も一つの柱になります。」

〈取材を終えて〉

 短い時間でしたが、授業実践報告・シンポジウムともに密度の濃い研究会でした。
 終了後、小学校1年生の分科会に参加された先生に感想をお聞きしました。「自分の学校では、特に法教育ということはしていません。小学1年生では、入学してまずとにかく、いろいろな学校のきまりを覚えてもらうのが大変です。「なぜ?どうして?」というのは、その後にゆっくりと考えることになります。そういう意味では、もう日々の生活の中に法教育があると言えます。これから今日のことを学校へ報告し、それからどうなるか、というところです。」とお話くださいました。
 日々の生活の中で法教育が自然に行なわれるのは大切なことでしょう。その場合、どのクラスでも同じように行なわれるのではなく、ばらつきができます。法教育として教師全員の意識の中に取り入れることにより、子ども達に共通の基盤を与えることになるのではないかと考えます。

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